イノベーション 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その143)

投稿日

技術マネジメント

 

イノベーションの活動を行うことを妨げる「失敗のコストのマネジメント」の解説をしていますが、今回もこの解説を続けたいと思います。

 

具体的には、ここまで考えてきた「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「心理的コスト」の内、心理的コスト(その2):エネルギーをセーブしたいと思う人間の基本心理が存在にどう対処するのが良いのかを考えていきたいと思います。

 

【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その142)へのリンク】

1.イノベーションのための最初の一歩を踏み出すことを妨げる「めんどくささ」

人間はめんどくさがりです。人間のこのような特徴を善意に捉えると、そもそも太古から人間は、常に危険な環境に身を置き、危機に直面した時にその状況に即時に対応できるように、常に備えておかなければならない、ということがあるように思えます。そのため、危機のない状況にあるときには、エネルギーを温存し、危機に備えるということがあり、それが「めんどくさがる」ということとも理解できます。

 

2.「めんどくささ」を払拭する方法

人間が本来持つめんどくささを払拭し、行動を起こすにはどうしたら良いのでしょうか?それには、私は次の5つがあると思います。

  • (1)仕事を細かく分割する
  • (2)隣接可能性の効果を信じる
  • (3)第一歩を踏み出したことを自分自身でほめる
  • (4)時間を掛けても良いと考える
  • (5)行動を重視する習慣・カルチャーを作る

では、前回、(1)(2)(3)(4)まで解説しましたので、今回は(4)の続きからですが、この時間を掛けても良いと思えるようにするための長期での目標設定について、解説をします。

 

 

◆なぜ年初の抱負は実現できないか

年初にはその年の抱負を考える方も少なからずいると思います。しかし、その抱負は残念ながら毎年実現されないということが多いのではないでしょうか?それはなぜか?それは私は一年という時間軸が短すぎるからと考えています。一見、一年は長そうですが、現実にはそれほどは長くはありません。この点は、皆さん実感をされているのではないでしょうか。

 

前回は、イノベーションを駆り立てる長期の目標の要件を、ワクワク感を生み出すことであると述べました。またワクワク感を生むための3つの要件(〇目標を達成することは、自分、組織そして社会にとって真に大きな価値を生む、〇他人があまり設定しないようなユニークな目標、〇達成できる強い予感がある)に触れました。

 

逆に言うと、ワクワクするような目標を達成するには、長期の時間軸が必要であるということです。年初の抱負は長くても達成までに1年ですので、なかなかワクワク感を感じるような目標となりません。また、仮に上の3つの要件を満たす目標を「設定」できたとしても、達成は簡単ではありませんので、1年では短すぎます。また、年の半ばで年末までの達成ができないとわかると、急にその目標は色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなります。

 

◆一年の目標ではなく、長期、例えば、5年、10年の目標を設定する

長期の目標では目標が色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなることは起きません。ワクワクする目標が実現しやすくなりますし、仮にそれまでの半年後の進捗について振り返って、当初の計画より進んでいなくても、まだ達成までの時間は十分ありますので、むしろもっと頑張ろうという気持ちになるものです。

 

◆長期の目標を1年ごとにブレークダウンするということはしない

プロジェクトマネジメント的には、その長期目標達成に向けて、短期の目標とそのための計画にブレークダウンするということをする訳ですが、しかしイノベーション創出を目的とした長期の目標は、むしろそのようなブレークダウンはしない方が良いと思います。なぜでしょうか?そこには、2つの理由があります。

 

①短期の目標が達成できないと、長期目標達成のモチベーシ...

技術マネジメント

 

イノベーションの活動を行うことを妨げる「失敗のコストのマネジメント」の解説をしていますが、今回もこの解説を続けたいと思います。

 

具体的には、ここまで考えてきた「踏み出すこと・踏み出そうとすることで発生する直接的コスト」×「心理的コスト」の内、心理的コスト(その2):エネルギーをセーブしたいと思う人間の基本心理が存在にどう対処するのが良いのかを考えていきたいと思います。

 

【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その142)へのリンク】

1.イノベーションのための最初の一歩を踏み出すことを妨げる「めんどくささ」

人間はめんどくさがりです。人間のこのような特徴を善意に捉えると、そもそも太古から人間は、常に危険な環境に身を置き、危機に直面した時にその状況に即時に対応できるように、常に備えておかなければならない、ということがあるように思えます。そのため、危機のない状況にあるときには、エネルギーを温存し、危機に備えるということがあり、それが「めんどくさがる」ということとも理解できます。

 

2.「めんどくささ」を払拭する方法

人間が本来持つめんどくささを払拭し、行動を起こすにはどうしたら良いのでしょうか?それには、私は次の5つがあると思います。

  • (1)仕事を細かく分割する
  • (2)隣接可能性の効果を信じる
  • (3)第一歩を踏み出したことを自分自身でほめる
  • (4)時間を掛けても良いと考える
  • (5)行動を重視する習慣・カルチャーを作る

では、前回、(1)(2)(3)(4)まで解説しましたので、今回は(4)の続きからですが、この時間を掛けても良いと思えるようにするための長期での目標設定について、解説をします。

 

 

◆なぜ年初の抱負は実現できないか

年初にはその年の抱負を考える方も少なからずいると思います。しかし、その抱負は残念ながら毎年実現されないということが多いのではないでしょうか?それはなぜか?それは私は一年という時間軸が短すぎるからと考えています。一見、一年は長そうですが、現実にはそれほどは長くはありません。この点は、皆さん実感をされているのではないでしょうか。

 

前回は、イノベーションを駆り立てる長期の目標の要件を、ワクワク感を生み出すことであると述べました。またワクワク感を生むための3つの要件(〇目標を達成することは、自分、組織そして社会にとって真に大きな価値を生む、〇他人があまり設定しないようなユニークな目標、〇達成できる強い予感がある)に触れました。

 

逆に言うと、ワクワクするような目標を達成するには、長期の時間軸が必要であるということです。年初の抱負は長くても達成までに1年ですので、なかなかワクワク感を感じるような目標となりません。また、仮に上の3つの要件を満たす目標を「設定」できたとしても、達成は簡単ではありませんので、1年では短すぎます。また、年の半ばで年末までの達成ができないとわかると、急にその目標は色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなります。

 

◆一年の目標ではなく、長期、例えば、5年、10年の目標を設定する

長期の目標では目標が色あせ、そこに向かって行動を駆り立てるということをしなくなることは起きません。ワクワクする目標が実現しやすくなりますし、仮にそれまでの半年後の進捗について振り返って、当初の計画より進んでいなくても、まだ達成までの時間は十分ありますので、むしろもっと頑張ろうという気持ちになるものです。

 

◆長期の目標を1年ごとにブレークダウンするということはしない

プロジェクトマネジメント的には、その長期目標達成に向けて、短期の目標とそのための計画にブレークダウンするということをする訳ですが、しかしイノベーション創出を目的とした長期の目標は、むしろそのようなブレークダウンはしない方が良いと思います。なぜでしょうか?そこには、2つの理由があります。

 

①短期の目標が達成できないと、長期目標達成のモチベーションがしぼむ

ブレークダウンした短期の目標が達成できないとなると、もしくは達成できないことがわかると、急に達成意欲が減退するからです。その時点で、長期目標達成が頓挫してしまう可能性が高まります。

 

②いろいろな試行錯誤をする必要性の存在

長期目標達成に向けて、いろいろな試行錯誤をすることが必要です。設定した長期の目標は、達成は簡単ではありませんので、様々なことをトライし、目標達成の道筋を探る必要があります。短期目標とそのための活動計画を立ててしまうことは、そのような試行錯誤の機会を奪ってしまうことになります。

 

次回に続きます。

 

◆【特集】 連載記事紹介:連載記事のタイトルをまとめて紹介、各タイトルから詳細解説に直リンク!!

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
大学との連携の形態を考える、産学連携のあり方

 産学連携の例として、企業が製品開発において大学の技術を活用しようとした場合、どういった提携をするのが一般的なのかを解説します。通常、大学との連携の形態は...

 産学連携の例として、企業が製品開発において大学の技術を活用しようとした場合、どういった提携をするのが一般的なのかを解説します。通常、大学との連携の形態は...


素材の市場開発とは

 素材の市場開発においては、既存の製品に市場喚起可能な商品価値を見出さなければなりません。その為に商品アイデアを考え出し、より価値ある商品に仕上げていくこ...

 素材の市場開発においては、既存の製品に市場喚起可能な商品価値を見出さなければなりません。その為に商品アイデアを考え出し、より価値ある商品に仕上げていくこ...


ベンチャーのように考える 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その69)

◆ 社内ベンチャーを目指す 1、Withコロナ時代に求められるR&D  2020年6月現在、新型コロナウィルスにより世界中の経済が影響を受...

◆ 社内ベンチャーを目指す 1、Withコロナ時代に求められるR&D  2020年6月現在、新型コロナウィルスにより世界中の経済が影響を受...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
開発者が意識したいスケジューリングのコツ(朝~午前編)

先日、ある開発リーダーからこんな相談がありました。「一日のスケジューリングをしても、当日になると急な会議やら雑務が入ってしまって仕事が進まないんだよ。...

先日、ある開発リーダーからこんな相談がありました。「一日のスケジューリングをしても、当日になると急な会議やら雑務が入ってしまって仕事が進まないんだよ。...


羽のない扇風機が創られた時の目標設定、横並び競争と何が違うのか?

【目次】 1. 福原流QFDは技術者の創造性を引き出す技法 私も含めて我々技術者の思考は知らず知らずにうちに技術手段のHOWを考え...

【目次】 1. 福原流QFDは技術者の創造性を引き出す技法 私も含めて我々技術者の思考は知らず知らずにうちに技術手段のHOWを考え...


スーパーマンではなくプロフェッショナルな技術者に(その1)

【プロフェッショナルな技術者 連載目次】 1. 製品開発現場が抱えている問題 2. プロフェッショナルによる製品開発 3. 設計組織がねらい通り...

【プロフェッショナルな技術者 連載目次】 1. 製品開発現場が抱えている問題 2. プロフェッショナルによる製品開発 3. 設計組織がねらい通り...