変化に適応し柔軟に動くための運用サイクルとは データ分析講座(その28)

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情報マネジメント

◆ OODAループとデータ分析

 営業やマーケティングの現場で、変化に適応し柔軟に「動くため」の運用サイクルがあります。OODA(Observe-Orient-Decide-Action、観察-方向付け-決定-行動)ループです。
今回は、OODAループの中で、具体的にどのようなデータ分析をするのかを解説します。

1. 分析テーマと定量分析

 OODAループの中で、以下の5つの分析テーマがあります。

 (1) 何か問題は起こっていないか?
 (2) 問題の要因は何か?
 (3) 何も対策を打たず今まで通りにするとどうなるのか?
 (4) 対策を打つとどうなるのか?
 (5) 何をすべきかを決める

 その中で、4種類の定量分析を行います。

  •  異常検知
  •  要因分析
  •  将来予測
  •  評価決定

 OODAループのA(Action、行動)は、具体的なアクションの実施になります。そのため、データ分析はOOD(Observe-Orient-Decide、観察-方向付け-決定)の中で行います。それぞれについて、説明します。

2. O(Observe、観察)とデータ分析

 O(Observe、観察)では、何が起こっていたのかを、蓄積したデータから明らかにしていきます。現状把握です。

 先ず、蓄積したデータをもとに「何か問題は起こっていないか?」を考えます。もし問題が起こっているならば、次にその「問題の要因は何か?」を探り整理していきます。この分析の中で実施する定量分析は、「異常検知」と「要因分析」です。「何か問題は起こっていないか?」の分析の中で、モニタリングしているKPIなどの指標の数字に、問題がないかどうかを探すのが「異常検知」です。「問題の要因は何か?」の分析の中で、問題となっている要因にあたりをつけるのが、「要因分析」です。

 「何か問題は起こっていないか?」と「問題の要因は何か?」は定量分析だけで結論付けることはできず、最終的には定性的な分析が必要になります。例えば、「訪問後の提案率」(訪問した見込み顧客の内、提案までたどり着けた見込み顧客の割合)の数字が急激に悪化したとします。定量分析の「異常検知」で「異常である」となった場合、定量的にその要因を探れない場合があります。例えば、東日本大震災のような大地震や、リーマンショックのようなことは、定量分析として取り扱うことが難しいです。特に、非常に重大で突発的な要因ほど定量的に扱えません。なぜならば、要因を特定するほどのデータが蓄積されていないからです。そのような要因は、定性的な分析で特定しています。

 このように、「何か問題は起こっていないか?」と「問題の要因は何か?」は、「異常検知」や「要因分析」などの定量分析で当たりを付け、この定量分析の結果をフックに定性的な分析を実施し、実際のところどうだったのかを考えます。

3. O(Orient、方向付け)とデータ分析

 O(Orient、方向付け)では、「今後どのようになりそうなのか」を分析し、対策案を洗い出します。

 先ず「何も対策を打たず今まで通りにするとどうなるのか?」を考え、もしよくない未来が待っていそうであれば、次に「対策を打つとどうなるのか?」を考えます。予測モデルを使い、定量的に「将来予測」をします。O(Observe、観察)と同様に、O(Orient、方向付け)も定量分析と定性分析の両面で分析を進めます。例えば、もしよくない未来が待っていそうであれば、KJ法などのブレ―ミングストーミングの定性的なアプローチで、よくない未来を起こさないための「対策案」を複数作ります。その対策案に対し定量的にどうなりそうなのかを「(ⅲ)将来予測」します。その定量的な予測結果をもとに、どうなりそうなのかを定性的に解釈します。

4. D(Decide、決定)とデータ分析

 D(Decide、決定)では、O(Orient、方向付け)で出した「対策案」を幾つかの評価軸で評価し、今後何をすべきかをを決めます。

 例えば、評価軸として「効果の大きさ」や「費用対効果」、「実現可能性」などがよく使われます。理想は、効果の大きく、費用対効果の高い、実現可能な対策です。したがって、分析テーマは「何をすべきかを決める」となります。この中で実施する定量分析は「評価決定」です。いくつかの評価軸で「対策案」を評価し、定量的に最も良い「対策案」をレコメンドします。どの「対策案」を選ぶのかは、最終的には人間による決断が必要になります。世の中には定量化できない情報の方が多く、それらを加味し定性的に判断できるのは、人でないと無理だからです。後はD(Decide、決定)で決めたことをA(Act、実行)で実現し、再度O(Observe、観察)に戻ります。このようにしてOODAループが回っていきます。

 OODAループのA(Act、実行)は、単に決めたことを実行するだけでなく、定性的な情報(例:顧客の反応など)の収集の場であることを忘れてはいけません。

5. OODAループはスキルではなく意識の問題である

 OODA(Observe-Orient-Decide-Action、観察-方向付け-決定-行動)ループは、変化に適応し柔軟に「動くため」の運用サイクルです。何か特別なスキルが必要なわけではありません。OODAループで回そう! 回している! とい...

情報マネジメント

◆ OODAループとデータ分析

 営業やマーケティングの現場で、変化に適応し柔軟に「動くため」の運用サイクルがあります。OODA(Observe-Orient-Decide-Action、観察-方向付け-決定-行動)ループです。
今回は、OODAループの中で、具体的にどのようなデータ分析をするのかを解説します。

1. 分析テーマと定量分析

 OODAループの中で、以下の5つの分析テーマがあります。

 (1) 何か問題は起こっていないか?
 (2) 問題の要因は何か?
 (3) 何も対策を打たず今まで通りにするとどうなるのか?
 (4) 対策を打つとどうなるのか?
 (5) 何をすべきかを決める

 その中で、4種類の定量分析を行います。

  •  異常検知
  •  要因分析
  •  将来予測
  •  評価決定

 OODAループのA(Action、行動)は、具体的なアクションの実施になります。そのため、データ分析はOOD(Observe-Orient-Decide、観察-方向付け-決定)の中で行います。それぞれについて、説明します。

2. O(Observe、観察)とデータ分析

 O(Observe、観察)では、何が起こっていたのかを、蓄積したデータから明らかにしていきます。現状把握です。

 先ず、蓄積したデータをもとに「何か問題は起こっていないか?」を考えます。もし問題が起こっているならば、次にその「問題の要因は何か?」を探り整理していきます。この分析の中で実施する定量分析は、「異常検知」と「要因分析」です。「何か問題は起こっていないか?」の分析の中で、モニタリングしているKPIなどの指標の数字に、問題がないかどうかを探すのが「異常検知」です。「問題の要因は何か?」の分析の中で、問題となっている要因にあたりをつけるのが、「要因分析」です。

 「何か問題は起こっていないか?」と「問題の要因は何か?」は定量分析だけで結論付けることはできず、最終的には定性的な分析が必要になります。例えば、「訪問後の提案率」(訪問した見込み顧客の内、提案までたどり着けた見込み顧客の割合)の数字が急激に悪化したとします。定量分析の「異常検知」で「異常である」となった場合、定量的にその要因を探れない場合があります。例えば、東日本大震災のような大地震や、リーマンショックのようなことは、定量分析として取り扱うことが難しいです。特に、非常に重大で突発的な要因ほど定量的に扱えません。なぜならば、要因を特定するほどのデータが蓄積されていないからです。そのような要因は、定性的な分析で特定しています。

 このように、「何か問題は起こっていないか?」と「問題の要因は何か?」は、「異常検知」や「要因分析」などの定量分析で当たりを付け、この定量分析の結果をフックに定性的な分析を実施し、実際のところどうだったのかを考えます。

3. O(Orient、方向付け)とデータ分析

 O(Orient、方向付け)では、「今後どのようになりそうなのか」を分析し、対策案を洗い出します。

 先ず「何も対策を打たず今まで通りにするとどうなるのか?」を考え、もしよくない未来が待っていそうであれば、次に「対策を打つとどうなるのか?」を考えます。予測モデルを使い、定量的に「将来予測」をします。O(Observe、観察)と同様に、O(Orient、方向付け)も定量分析と定性分析の両面で分析を進めます。例えば、もしよくない未来が待っていそうであれば、KJ法などのブレ―ミングストーミングの定性的なアプローチで、よくない未来を起こさないための「対策案」を複数作ります。その対策案に対し定量的にどうなりそうなのかを「(ⅲ)将来予測」します。その定量的な予測結果をもとに、どうなりそうなのかを定性的に解釈します。

4. D(Decide、決定)とデータ分析

 D(Decide、決定)では、O(Orient、方向付け)で出した「対策案」を幾つかの評価軸で評価し、今後何をすべきかをを決めます。

 例えば、評価軸として「効果の大きさ」や「費用対効果」、「実現可能性」などがよく使われます。理想は、効果の大きく、費用対効果の高い、実現可能な対策です。したがって、分析テーマは「何をすべきかを決める」となります。この中で実施する定量分析は「評価決定」です。いくつかの評価軸で「対策案」を評価し、定量的に最も良い「対策案」をレコメンドします。どの「対策案」を選ぶのかは、最終的には人間による決断が必要になります。世の中には定量化できない情報の方が多く、それらを加味し定性的に判断できるのは、人でないと無理だからです。後はD(Decide、決定)で決めたことをA(Act、実行)で実現し、再度O(Observe、観察)に戻ります。このようにしてOODAループが回っていきます。

 OODAループのA(Act、実行)は、単に決めたことを実行するだけでなく、定性的な情報(例:顧客の反応など)の収集の場であることを忘れてはいけません。

5. OODAループはスキルではなく意識の問題である

 OODA(Observe-Orient-Decide-Action、観察-方向付け-決定-行動)ループは、変化に適応し柔軟に「動くため」の運用サイクルです。何か特別なスキルが必要なわけではありません。OODAループで回そう! 回している! という意識さえあれば十分です。

 すなわち、OODAループは「意識の問題」です。高度な分析スキルが必要になるわけではないし、ましてや分析基盤を構築するための大規模なIT投資が必要になるわけでもありません。もちろん、高度な分析スキルやそのための分析基盤があれば、それに越したことはないです。ただ、高度な分析スキルが無いからデータ分析ができないとか、分析基盤がぜい弱だからデータ活用が進まないということにはなりません。

 営業やマーケティングなどの現場でデータ活用をするなら、「今あるデータ」を「手元にある分析ツール」で分析し、OODAループを「意識的」に回せばよいのです。例えば、データを活用しようと思い立ったら、先ずはどこのオフィスにもある分析ツールである「Excel」で、OODAループを回しながらデータ活用を実現するのが、早道であり現実的であり実践的です。このとき扱うデータは、Excelでも扱えるようなリトルデータでしょう。そこで、データ活用の「勘」を養うことができます。

 リトルデータをExcelで扱い、ビジネス成果につなげた経験で養った「データ活用の勘」は、データの量や種類が増えビッグデータ化したときや、高度な分析手法を使うとき、高価なデータ分析基盤を導入したとき、大いに役立ちます。

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

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