効果的な経験をするための3つの軸とは 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その52)

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  技術マネジメント
 
 前回からイノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。今回は効果的な「経験」をするための3つの軸TADを、説明します。
 

1. 市場を知るための3つの軸:TAD

 
 TADは前回も述べましたが、時間軸(Time)、分野軸(Area)、深度軸(Depth)の頭文字をとったものです。実はこの軸は、市場を理解する視点や活動を示すモデルとして作ったものですが、これが「経験」にも利用することができます。
 
 まず時間軸ですが、現在ではなく未来を五感を持って経験・体験できるような活動を行う軸です。しかし未来は目の前にはないわけで、そこに工夫が必要になります。この工夫については、後程、解説をしたいと思います。
 
 次の分野軸ですが、現状知っている領域を超えて広く経験・体験をする軸です。最後の深度軸は、現在対象としている顧客やその集合体として定義できる市場を、より深く五感を持って経験・体験する軸です。
 

2. 未来を経験・体験するための時間軸(Time)

 
 今、目の前には存在しない未来は、どう経験できるのでしょうか?
 
 残念ながら、タイムマシンでも使わない限り、未来そのものを直接体験・経験することは物理的に不可能です。しかしながら、未来を疑似体験したり、間接的に体験することは可能です。それは以下の3つの方向があると思います。
 
  • 未来を想定する場やものを作って未来を疑似体験する
  • 現状での最も未来に近い最先端を経験する
  • 「現状」を徹底的に知り、そこから間接的に「現状では『ない』もの」、すなわち「未来」を経験する
 

3. 未来を想定する場やものを作って未来を疑似体験する

 
 現状から将来を見て、未来を想定するということはできます。もちろんそのような未来が本当に現実になるとは限りませんが、少なくとも現状から未来の一部を想定することはできるはずです。また体験した一部に基づき、未来像を修正し、それを継続的に行うことで、より確かな未来を想定することもできます。この部分については、「隣接可能性」という概念があります。
 
 「隣接可能性」は米国の生物学・複雑系の学者であるスチュアート・カウフマンが唱えているものです。これは「何かを知れば、そこからの更なる発展で新しいことを想定することができる」というものです。この「何かを知れば」の部分を、未来を想定して体験しようということです。
 
 この例として、自動車市場を重要な市場とする素材メーカーの例があります。この会社は、自社で未来の...
 
  技術マネジメント
 
 前回からイノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。今回は効果的な「経験」をするための3つの軸TADを、説明します。
 

1. 市場を知るための3つの軸:TAD

 
 TADは前回も述べましたが、時間軸(Time)、分野軸(Area)、深度軸(Depth)の頭文字をとったものです。実はこの軸は、市場を理解する視点や活動を示すモデルとして作ったものですが、これが「経験」にも利用することができます。
 
 まず時間軸ですが、現在ではなく未来を五感を持って経験・体験できるような活動を行う軸です。しかし未来は目の前にはないわけで、そこに工夫が必要になります。この工夫については、後程、解説をしたいと思います。
 
 次の分野軸ですが、現状知っている領域を超えて広く経験・体験をする軸です。最後の深度軸は、現在対象としている顧客やその集合体として定義できる市場を、より深く五感を持って経験・体験する軸です。
 

2. 未来を経験・体験するための時間軸(Time)

 
 今、目の前には存在しない未来は、どう経験できるのでしょうか?
 
 残念ながら、タイムマシンでも使わない限り、未来そのものを直接体験・経験することは物理的に不可能です。しかしながら、未来を疑似体験したり、間接的に体験することは可能です。それは以下の3つの方向があると思います。
 
  • 未来を想定する場やものを作って未来を疑似体験する
  • 現状での最も未来に近い最先端を経験する
  • 「現状」を徹底的に知り、そこから間接的に「現状では『ない』もの」、すなわち「未来」を経験する
 

3. 未来を想定する場やものを作って未来を疑似体験する

 
 現状から将来を見て、未来を想定するということはできます。もちろんそのような未来が本当に現実になるとは限りませんが、少なくとも現状から未来の一部を想定することはできるはずです。また体験した一部に基づき、未来像を修正し、それを継続的に行うことで、より確かな未来を想定することもできます。この部分については、「隣接可能性」という概念があります。
 
 「隣接可能性」は米国の生物学・複雑系の学者であるスチュアート・カウフマンが唱えているものです。これは「何かを知れば、そこからの更なる発展で新しいことを想定することができる」というものです。この「何かを知れば」の部分を、未来を想定して体験しようということです。
 
 この例として、自動車市場を重要な市場とする素材メーカーの例があります。この会社は、自社で未来の自動車を想定し、また更に実際にそのような自動車を製作するということをしています。それにより、実際にどのような素材が将来求められるかを疑似体験することができます。実際このようなことは、研究開発の場では技術を対象として「実験」という名の下で、皆さんが日々行っていることです。
 
 そのような活動を、顧客や市場を対象に広げ、ビジネス全体での経験を得ることを目的に行うものと考えることができます。
 

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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