普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その5)

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innovation
 前回の3Mのイノベーションの定義に引き続き、今回はドラッカーによるイノベーションの定義について解説します。
 

1. ドラッカーのイノベーションの定義

 
 ドラッカーがイノベーションについて著わした「イノベーションと企業家精神」という本があります。ドラッカーは、同書の中では不思議なことにイノベーションの本質的な意味については詳しくは議論はしていないのですが、イノベーションの定義を示唆する文章として、以下があります。
 
「イノベーションは富を創造する能力を資源に与える。」
「既存の資源から得られる富の創出能力を増大させるのも、すべてイノベーションである。」
   【注:ここでは資源とは製品を作るための原材料等を意味している】
 
 つまりドラッカーは、経営者(同書の中では企業家)にとって、イノベーションとはその目的において富を創出し、それ自体単体では無価値である資源を富に変える工夫がイノベーションであると定義しているわけです。したがって、何か新しい知識が生まれたからと言って、それがなんら富を創出しない場合は、それはイノベーションでもなんでもないということです。
 
 私は、この点を強く認識することが、イノベーティブな組織を造る上では、またその構築を考える出発点として極めて重要であると考えています。なぜここでこの点を強調するかと言うと、研究者の中には富の創出を求められると起こるイノベーションも起こらないと考える人が少なからずいるからです。社員の好むと好まざるとにかかわらず、企業は株主に対しその投資に対するリターンを生み出すことがその本質の存在意義ですので、イノベーションを追求する組織においては、富の創出の可能性のない活動をイノベーションと呼んではなりません。
 

2. 技術革新はイノベーションの一部に過ぎない

 
 ドラッカーは、イノベーションに関して、大事な点を強調しています。日本経済新聞を読むと、記事の中にイノベーションという言葉が使われる場合、必ず「技術革新」という注釈がつけられているのに気が付いた方もいると思います。これではイノベーションの定義においては大きな誤りである点については、以前の解説記事の中にも記述しました。ドラッカーは、「イノベーションのための7つの機会」を挙げています。それは、予期せぬことの生起、ギャップの存在、ニーズの存在、産業構造の変化、人口構造の変化、認識の変化、新しい知識の出現、の7つです。ここでは一つ一つは説明しませんが、技術に関係するのは、7つの内、最後の『新しい知識の出現』だけです。またそれも、最後に挙げられています。
 
 この「新しい知識の出現」に関しても、「イノベーションのもとになる知識は、技術的なものである必要はない」と記述しています。更に、技術に基づくイノベーションに関しても、技術だけでは事業の成功には不十分で、戦略とマネジメントが必要であることを強調しています。決して、ドラッカーはイノベーションにおける技術の必要性を軽視してい...
 
innovation
 前回の3Mのイノベーションの定義に引き続き、今回はドラッカーによるイノベーションの定義について解説します。
 

1. ドラッカーのイノベーションの定義

 
 ドラッカーがイノベーションについて著わした「イノベーションと企業家精神」という本があります。ドラッカーは、同書の中では不思議なことにイノベーションの本質的な意味については詳しくは議論はしていないのですが、イノベーションの定義を示唆する文章として、以下があります。
 
「イノベーションは富を創造する能力を資源に与える。」
「既存の資源から得られる富の創出能力を増大させるのも、すべてイノベーションである。」
   【注:ここでは資源とは製品を作るための原材料等を意味している】
 
 つまりドラッカーは、経営者(同書の中では企業家)にとって、イノベーションとはその目的において富を創出し、それ自体単体では無価値である資源を富に変える工夫がイノベーションであると定義しているわけです。したがって、何か新しい知識が生まれたからと言って、それがなんら富を創出しない場合は、それはイノベーションでもなんでもないということです。
 
 私は、この点を強く認識することが、イノベーティブな組織を造る上では、またその構築を考える出発点として極めて重要であると考えています。なぜここでこの点を強調するかと言うと、研究者の中には富の創出を求められると起こるイノベーションも起こらないと考える人が少なからずいるからです。社員の好むと好まざるとにかかわらず、企業は株主に対しその投資に対するリターンを生み出すことがその本質の存在意義ですので、イノベーションを追求する組織においては、富の創出の可能性のない活動をイノベーションと呼んではなりません。
 

2. 技術革新はイノベーションの一部に過ぎない

 
 ドラッカーは、イノベーションに関して、大事な点を強調しています。日本経済新聞を読むと、記事の中にイノベーションという言葉が使われる場合、必ず「技術革新」という注釈がつけられているのに気が付いた方もいると思います。これではイノベーションの定義においては大きな誤りである点については、以前の解説記事の中にも記述しました。ドラッカーは、「イノベーションのための7つの機会」を挙げています。それは、予期せぬことの生起、ギャップの存在、ニーズの存在、産業構造の変化、人口構造の変化、認識の変化、新しい知識の出現、の7つです。ここでは一つ一つは説明しませんが、技術に関係するのは、7つの内、最後の『新しい知識の出現』だけです。またそれも、最後に挙げられています。
 
 この「新しい知識の出現」に関しても、「イノベーションのもとになる知識は、技術的なものである必要はない」と記述しています。更に、技術に基づくイノベーションに関しても、技術だけでは事業の成功には不十分で、戦略とマネジメントが必要であることを強調しています。決して、ドラッカーはイノベーションにおける技術の必要性を軽視している訳ではありませんが、ドラッカーは、技術革新はイノベーションを生み出す一つの要素にすぎないという位置づけとしています。
 

3. 日本企業は技術以外のイノベーションに目を向けるべき

 
 前回の解説記事で取り上げた3Mのイノベーション、そして今回のドラッカーによるイノベーションの定義から得られる日本企業の示唆として、日本企業は日々の活動において、今以上に技術以外のイノベーションの機会に目を向けるべきという点があると思います。日本企業は、イノベーション実現において、大きな発想の転換が必要です。
 
 

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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