普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その15)

更新日

投稿日

 前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の「常識の正体の理解」について解説しました。今回は2つ目の「社内にある『常識』の棚卸」についてです。
 

1. エドワード・デノボの発言

 
 水平思考の研究で有名な、エドワード・デボノはその著書、「水平思考の世界」の中で、次のように述べています。「このような支配的アイデアの影響から逃れるには、いったいどうしたらよいのだろうか?
それは水平思考の巧みな技術を用いて、現状を支配していると思われるアイデアを意識的に取り出し、明確にし、その弱点を非難することである。」
 
 ここではデボノは「支配的アイデア」を常識に囚われたアイデアと定義しており、そのような常識に囚われたアイデアの「弱点を非難すること」が重要と主張しています。しかし、むしろ一歩進めてその基となっている「常識」を明らかにして、その問題点を議論することが良いのではないかと思います。つまり、社内にある「常識」の棚卸をし、評価することです。
 

2. 社内にある「常識」の棚卸の方法:「ばかり分析」

 
 私は以前ある企業の中期経営計画策定をお手伝いしましたが、そのプロジェクトの中で策定した計画の社長報告会に出席する機会がありました。その企業は戦前からある通信分野の中核となる装置の専門メーカーですが、その企業の社長が「うちは大型の◯◯『ばかり』やっているが、もっと小型の◯◯をやるという考えはないのか」と発言をする場に遭遇しました。
 
人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 
 そこで私はハタと気が付いたことが、この『ばかり』という言葉です。
 
 組織にはこの『ばかり』、すなわち思考と行動を制約している「常識」が沢山あり、その「常識」は、長い期間(この会社の場合は戦後70年間ずっと)会社の中の強い思考の制約事項として存在しているんだ!、という気づきです。
 
 そこで私は社内にある常識を白日の下にさらし出し、皆で多少のユーモアを交えてその『ばかり』に距離を置いて客観的に議論するのが面白いのではと考え、それを「ばかり分析」と名付けました。分析という名前を付けていますが、別に特別な分析法ではありません。ブレーンストーミングの手法を利用して以下の活動を行うというものです。
 
・少人数のグループで社内の「ばかり」をブレーンストーミングを利用して沢山挙げる。
・その中で、組織に「広く」、「強く」、「長く」存在している『ばかり』を、参加メンバーによる投票
 により選ぶ。
・選ばれた「ばかり」のメリットとデメリットを議論し、そのデメリットの存在や大きさを皆で実感す
 る。
 

3. 「ばかり分析」の3つの効果

 
 この「ばかり分析」には3つの効果があります。
 
 まず1つ目は、「常識」には明確にメリットがあり、そのメリットがあるからこそ「常識」が組織内に醸成されるものだが、そこには必ずデメリットがあり、それが組織の構成員の思考を制約しているというメカニズムの存在を理解することです。
 
 2つ目は、具体的...
 前回は、「常識を継続的に書き換える3つの活動」の中の「常識の正体の理解」について解説しました。今回は2つ目の「社内にある『常識』の棚卸」についてです。
 

1. エドワード・デノボの発言

 
 水平思考の研究で有名な、エドワード・デボノはその著書、「水平思考の世界」の中で、次のように述べています。「このような支配的アイデアの影響から逃れるには、いったいどうしたらよいのだろうか?
それは水平思考の巧みな技術を用いて、現状を支配していると思われるアイデアを意識的に取り出し、明確にし、その弱点を非難することである。」
 
 ここではデボノは「支配的アイデア」を常識に囚われたアイデアと定義しており、そのような常識に囚われたアイデアの「弱点を非難すること」が重要と主張しています。しかし、むしろ一歩進めてその基となっている「常識」を明らかにして、その問題点を議論することが良いのではないかと思います。つまり、社内にある「常識」の棚卸をし、評価することです。
 

2. 社内にある「常識」の棚卸の方法:「ばかり分析」

 
 私は以前ある企業の中期経営計画策定をお手伝いしましたが、そのプロジェクトの中で策定した計画の社長報告会に出席する機会がありました。その企業は戦前からある通信分野の中核となる装置の専門メーカーですが、その企業の社長が「うちは大型の◯◯『ばかり』やっているが、もっと小型の◯◯をやるという考えはないのか」と発言をする場に遭遇しました。
 
人的資源マネジメント:ポジティブ感情
 
 そこで私はハタと気が付いたことが、この『ばかり』という言葉です。
 
 組織にはこの『ばかり』、すなわち思考と行動を制約している「常識」が沢山あり、その「常識」は、長い期間(この会社の場合は戦後70年間ずっと)会社の中の強い思考の制約事項として存在しているんだ!、という気づきです。
 
 そこで私は社内にある常識を白日の下にさらし出し、皆で多少のユーモアを交えてその『ばかり』に距離を置いて客観的に議論するのが面白いのではと考え、それを「ばかり分析」と名付けました。分析という名前を付けていますが、別に特別な分析法ではありません。ブレーンストーミングの手法を利用して以下の活動を行うというものです。
 
・少人数のグループで社内の「ばかり」をブレーンストーミングを利用して沢山挙げる。
・その中で、組織に「広く」、「強く」、「長く」存在している『ばかり』を、参加メンバーによる投票
 により選ぶ。
・選ばれた「ばかり」のメリットとデメリットを議論し、そのデメリットの存在や大きさを皆で実感す
 る。
 

3. 「ばかり分析」の3つの効果

 
 この「ばかり分析」には3つの効果があります。
 
 まず1つ目は、「常識」には明確にメリットがあり、そのメリットがあるからこそ「常識」が組織内に醸成されるものだが、そこには必ずデメリットがあり、それが組織の構成員の思考を制約しているというメカニズムの存在を理解することです。
 
 2つ目は、具体的な常識の存在を皆で共有し、それらの常識に縛られないようにすることを促すことです。
 
 3つ目は、現実にはこの「ばかり分析」をいくらやっても、社内の『常識』を全て挙げるというのは困難ですので、社内にはこのような「常識」が沢山ある」ことを認識し、そのような様々な常識にとらわれないように、これから気を付けて思考・行動しようという意識を植え付けるというものです。
 
 この「ばかり分析」は、簡単な分析ですので、皆さんもやってみてはいかがでしょうか。
 
  

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その11)

     前回は、イノベーション実現には、「リスクは必然と理解し、積極的に対峙する姿勢」が求められるという解説をしました。今回...

     前回は、イノベーション実現には、「リスクは必然と理解し、積極的に対峙する姿勢」が求められるという解説をしました。今回...


技術企業の高収益化: 現状追認型経営になっていないか

◆ 成果を刈りつくした社長になるか、畑を残す社長になるか  今回の解説は上司と部下の仕事の視野についてです。A社の開発会議で「長くかかるよ」と呟いた...

◆ 成果を刈りつくした社長になるか、畑を残す社長になるか  今回の解説は上司と部下の仕事の視野についてです。A社の開発会議で「長くかかるよ」と呟いた...


コアコンピタンスとは 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その94)

  【この連載、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その93)へのリンク】 戦略について学習すると、早い段階で「コアコンピタンス」という...

  【この連載、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その93)へのリンク】 戦略について学習すると、早い段階で「コアコンピタンス」という...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
市場を俯瞰してみる:半導体産業の失敗事例

 「失敗の本質」(野中郁次郎他著・中公文庫)という戦略論の本があり、その中で太平洋戦争における日本軍のガダルカナルでの敗北の分析が著されています。同書によ...

 「失敗の本質」(野中郁次郎他著・中公文庫)という戦略論の本があり、その中で太平洋戦争における日本軍のガダルカナルでの敗北の分析が著されています。同書によ...


【SDGs取り組み事例】人とロボットが共に成長する世界の創造に向けて 株式会社リビングロボット

ロボット開発事業を通じたSDGs達成への貢献   【目次】   国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る...

ロボット開発事業を通じたSDGs達成への貢献   【目次】   国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る...


DXによるパーパスの実践

  【目次】 DXの実現のカギは “パーパスを起点としたイノベーション” 京都先端科学大学教授...

  【目次】 DXの実現のカギは “パーパスを起点としたイノベーション” 京都先端科学大学教授...