データドリブン思考はやめる データ分析講座(その63)

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情報マネジメント

◆ データドリブン思考ではデータの価値は生み出せない。データの価値は逆算アプローチで創造する

 データの価値は利活用にあります。でも、その利活用が分からないから困っているのです。ではどうするか?

 多くの社会人はビジネスに関わっています。「データの価値は、存在すること自体に価値があるのではなく、その利活用に価値がある」そのようなことは分かっている。というかたも多いことでしょう。しかし、「どう利活用すればよいのかが分からない」というボヤキもチラホラ聞こえてきます。このような問題の解決策があります。それは、データドリブン思考をやめるということです。今回は、これを解説します。

1. データドリブン思考では上手くいかない

 データドリブンとは、データ駆動型のビジネス活動を意味しています。例えば、データドリブンなマーケティングと言えば、データをフル駆動させマーケティング活動を最適化することです。データ活用の運用時には、このデータドリブンを目指すのは、ある意味では当たり前のことだと思います。

 しかし、どのようにデータ活用すべきなのかを考えるとき、データドリブン思考では、あまり上手くいきません。

 よくあるのが、「手元にあるデータにこだわりすぎて、身動きできなくなり、データの利活用のアイデアを縛っている」という現象です。「このデータ、何かに使えないだろうか?」という感じで悩む現象です。

2. とりあえず、逆算アプローチ

 ビジネスの思考法でお馴染みの「逆算アプローチ」で、どのようにデータ活用すべきなのかを考えれば、この問題はクリアになることでしょう。

 しかし、なかなか分析担当者は、この「逆算アプローチ」をできないようです。どうしても、手元にあるデータや、すぐ取得できそうなデータをベースに、利活用の可能性を考えてしまうからです。

 このアプローチもあながち間違いではありません。「一流のデータ分析者は、ありもののデータで何とかする」とも言われているからです。要するに、ありもののデータを見てパッと利活用を思い付き、データの可能性を引き出してしまうというのです。

 このようなデータ分析者は稀で、何十年の実務経験が必要になることでしょう。

 通常のデータ分析者は、今あるデータが全否定されてもよいという勇気をもって、「逆算アプローチ」で利活用を考えるのが正攻法です。ちなみに、「逆算アプローチ」とは、データの利活用の目的から逆算して考えていくアプローチで、最終的に必要なデータと分析手段が浮かび上がってきます。

3. 営業・マーケティングであれば、利活用の目的はざっくり3つしかない

 私の経験上、営業・マーケティングであれば、利活用の目的はざっくり3つしかありません。

  • (1) 新規顧客の獲得
  • (2) 既存顧客の離反阻止
  • (3) 既存顧客の取引額拡大

 細分化すればもう少し増えるかもしれませんが、ざっくりこの3つです。

 そのことによって、「顧客」増と「LTV(顧客生涯価値)」増が実現されます。データによって、「顧客」増と「LTV(顧客生涯価値)」増のダブルの「増」を効率的に実現しようとします。例えば、(2) の「既存顧客の離反阻止」をデータの利活用の目的に設定したとき、どのようなデータと分析をすればよいでしょうか?

 離反の可能性(離反率)を知れたり、そのための対策と時期を知ることができると非常に助かることでしょう。

 そのためには、どのようなデータが必要でしょうか? 顧客行動履歴や、営業パーソンの訪問や電話などの対応履歴などがあると便利でしょう。このように、必要なデータがぼんやり見えてくることでしょう。しかし、多くの場合、「入手可能なデータ」と「目的に照らし合わせて必要なデータ」には乖離があります。そして、そもそも「目的に照らし合わせて必要なデータ」は入手不可能なものも多いです。なぜならば、データは現実社会の小窓に過ぎないからです。

4. データは現実社会の小窓に過ぎない

 「逆算アプローチ」で、最終的に必要なデータと分析手段が浮かび上がってきます。この必要なデータは理想的なデータです。多くのデータは、すぐには収集困難です。そもそも、ものすごく頑張らないと収集できないようなデータも多いです。

 先ほど、「既存顧客の離反阻止」をデータの利活用の目的に設定したときの例を説明しました。この例では、「顧客行動履歴」と「営業パーソンの対応履歴」をあげました。
これらのデータは、すぐに取得できるでしょうか?

 「顧客行動履歴」はかなりハードルが高く、「営業パーソンの対応履歴」は営業パーソンにそれなりの負担をかけます。

 なぜならば、「顧客行動履歴」を正確に知る手段が無いですし、「営業パーソンの対応履歴」は日々正確かつ迅速にCRMなどに記録を残す必要があります。したがって、それなりに頑張れば「営業パーソンの対応履歴」は取得可能でしょう。しかし、「顧客行動履歴」はほぼ入手困難です。特に、先方の会社内部の動きは、外からは通常見えません。そもそも、データは現実社会の小窓に過ぎません。要するに、「データは現実社会で起こったことの一部を切り取ってきたものだ」ということです。この現実社会の小窓は大変便利なものです。例えば、この現実社会の小窓を通して、顧客行動を類推することができるからです。

 ここで簡単に整理します。

  •  先ず、データ利活用の目的からの「逆算アプローチ」で「必要なデータ」を洗い出します。
  •  次に、洗い出された「必要なデータ」を、「取得可能なデータ」と「取得不可能なデータ」に分けます。
  •  そして、「取得可能なデータ」を使い「取得不可能なデータ」を類推するようなデータ分析手段を考えます。

 このようにすることで、今あるデータの利活用が見えてきます。

 この「類推するようなデータ分析手段」とは、統計モデルや機械学習モデルを使った場合もありますが、多くの場合、定性的な分析や解釈に依存することに...

情報マネジメント

◆ データドリブン思考ではデータの価値は生み出せない。データの価値は逆算アプローチで創造する

 データの価値は利活用にあります。でも、その利活用が分からないから困っているのです。ではどうするか?

 多くの社会人はビジネスに関わっています。「データの価値は、存在すること自体に価値があるのではなく、その利活用に価値がある」そのようなことは分かっている。というかたも多いことでしょう。しかし、「どう利活用すればよいのかが分からない」というボヤキもチラホラ聞こえてきます。このような問題の解決策があります。それは、データドリブン思考をやめるということです。今回は、これを解説します。

1. データドリブン思考では上手くいかない

 データドリブンとは、データ駆動型のビジネス活動を意味しています。例えば、データドリブンなマーケティングと言えば、データをフル駆動させマーケティング活動を最適化することです。データ活用の運用時には、このデータドリブンを目指すのは、ある意味では当たり前のことだと思います。

 しかし、どのようにデータ活用すべきなのかを考えるとき、データドリブン思考では、あまり上手くいきません。

 よくあるのが、「手元にあるデータにこだわりすぎて、身動きできなくなり、データの利活用のアイデアを縛っている」という現象です。「このデータ、何かに使えないだろうか?」という感じで悩む現象です。

2. とりあえず、逆算アプローチ

 ビジネスの思考法でお馴染みの「逆算アプローチ」で、どのようにデータ活用すべきなのかを考えれば、この問題はクリアになることでしょう。

 しかし、なかなか分析担当者は、この「逆算アプローチ」をできないようです。どうしても、手元にあるデータや、すぐ取得できそうなデータをベースに、利活用の可能性を考えてしまうからです。

 このアプローチもあながち間違いではありません。「一流のデータ分析者は、ありもののデータで何とかする」とも言われているからです。要するに、ありもののデータを見てパッと利活用を思い付き、データの可能性を引き出してしまうというのです。

 このようなデータ分析者は稀で、何十年の実務経験が必要になることでしょう。

 通常のデータ分析者は、今あるデータが全否定されてもよいという勇気をもって、「逆算アプローチ」で利活用を考えるのが正攻法です。ちなみに、「逆算アプローチ」とは、データの利活用の目的から逆算して考えていくアプローチで、最終的に必要なデータと分析手段が浮かび上がってきます。

3. 営業・マーケティングであれば、利活用の目的はざっくり3つしかない

 私の経験上、営業・マーケティングであれば、利活用の目的はざっくり3つしかありません。

  • (1) 新規顧客の獲得
  • (2) 既存顧客の離反阻止
  • (3) 既存顧客の取引額拡大

 細分化すればもう少し増えるかもしれませんが、ざっくりこの3つです。

 そのことによって、「顧客」増と「LTV(顧客生涯価値)」増が実現されます。データによって、「顧客」増と「LTV(顧客生涯価値)」増のダブルの「増」を効率的に実現しようとします。例えば、(2) の「既存顧客の離反阻止」をデータの利活用の目的に設定したとき、どのようなデータと分析をすればよいでしょうか?

 離反の可能性(離反率)を知れたり、そのための対策と時期を知ることができると非常に助かることでしょう。

 そのためには、どのようなデータが必要でしょうか? 顧客行動履歴や、営業パーソンの訪問や電話などの対応履歴などがあると便利でしょう。このように、必要なデータがぼんやり見えてくることでしょう。しかし、多くの場合、「入手可能なデータ」と「目的に照らし合わせて必要なデータ」には乖離があります。そして、そもそも「目的に照らし合わせて必要なデータ」は入手不可能なものも多いです。なぜならば、データは現実社会の小窓に過ぎないからです。

4. データは現実社会の小窓に過ぎない

 「逆算アプローチ」で、最終的に必要なデータと分析手段が浮かび上がってきます。この必要なデータは理想的なデータです。多くのデータは、すぐには収集困難です。そもそも、ものすごく頑張らないと収集できないようなデータも多いです。

 先ほど、「既存顧客の離反阻止」をデータの利活用の目的に設定したときの例を説明しました。この例では、「顧客行動履歴」と「営業パーソンの対応履歴」をあげました。
これらのデータは、すぐに取得できるでしょうか?

 「顧客行動履歴」はかなりハードルが高く、「営業パーソンの対応履歴」は営業パーソンにそれなりの負担をかけます。

 なぜならば、「顧客行動履歴」を正確に知る手段が無いですし、「営業パーソンの対応履歴」は日々正確かつ迅速にCRMなどに記録を残す必要があります。したがって、それなりに頑張れば「営業パーソンの対応履歴」は取得可能でしょう。しかし、「顧客行動履歴」はほぼ入手困難です。特に、先方の会社内部の動きは、外からは通常見えません。そもそも、データは現実社会の小窓に過ぎません。要するに、「データは現実社会で起こったことの一部を切り取ってきたものだ」ということです。この現実社会の小窓は大変便利なものです。例えば、この現実社会の小窓を通して、顧客行動を類推することができるからです。

 ここで簡単に整理します。

  •  先ず、データ利活用の目的からの「逆算アプローチ」で「必要なデータ」を洗い出します。
  •  次に、洗い出された「必要なデータ」を、「取得可能なデータ」と「取得不可能なデータ」に分けます。
  •  そして、「取得可能なデータ」を使い「取得不可能なデータ」を類推するようなデータ分析手段を考えます。

 このようにすることで、今あるデータの利活用が見えてきます。

 この「類推するようなデータ分析手段」とは、統計モデルや機械学習モデルを使った場合もありますが、多くの場合、定性的な分析や解釈に依存することになることでしょう。要するに、データの価値は「逆算アプローチ」で創造するということです。

 

5.データの価値は逆算アプローチで創造する

 今回は、「データドリブン思考ではデータの価値は生み出せない。データの価値は逆算アプローチで創造する」というお話しをしました。

 「データドリブン」とはデータ駆動型のビジネス活動を意味し、例えば、データドリブンなマーケティングと言えば、データをフル駆動させマーケティング活動を最適化することです。したがって、データ活用の運用時には「データドリブン」で正解だと思います。しかし、どのようにデータ活用すべきなのかを考えるとき、データドリブンでは上手くいかず、「逆算アプローチ」で上手くいきます。

 「逆算アプローチ」とは、データの利活用の目的から逆算して考えていくアプローチで、必要なデータが浮かび上がってきます。このとき、「入手可能なデータ」と「必要なデータ」には乖離があります。では、どうすればよいのか?「必要なデータ」を、「取得可能なデータ」と「取得不可能なデータ」に分け、「取得可能なデータ」を使い「取得不可能なデータ」を類推する分析をすればよいのです。

 どうしても、「手元にあるデータや、すぐ取得できそうなデータをベースに、利活用の可能性を考えてしまう」という方は、一度「逆算アプローチ」を試してみてください。今までと違ったデータの姿が見えてくるかもしれません

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)


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