普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その8)

更新日

投稿日

 

市場

 
 今回は、既知の市場ニーズと未知の技術的解決策について掘り下げてみたいと思います。
 

1. 既知の市場ニーズと未知の技術的解決策;厳しく辛い道

 
 既知の市場ニーズに対する未知の技術的解決策は、既に充足すべき市場のニーズが見えているが、そのニーズを充足する技術的な解決策がないという状況です。これは最も一般的な研究開発テーマのパターンではないかと思います。しかし、このパターンは、厳しく辛い道です。なぜなら、充足すべき市場ニーズが見えているのは、自社だけではなく(ここでは「既知」は世の中全体に「既知」と定義している)、競合他社にも見えているからです。したがって、充足すべき市場ニーズが大きければ大きい程、それを充足するための技術的解決策を目指して、多くの企業が研究開発競争をするからです。
 
 例えば、電気自動車用の電池の研究開発競争を例にとります。電気自動車は今後世界の大きな潮流になることが見えています。そのため、新規参入企業を含めて、その競争は数多くの世界中の名だたる企業が、競争を展開し、その上、成功した場合の大きな果実を期待して、各社多くの経営資源をそこに投入しています。したがって、研究開発における競争は熾烈を極めます。
 

2. その昔の米国における自動車開発競争からのアナロジー

 
 米国における自動車産業の勃興期、1910年には、なんと米国だけで200社の自動車メーカーがありました。しかし、1930年代には、それが20社になり、1960年代には4社になってしまいました。この自動車における競争においては、業界で一位になれる確率は、0.5%しかないことになります。研究開発テーマにおいても同じ市場ニーズを対象としていては、例えば、5社がしのぎを削っているとすると、一位になれる確率は、20%にすぎません。
 

3. 多くの企業の研究開発の問題点

 
 もちろん、研究開発はポートフォリオで考えるべきで、既知の市場ニーズに未知の技術的解決策という分野に経営資源を投入するという活動があっても構いません。現実に既に事業を展開している訳で、そのような文脈の中では、厳しい技術開発競争を敢えて甘受して、その開発を進めなければならないという状況は、当然起こります。しかしこのような活動に経営資源の大半を投入するということであれば、問題です。冷静に考えれば、事業での成功の確率が極めて低いテーマばかりをやることになるのです。
 

4....

 

市場

 
 今回は、既知の市場ニーズと未知の技術的解決策について掘り下げてみたいと思います。
 

1. 既知の市場ニーズと未知の技術的解決策;厳しく辛い道

 
 既知の市場ニーズに対する未知の技術的解決策は、既に充足すべき市場のニーズが見えているが、そのニーズを充足する技術的な解決策がないという状況です。これは最も一般的な研究開発テーマのパターンではないかと思います。しかし、このパターンは、厳しく辛い道です。なぜなら、充足すべき市場ニーズが見えているのは、自社だけではなく(ここでは「既知」は世の中全体に「既知」と定義している)、競合他社にも見えているからです。したがって、充足すべき市場ニーズが大きければ大きい程、それを充足するための技術的解決策を目指して、多くの企業が研究開発競争をするからです。
 
 例えば、電気自動車用の電池の研究開発競争を例にとります。電気自動車は今後世界の大きな潮流になることが見えています。そのため、新規参入企業を含めて、その競争は数多くの世界中の名だたる企業が、競争を展開し、その上、成功した場合の大きな果実を期待して、各社多くの経営資源をそこに投入しています。したがって、研究開発における競争は熾烈を極めます。
 

2. その昔の米国における自動車開発競争からのアナロジー

 
 米国における自動車産業の勃興期、1910年には、なんと米国だけで200社の自動車メーカーがありました。しかし、1930年代には、それが20社になり、1960年代には4社になってしまいました。この自動車における競争においては、業界で一位になれる確率は、0.5%しかないことになります。研究開発テーマにおいても同じ市場ニーズを対象としていては、例えば、5社がしのぎを削っているとすると、一位になれる確率は、20%にすぎません。
 

3. 多くの企業の研究開発の問題点

 
 もちろん、研究開発はポートフォリオで考えるべきで、既知の市場ニーズに未知の技術的解決策という分野に経営資源を投入するという活動があっても構いません。現実に既に事業を展開している訳で、そのような文脈の中では、厳しい技術開発競争を敢えて甘受して、その開発を進めなければならないという状況は、当然起こります。しかしこのような活動に経営資源の大半を投入するということであれば、問題です。冷静に考えれば、事業での成功の確率が極めて低いテーマばかりをやることになるのです。
 

4. 遥かに楽な道:未知の市場ニーズと既知の技術的解決策

 
 一方で、未知の市場ニーズと既知の技術的解決策は、はるかに楽な道です。なぜなら未知の市場ニーズは競合企業には知られておらず、その市場ニーズをいち早く見つけさえすれば、既に技術的解決策は世の中にはあるのですから、さほど大きな苦労なしにその市場ニーズを充足することができます。
 
 次回もこの議論を続けていきたいと思います。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
新規事業を立ち上げても無難な戦略しか出てこない理由~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その22)

【目次】 今日のテーマは新規事業の評価について書きます。新規事業がうまく行かないな、とお感じの方にはお役に立つ内容だと思います。どこ...

【目次】 今日のテーマは新規事業の評価について書きます。新規事業がうまく行かないな、とお感じの方にはお役に立つ内容だと思います。どこ...


経営方針と市場開拓 中小メーカ向け経営改革の考察(その19)

1.量産と少量・単品生産の差異による発想の切り替え  前回のその18に続いて解説します。量産性の製品は軌道に乗り出すとアジア諸国の低コストで生産でき...

1.量産と少量・単品生産の差異による発想の切り替え  前回のその18に続いて解説します。量産性の製品は軌道に乗り出すとアジア諸国の低コストで生産でき...


製造業を取り巻く環境変化と戦略 中小製造業の課題と解決への道筋(その6)

  【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】 1. 世界一の品質はなぜ生まれたか 2. 相次ぐ品質問題 3. モグラ叩きの品...

  【中小製造業の課題と解決への道筋 連載目次】 1. 世界一の品質はなぜ生まれたか 2. 相次ぐ品質問題 3. モグラ叩きの品...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
経営と現場をつなぐ実践的手法とは

1.管理を目的とした手法の弊害    私は、各種のものづくり手法に対するこだわりは、『実践的』であることです。言うまでもなく、価値を生み出す...

1.管理を目的とした手法の弊害    私は、各種のものづくり手法に対するこだわりは、『実践的』であることです。言うまでもなく、価値を生み出す...


『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵 【連載記事紹介】

  『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、連載の全てが無料でお読みいただけます!   ◆こんな方におすすめ!=企業活動をつねに正...

  『坂の上の雲』に学ぶマネジメント、連載の全てが無料でお読みいただけます!   ◆こんな方におすすめ!=企業活動をつねに正...


『坂の上の雲』に学ぶ全体観(その6)

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネス...

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネス...