位置関係-5 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その108)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。前回まで4度にわたり、KETICモデルの思考の中の「位置(関係)で整理する」を解説しました。今回はこれまでの解説を踏まえ、このような思考でどうイノベーションを実現するかを考えたいと思います。

 アナロジー的な発想を含めて、空間的位置関係からイノベーティブな発想をする方法として、以下があると思います。事例を含めて解説をしていきます。

 

1. 空間的位置関係(アナロジー含む)のもう一方の特徴を活用する

 空間的位置関係(アナロジー含む)において対局に位置する同士は、対立もしくはもう一方を忌避する傾向が強くあるように思えます。このような従来から存在する対立・忌避の意識を払拭して、逆に対局に位置する部分の特徴を活用することによって、イノベーションを実現することができると思います。

 いくつかの例を以下にあげます。

(1)内外の例

 日本語には外人という言葉があり、日本に来る外国人はこの外人という言葉から疎外感を感じるらしいです。一般的にも内に位置する人たちにとって、外は強烈にネガティブなものと捉えられがちで、江戸時代の鎖国などはまさに日本人のそのようなネガティブな特徴が背景にあると思います。

 一方で、まさに明治になり一転して欧米という「外」から積極的に学ぶことで、既に「内」にあった勤勉性や細部へのこだわりなどと欧米の先進技術や制度の新結合で、日本では弱小国の日本が日露戦争で巨大な軍事国家のロシアに勝ったり、産業や軍事面での強化により国力がおおいに高まったこと、また限られた分野ではありますが医学などの分野での国際的な研究がなされたなども含め、大小様々なイノベーションが起こりました。

(2)南北の例

 南北というと、単に空間的位置関係だけではなく、「南北」問題などの言葉にあるように、先進国と途上国を意味することとしても使われます。

 上の内外の例では、進んだ先進国から遅れた日本が学びイノベーションを起こした例ですが、逆のケースもイノベーションにつながることがあります。リバースイノベーションという言葉があります。この言葉は、途上国と認識されている国から先進国が学び、そこからイノベーションを起こすことを言います。

 例えば、インドは人口当たりの医者の数が少ないために、特に地方などでは医者に掛かりたい患者は簡単に医者には見てもらえません。そこで発達したのが、スマホなどを使っての遠隔医療です。このような途上国の活動から得られた経験、知見、仕組み、技術は先進国でも同様に価値があることも少なからず存在します。

(3)遠近の例

 イノベーションの研究で、近傍ではイノベーションは起こりにくいと言われています。なぜなら、有名なイノベーションの研究者であるシュンペーターの言う「新結合」は、近傍では「新結合」の原料となる知識や経験が限...

技術マネジメント

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。前回まで4度にわたり、KETICモデルの思考の中の「位置(関係)で整理する」を解説しました。今回はこれまでの解説を踏まえ、このような思考でどうイノベーションを実現するかを考えたいと思います。

 アナロジー的な発想を含めて、空間的位置関係からイノベーティブな発想をする方法として、以下があると思います。事例を含めて解説をしていきます。

 

1. 空間的位置関係(アナロジー含む)のもう一方の特徴を活用する

 空間的位置関係(アナロジー含む)において対局に位置する同士は、対立もしくはもう一方を忌避する傾向が強くあるように思えます。このような従来から存在する対立・忌避の意識を払拭して、逆に対局に位置する部分の特徴を活用することによって、イノベーションを実現することができると思います。

 いくつかの例を以下にあげます。

(1)内外の例

 日本語には外人という言葉があり、日本に来る外国人はこの外人という言葉から疎外感を感じるらしいです。一般的にも内に位置する人たちにとって、外は強烈にネガティブなものと捉えられがちで、江戸時代の鎖国などはまさに日本人のそのようなネガティブな特徴が背景にあると思います。

 一方で、まさに明治になり一転して欧米という「外」から積極的に学ぶことで、既に「内」にあった勤勉性や細部へのこだわりなどと欧米の先進技術や制度の新結合で、日本では弱小国の日本が日露戦争で巨大な軍事国家のロシアに勝ったり、産業や軍事面での強化により国力がおおいに高まったこと、また限られた分野ではありますが医学などの分野での国際的な研究がなされたなども含め、大小様々なイノベーションが起こりました。

(2)南北の例

 南北というと、単に空間的位置関係だけではなく、「南北」問題などの言葉にあるように、先進国と途上国を意味することとしても使われます。

 上の内外の例では、進んだ先進国から遅れた日本が学びイノベーションを起こした例ですが、逆のケースもイノベーションにつながることがあります。リバースイノベーションという言葉があります。この言葉は、途上国と認識されている国から先進国が学び、そこからイノベーションを起こすことを言います。

 例えば、インドは人口当たりの医者の数が少ないために、特に地方などでは医者に掛かりたい患者は簡単に医者には見てもらえません。そこで発達したのが、スマホなどを使っての遠隔医療です。このような途上国の活動から得られた経験、知見、仕組み、技術は先進国でも同様に価値があることも少なからず存在します。

(3)遠近の例

 イノベーションの研究で、近傍ではイノベーションは起こりにくいと言われています。なぜなら、有名なイノベーションの研究者であるシュンペーターの言う「新結合」は、近傍では「新結合」の原料となる知識や経験が限定されていて、既に長い歴史の中ですでに起こるべき新結合は発生済の可能性が大きいからです。

 一方で、遠くに行けば行くほど、未知の原料を含めて、その原料は加速度的に増え、それゆえ「新結合」はいまだ起こっていない可能性がおおいに高まるからです。

 しかし、遠くにあるものは、未知ゆえ、また既知であっても関心の対象外であったため、自分の適切な反応の準備ができておらず、大小様々な損害をきたす可能性もあるので、人間は基本的に忌避したり敵対したりするものです。

 「遠」にあるものと「近」にあるものを積極的に組み合わせることで、イノベーションの可能性が高まります。

 

 次回に続きます。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
技術戦略  研究テーマの多様な情報源(その35)

    前回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説しました。今回は、革新的テーマ創出・実現のため...

    前回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説しました。今回は、革新的テーマ創出・実現のため...


開発効率向上の重要性 開発効率を上げるには(その2)

【開発効率向上の重要性 連載目次】 製造業の生産性 開発効率向上の重要性 開発効率向上活動の考え方 開発効率向上、活動計画 1  ...

【開発効率向上の重要性 連載目次】 製造業の生産性 開発効率向上の重要性 開発効率向上活動の考え方 開発効率向上、活動計画 1  ...


『価値づくり』の研究開発マネジメント (その19)

      研究開発担当者のオープンイノベーションへの抵抗の要因として、前回のその18で解説した「組織のホメオスタシス」の他に...

      研究開発担当者のオープンイノベーションへの抵抗の要因として、前回のその18で解説した「組織のホメオスタシス」の他に...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
戦略的RPA導入のための業務分析手法

1. RPA~パソコン作業を自動化  RPA(Robotic Process Automation)とは、様々なデータソースを参照しながら行う定型的...

1. RPA~パソコン作業を自動化  RPA(Robotic Process Automation)とは、様々なデータソースを参照しながら行う定型的...


基本の仕組みを進化・深化させるとは プロジェクト管理の仕組み (その1)

 前回は、リスク管理が重要であることと、その反面、リスク管理の仕組みを運用しているところでもリスク管理シートを書いているだけという、表面的な仕組みになって...

 前回は、リスク管理が重要であることと、その反面、リスク管理の仕組みを運用しているところでもリスク管理シートを書いているだけという、表面的な仕組みになって...


生産性向上の鍵、イノベーションへの挑戦

 今回は、マクロ的な視点でみたイノベーションの意味について、解説します。2016年は、グローバリゼーションに対する変化が顕在化した年でした。イギリスのEU...

 今回は、マクロ的な視点でみたイノベーションの意味について、解説します。2016年は、グローバリゼーションに対する変化が顕在化した年でした。イギリスのEU...