データ分析と収穫逓減の法則と果汁理論 データ分析講座(その267)

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データ分析

 

収穫逓減とは、例えば「農業において、一定面積からの一人当たりの収穫が、労働力の追加的投下によってしだいに減少する」という現象を表現したものです。要は、労働投入量の増大に比例せず、追加労働1単位の収穫量は逓減していく、ということです。これは、土地の収穫逓減の法則と呼ばれているものです。このことは、データ分析やデータサイエンス、機械学習などを実務適応した際にも起こります。今回は「データ分析と収穫逓減の法則と果汁理論」というお話しをします。

 

【目次】
1. 果汁理論
2. 絞るべきか、他に目を向けるべきか
3. 常にビジネスインパクトを考えよう!
4. 売上アップ系よりもコストダウン系で多い
5. 売上アップ系のテーマも収穫逓減する

【この連載の前回:(その266)点過程データと時系列データへのリンク】

◆【特集】 連載記事紹介連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

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1. 果汁理論

果汁理論とは「1つのオレンジから絞れる果汁には限界がある」というものです。業務最適化などによる効率化には限界がある、ということを説明するときに用いられる、よくある例です。最も果汁が出るのが最初のひと絞りでしょう。次に絞ったときは、最初のひと絞りよりも果汁は少ないことでしょう。そして、絞れば絞るほど、果汁の出が悪くなります。収穫逓減です。

 

ひと絞りあたりの果樹が、どんどん逓減していくからです。あなたが実施している、データ分析やデータサイエンス、機械学習などのテーマが、業務効率化やコストダウンなどをテーマとしている場合、同じようなことが起こっているかもしれません。

 

2. 絞るべきか、他に目を向けるべきか

果汁は絞れば絞るほど、出てくる果汁の量は減っていきます。問題は、次のひと絞りが妥当かどうかを判断することです。このひと絞りよりも、他のテーマのひと絞りの方が、果汁の出が良いかもしれません。もし、他のテーマのひと絞りの方が果汁の出が良いならば、そちらに注力した方がいいでしょう。

 

しかし、取り組んでいるテーマが上手く行っているほど、残り数滴のひと絞りに執着しやめられないものです。では、どうすればいいのか?

 

3. 常にビジネスインパクトを考えよう!

データ分析やデータサイエンス、機械学習などのテーマを決めるときに、何らかのビジネス的な評価は実施するかと思います。可能であれば、金額換算し評価した方がいいでしょう。

 

このようなビジネス的な評価は、テーマを推進するときに、何度も何度も実施した方がいいです。例えば、ひと絞りごとに評価するのがいいでしょう。

 

例えば、メンバー3人で、あるテーマをデータ分析することで次の利益創出ができたとします。 

  • 1絞り(例 1年目):10億円
  • 2絞り(例 2年目):1億円
  • 3絞り(例 3年目):1千万円

 

この例ですと、3絞りあたりは微妙です。労務費を考慮していなかったら、恐らくそのデータ分析の取り組みはよろしくありません。労務費のほうが高いからです。3絞りをやるかどうかは、2絞りが終わった段階で見積もる必要があります。費用対効果からやらないという判断をすべきです。

 

2絞りは1億円と金額の額は高いですが、他のテーマで100億円の利益創出するものがあれば、そちらに注力した方がいいかもしれません。

 

4. 売上アップ系よりもコストダウン系で多い

このような収穫逓減は、売上アップ系のテーマよりもコストダウン系のテーマで多い印象があります。

 

データドリブンなコストダウンの試みをする際、コストダウンの対象が少なくなり逓減するパターンと、特定のコストダウン対象のコストダウン額が逓減するパターンの両方があります。ただ、データ分析などで成果が出やすいのは、コストダウン系のテーマです。

 

5. 売上アップ系のテーマも収穫逓減する

売上アップ系のテーマは収穫逓減しない、というわけでもありません。

 

例えば、見込み顧客を増やそう、商談中の顧客の受注率をあげよう、離反顧客を減らそう、みたいな売上に直結するようなテーマでも、収穫逓減は起こります。

 

例えば、チャーン分析を適切に実施することで離反率は減少します。しかし、その離反率の減少幅が年を経るごとに小さくなることがあります。特に、成熟市場で起こります。

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データ分析

 

収穫逓減とは、例えば「農業において、一定面積からの一人当たりの収穫が、労働力の追加的投下によってしだいに減少する」という現象を表現したものです。要は、労働投入量の増大に比例せず、追加労働1単位の収穫量は逓減していく、ということです。これは、土地の収穫逓減の法則と呼ばれているものです。このことは、データ分析やデータサイエンス、機械学習などを実務適応した際にも起こります。今回は「データ分析と収穫逓減の法則と果汁理論」というお話しをします。

 

【目次】
1. 果汁理論
2. 絞るべきか、他に目を向けるべきか
3. 常にビジネスインパクトを考えよう!
4. 売上アップ系よりもコストダウン系で多い
5. 売上アップ系のテーマも収穫逓減する

【この連載の前回:(その266)点過程データと時系列データへのリンク】

◆【特集】 連載記事紹介連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

◆データ分析講座の注目記事紹介

 

1. 果汁理論

果汁理論とは「1つのオレンジから絞れる果汁には限界がある」というものです。業務最適化などによる効率化には限界がある、ということを説明するときに用いられる、よくある例です。最も果汁が出るのが最初のひと絞りでしょう。次に絞ったときは、最初のひと絞りよりも果汁は少ないことでしょう。そして、絞れば絞るほど、果汁の出が悪くなります。収穫逓減です。

 

ひと絞りあたりの果樹が、どんどん逓減していくからです。あなたが実施している、データ分析やデータサイエンス、機械学習などのテーマが、業務効率化やコストダウンなどをテーマとしている場合、同じようなことが起こっているかもしれません。

 

2. 絞るべきか、他に目を向けるべきか

果汁は絞れば絞るほど、出てくる果汁の量は減っていきます。問題は、次のひと絞りが妥当かどうかを判断することです。このひと絞りよりも、他のテーマのひと絞りの方が、果汁の出が良いかもしれません。もし、他のテーマのひと絞りの方が果汁の出が良いならば、そちらに注力した方がいいでしょう。

 

しかし、取り組んでいるテーマが上手く行っているほど、残り数滴のひと絞りに執着しやめられないものです。では、どうすればいいのか?

 

3. 常にビジネスインパクトを考えよう!

データ分析やデータサイエンス、機械学習などのテーマを決めるときに、何らかのビジネス的な評価は実施するかと思います。可能であれば、金額換算し評価した方がいいでしょう。

 

このようなビジネス的な評価は、テーマを推進するときに、何度も何度も実施した方がいいです。例えば、ひと絞りごとに評価するのがいいでしょう。

 

例えば、メンバー3人で、あるテーマをデータ分析することで次の利益創出ができたとします。 

  • 1絞り(例 1年目):10億円
  • 2絞り(例 2年目):1億円
  • 3絞り(例 3年目):1千万円

 

この例ですと、3絞りあたりは微妙です。労務費を考慮していなかったら、恐らくそのデータ分析の取り組みはよろしくありません。労務費のほうが高いからです。3絞りをやるかどうかは、2絞りが終わった段階で見積もる必要があります。費用対効果からやらないという判断をすべきです。

 

2絞りは1億円と金額の額は高いですが、他のテーマで100億円の利益創出するものがあれば、そちらに注力した方がいいかもしれません。

 

4. 売上アップ系よりもコストダウン系で多い

このような収穫逓減は、売上アップ系のテーマよりもコストダウン系のテーマで多い印象があります。

 

データドリブンなコストダウンの試みをする際、コストダウンの対象が少なくなり逓減するパターンと、特定のコストダウン対象のコストダウン額が逓減するパターンの両方があります。ただ、データ分析などで成果が出やすいのは、コストダウン系のテーマです。

 

5. 売上アップ系のテーマも収穫逓減する

売上アップ系のテーマは収穫逓減しない、というわけでもありません。

 

例えば、見込み顧客を増やそう、商談中の顧客の受注率をあげよう、離反顧客を減らそう、みたいな売上に直結するようなテーマでも、収穫逓減は起こります。

 

例えば、チャーン分析を適切に実施することで離反率は減少します。しかし、その離反率の減少幅が年を経るごとに小さくなることがあります。特に、成熟市場で起こります。

 

ここで問題になるのは、単に離反率の減少幅が年を経るごとに小さくなることだけではなく、打ち手(対策)の選択肢の幅が小さくなり、特定の打ち手(対策)に絞られていくことです。なぜ、特定の打ち手(対策)に絞られていくかというと、効果の高い打ち手(対策)だけ残し、効果の低い打ち手(対策)をしないようになるからです。

 

問題ないように見えますが、実は大問題で、効果の高いと思われた打ち手(対策)の効果が時代とともに薄くなってきたとき、別の打ち手(対策)を考えようにも、打ち手(対策)の選択肢が非常に少なくなっているからです。

 

効果の低いと思われた打ち手(対策)が、数年後に効果の大きい打ち手(対策)に変わることもあります。効果の低いと思われた打ち手(対策)も、今後の環境変化を鑑み、多少は残して置いてもいいかもしれません。

 

 

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この記事の著者

高橋 威知郎

データネクロマンサー/データ分析・活用コンサルタント (埋もれたデータに花を咲かせる、データ分析界の花咲じじい。それほど年齢は重ねてないけど)

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