「技術マネジメント」とは、キーワードから、わかりやすく解説

 

1. 技術マネジメントとは

技術マネジメントは多くの項目を含みますので、ここでは個別項目(知的財産・経済性工学・ベンチマーキング・ステージゲート法・PLM)に含まれない内容を扱います。 開発しただけでは売り上げ、利益を生み出さず、社会にも役立っていません。そのあと市場が要求し、受け入れられる製品にすることの方が困難であり、死の谷が待ち受けています。

2. 技術マネジメント、未活用の自社の重要資産

多くの企業が、既存の市場は早晩行き詰る、新事業を生み出さなければならない、と考えています。しかし、自社の知見や経験が及ばない市場への展開は、結果的に厳しい競合にさらされるというパターンになります。 

既に自社が対象としている「市場」については、その「市場」の知見は、これまでの企業活動の中から経験を積み上げて獲得してきたもので、自社の強みや仕組みが、過去の経緯や歴史的な偶然などで規定されるものです。すなわち、全ての企業にとって、自社の知見や経験は自社特有の経路によって獲得された自社独自のもので、競合他社とは異なります。これが、他社に対する差別化能力となる重要な自社の資産です。

3. 技術マネジメント、何を自社独自の強みとすべきかを未来志向で考え設定する

新しい自社の強みを創出するためには、自社がその能力において「強くない時期」から、何を強くすべきかを考えていかなければなりません。もちろん偶然が新しい強みを身に着ける機会を提供してくれるということは現実にはあります。しかし、経営において偶然に期待するほど愚かなことはありません。それが起こらない可能性の方がはるかに大きいからです。従って、自らが主体的に自社独自の強みを未来志向で設定することが、技術マネジメントにおいて極めて重要です。

4. 技術マネジメントの具体的なステップと組織のあり方

技術マネジメントの未来志向での設定には、戦略的なフレームワークが必要です。単に「新しい技術を開発しよう」と号令をかけるだけでは、組織はどこに向かって進むべきかわからず、結果として投資が分散し、何も生み出せない状態に陥りがちです。重要なのは、まず自社の既存の強みや技術的資産を徹底的に棚卸しすることです。これにより、何が自社特有の「経路依存性」によって培われたものなのか、そしてそれが未来の競争優位性につながる可能性があるのかを客観的に評価できます。これは、地中に埋もれた鉱脈を探す作業に似ています。日々の業務に埋もれて見過ごされがちな技術やノウハウこそ、新たな事業の源泉となり得るのです。

次に、その潜在的な強みを活かせる市場や社会課題を特定します。これは、自社の技術と外部環境の接点を見つける作業です。例えば、特定の素材に関する深い知見があれば、それを医療分野や環境分野など、これまでの主戦場とは異なる分野に応用できないかを検討します。この際、未来の市場ニーズや社会トレンドを予測する洞察力が不可欠です。未来を正確に予測することは不可能ですが、いくつかのシナリオを描き、それぞれのシナリオにおいて自社の技術がどのような役割を果たせるかをシミュレーションすることで、リスクを管理しながら戦略を練ることができます。

これらの分析を経て、最終的に目指すべき未来の技術ポートフォリオを決定します。これは、単に研究開発のロードマップを描くことではありません。どの技術にどの程度の資源(ヒト、モノ、カネ)を投入し、どの技術を外部から導入するか、あるいはどの技術からは撤退するかといった、経営レベルの意思決定を含みます。技術開発は長期にわたるため、経営陣と現場の技術者が一体となってこのポートフォリオを共有し、継続的に見直していく体制が重要です。

さらに、技術マネジメントを成功させるためには、組織文化そのものの変革も欠かせません。新しい事業や技術の芽を育てるためには、失敗を恐れない風土が必要です。日本企業にありがちな「完璧主義」や「前例踏襲主義」は、新しい挑戦の大きな妨げとなります。むしろ、迅速な試行錯誤を促し、小さな失敗から学びを得ることを奨励する文化を醸成することが求められます。例えば、小規模なプロジェクトを数多く立ち上げ、成功の兆しが見えたものに集中的に資源を投下する「アジャイル型」の開発手法も有効です。

また、技術マネジメントは社内だけで完結するものではありません。オープンイノベーションの考え方を取り入れ、大学やスタートアップ企業、さらには異業種の企業との連携を積極的に推進することも重要です。自社にない技術や知見は、外部との協業を通じて補完することで、より迅速に新しい価値を創造することができます。これにより、自社の強みと外部の強みを組み合わせた、新たなシナジーを生み出すことが可能になります。

最後に、技術マネジメントの成果を評価する仕組みを構築することです。研究開発の成果は、短期的な売上や利益に直結しないことが多いため、従来の財務指標だけでは適切に評価できません。技術の進捗度合い、特許の質、新たな事業の創出可能性など、技術的価値を測る独自の指標を設けることが重要です。これにより、技術者が正当に評価され、モチベーションを維持しながら、長期的な視点で研究開発に取り組めるようになります。技術マネジメントは、単なる技術開発の管理ではなく、企業の持続的な成長を実現するための経営そのものなのです。

5. まとめ

企業は、その経営の本質において、より大きな顧客価値をより効率的に生み出すための、新たな強み・能力の開発を世界的規模で競争しているとも言えます。ここで重要なのが「新たな強み・能力」という点です。自社の強みのアナログ技術は、より大きな顧客価値を効率的に実現できるデジタル技術が出現すれば、とって代わられてしまいます。つまり、技術マネジメントに関しては、時の経過とともに、その顧客価値を生み出すのに、自社の独自の強みが最適な能力ではなくなってしまうこととの戦いです。 

 

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