普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その3)

更新日

投稿日

 
R&D
 
 今回から複数回にわたり、民間企業においては、どう自社のイノベーションを定義すべきかを解説します。今回は、イノベーションの研究で有名なシュンペーターのイノベーションの定義についてです。
 

1. シュンペーターのイノベーション定義

 イノベーションの研究で有名なシュンペーターは経済学者ですが、5つのイノベーションが経済を成長させることを説きました。ここでは1つ1つ解説します。
 

(1) 新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産

 
 前者は文字通り、市場ではまだ知られていない製品やサービスを企画し、生産、販売することです。これは、マーケティングで言われる潜在ニーズに基づき、製品を展開することに他なりません。今までにはなかった新しい製品を市場に提供する訳ですから、直接的に新しい経済価値を創出することになります。
 
 後者(「新しい品質の財貨の生産」)では、市場ではニーズは既に認識されているものの、従来の製品ではそのニーズを充足できていないため、新たにより高い品質の製品が供給されることで、新たに追加的な経済価値を創出することになります。
 

(2) 新しい生産法、すなわち当該産業部門において実際未知な生産法の導入

 
 すでに生産・販売されている製品について、より高い効率で新しい方法で生産するということです。経済成長の視点からは、より効率的に生産がなされわけですから、また結果的により低い価格により市場が広がり、追加的な経済価値が生み出されることになります。シュンペーターはこの定義については、新しい生産法は、科学的な新しい発見に基づく必要はないとしています。
 

(3) 新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓

 
 例えば、製品の提供の対象が従来は一部の顧客、例えば富裕層に限定されていたものが、一般の顧客も対象として販売を行うようになるということです。当然売上は増加しますから、新しい経済価値を創出をすることになります。
 

(4) 原材料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

 
 既存の製品において、新たにより低いコストや高い品質の製品の供給源を獲得することで、コストの低減やより価値の大きな製品の提供を通じ、市場の拡大が可能となるわけで、新たな経済価値を創出することになります。
 

(5) 新しい組織の実現、すなわち独占的地位の形成あるいは独占の打破

 
 シュンペーターのイノベーションの定義で、最もわかりにくく、誤解の多いのがこの最後の項目です。ここでは、シュンペーターは個別企業内の組織のことを言っているのではなく、前者(「独占的地位の形成」)は独占的地位を構築する産業界での新しい企業(すなわち「組織」)を意味し、後者(「独占の打破」)はその独占の解消のことを言っています。例えばGoogleのような新しい価値を創出する独占的地位を有する企業が創出され(前者)、その後、その独占的な地位を打破する類似の製品・サービスを提供する様々な企業群が成長することで(後者)、経済が成長することを意味しています。
 

2. シュンペーターのイノベーショ...

 
R&D
 
 今回から複数回にわたり、民間企業においては、どう自社のイノベーションを定義すべきかを解説します。今回は、イノベーションの研究で有名なシュンペーターのイノベーションの定義についてです。
 

1. シュンペーターのイノベーション定義

 イノベーションの研究で有名なシュンペーターは経済学者ですが、5つのイノベーションが経済を成長させることを説きました。ここでは1つ1つ解説します。
 

(1) 新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産

 
 前者は文字通り、市場ではまだ知られていない製品やサービスを企画し、生産、販売することです。これは、マーケティングで言われる潜在ニーズに基づき、製品を展開することに他なりません。今までにはなかった新しい製品を市場に提供する訳ですから、直接的に新しい経済価値を創出することになります。
 
 後者(「新しい品質の財貨の生産」)では、市場ではニーズは既に認識されているものの、従来の製品ではそのニーズを充足できていないため、新たにより高い品質の製品が供給されることで、新たに追加的な経済価値を創出することになります。
 

(2) 新しい生産法、すなわち当該産業部門において実際未知な生産法の導入

 
 すでに生産・販売されている製品について、より高い効率で新しい方法で生産するということです。経済成長の視点からは、より効率的に生産がなされわけですから、また結果的により低い価格により市場が広がり、追加的な経済価値が生み出されることになります。シュンペーターはこの定義については、新しい生産法は、科学的な新しい発見に基づく必要はないとしています。
 

(3) 新しい販路の開拓、すなわち当該国の当該産業部門が従来参加していなかった市場の開拓

 
 例えば、製品の提供の対象が従来は一部の顧客、例えば富裕層に限定されていたものが、一般の顧客も対象として販売を行うようになるということです。当然売上は増加しますから、新しい経済価値を創出をすることになります。
 

(4) 原材料あるいは半製品の新しい供給源の獲得

 
 既存の製品において、新たにより低いコストや高い品質の製品の供給源を獲得することで、コストの低減やより価値の大きな製品の提供を通じ、市場の拡大が可能となるわけで、新たな経済価値を創出することになります。
 

(5) 新しい組織の実現、すなわち独占的地位の形成あるいは独占の打破

 
 シュンペーターのイノベーションの定義で、最もわかりにくく、誤解の多いのがこの最後の項目です。ここでは、シュンペーターは個別企業内の組織のことを言っているのではなく、前者(「独占的地位の形成」)は独占的地位を構築する産業界での新しい企業(すなわち「組織」)を意味し、後者(「独占の打破」)はその独占の解消のことを言っています。例えばGoogleのような新しい価値を創出する独占的地位を有する企業が創出され(前者)、その後、その独占的な地位を打破する類似の製品・サービスを提供する様々な企業群が成長することで(後者)、経済が成長することを意味しています。
 

2. シュンペーターのイノベーションの定義の意味

 
 この定義の意味は次のような視点からまとめられます。
 
◎ 既に存在しない新しい価値を創出する・・・(1)
◎ 既に提供されていた価値を新しい分野に拡大展開する・・・(3)
◎ 既に提供されている価値の創出コストを低減し、それにより市場を拡大する。・・・ (2)(4)
◎ 3つの活動のいずれかを行う独占企業の出現、その後の独占の解消で経済を拡大する・・・(5)
 
 次回も引き続き、イノベーションの定義について、解説します。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
理念経営基本体系の設計(1) 【快年童子の豆鉄砲】(その11)

  【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その10)「言語データ解析七つ道具」とはへのリンク】 1.企業経営の根幹にかかわる理念経営基...

  【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その10)「言語データ解析七つ道具」とはへのリンク】 1.企業経営の根幹にかかわる理念経営基...


なぜ、「言語データ解析」なのか (1) 【快年童子の豆鉄砲】(その5)

  【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その4)職人気質へのリンク】   1.言語データ解析と言う概念 表2-1に挙げ...

  【この連載の前回:【快年童子の豆鉄砲】(その4)職人気質へのリンク】   1.言語データ解析と言う概念 表2-1に挙げ...


事業アイディアの企画を後押しする要素、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その96)

  【この連載の前回、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その95)へのリンク】 【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マ...

  【この連載の前回、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その95)へのリンク】 【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マ...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
中小製造業とIoTの波

 「IoT(アイオーティー)」の波が、中小製造業にどのような影響をおよぼすのか、具体的にどのような変化がこの業界に訪れるのかについて、解説します。   ...

 「IoT(アイオーティー)」の波が、中小製造業にどのような影響をおよぼすのか、具体的にどのような変化がこの業界に訪れるのかについて、解説します。   ...


【ものづくりの現場から】搭乗型ロボット開発と顧客価値重視のコトづくり( MOVeLOT)

【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る 私たちのシリーズ「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に焦点を当て、ものづくりの進歩に役立つ情報を提供...

【特集】ものづくりの現場から一覧へ戻る 私たちのシリーズ「ものづくりの現場から」では、現場の課題や解決策に焦点を当て、ものづくりの進歩に役立つ情報を提供...


‐経営計画立案の手順 製品・技術開発力強化策の事例(その36)

 前回の事例その35に続いて解説します。経営計画は経営方針に基づいて立てる必要があります。「少規模の企業ではこのようなことは必要ではない」と簡単に片付ける...

 前回の事例その35に続いて解説します。経営計画は経営方針に基づいて立てる必要があります。「少規模の企業ではこのようなことは必要ではない」と簡単に片付ける...