外発的動機付けから内発的動機付けを誘引するには 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その80)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 前回はエドワード・デシの四段階理論で、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階を解説しました。今回も引き続き、本トピックについて解説します。

1、デシが重視する「自律性」

 デシはその著書「人を伸ばす力、内発と自律のすすめ」(新曜社)の中で『人には自分の自律性あるいは自己決定の感覚(ド・シャームが自己原因性と呼んだ感覚)を経験したいという生得的な内発的欲求があると思われる』とあります。このことを言い換えるなら、人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必要がある、と解釈できます。

 この点に関し、ほとんどの人は自分自身の経験から同意されると思います。私事で恐縮ですが、この自律性の効果が思いのほか大きいなと気づいた事例が2ケ月ほど前にありました。

 私は大学院の教員としても活動しておりますが、通常の教育業務以外に学生支援を担当しており、その仕事には院生間の親睦・交流の促進も含まれています。

 新型コロナの影響で授業もリモートとなったために、どうしたら院生間の親睦・交流を促進できるかと考えておりました。

 そこに、大学院の重要三役のうちの一人の教員から、オンライン飲み会を主催してはどうかという提案があり、子供じみていて恥ずかしいのですが、モチベーションが随分下がったということがあり、またその事実に自分自身驚いたという経験をしました。

 その理由は、自律的に主体的に院生間の親睦促進に向け何かしたいと考えていたところ、この場合強制ではないのですが、自律性を損なうような提案が外部からあったということです。

2、もう一つの要素:「有能感」

 デシは内発的動機付けに必要なもう一つの要素として、有能感を挙げています。デシは上であげた著書の中で『その仕事をこなす力という感覚は、内発的な満足の重要な側面である。うまくこなせるという感覚はそれ自体が人に満足をもたらす。そして、生涯にわたる職業へ導く最初の力にもなりうる』と述べています。

 仕事に打ち込めれば打ち込むほど、いっそうそうした感覚を得ることができることに気づき、いっそう大きな内発的な満足を経験するだろう。と解釈できます。

...

技術マネジメント

 前回はエドワード・デシの四段階理論で、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階を解説しました。今回も引き続き、本トピックについて解説します。

1、デシが重視する「自律性」

 デシはその著書「人を伸ばす力、内発と自律のすすめ」(新曜社)の中で『人には自分の自律性あるいは自己決定の感覚(ド・シャームが自己原因性と呼んだ感覚)を経験したいという生得的な内発的欲求があると思われる』とあります。このことを言い換えるなら、人は自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく自分自身で選んだと感じる必要があるし、行動を始める原因が外部にあるのではなく自分の内部にあると思う必要がある、と解釈できます。

 この点に関し、ほとんどの人は自分自身の経験から同意されると思います。私事で恐縮ですが、この自律性の効果が思いのほか大きいなと気づいた事例が2ケ月ほど前にありました。

 私は大学院の教員としても活動しておりますが、通常の教育業務以外に学生支援を担当しており、その仕事には院生間の親睦・交流の促進も含まれています。

 新型コロナの影響で授業もリモートとなったために、どうしたら院生間の親睦・交流を促進できるかと考えておりました。

 そこに、大学院の重要三役のうちの一人の教員から、オンライン飲み会を主催してはどうかという提案があり、子供じみていて恥ずかしいのですが、モチベーションが随分下がったということがあり、またその事実に自分自身驚いたという経験をしました。

 その理由は、自律的に主体的に院生間の親睦促進に向け何かしたいと考えていたところ、この場合強制ではないのですが、自律性を損なうような提案が外部からあったということです。

2、もう一つの要素:「有能感」

 デシは内発的動機付けに必要なもう一つの要素として、有能感を挙げています。デシは上であげた著書の中で『その仕事をこなす力という感覚は、内発的な満足の重要な側面である。うまくこなせるという感覚はそれ自体が人に満足をもたらす。そして、生涯にわたる職業へ導く最初の力にもなりうる』と述べています。

 仕事に打ち込めれば打ち込むほど、いっそうそうした感覚を得ることができることに気づき、いっそう大きな内発的な満足を経験するだろう。と解釈できます。

 ホンダ創業者・本田総一郎の有名な著書に「得手に帆をあげて」があります。

 この言葉は「絶好の機会が到来し、それを利用してはりきって行動を起こすこと」(故事ことわざ辞典)を意味しますが、有能感というのは「得手に帆をあげて」の中で感じられるような感覚です。

3、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引する4つの段階にこの2つの要素を考慮する

 したがって、外発的動機付けから内発的動機付けを誘引するには、この2つの要素を効果的に組み込むことが重要であるということです。

 この解説は次回も続けます。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
取り組みへの意思決定 普通の組織をイノベーティブにする処方箋(その90)

   今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素「自律性」と「有能感」の内、後者の「有能感獲得に向けて...

   今回も引き続き、エドワード・デシが内発的動機付けに必要と主張している2つの要素「自律性」と「有能感」の内、後者の「有能感獲得に向けて...


リーン製品開発の基本原則(その2)

   前回の「リーン製品開発の基本原則(その1)」に続けて解説します。 3. リーン製品開発の基本原則3 【コミュニケーションの見える...

   前回の「リーン製品開発の基本原則(その1)」に続けて解説します。 3. リーン製品開発の基本原則3 【コミュニケーションの見える...


費用対効果と投資効果はどう違うのか

 一般的に、いくら投資して、どのくらい利益が出たのかを表す指標は、ROI=リターン/コストの式で表され、それらを費用対効果や投資効果と表現しています。公共...

 一般的に、いくら投資して、どのくらい利益が出たのかを表す指標は、ROI=リターン/コストの式で表され、それらを費用対効果や投資効果と表現しています。公共...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
仕組み見直しとグローバル化(その1)

◆「気づき」能力向上のカギは製品開発経験の活用    前回は、日本の多くの開発現場で「組み合わせ型」アーキテクチャの製品を「擦り合わせ型」の...

◆「気づき」能力向上のカギは製品開発経験の活用    前回は、日本の多くの開発現場で「組み合わせ型」アーキテクチャの製品を「擦り合わせ型」の...


台湾・高機能ファブリックメーカーがTRIZで革新的課題解決

※写真はイメージです   ♦ 市場をリードするイノベーション実現に向けアイデア発想力強化 1. 機能性ファブリック...

※写真はイメージです   ♦ 市場をリードするイノベーション実現に向けアイデア発想力強化 1. 機能性ファブリック...


進捗管理可能なソフト開発計画 プロジェクト管理の仕組み (その6)

 前回のその5:ソフト開発計画の作成方法に続いて解説します。    製品機能に対するソフトウェアの各モジュールが実装すべき処理(内部機能)が...

 前回のその5:ソフト開発計画の作成方法に続いて解説します。    製品機能に対するソフトウェアの各モジュールが実装すべき処理(内部機能)が...