ソフトウェア特許とは(その2)

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4.ソフトウェア特許のとり方

 
 
 ソフトウエアソフトウェア特許の取得方法にはノウハウがあります。特許のことを知らない読者にはやや専門的になりますが、最初に、ソフトウェア特許の世界で遭遇しやすい拒絶理由を挙げてみましょう。
 

(1)発明ではない(29条1項柱書き)

 ソフトウエア特許の場合、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」ことが発明の成立性の要件とされ、これを満たさないと判断された場合、拒絶理由となることには注意が必要です。言い換えれば、プログラムだけの特許は成立しないということであって、Googleの検索技術を例にとれば、検索ロジックだけの特許は取れない。検索ロジックを使った検索システム(つまり、入力、処理、出力がハードウェア資源を用いてなされる)ことを記載しなければ成立しません。こういう拒絶理由がきた場合、発明が要件を満たすことを説明する必要があります。明細書を補正することが出来るかもしれないし、請求項を補正することが出来るかもしれません。ケースバイケースの対応になるでしょう。
 
◆発明が明確でない(特許法36条6項)
 
 発明が明確ではないという拒絶理由があります。ソフトウェア特許の場合、プログラムであることから、実施形態がひとつであることが多い。そのひとつの実施形態を抽象化してしまうと、二つ以上の発明が把握されることになってしまい、拒絶理由となります。これを防ぐには、ひとつの実施形態であれば、そのひとつを確実に特許請求の範囲に記載することが必要となります。または、ふたつ以上の実施形態を記載することです。審査段階でこれが発覚した場合、その場合は、実施形態のレベルにまで具体化して解消すれば良いことになります。特許としては弱くなってしまう可能性がありますが、基本発明でもない限り、ソフトウェアの場合は構成が無限に考えられますので、多くの場合問題ないだろうと思われます。
 
◆進歩性がない(29条2項)
 
 進歩性がないというのは、ソフトウェア特許に限らず、全ての分野で最も多い拒絶理由です。上に述べたとおり、ソフトウェアは技術的に構成する自由度が高いだけに、新規性は出しやすいでしょうが、新規性は出ても、進歩性は別の話です。進歩性が認められない理由は、進歩性に関する要件が他の分野よりも厳しいためです。審査基準を見てみると、以下のように例示されています。
 
◆当業者の通常の創作能力の発揮に当たる例
 
(1)他の特定分野への適用
 
 特定分野に関するソフトウエア関連発明に用いられている手順又は手段は、適用分野に関わらず機能又は作用が共通していることが多いようです。このような場合、ある特定分野に関するソフトウエア関連発明の手順又は手段を別の特定分野に適用しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:「ファイル検索システム」の引用発明が存在した場合、その機能又は作用が共通している手段(検索のための具体的構成)を医療情報システムに適用して、「医療情報検索システム」を創作することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(2)周知慣用手段の付加又は均等手段による置換システムの構成要素として通常用いられるもの(周知慣用手段)を付加したり、システムの構成要素の一部を均等手段に置換しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。
 
 例:システムの入力手段として、キーボードの他に、数字コードの入力のために画面上の項目表示をマウスで選択して入力する手段やバーコードで入力する手段を付加することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(3)ハードウエアで行っている機能のソフトウエア化
 
 回路などのハードウエアで行っている機能をソフトウエアで実現しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:ハードウエアであるコード比較回路で行っているコード比較をソフトウエアで行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(4)人間が行っている業務のシステム化
 
 引用発明には、特定分野において人間が行っている業務についての開示があるものの、その業務をどのようにシステム化するかが開示されていない場合があります。このような場合であっても、特定分野において人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現することは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 システムの開発は、通常、計画立案(準備) → システム分析 → システム設計、という過程を経て行われます。システム分析では、例えば、既存の業務を分析し、それを文書化することが行われます。人間の行っている業務も分析の対象になります。このようなシステム開発の実際からみると、システム分析により既存の業務をシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:これまでFAXや電話で注文を受けていたことを、単に、インターネット上のホームページで注文を受けるようにシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(5)公知の事象をコンピュータ仮想空間上で再現すること
 
 公知の事象を、コンピュータ仮想空間上で再現することは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:「テニスゲーム装置」において、単に、ハードコートにおけるバウンド後のテニスボールの球速を、クレーコートの場合よりも速く設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(6)公知の事実又は慣習に基づく設計上の変更
 
 以上が審査基準の引用です。ソフトウェアの分野だけ、この基準が「追加」されています。他の分野には、ここまで具体的な基準は追加されていません。審査基準にこれだけ記載されているため、他の分野に比較して拒絶しやすいのではないかと思います。
 
◆ソフトウェア特許...

4.ソフトウェア特許のとり方

 
 
 ソフトウエアソフトウェア特許の取得方法にはノウハウがあります。特許のことを知らない読者にはやや専門的になりますが、最初に、ソフトウェア特許の世界で遭遇しやすい拒絶理由を挙げてみましょう。
 

(1)発明ではない(29条1項柱書き)

 ソフトウエア特許の場合、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」ことが発明の成立性の要件とされ、これを満たさないと判断された場合、拒絶理由となることには注意が必要です。言い換えれば、プログラムだけの特許は成立しないということであって、Googleの検索技術を例にとれば、検索ロジックだけの特許は取れない。検索ロジックを使った検索システム(つまり、入力、処理、出力がハードウェア資源を用いてなされる)ことを記載しなければ成立しません。こういう拒絶理由がきた場合、発明が要件を満たすことを説明する必要があります。明細書を補正することが出来るかもしれないし、請求項を補正することが出来るかもしれません。ケースバイケースの対応になるでしょう。
 
◆発明が明確でない(特許法36条6項)
 
 発明が明確ではないという拒絶理由があります。ソフトウェア特許の場合、プログラムであることから、実施形態がひとつであることが多い。そのひとつの実施形態を抽象化してしまうと、二つ以上の発明が把握されることになってしまい、拒絶理由となります。これを防ぐには、ひとつの実施形態であれば、そのひとつを確実に特許請求の範囲に記載することが必要となります。または、ふたつ以上の実施形態を記載することです。審査段階でこれが発覚した場合、その場合は、実施形態のレベルにまで具体化して解消すれば良いことになります。特許としては弱くなってしまう可能性がありますが、基本発明でもない限り、ソフトウェアの場合は構成が無限に考えられますので、多くの場合問題ないだろうと思われます。
 
◆進歩性がない(29条2項)
 
 進歩性がないというのは、ソフトウェア特許に限らず、全ての分野で最も多い拒絶理由です。上に述べたとおり、ソフトウェアは技術的に構成する自由度が高いだけに、新規性は出しやすいでしょうが、新規性は出ても、進歩性は別の話です。進歩性が認められない理由は、進歩性に関する要件が他の分野よりも厳しいためです。審査基準を見てみると、以下のように例示されています。
 
◆当業者の通常の創作能力の発揮に当たる例
 
(1)他の特定分野への適用
 
 特定分野に関するソフトウエア関連発明に用いられている手順又は手段は、適用分野に関わらず機能又は作用が共通していることが多いようです。このような場合、ある特定分野に関するソフトウエア関連発明の手順又は手段を別の特定分野に適用しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:「ファイル検索システム」の引用発明が存在した場合、その機能又は作用が共通している手段(検索のための具体的構成)を医療情報システムに適用して、「医療情報検索システム」を創作することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(2)周知慣用手段の付加又は均等手段による置換システムの構成要素として通常用いられるもの(周知慣用手段)を付加したり、システムの構成要素の一部を均等手段に置換しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。
 
 例:システムの入力手段として、キーボードの他に、数字コードの入力のために画面上の項目表示をマウスで選択して入力する手段やバーコードで入力する手段を付加することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(3)ハードウエアで行っている機能のソフトウエア化
 
 回路などのハードウエアで行っている機能をソフトウエアで実現しようとすることは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:ハードウエアであるコード比較回路で行っているコード比較をソフトウエアで行うことは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(4)人間が行っている業務のシステム化
 
 引用発明には、特定分野において人間が行っている業務についての開示があるものの、その業務をどのようにシステム化するかが開示されていない場合があります。このような場合であっても、特定分野において人間が行っている業務をシステム化し、コンピュータにより実現することは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 システムの開発は、通常、計画立案(準備) → システム分析 → システム設計、という過程を経て行われます。システム分析では、例えば、既存の業務を分析し、それを文書化することが行われます。人間の行っている業務も分析の対象になります。このようなシステム開発の実際からみると、システム分析により既存の業務をシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:これまでFAXや電話で注文を受けていたことを、単に、インターネット上のホームページで注文を受けるようにシステム化することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(5)公知の事象をコンピュータ仮想空間上で再現すること
 
 公知の事象を、コンピュータ仮想空間上で再現することは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
 例:「テニスゲーム装置」において、単に、ハードコートにおけるバウンド後のテニスボールの球速を、クレーコートの場合よりも速く設定することは、当業者の通常の創作能力の発揮に当たります。
 
(6)公知の事実又は慣習に基づく設計上の変更
 
 以上が審査基準の引用です。ソフトウェアの分野だけ、この基準が「追加」されています。他の分野には、ここまで具体的な基準は追加されていません。審査基準にこれだけ記載されているため、他の分野に比較して拒絶しやすいのではないかと思います。
 
◆ソフトウェア特許のとりやすい分野とは
 
 ソフトウェア特許のとりやすい分野はあります。それは、(当然の話ですが)公知の事項が少ない分野です。たとえば、業務システムを例にとってみましょう。その業務が、新しいビジネス(あるいは、よく知られていない分野)に関する業務であるとすると、特許が取れる可能性は高いです。しかし、その業務について説明した本が出版されていたり、業界の専門誌で掲載されていたとすると、それらが引用されてしまうことになります。進歩性を表現するのは極めて難しいと言えます。だから、自社の業務についてむやみに公表したり、本を出版したりするのは止めたほうが良い。新しい分野であればあるほどそう言えます。
 
◆ソフトウェア特許の費用対効果
 
 ソフトウェア特許の費用対効果検証は、他の多くの支出同様に難しいものです。しかし、研究と開発は分けて考えるのページで示した通り、研究の際に生まれる特許と開発の際に生まれる特許の価値は異なります。少なくとも、両者を分けて考えなければ、どうしても支出がうまく説明できないのではないかと考えます。
 
① 研究の結果生じた知財は保険的なもの
 
研究の結果
   ・10年スパン
   ・事業戦略とは無関係
   ・次の事業のタネを生み出すための知財
 
② 開発の結果生じた知財は投資と考える
 
   ・2年スパン
   ・事業戦略に応じて
   ・実施しているサービスを守るための知財
 
  知財を含めた事業全体の投資対効果を考えなければならないのです。
 

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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