本質とは何か 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その109)

更新日

投稿日

本質とは

 

 これまで、KETICモデルの思考の中の知識や経験を「整理するフレームワーク」として解説してきました。そろそろ「整理するフレームワーク」を終わりにしたいと思いますが、最後に、これまでの解説で欠けていた部分として「本質とは何か」についてです。

1.本質とそれ以外の区分け

 「整理するフレームワーク」の中で、欠けていてかつ重要なものが、本質とそれ以外の区分けがあります。ギリシャの哲学者のプラトンはイデアという言葉で、人間の目に見えているものは、イデアという物事の本質の投影にすぎず、物事の本質を捉えようとすることの重要性を訴えています。

 プラトンのイデアという言葉を出すまでもなく、物事の本質を捉えることの重要性に異を唱える人はいないでしょう。

(1)「本質」の辞書的な意味

 日常の会話の中でも、ちょっと理屈っぽい短気な上司などから、くどくどと説明をしていると「本質を言え」などと、言われてしまうことがあります。しかし「本質を言え」と言われても、そもそも本質の意味が実は明確ではないゆえ、言われた方は当惑してしまうことは多いのではないでしょうか。

 それでは本質とは何でしょうか。

 インターネットで本質を調べると、「その物のもっている本来の、独自の性質。本性。」(精選版日本国語大辞典)などとあります。この説明から本質とは「枝葉末節のことではない」ぐらいのことはわかるのですが、それ以上の意味は、この説明では「本質の」を「本来の」に置き換えただけで、よくわかりません。しかし、本当に本質を理解するには、本質では「ないもの」が理解できるだけでなく、もっと直接的、すなわち本質的定義が必要です。

 

2.なぜ「本質」の定義は難しいか?:「本質」は当事者の課題意識によりいかようにも変わるもの

 インターネット上で「本質」について調べてみましたが、腹に落ちる説明を見つけることができませんでした。本質の定義は簡単ではないようです。

 なぜ本質の定義が難しいかをよくよく考えてみると、本質とは当事者の課題意識により、いかようにも変わるものであるからではないかということに思い至りました。

 たとえば「人間の本質は何か?」を考えた場合、人類の進化を研究している人にとっては「手足と胴体、頭部をもち直立歩行をする高い知能を持った動物である」や詐欺師に騙されたひどい経験をしている人にとっては「人間とは欲の塊である」や哲学者にとっては「考える葦である」など、いろいろなものが考えられるのではないかと思います。

 つまり本質と言うと唯一無二のものであると考えがちですが、実際はそうではなく、ものごとの本質とはそもそも、当事者の課題意識により...

本質とは

 

 これまで、KETICモデルの思考の中の知識や経験を「整理するフレームワーク」として解説してきました。そろそろ「整理するフレームワーク」を終わりにしたいと思いますが、最後に、これまでの解説で欠けていた部分として「本質とは何か」についてです。

1.本質とそれ以外の区分け

 「整理するフレームワーク」の中で、欠けていてかつ重要なものが、本質とそれ以外の区分けがあります。ギリシャの哲学者のプラトンはイデアという言葉で、人間の目に見えているものは、イデアという物事の本質の投影にすぎず、物事の本質を捉えようとすることの重要性を訴えています。

 プラトンのイデアという言葉を出すまでもなく、物事の本質を捉えることの重要性に異を唱える人はいないでしょう。

(1)「本質」の辞書的な意味

 日常の会話の中でも、ちょっと理屈っぽい短気な上司などから、くどくどと説明をしていると「本質を言え」などと、言われてしまうことがあります。しかし「本質を言え」と言われても、そもそも本質の意味が実は明確ではないゆえ、言われた方は当惑してしまうことは多いのではないでしょうか。

 それでは本質とは何でしょうか。

 インターネットで本質を調べると、「その物のもっている本来の、独自の性質。本性。」(精選版日本国語大辞典)などとあります。この説明から本質とは「枝葉末節のことではない」ぐらいのことはわかるのですが、それ以上の意味は、この説明では「本質の」を「本来の」に置き換えただけで、よくわかりません。しかし、本当に本質を理解するには、本質では「ないもの」が理解できるだけでなく、もっと直接的、すなわち本質的定義が必要です。

 

2.なぜ「本質」の定義は難しいか?:「本質」は当事者の課題意識によりいかようにも変わるもの

 インターネット上で「本質」について調べてみましたが、腹に落ちる説明を見つけることができませんでした。本質の定義は簡単ではないようです。

 なぜ本質の定義が難しいかをよくよく考えてみると、本質とは当事者の課題意識により、いかようにも変わるものであるからではないかということに思い至りました。

 たとえば「人間の本質は何か?」を考えた場合、人類の進化を研究している人にとっては「手足と胴体、頭部をもち直立歩行をする高い知能を持った動物である」や詐欺師に騙されたひどい経験をしている人にとっては「人間とは欲の塊である」や哲学者にとっては「考える葦である」など、いろいろなものが考えられるのではないかと思います。

 つまり本質と言うと唯一無二のものであると考えがちですが、実際はそうではなく、ものごとの本質とはそもそも、当事者の課題意識によりいかようにも変わるものと、考えることができます。

 したがって、上のちょっと理屈っぽい短気な上司の「本質を言え」に対する説明は、その上司の課題意識に基づいた説明でなければならないということです。

 そもそも上の例で言うと「人間」という「単語」は様々なものを意味するものですし、またそもそもそこに存在する「物体」としての人間も様々な要素を持ち合わせているもので、更にその「解釈」も人間総体で捉えることから、分子レベルで捉えることまで、その視点は連続的でありえますので、ほぼ無限にあると言っても過言でありません。

 

 次回に続きます。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
新規事業ができない理由?それはエラい人にある?~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その31)

  【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マネジメント」に関するセミナーはこちら! 「テーマ創出が出来た後はどのような見通...

  【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マネジメント」に関するセミナーはこちら! 「テーマ創出が出来た後はどのような見通...


普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その184) 妄想とイノベーション創出

  ・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マネジメント」に関するセミナーはこちら!...

  ・見出しの番号は、前回からの連番です。 【目次】 ▼さらに深く学ぶなら!「技術マネジメント」に関するセミナーはこちら!...


技術開発者の離職理由から考える本質的な解決策、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その100)

【この連載の前回、潜在ニーズをとらえる仮説検証の3ステップ、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その99)へのリンク】 【目次】 ...

【この連載の前回、潜在ニーズをとらえる仮説検証の3ステップ、新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その99)へのリンク】 【目次】 ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
顧客価値の理解を深めるには

 私は、日ごろ、ものづくり企業のR&D現場をフィールドとしたコンサルティングに取り組んでいます。その中で、価値、とりわけ顧客価値は、R&D...

 私は、日ごろ、ものづくり企業のR&D現場をフィールドとしたコンサルティングに取り組んでいます。その中で、価値、とりわけ顧客価値は、R&D...


レアメタルから考える、工業製品の過剰なモデルチェンジ

   金属材料、とくにレアメタルは、鋼材への添加や、半導体やデバイスへの利用など、産業上不可欠な材料となっています。     枯渇のリスクは聞かれな...

   金属材料、とくにレアメタルは、鋼材への添加や、半導体やデバイスへの利用など、産業上不可欠な材料となっています。     枯渇のリスクは聞かれな...


設計部門の仕組み構築(その1)

【設計部門の仕組み構築 連載目次】 1. 設計部門の仕組み構築 2. 設計部門の仕組み構築(解決すべき根本原因) 3. 設計部門の仕組み構築(具...

【設計部門の仕組み構築 連載目次】 1. 設計部門の仕組み構築 2. 設計部門の仕組み構築(解決すべき根本原因) 3. 設計部門の仕組み構築(具...