マーケティングや営業系のデータ分析:売上分析の目的 データ分析講座(その50)

投稿日

情報マネジメント

◆ 目的無きデータ分析は無意味というけれど、売上分析に限れば結局3つしかないので、そこから選べばいい

 目的無きデータ分析は、無意味だし、そもそも順序が逆です。理想の順序は、分析目的を明確にしてからデータ分析するというものですが、ビジネスの実務でデータ分析している人であれば、この理屈は当てはまらないでしょう。なぜなら、本当に目的がないことなど、実際はないからです。どこに所属している人のためのデータ分析なのかで、だいたいデータ分析の目的はわかります。

 例えば、マーケティングや営業系のデータ分析は、多くの場合売上に関係する分析をする。人事系のデータ分析は、今はやりの働き方改革のための生産性の分析だったりする。製造現場のデータ分析は、品質管理のためのデータ分析をする。購買系のデータ分析は、在庫管理のためのデータ分析だったりする。あまりにも当たり前なので、データ分析の目的を明確にしないケースは多いようです。多くの場合、明確に紙に書いた入りプリントアウトして共有すればよかったりします。

 上記に書いたデータ分析の目的は、あまりにも大雑把なため、実際はもう少しブレイクダウンした方が良いでしょう。例えば、品質管理であれば、不良率の低下なのか、工程の平準化なのか、チョコ停(機械がちょこっと停止する現象)対策なのか、などなど。今回は、データ分析の目的と聞かれたときに、具体的に何だろうかと迷われた方のために、3つの売上分析の目的(テーマ)について、お話ししたいと思います。マーケティングや営業系のデータ分析である売上分析の目的を、もう少しブレイクダウンするときのヒントになれば、幸いです。

1. 売上分析に限れば、データ分析の目的(テーマ)は、3つに限られる

 マーケティングや営業系のデータ分析である、売上分析の目的(テーマ)は、なんだかんだ言っても、以下の3つに集約されます。

  • 新規顧客の獲得
  • 既存顧客の取引額の拡大
  • 既存顧客の離反防止

 要するに、顧客数を増やし減らさず、取引額を増やしいく。そのためのデータ分析をします。なので、マーケティングや営業系のデータ分析であれば、おそらくこの3つのどこかに落ち着くはずです。分析目的があいまいだ! と今現在思われていたら、今やっている売上分析は、この3つのうちのどのテーマを扱っているのかを、明確にしたほうがよいでしょう。

2. データ分析:あるコールセンターのデータ

 ある生命保険会社で、コールセンターのデータをマーケティング活動に活かせないかと考えていました。資金力のあるその企業様は、今流行りの外資系企業の出している有名な高額なAIを導入してしまいました。案の定、導入して約1年たっても、何もビジネス成果を生み出せませんでした。数億円を垂れ流しです。で、そうしたものかと相談が、私のところにありました。

 ヒアリングしてみると、正に分析目的が無いことが判明しました。厳密には、分析目的を、明確にしていない。コールセンターのデータを使えば、何かができるのではないかという、漠然とした夢だけがありました。

 その企業様では、トップダウンでAIを使って何かしろ! と言われているらしく、現場の部課長にとっては迷惑話しなのでしょう。コールセンターのデータをマーケティング活動に使うということなので、売上分析の範疇です。そこで、次の3つのうち最大の関心ごとは何かを聞きました。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大、(3)既存顧客の離反防止

 その企業様の最大の関心ごとは、「既存顧客の離反防止」でした。

 ここまでくると、データ分析が加速してきます。離反顧客と継続顧客を比較分析すれば良いのです。詳しくはお教えできませんが、例えば、新規契約後3年以内に解約する顧客とそうでない顧客の違いは何か? を分析していくということです。顧客の属性(性別・年代・職業・世帯構成など)の違いもあれば、購入した商品の違い、他の購入している商品の違い、対応したセールスパーソンの属性の違い、セールスパーソンの対応の違い、セールストークの違い、コールセンターの活用の違い、トークスクリプトの違い、メール対応の違い、などなど。

 コールセンターのデータ以外に、どのようなデータが必要かも見えてきます。この企業様では現在、「既存顧客の離反防止」という分析目的の一環として、「解約のアラーミング」と「解約対策案のレコメンド」、「コールセンターのトークスクリプトのレコメンド」、「コールセンターの職員教育の効率化」の4つのブレイクダウンしたテーマで、解約率を低下させるという売上分析を進めています。アラーミングやレコメンドぐらいになると、ちょっとAIっぽくなってきます。それぐらいであれば、高価なAIのシステムは必要ないかもしれません。データ量が膨大なためAIではなく処理マシン(もしくはクラウドサービス)にお金をかけるべきだったかもしれません。

3. データ分析:一番厄介なのが、複数ある場合

 ある部品メーカーで、CRM(顧客関係管理)システムのデータを営業活動に活かせないかと考えていました。

 ヒアリングしてみると、この企業も案の定、分析目的があいまい。要するに、分析目的を明確にしていない。営業活動なので売上だろう…… とううことだけは、分かります。その企業様も、トップダウンでビッグデータ的な何かをしろ! と言われたらしく、経営企画部と営業部、情報システム部の責任者が、頭を抱えていました。とりあえず、溜まっていそうなデータがCRMのデータでした。顧客と営業のやり取りが記録されているデータです。財務データと紐づければ、受注の明細まで追えます。何かできそうだが、何ができそうかが分からない…… という状態でした。そこで、次の3つのうち最大の関心ごとは何かを聞きました。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大、(3)既存顧客の離反防止

 出てきた答えが2つです。「既存顧客の取引額の拡大」と「既存顧客の離反防止」です。その業界では、市場環境から考えると、新規よりも既存顧客を守ることが重要なのだそうです。問題なのは、「既存顧客の取引額の拡大」と「既存顧客の離反防止」の2つあるということです。似ていますが、まったくデータ分析の観点が異なります。どちらかを先にやるか、一緒にやるにしても優先順位をつける必要があります。

 例えば、「既存顧客の離反防止」の対策案の一つに、「ダウンセル」というものがあります。

 文字通り、取引額を減らしてまで顧客との取引を継続させる方法です。プレミアムプランからスタンダードプラン、スタンダートプランからライトプランへ落とすイメージです。「既存顧客の取引額の拡大」という視点で考えれば、「ダウンセル」はあり得ません。「既存顧客の離反防止」という視点で考えれば、「ダウンセル」はあり得ます。

 このように、先ほどの3つのテーマ(新規顧客の獲得・既存顧客の取引額の拡大・既存顧客の離反防止)に関しては、1つに絞るか、明確な優先順位をつける必要があります。そうしないと、トレードオフの関係が発生した時に迷いますし、そもそも売上分析のやり方が異なってくるため分析者が混乱します。

4. データ分析:3つのうち1つに絞り、ブレイクダウンすればよい

 マーケティングや営業系のデータ分析が不明確だと感じれば、次の3つのうち関心ごとは何かを絞ります。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大...

情報マネジメント

◆ 目的無きデータ分析は無意味というけれど、売上分析に限れば結局3つしかないので、そこから選べばいい

 目的無きデータ分析は、無意味だし、そもそも順序が逆です。理想の順序は、分析目的を明確にしてからデータ分析するというものですが、ビジネスの実務でデータ分析している人であれば、この理屈は当てはまらないでしょう。なぜなら、本当に目的がないことなど、実際はないからです。どこに所属している人のためのデータ分析なのかで、だいたいデータ分析の目的はわかります。

 例えば、マーケティングや営業系のデータ分析は、多くの場合売上に関係する分析をする。人事系のデータ分析は、今はやりの働き方改革のための生産性の分析だったりする。製造現場のデータ分析は、品質管理のためのデータ分析をする。購買系のデータ分析は、在庫管理のためのデータ分析だったりする。あまりにも当たり前なので、データ分析の目的を明確にしないケースは多いようです。多くの場合、明確に紙に書いた入りプリントアウトして共有すればよかったりします。

 上記に書いたデータ分析の目的は、あまりにも大雑把なため、実際はもう少しブレイクダウンした方が良いでしょう。例えば、品質管理であれば、不良率の低下なのか、工程の平準化なのか、チョコ停(機械がちょこっと停止する現象)対策なのか、などなど。今回は、データ分析の目的と聞かれたときに、具体的に何だろうかと迷われた方のために、3つの売上分析の目的(テーマ)について、お話ししたいと思います。マーケティングや営業系のデータ分析である売上分析の目的を、もう少しブレイクダウンするときのヒントになれば、幸いです。

1. 売上分析に限れば、データ分析の目的(テーマ)は、3つに限られる

 マーケティングや営業系のデータ分析である、売上分析の目的(テーマ)は、なんだかんだ言っても、以下の3つに集約されます。

  • 新規顧客の獲得
  • 既存顧客の取引額の拡大
  • 既存顧客の離反防止

 要するに、顧客数を増やし減らさず、取引額を増やしいく。そのためのデータ分析をします。なので、マーケティングや営業系のデータ分析であれば、おそらくこの3つのどこかに落ち着くはずです。分析目的があいまいだ! と今現在思われていたら、今やっている売上分析は、この3つのうちのどのテーマを扱っているのかを、明確にしたほうがよいでしょう。

2. データ分析:あるコールセンターのデータ

 ある生命保険会社で、コールセンターのデータをマーケティング活動に活かせないかと考えていました。資金力のあるその企業様は、今流行りの外資系企業の出している有名な高額なAIを導入してしまいました。案の定、導入して約1年たっても、何もビジネス成果を生み出せませんでした。数億円を垂れ流しです。で、そうしたものかと相談が、私のところにありました。

 ヒアリングしてみると、正に分析目的が無いことが判明しました。厳密には、分析目的を、明確にしていない。コールセンターのデータを使えば、何かができるのではないかという、漠然とした夢だけがありました。

 その企業様では、トップダウンでAIを使って何かしろ! と言われているらしく、現場の部課長にとっては迷惑話しなのでしょう。コールセンターのデータをマーケティング活動に使うということなので、売上分析の範疇です。そこで、次の3つのうち最大の関心ごとは何かを聞きました。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大、(3)既存顧客の離反防止

 その企業様の最大の関心ごとは、「既存顧客の離反防止」でした。

 ここまでくると、データ分析が加速してきます。離反顧客と継続顧客を比較分析すれば良いのです。詳しくはお教えできませんが、例えば、新規契約後3年以内に解約する顧客とそうでない顧客の違いは何か? を分析していくということです。顧客の属性(性別・年代・職業・世帯構成など)の違いもあれば、購入した商品の違い、他の購入している商品の違い、対応したセールスパーソンの属性の違い、セールスパーソンの対応の違い、セールストークの違い、コールセンターの活用の違い、トークスクリプトの違い、メール対応の違い、などなど。

 コールセンターのデータ以外に、どのようなデータが必要かも見えてきます。この企業様では現在、「既存顧客の離反防止」という分析目的の一環として、「解約のアラーミング」と「解約対策案のレコメンド」、「コールセンターのトークスクリプトのレコメンド」、「コールセンターの職員教育の効率化」の4つのブレイクダウンしたテーマで、解約率を低下させるという売上分析を進めています。アラーミングやレコメンドぐらいになると、ちょっとAIっぽくなってきます。それぐらいであれば、高価なAIのシステムは必要ないかもしれません。データ量が膨大なためAIではなく処理マシン(もしくはクラウドサービス)にお金をかけるべきだったかもしれません。

3. データ分析:一番厄介なのが、複数ある場合

 ある部品メーカーで、CRM(顧客関係管理)システムのデータを営業活動に活かせないかと考えていました。

 ヒアリングしてみると、この企業も案の定、分析目的があいまい。要するに、分析目的を明確にしていない。営業活動なので売上だろう…… とううことだけは、分かります。その企業様も、トップダウンでビッグデータ的な何かをしろ! と言われたらしく、経営企画部と営業部、情報システム部の責任者が、頭を抱えていました。とりあえず、溜まっていそうなデータがCRMのデータでした。顧客と営業のやり取りが記録されているデータです。財務データと紐づければ、受注の明細まで追えます。何かできそうだが、何ができそうかが分からない…… という状態でした。そこで、次の3つのうち最大の関心ごとは何かを聞きました。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大、(3)既存顧客の離反防止

 出てきた答えが2つです。「既存顧客の取引額の拡大」と「既存顧客の離反防止」です。その業界では、市場環境から考えると、新規よりも既存顧客を守ることが重要なのだそうです。問題なのは、「既存顧客の取引額の拡大」と「既存顧客の離反防止」の2つあるということです。似ていますが、まったくデータ分析の観点が異なります。どちらかを先にやるか、一緒にやるにしても優先順位をつける必要があります。

 例えば、「既存顧客の離反防止」の対策案の一つに、「ダウンセル」というものがあります。

 文字通り、取引額を減らしてまで顧客との取引を継続させる方法です。プレミアムプランからスタンダードプラン、スタンダートプランからライトプランへ落とすイメージです。「既存顧客の取引額の拡大」という視点で考えれば、「ダウンセル」はあり得ません。「既存顧客の離反防止」という視点で考えれば、「ダウンセル」はあり得ます。

 このように、先ほどの3つのテーマ(新規顧客の獲得・既存顧客の取引額の拡大・既存顧客の離反防止)に関しては、1つに絞るか、明確な優先順位をつける必要があります。そうしないと、トレードオフの関係が発生した時に迷いますし、そもそも売上分析のやり方が異なってくるため分析者が混乱します。

4. データ分析:3つのうち1つに絞り、ブレイクダウンすればよい

 マーケティングや営業系のデータ分析が不明確だと感じれば、次の3つのうち関心ごとは何かを絞ります。(1)新規顧客の獲得、(2)既存顧客の取引額の拡大、(3)既存顧客の離反防止

 売上分析が上手くいっていないのであれば、先ずはたった1つだけに絞ります。そうして、たった1つに絞ったテーマをブレイクダウンしていく。ただこれだけです。では、どうやってブレイクダウンすればよいのか? という疑問がわく方も多いことでしょう。それは次回以降にお話しいたします。基本は、ビジネスプロセス視点でブレイクダウンします。ビジネスプロセスと聞くと難しく聞こえるかもしれませんが、実はそれほど難しいものではありません。

 

5. マーケティングや営業系のデータ分析:売上分析の分析目的

 今回は、「目的無きデータ分析は無意味というけど、売上分析に限れば結局3つしかないので、そこから選べばいい」というお話しをしました。

 ビジネスの実務でデータ分析している人であれば、目的無きデータ分析をすることは、ほぼ皆無です。所属している部署や、分析を依頼してきた部署がどのような部署かで、ざっくりした分析目的は決まります。例えば、マーケティングや営業系のデータ分析は「売上に関係する分析」、人事系のデータ分析は「働き方改革のための生産性の分析」、製造現場のデータ分析は「統計的品質管理」、購買系のデータ分析は「在庫管理のための分析」だったりします。

 さらに、マーケティングや営業系のデータ分析である、売上分析の分析目的(テーマ)は大きく以下の3つ。

  新規顧客の獲得
  既存顧客の取引額の拡大
  既存顧客の離反防止

 売上分析をしていて、分析目的があいまいだなと感じられましたら、先ずは、以上の3つの中から1つ選んでみましょう。少し視界がすっきりするかと思います。くれぐれも、2つ以上を同時に選ばないように注意しましょう。選ぶときは、明確な優先順位をつけましょう。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)


「情報マネジメント一般」の他のキーワード解説記事

もっと見る
レコメンドのためのデータ分析:データ分析講座(その172)

  ◆ 何をすべきかを見える化する「レコメンド」のためのデータ分析  データを分析することで、例えば次の2種類の情報を得ることができます...

  ◆ 何をすべきかを見える化する「レコメンド」のためのデータ分析  データを分析することで、例えば次の2種類の情報を得ることができます...


評価指標の異常判断とは データ分析講座(その245)

  ビジネス活動をしていると、何かしらの指標を眺めることが多々あります。例えば、売上や受注件数、問い合せ件数、サイトのPV(ページビュー)...

  ビジネス活動をしていると、何かしらの指標を眺めることが多々あります。例えば、売上や受注件数、問い合せ件数、サイトのPV(ページビュー)...


デジタルツインの光と影 

  多くの企業が、将来の成長・競争力強化のため、または価値創造の手段に、デジタル化、デジタルトランスフォーメーション( Digi...

  多くの企業が、将来の成長・競争力強化のため、または価値創造の手段に、デジタル化、デジタルトランスフォーメーション( Digi...


「情報マネジメント一般」の活用事例

もっと見る
Web上で試作受注するツールを成功させるポイントとは

        今回は、「Web上で試作受注するツール」を成功させるポイントについて解説します。次の2点がポイントで、この2つを「最優先」に考える必...

        今回は、「Web上で試作受注するツール」を成功させるポイントについて解説します。次の2点がポイントで、この2つを「最優先」に考える必...


たかがWord、されどWord

 マイクロソフトOfficeはどこでも使われているので、ITリテラシーとしてWordを使えることが求められます。『 Wordが使える 』と言っても、そのレ...

 マイクロソフトOfficeはどこでも使われているので、ITリテラシーとしてWordを使えることが求められます。『 Wordが使える 』と言っても、そのレ...


‐情報収集で配慮すべき事項(第1回)‐  製品・技術開発力強化策の事例(その9)

 前回の事例その8に続いて解説します。ある目的で情報収集を開始する時には、始めに開発方針を明らかにして、目的意識を持って行動する必要があります。目的を明確...

 前回の事例その8に続いて解説します。ある目的で情報収集を開始する時には、始めに開発方針を明らかにして、目的意識を持って行動する必要があります。目的を明確...