プロダクトU&E (Usage & Establishment) データ分析講座(その43)

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情報マネジメント

◆ 売上分析フレームワークである「プロダクトU&E」は、古典的だか今でも使えて最高だ!

 プロダクトU&E (Usage & Establishment)は、マーケティングの実務では、昔からよく使うフレームワークの一つです。

 U&E (Usage & Establishment)は、「使用実態」とよく訳されます。自社商品に対する「顧客の使用実態」。つまり、ある商品を使ったことがあるのか、使ったことがある場合、それはいつも使っているのか、ということです。売上分析には3つの軸があります。

  •  顧客軸
  •  商品軸
  •  営業担当軸

 プロダクトU&E (Usage & Establishment)は、ある商品に対し「顧客軸」を前面に押し出した売上分析のフレームワークです。そのため、直接消費者と触れ合うことが限られている「B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)」で、プロダクトU&Eは、非常に有益だと思います。実際、いくつかの企業では使われています。もちろん、営業担当軸を付け加えれば、法人営業の売上分析でも使おうと思えば使えるフレームワークです。

 今回は、この B to C のマーケティング担当者から B to B の法人営業担当者まで使える、プロダクトU&E という売上分析フレームワークを紹介します。非常にシンプルですが、意外と使えます。知っていて損のない売上分析フレームワークです。売上分析で迷ったら、一度試してみてください。色々なことが見えてくると思います。

1. プロダクトU&E (Usage & Establishment)

 プロダクトU&Eは、昔からある売上分析フレームワークです。自社商品に対する「顧客の使用実態」の、以下の3つの顧客ステータスをベースに分析を進めていきます。

  •  認知
  •  トライアル(試行客)
  •  レギュラー化(固定客)

 たったこれだけです。

 「認知」とは、ある自社商品を知っているかどうかということです。「トライアル(試行客)」とは、その商品を一度でも試したことがあるかどうかです。「レギュラー化(固定客)」とは、その商品を定期的に使用しているかどうかです。重要なのは、各ステータス間の遷移率にあります。フロー指標とも言います。3つのフロー指標があります。

  •  認知率(ターゲット全体→認知)
  •  コンバージョンレート(認知→トライアル)
  •  リテンションレート(トライアル→レギュラー)

 例えば、60代向けの健康サプリメントがあったとします。ターゲットは「60代男女」。認知率とは、60代男女の内どのくらいの割合でその商品を知っているのかを表したものです。多くの場合、アンケートで認知率を収集します。通販やECであれば、トライアル(試行客)やレギュラー化(固定客)が分かるため、コンバージョンレートやリテンションレートは簡単に計算できるでしょう。

 B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)の場合は、商品を売るのが小売店のケースが多いため、正確にトライアル(試行客)やレギュラー化(固定客)が誰で、どのくらいのボリューム存在するのか分かりません。多くの場合、アンケートで収集します。

 最近流行りの、ID付きPOSデータでも計測できそうです。しかし、例えば、Pontaカードであれば、Pontaカードの使えるお店で購入したケースしか分からず、さらにPontaカードの使えるお店でもPontaカードを使わなければ、購買情報すら収集されません。消費者アンケートは、コストがそれなりのコストが必要になります。しかし、ネットリサーチで質問数が数問であれば、それほど調査費はかからないでしょう。

2. プロダクトU&Eの指標(KPIなど)

 ここで、一旦プロダクトU&Eの指標(KPIなど)を整理します。

(1) 成果指標

 売上金額、売上点数、単価、粗利、LTV(顧客生涯価値)、新規顧客数、継続顧客数、平均顧客期間、など

(2) ストック指標

 認知、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)、離反、など

(3) フロー指標

 認知率(ターゲット全体→認知)、コンバージョンレート(認知→トライアル)、リテンションレート(トライアル→レギュラー)、離反率、など

 色々書いていますが、ベースとなるのは先ほど紹介した「認知」「トライアル(試行客)」「レギュラー化(固定客)」という3つの顧客ステータスです。それに、「離反」というステータスを追加しています。

 成果指標は、「トライアル(試行客)」と「レギュラー化(固定客)」の結果として、どのくらいのビジネス成果をあげたのかを表したものです。このビジネス成果である売上を促進する要因と阻害する要因を、プロダクトU&Eで分析し、有効な施策へとつなげます。

 つまり、プロダクトU&Eとは、売上を促進する要因と阻害する要因を深掘りするための、売上分析フレームワークなのです。

3. フロー指標を掛け合わせて分析する

 プロダクトU&Eは、成果指標やストック指標以上に、フロー指標を重視します。フロー指標の掛け合わせから、色々なことを見ていきます。フロー指標の掛け合わせは、2種類あります。多くの場合、2次元のマップとして表現し、対象の商品がどこに位置するのかを見て分析を進めていきます。

  •  マップ1: 認知率 × コンバージョンレート
  •  マップ2: コンバージョンレート × リテンションレート

(1) マップ1: 認知率 × コンバージョンレート

 マップ1の「認知率 × コンバージョンレート」は、例えば、横軸に「認知率」をとり、縦軸に「コンバージョンレート」を取ります。例えば、ある商品が、左上にプロットされていたとします。つまり、横軸の「認知率」が低く、縦軸の「コンバージョンレート」が高い状態です。この商品は、認知させれば多くの人が試しに購入してくれるが、肝心の認知率が低い。そのため、もっと認知率を高める施策を実施したほうがよさそうだ。となります。その施策がどのような影響を与えたのかを、このプロット上に1週間や1か月単位でプロットすることで、時系列の変化を追うことができます。

(2) マップ2: コンバージョンレート × リテンションレート

 マップ2の「コンバージョンレート × リテンションレート」は、例えば、横軸に「コンバージョンレート」をとり、縦軸に「リテンションレート」を取ります。例えば、ある商品が、右下にプロットされていたとします。つまり、横軸の「コンバージョンレート」が高いものの縦軸の「リテンションレート」が低い状態です。この商品を知った多くの人が、一度は試し買いするが、しかし再購入しない。と言うことが分かります。商品そのものか、値段設定に問題があるのかもしれません。広告宣伝の内容と、実際の商品の間のギャップが大きいのかもしれません。先ずは、どこに問題があるのか点検する必要があります。

 例えば、商品の機能面・価格面・便益面(ベネフィット)を、競合商品と比べてどうなのか、を点検します。ちなみに私は、W.チャン・キム等の書籍『ブルーオーション戦略』で紹介されている、戦略キャンパスやアクション・マトリックスをよく使います。名前はすごいですが、使い勝手の非常によいツールです。このように、売上を促進させるキーとなる要因は何で、逆に売上を阻害するキーとなる要因は何かを、フロー指標を掛け合わせることで明らかにしていきます。そして、それに対する施策を実行したときに、どのように顧客が変化したのかを、このフロー指標を掛け合わせたマップを、時系列でモニタリングしていきます。

4. プロダクトU&Eは、商品×ターゲット別で分析する

 プロダクトU&Eを使った分析をするとき、ある商品に絞って分析します。

 例えば、コカ・コーラとファンタを別々に、プロダクトU&Eの売上分析フレームワークで分析していきます。コカ・コーラの認知と、ファンタの認知を別々に考えるということです。当たり前と言えば当たり前かもしれません。例えば、コカ・コーラにはいくつかの種類があります。「コカ・コーラ」「コカ・コーラ ゼロ」「コカ・コーラ ゼロカフェイン」「コカ・コーラ プラス」など。

 この場合はどうでしょうか。基本、別々に、プロダクトU&Eの売上分析フレームワークで分析していきます。しかし、例えば「コカ・コーラ」と「コカ・コーラ ゼロ」の関係性を無視して、バラバラに分析するわけではありません。「コカ・コーラ ゼロ」のターゲットは、例えば「コカ・コーラ 飲用者」と「コカ・コーラ 非飲用者」に、さらに分かられることでしょう。このとき、「コカ・コーラ ゼロ」のプロダクトU&Eを使った分析を、「コカ・コーラ ゼロ」のターゲット全体に行なうだけでなく、「コカ・コーラ 飲用者」と「コカ・コーラ 非飲用者」にターゲットを分けてプロダクトU&Eを使った分析を実施すると良いでしょう。要するに、プロダクトU&Eは、商品 × ターゲット別で分析するということです。このように分析を進めることで、例えば……

 「コカ・コーラ ゼロ」のバカ売れした要因は「コカ・コーラ 飲用者」の「トライアル(試行客)」に支えられているものだが……「コカ・コーラ 非飲用者」の動きが鈍く「コカ・コーラ」ブランド全体のすそ野の拡大につながっていない。さらに、「コカ・コーラ 飲用者」の「リテンションレート」が低いことより……一時的なブームに終わる可能性がある。……などということが分かります。

※注意: 私は、コカ・コーラのマーケターではないので、本当のところは分かりません。あくまでの考え方を説明するために、例として使用しました。実際のところ、コカ・コーラ ゼロは今現在でも発売されているため、成功した商品だと考えられます。

5. プロダクトU&Eは、拡張する

 プロダクトU&Eの顧客ステータスは、認知、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)の3つでした。

 よく、購入意向者、離反の2つを付け加えたものを、私はよく利用し、そして他の企業に勧めています。もちろん、もう少し増やしても問題はありません。基本的な分析の考え方は同じです。つまり、認知、購入意向者、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)、離反の5つの顧客ステータスを使います。「購入意向者」とは、商品を認知し購入意向が高いが、まだトライアルしていない潜在顧客です。購入意向も、アンケートで取得するケースが多いです。ある商品の購入意向を5段階や7段階で聞き、購入意向の高い回答であるTop2(例:とても買いたい、買いたい、など)を、購入意向者と見なしたりします。

 フロー指標は、認知率(ターゲット全体→認知)、購入意向率(認知→購入意向者)、コンバージョンレート(購入意向者→トライアル)、リテンションレート(トライアル→レギュラー)、離反率のようになります。

6. プロダクトU&Eの事例

 プロダクトU&Eの事例は、私が知っているだけで、数えきれないほどあります。分かりやすいところでは、通販。健康食品や化粧品などの通販が分かりやすいです。最近では、テレビCMや新聞広告、ネット広告などで「認知」を広め、「トライアル(試行客)」を増やすために「初回お試し」ということで非常に安い価格で商品を提供したりします。「初回お試し」の後、「レギュラー化(固定客)」を狙います。

 通販の場合も、単に「認知」「トライアル(試行客)」「レギュラー化(固定客)」というストック指標を見るだけでなく、「認知率」「コンバージョンレート」「リテンションレート」「離反率」を分析すると良いでしょう。どこの顧客ステータス間の遷移に問題があるのか分かるからです。大手の通販であれば、多くの場合、「リテンションレート」と「離反率」が大きな課題になります。

 「B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)」であれば、意識せずに似たような指標でモニタリングしているのではないでしょうか。そこそこの規模のブランド調査を実施している企業であれば、調査項目にプロダクトU&Eを計測できる項目が含まれていたりします。もし、プロダクトU&Eを試してみたい場合、自社で実施しているブランド調査などの消費者アンケートの結果を探してみることを、お勧めします。さ...

情報マネジメント

◆ 売上分析フレームワークである「プロダクトU&E」は、古典的だか今でも使えて最高だ!

 プロダクトU&E (Usage & Establishment)は、マーケティングの実務では、昔からよく使うフレームワークの一つです。

 U&E (Usage & Establishment)は、「使用実態」とよく訳されます。自社商品に対する「顧客の使用実態」。つまり、ある商品を使ったことがあるのか、使ったことがある場合、それはいつも使っているのか、ということです。売上分析には3つの軸があります。

  •  顧客軸
  •  商品軸
  •  営業担当軸

 プロダクトU&E (Usage & Establishment)は、ある商品に対し「顧客軸」を前面に押し出した売上分析のフレームワークです。そのため、直接消費者と触れ合うことが限られている「B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)」で、プロダクトU&Eは、非常に有益だと思います。実際、いくつかの企業では使われています。もちろん、営業担当軸を付け加えれば、法人営業の売上分析でも使おうと思えば使えるフレームワークです。

 今回は、この B to C のマーケティング担当者から B to B の法人営業担当者まで使える、プロダクトU&E という売上分析フレームワークを紹介します。非常にシンプルですが、意外と使えます。知っていて損のない売上分析フレームワークです。売上分析で迷ったら、一度試してみてください。色々なことが見えてくると思います。

1. プロダクトU&E (Usage & Establishment)

 プロダクトU&Eは、昔からある売上分析フレームワークです。自社商品に対する「顧客の使用実態」の、以下の3つの顧客ステータスをベースに分析を進めていきます。

  •  認知
  •  トライアル(試行客)
  •  レギュラー化(固定客)

 たったこれだけです。

 「認知」とは、ある自社商品を知っているかどうかということです。「トライアル(試行客)」とは、その商品を一度でも試したことがあるかどうかです。「レギュラー化(固定客)」とは、その商品を定期的に使用しているかどうかです。重要なのは、各ステータス間の遷移率にあります。フロー指標とも言います。3つのフロー指標があります。

  •  認知率(ターゲット全体→認知)
  •  コンバージョンレート(認知→トライアル)
  •  リテンションレート(トライアル→レギュラー)

 例えば、60代向けの健康サプリメントがあったとします。ターゲットは「60代男女」。認知率とは、60代男女の内どのくらいの割合でその商品を知っているのかを表したものです。多くの場合、アンケートで認知率を収集します。通販やECであれば、トライアル(試行客)やレギュラー化(固定客)が分かるため、コンバージョンレートやリテンションレートは簡単に計算できるでしょう。

 B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)の場合は、商品を売るのが小売店のケースが多いため、正確にトライアル(試行客)やレギュラー化(固定客)が誰で、どのくらいのボリューム存在するのか分かりません。多くの場合、アンケートで収集します。

 最近流行りの、ID付きPOSデータでも計測できそうです。しかし、例えば、Pontaカードであれば、Pontaカードの使えるお店で購入したケースしか分からず、さらにPontaカードの使えるお店でもPontaカードを使わなければ、購買情報すら収集されません。消費者アンケートは、コストがそれなりのコストが必要になります。しかし、ネットリサーチで質問数が数問であれば、それほど調査費はかからないでしょう。

2. プロダクトU&Eの指標(KPIなど)

 ここで、一旦プロダクトU&Eの指標(KPIなど)を整理します。

(1) 成果指標

 売上金額、売上点数、単価、粗利、LTV(顧客生涯価値)、新規顧客数、継続顧客数、平均顧客期間、など

(2) ストック指標

 認知、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)、離反、など

(3) フロー指標

 認知率(ターゲット全体→認知)、コンバージョンレート(認知→トライアル)、リテンションレート(トライアル→レギュラー)、離反率、など

 色々書いていますが、ベースとなるのは先ほど紹介した「認知」「トライアル(試行客)」「レギュラー化(固定客)」という3つの顧客ステータスです。それに、「離反」というステータスを追加しています。

 成果指標は、「トライアル(試行客)」と「レギュラー化(固定客)」の結果として、どのくらいのビジネス成果をあげたのかを表したものです。このビジネス成果である売上を促進する要因と阻害する要因を、プロダクトU&Eで分析し、有効な施策へとつなげます。

 つまり、プロダクトU&Eとは、売上を促進する要因と阻害する要因を深掘りするための、売上分析フレームワークなのです。

3. フロー指標を掛け合わせて分析する

 プロダクトU&Eは、成果指標やストック指標以上に、フロー指標を重視します。フロー指標の掛け合わせから、色々なことを見ていきます。フロー指標の掛け合わせは、2種類あります。多くの場合、2次元のマップとして表現し、対象の商品がどこに位置するのかを見て分析を進めていきます。

  •  マップ1: 認知率 × コンバージョンレート
  •  マップ2: コンバージョンレート × リテンションレート

(1) マップ1: 認知率 × コンバージョンレート

 マップ1の「認知率 × コンバージョンレート」は、例えば、横軸に「認知率」をとり、縦軸に「コンバージョンレート」を取ります。例えば、ある商品が、左上にプロットされていたとします。つまり、横軸の「認知率」が低く、縦軸の「コンバージョンレート」が高い状態です。この商品は、認知させれば多くの人が試しに購入してくれるが、肝心の認知率が低い。そのため、もっと認知率を高める施策を実施したほうがよさそうだ。となります。その施策がどのような影響を与えたのかを、このプロット上に1週間や1か月単位でプロットすることで、時系列の変化を追うことができます。

(2) マップ2: コンバージョンレート × リテンションレート

 マップ2の「コンバージョンレート × リテンションレート」は、例えば、横軸に「コンバージョンレート」をとり、縦軸に「リテンションレート」を取ります。例えば、ある商品が、右下にプロットされていたとします。つまり、横軸の「コンバージョンレート」が高いものの縦軸の「リテンションレート」が低い状態です。この商品を知った多くの人が、一度は試し買いするが、しかし再購入しない。と言うことが分かります。商品そのものか、値段設定に問題があるのかもしれません。広告宣伝の内容と、実際の商品の間のギャップが大きいのかもしれません。先ずは、どこに問題があるのか点検する必要があります。

 例えば、商品の機能面・価格面・便益面(ベネフィット)を、競合商品と比べてどうなのか、を点検します。ちなみに私は、W.チャン・キム等の書籍『ブルーオーション戦略』で紹介されている、戦略キャンパスやアクション・マトリックスをよく使います。名前はすごいですが、使い勝手の非常によいツールです。このように、売上を促進させるキーとなる要因は何で、逆に売上を阻害するキーとなる要因は何かを、フロー指標を掛け合わせることで明らかにしていきます。そして、それに対する施策を実行したときに、どのように顧客が変化したのかを、このフロー指標を掛け合わせたマップを、時系列でモニタリングしていきます。

4. プロダクトU&Eは、商品×ターゲット別で分析する

 プロダクトU&Eを使った分析をするとき、ある商品に絞って分析します。

 例えば、コカ・コーラとファンタを別々に、プロダクトU&Eの売上分析フレームワークで分析していきます。コカ・コーラの認知と、ファンタの認知を別々に考えるということです。当たり前と言えば当たり前かもしれません。例えば、コカ・コーラにはいくつかの種類があります。「コカ・コーラ」「コカ・コーラ ゼロ」「コカ・コーラ ゼロカフェイン」「コカ・コーラ プラス」など。

 この場合はどうでしょうか。基本、別々に、プロダクトU&Eの売上分析フレームワークで分析していきます。しかし、例えば「コカ・コーラ」と「コカ・コーラ ゼロ」の関係性を無視して、バラバラに分析するわけではありません。「コカ・コーラ ゼロ」のターゲットは、例えば「コカ・コーラ 飲用者」と「コカ・コーラ 非飲用者」に、さらに分かられることでしょう。このとき、「コカ・コーラ ゼロ」のプロダクトU&Eを使った分析を、「コカ・コーラ ゼロ」のターゲット全体に行なうだけでなく、「コカ・コーラ 飲用者」と「コカ・コーラ 非飲用者」にターゲットを分けてプロダクトU&Eを使った分析を実施すると良いでしょう。要するに、プロダクトU&Eは、商品 × ターゲット別で分析するということです。このように分析を進めることで、例えば……

 「コカ・コーラ ゼロ」のバカ売れした要因は「コカ・コーラ 飲用者」の「トライアル(試行客)」に支えられているものだが……「コカ・コーラ 非飲用者」の動きが鈍く「コカ・コーラ」ブランド全体のすそ野の拡大につながっていない。さらに、「コカ・コーラ 飲用者」の「リテンションレート」が低いことより……一時的なブームに終わる可能性がある。……などということが分かります。

※注意: 私は、コカ・コーラのマーケターではないので、本当のところは分かりません。あくまでの考え方を説明するために、例として使用しました。実際のところ、コカ・コーラ ゼロは今現在でも発売されているため、成功した商品だと考えられます。

5. プロダクトU&Eは、拡張する

 プロダクトU&Eの顧客ステータスは、認知、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)の3つでした。

 よく、購入意向者、離反の2つを付け加えたものを、私はよく利用し、そして他の企業に勧めています。もちろん、もう少し増やしても問題はありません。基本的な分析の考え方は同じです。つまり、認知、購入意向者、トライアル(試行客)、レギュラー化(固定客)、離反の5つの顧客ステータスを使います。「購入意向者」とは、商品を認知し購入意向が高いが、まだトライアルしていない潜在顧客です。購入意向も、アンケートで取得するケースが多いです。ある商品の購入意向を5段階や7段階で聞き、購入意向の高い回答であるTop2(例:とても買いたい、買いたい、など)を、購入意向者と見なしたりします。

 フロー指標は、認知率(ターゲット全体→認知)、購入意向率(認知→購入意向者)、コンバージョンレート(購入意向者→トライアル)、リテンションレート(トライアル→レギュラー)、離反率のようになります。

6. プロダクトU&Eの事例

 プロダクトU&Eの事例は、私が知っているだけで、数えきれないほどあります。分かりやすいところでは、通販。健康食品や化粧品などの通販が分かりやすいです。最近では、テレビCMや新聞広告、ネット広告などで「認知」を広め、「トライアル(試行客)」を増やすために「初回お試し」ということで非常に安い価格で商品を提供したりします。「初回お試し」の後、「レギュラー化(固定客)」を狙います。

 通販の場合も、単に「認知」「トライアル(試行客)」「レギュラー化(固定客)」というストック指標を見るだけでなく、「認知率」「コンバージョンレート」「リテンションレート」「離反率」を分析すると良いでしょう。どこの顧客ステータス間の遷移に問題があるのか分かるからです。大手の通販であれば、多くの場合、「リテンションレート」と「離反率」が大きな課題になります。

 「B to C の製造業(例:家電、食品、飲料など)」であれば、意識せずに似たような指標でモニタリングしているのではないでしょうか。そこそこの規模のブランド調査を実施している企業であれば、調査項目にプロダクトU&Eを計測できる項目が含まれていたりします。もし、プロダクトU&Eを試してみたい場合、自社で実施しているブランド調査などの消費者アンケートの結果を探してみることを、お勧めします。さらに、小売店でも使えます。

 私が知っているところだと、商品点数の多いスーパーではなく「コーヒーチェーン」などの商品の種類が少ない店舗です。コーヒーの各商品がどのように遷移してい行くのかを、プロダクトU&E の概念でモニタリングし、売上分析を実施しています。金銭的に余裕のある企業の場合、ブランド調査と絡めたりします。プロダクトU&E にブランド力と言う概念を組み込み分析していくのです。コンバージョンレートに効くブランド・イメージは何か? 離反率と密接に絡んだブランド・エクイティ(資産)は何か? という分析です。

7. 「顧客軸」を前面に押し出した売上分析のフレームワーク

 今回は、昔からある売上分析フレームワークであるプロダクトU&E (Usage & Establishment)について説明しました。プロダクトU&Eは、「顧客軸」を前面に押し出した売上分析のフレームワークです。プロダクトU&Eというフレームワークで売上分析をすることで、売上の促進要因と売上の阻害要因が見えてきます。プロダクトU&Eは、自社商品に対する「顧客の使用実態」の、以下の3つの顧客ステータスをベースに分析を進めていきます。

 認知
 トライアル(試行客)
 レギュラー化(固定客)

 主に、この顧客ステータス間の遷移状況を分析していきます。そのことで色々な気づきを得られ、その後対策がどの程度効いたのかが分かります。

 認知率(ターゲット全体→認知)
 コンバージョンレート(認知→トライアル)
 リテンションレート(トライアル→レギュラー)

 さらに、プロダクトU&Eは商品 × ターゲット別で分析していくと、分析の幅が広がり、色々な打ち手が見えてきます。しかし、簡単な消費者アンケートをしないとデータが取得できないという問題があります。幸いなことに、最近は安価なネットリサーチもありますので、それほど調査費用はかかりません。プロダクトU&Eは、非常にシンプルです。そして実務で使えます。ビジネス成果である売上金額や点数、粗利などだけで売上分析しているようでしたら、一度試してみてください。一度使うとクセになります。それぐらい使える売上分析フレームワークです。あなたの売上分析が、より深い分析になれれば幸いです。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)


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