普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その23)

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1. KETICモデル

 
 前回のその22で、イノベーションに必要な5つの要素として、知識(Knowledge)、経験(Experience)、思考(Thought)、意思(Intention)、好奇心(Curiosity)をあげました。それらを英語の頭文字をとってKETICモデルと呼ぶことにします。この連載で、KETICを一つ一つ順番に解説します。今回は最初の「知識」です。
 

2. 知識を集める

 
 KETICモデルはイノベーション、すなわち「新しい知識」を創出するものですが、この「新しい知識」を創出するには、その要素として「既存の知識」を集めて、組織の構成員の頭の中に蓄積させることが重要となります。
 
 技術マネジメント
 

3. イノベーションを起こすための3の原料

 
 この連載の中で、何度か言及してきたように、私は企業におけるイノベーションを「今まで存在しない新たな大きな価値を創出すること」と定義しています。そして、そのイノベーションを起こす原料の知識として、市場知識、技術知識、自社の強みの3つが必要と考えています。
 
 なぜこの3つの原料かと言うと、まずは今まで存在していなかった新たな価値を実現するには、市場における顧客が何に対して新たな価値を認識するのかを想像するための「市場」の知識が必要です。
 
 その次には、その新たな価値を実現するためには技術が必要で、そのために「技術」の知識が求められます。しかし、製品化や事業化までの全体プロセスにおいて、自社が他社に対するなんらかの強みを
持たなければ、せっかく生み出したイノベーションの成果を他社(トンビ)に「油揚げをさらわれて」しまいます。
 
 従って、最終的に事業化するまでの過程で他社に能力において差別化するための自社の強みを持たなければなりません。
 

4. 技術知識の収集と蓄積

 
 この3つの原料の内、今回は技術知識の解説です。
 

(1) 社内の技術知識を集め共有化する

 
 企業においては、「自部門」では日々の研究開発活動により新たな技術知識が創出されています。また外部から新たな技術を取り込むという活動も行われています。
 
  その結果、「自部門」においては、そのような技術知識が蓄積されていきますが、一方で多くの企業においてそのような「自部門」で蓄積された技術知識は、「他部門」では利用されないものです。
 
 そこで必要となるのが、技術知識を組織横通しで共有する仕組みです。3M(テックフォーラム)や村田製作所(STEP)などの企業が、社内制度として社内技術共有化プログラムを持っています。これは、コア技術やプラットフォーム技術と呼ぶ自社が寄って立つ技術(ある程度の広い領域)を設定し、その技術を社内で組織横串で共有化を行うものです。
 

(2) 社外の技術知識を集める

 
 社内があれば社外もあります。すなわちオープンイノベーション活動です。オープンイノベーションを強力に進めてきたP&Gの有名な言葉に、「P&Gは8,600人の研究者を雇用しイノベーションに努めている。しかし、社外には150万人の研究者がいる。社内ですべてのイノベーションを行うのは合理的だろうか。」(ヘンリー・チ...

1. KETICモデル

 
 前回のその22で、イノベーションに必要な5つの要素として、知識(Knowledge)、経験(Experience)、思考(Thought)、意思(Intention)、好奇心(Curiosity)をあげました。それらを英語の頭文字をとってKETICモデルと呼ぶことにします。この連載で、KETICを一つ一つ順番に解説します。今回は最初の「知識」です。
 

2. 知識を集める

 
 KETICモデルはイノベーション、すなわち「新しい知識」を創出するものですが、この「新しい知識」を創出するには、その要素として「既存の知識」を集めて、組織の構成員の頭の中に蓄積させることが重要となります。
 
 技術マネジメント
 

3. イノベーションを起こすための3の原料

 
 この連載の中で、何度か言及してきたように、私は企業におけるイノベーションを「今まで存在しない新たな大きな価値を創出すること」と定義しています。そして、そのイノベーションを起こす原料の知識として、市場知識、技術知識、自社の強みの3つが必要と考えています。
 
 なぜこの3つの原料かと言うと、まずは今まで存在していなかった新たな価値を実現するには、市場における顧客が何に対して新たな価値を認識するのかを想像するための「市場」の知識が必要です。
 
 その次には、その新たな価値を実現するためには技術が必要で、そのために「技術」の知識が求められます。しかし、製品化や事業化までの全体プロセスにおいて、自社が他社に対するなんらかの強みを
持たなければ、せっかく生み出したイノベーションの成果を他社(トンビ)に「油揚げをさらわれて」しまいます。
 
 従って、最終的に事業化するまでの過程で他社に能力において差別化するための自社の強みを持たなければなりません。
 

4. 技術知識の収集と蓄積

 
 この3つの原料の内、今回は技術知識の解説です。
 

(1) 社内の技術知識を集め共有化する

 
 企業においては、「自部門」では日々の研究開発活動により新たな技術知識が創出されています。また外部から新たな技術を取り込むという活動も行われています。
 
  その結果、「自部門」においては、そのような技術知識が蓄積されていきますが、一方で多くの企業においてそのような「自部門」で蓄積された技術知識は、「他部門」では利用されないものです。
 
 そこで必要となるのが、技術知識を組織横通しで共有する仕組みです。3M(テックフォーラム)や村田製作所(STEP)などの企業が、社内制度として社内技術共有化プログラムを持っています。これは、コア技術やプラットフォーム技術と呼ぶ自社が寄って立つ技術(ある程度の広い領域)を設定し、その技術を社内で組織横串で共有化を行うものです。
 

(2) 社外の技術知識を集める

 
 社内があれば社外もあります。すなわちオープンイノベーション活動です。オープンイノベーションを強力に進めてきたP&Gの有名な言葉に、「P&Gは8,600人の研究者を雇用しイノベーションに努めている。しかし、社外には150万人の研究者がいる。社内ですべてのイノベーションを行うのは合理的だろうか。」(ヘンリー・チェスブロー)があります。
 
  まさに社外に目を向ければ自社にはない、膨大な技術知識が存在しているのです。もちろん社外であれば、それを獲得するには経済学で言う「取引コスト」の問題があります。しかし、技術を生みだす活動には、多額の費用がかかり、また多額の費用を掛けても期待する成果が得られない可能性も大きいわけで、取引コストを考慮しても社内の技術知識を活用するというオプションは極めて有効です。
 
 次回も、KETICの解説を続けます。
 
  

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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