品質の仕組みとは1 プロジェクト管理の仕組み (その27)

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 製品開発を行っている組織において、設計・製造の仕組みを構築したり見直したりするというとき、品質向上に貢献することが何らかの形でゴールのひとつとなっていることは多いと思います。もちろん、品質向上そのものがゴールとなっている仕組み構築プロジェクトもあるでしょう。また、品質という言葉を聞かない日はないくらい、品質重視は当たり前のことになっていることでしょう。グローバル化によってビジネスを成功に導くための要因は複雑化しているものの、依然として、品質が日本製造業の競争優位性を約束してくれる重要な要素であることは間違いないと思います。
 
 実際、製造部門の QC からはじまった品質管理の仕組みは、TQC (Total Quality Control) という開発に関係しているすべての組織での品質管理になり、さらには、TQM (Total Quality Management) という経営戦略として品質を維持、あるいは、向上するためのシステムに発展し、仕組みとして完成されたものになっています。
 
 反面、品質があまりにも当たり前のことになってしまっているため、深く考えることが少なくなっている部分もあります。組織方針が「品質第一」となっているにもかかわらず納期最優先の開発を行っていたり、その組織方針も相も変わらず毎年品質第一で、何も工夫も活動もやっていなかったり、ISO9001などの仕組みが形だけになっていたりと、できていないことを上げるときりがありません。
 
 設計・製造の仕組み構築を行う際も、単に発生した市場不具合を解決することを目指していたり、納期や効率を目標にすることも多く、品質を仕組みとしてとらえることは少ないように感じます。仕組みを見直した結果を規程や規約などの ISO文書にすれば品質については十分というようなレベルの組織も少なくありません。きちんとできている組織はもちろんありますが、今回は改めて品質について解説します。
 
 品質とは ISOでは「明示または暗黙のニーズを満たす能力に関する、ある “もの” の特性の全体」と定義されています。製品(ここではサービスも含めて製品とします)の場合は、顧客が明示的、暗黙的に求める特性と製品が一致している度合いと言って良いかと思います。そして、このような品質を実現するためにマネジメントの仕組みが必要になります。それを「品質マネジメント」といいます。組織は品質マネジメントの仕組みを構築し、運用することが要求されます。図62 は、製品品質をマネジメント対象としてより具体的に把握できるようにブレークダウンしたものです。
 
R&D
図62. 製品品質の構成要素
 
 通常よりも多くの要素にブレークダウンしていますが、それぞれ次のように考えてください。
 
【企画品質】
 市場・顧客の顕在的、潜在的要求を定義し、製品コンセプトや製品仕様に盛り込む品質
 
【開発(設計)品質】
 企画にもとづいて、技術面、原価面、製造面、販売面などの条件を考慮して規定された設計の品質
 
【製造品質】
 設計にもとづいて、部材、工程、設備を運用して製造されたものの品質
 
【使用品質】
 顧客に製品が渡って、実際に顧客がその製品を使用したときの品質
 
【セールス品質】
 商品企画にもとづいて、市場・顧客に対して製品のメッセージを適切に発信している品質
 
【サービス品質 】
 商品企画にもとづいて適切な顧客との関係を構築・維持している品質
 
 これを見ると、製品品質は広範囲な企業活動における体系的な仕組みから成り立つことがわかりますし、品質といっても多くの要素から成り立っており、どの品質のことを話題にしているのかを明確にしないと混乱するでしょう。
 
 また、それぞれの品質はそれぞれの段階で作り込むことには違いありませんが、どの要素に...
 製品開発を行っている組織において、設計・製造の仕組みを構築したり見直したりするというとき、品質向上に貢献することが何らかの形でゴールのひとつとなっていることは多いと思います。もちろん、品質向上そのものがゴールとなっている仕組み構築プロジェクトもあるでしょう。また、品質という言葉を聞かない日はないくらい、品質重視は当たり前のことになっていることでしょう。グローバル化によってビジネスを成功に導くための要因は複雑化しているものの、依然として、品質が日本製造業の競争優位性を約束してくれる重要な要素であることは間違いないと思います。
 
 実際、製造部門の QC からはじまった品質管理の仕組みは、TQC (Total Quality Control) という開発に関係しているすべての組織での品質管理になり、さらには、TQM (Total Quality Management) という経営戦略として品質を維持、あるいは、向上するためのシステムに発展し、仕組みとして完成されたものになっています。
 
 反面、品質があまりにも当たり前のことになってしまっているため、深く考えることが少なくなっている部分もあります。組織方針が「品質第一」となっているにもかかわらず納期最優先の開発を行っていたり、その組織方針も相も変わらず毎年品質第一で、何も工夫も活動もやっていなかったり、ISO9001などの仕組みが形だけになっていたりと、できていないことを上げるときりがありません。
 
 設計・製造の仕組み構築を行う際も、単に発生した市場不具合を解決することを目指していたり、納期や効率を目標にすることも多く、品質を仕組みとしてとらえることは少ないように感じます。仕組みを見直した結果を規程や規約などの ISO文書にすれば品質については十分というようなレベルの組織も少なくありません。きちんとできている組織はもちろんありますが、今回は改めて品質について解説します。
 
 品質とは ISOでは「明示または暗黙のニーズを満たす能力に関する、ある “もの” の特性の全体」と定義されています。製品(ここではサービスも含めて製品とします)の場合は、顧客が明示的、暗黙的に求める特性と製品が一致している度合いと言って良いかと思います。そして、このような品質を実現するためにマネジメントの仕組みが必要になります。それを「品質マネジメント」といいます。組織は品質マネジメントの仕組みを構築し、運用することが要求されます。図62 は、製品品質をマネジメント対象としてより具体的に把握できるようにブレークダウンしたものです。
 
R&D
図62. 製品品質の構成要素
 
 通常よりも多くの要素にブレークダウンしていますが、それぞれ次のように考えてください。
 
【企画品質】
 市場・顧客の顕在的、潜在的要求を定義し、製品コンセプトや製品仕様に盛り込む品質
 
【開発(設計)品質】
 企画にもとづいて、技術面、原価面、製造面、販売面などの条件を考慮して規定された設計の品質
 
【製造品質】
 設計にもとづいて、部材、工程、設備を運用して製造されたものの品質
 
【使用品質】
 顧客に製品が渡って、実際に顧客がその製品を使用したときの品質
 
【セールス品質】
 商品企画にもとづいて、市場・顧客に対して製品のメッセージを適切に発信している品質
 
【サービス品質 】
 商品企画にもとづいて適切な顧客との関係を構築・維持している品質
 
 これを見ると、製品品質は広範囲な企業活動における体系的な仕組みから成り立つことがわかりますし、品質といっても多くの要素から成り立っており、どの品質のことを話題にしているのかを明確にしないと混乱するでしょう。
 
 また、それぞれの品質はそれぞれの段階で作り込むことには違いありませんが、どの要素についても、企画やシステム設計などの最初の段階で正しく作り込んでおかないと、それぞれの段階でできることには限界があることもわかると思います。たとえば、サービス品質はサービス部門が顧客からの問い合わせ対応や不良品交換などを考えるだけでなく、どのような故障が想定され、部品の交換なのかボードの交換なのかや、次期製品のリリースと合わせてどのようなサービス体制を整備するのかといった、製品企画やシステム設計の段階でサービス品質について織り込んでおくことが、サービス品質に大きく影響することになります。つまり、製品開発の最初の段階で品質について総合的に計画することが重要であることがわかります。
 
 

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この記事の著者

石橋 良造

組織のしくみと個人の意識を同時に改革・改善することで、パフォーマンス・エクセレンスを追求し、実現する開発組織に変えます!

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