未来志向でコア技術を設定する 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その28)

更新日

投稿日

 そろそろ自社の技術ではなく、社外の技術の収集の議論に移りたいのですが、私のところで起こったある出来事で、『未来志向でコア技術を設定する』ことを強調しておきたいと強く感じましたので、今回も前回に引き続き、コア技術について解説します。
 

1. 過去に生きる日本企業

 
 先日ある企業の方が、社内でコア技術設定のプロジェクトを検討中で、話を聞きたいということで訪ねてこられました。そこで私は、前回、解説したように、コア技術は未来志向で設定することが前提であるという話をしたところ、自社の技術の棚卸、すなわち自社の強み技術から自社のコア技術を設定することを前提とすることを強く主張されていきました。
 
 もちろん自社の強みを活用するということは、重要なことではありますが「範囲の経済性」という概念から、それと同様に、いやむしろそれより重要なことが、未来に目を向け、そこから自社のコア技術を新たに設定することです。
 
 この会社の方と面会して強く感じたことは、「多くの日本企業はいまだ過去に生きている」ということです。
 

2. なぜコア技術設定において未来に目を向けなければならないか?

 
 そこには大変重要な次の2つの事実があります。
 

(1) 技術は成熟化し、早晩厳しい競争になる

 
 現実には、技術成熟度という概念があるように、全ての技術はいずれ陳腐化します。技術が陳腐化するとは、その技術がもはや競争に勝つ道具にはならなくなるということです。多くの企業に広く普及してしまうからです。
 
 日本企業の強かった技術が、今ではアジアの新興国のものになっているという事実に目を向けてください。
 

(2) 未来は新たな価値創出の機会で溢れている

 
 未来に目を向けると、新たな価値創出の機会が、泉から水が湧くごとくに生まれてくることに気が付きます。人間の欲望は止まるところを知りません。この人間の新たな欲望を充足するという活動や工夫が、文明を今あるものに発展させてきましたし、今後も人間が存続する以上同じことが続いていきます。
 
 過去にこだわると、これら重要な2つの事実に対処することができないのです。
 
 技術マネジメント
 

3. 企業はなぜ「過去に生きてしまう」のか?

 
 なぜ企業は過去に生きてしまうのでしょうか?それは、過去に起こったことは全て事実であり、過去は極めて明確だからです。一方で、未来は極めて不明確です。何一つそうなる確証はなく、大きな不確実性が存在します。
 
 そのような不確実なことに基づき、経営をするということは、経営者や社員にとって大変怖いことで、どうしても確実な過去に目を向けてしまうということがあるのです。
 

4. 未来を考えることに多くの時間とエネルギーを使う

 
  「未来洞察」などという言葉がありますが、未来を洞察する能力を持っているのは神様だけでしょう。しかし、洞察まではいかなくても、現時点でも未来を考えることで、かなりのことをある程度の確度で想定し、準備することができます。そのような想定を他社に先んじて行い、準備をした企業が今成長しています。
 
 今注目を浴びているようなGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などと言われる企業はそのような企業です。 もちろん未来のことを考えた企業が、全て成功する訳ではありません。しかし、確実に言えるのは、上で挙げた恐怖に抗して、未来を考えようとしなければ、絶対にGAFAと言われるような企業にはなれないことです。
 
 目先のテーマに忙しくて、そのような未来のことを考える時間はないと考える研究者の方は多いで...
 そろそろ自社の技術ではなく、社外の技術の収集の議論に移りたいのですが、私のところで起こったある出来事で、『未来志向でコア技術を設定する』ことを強調しておきたいと強く感じましたので、今回も前回に引き続き、コア技術について解説します。
 

1. 過去に生きる日本企業

 
 先日ある企業の方が、社内でコア技術設定のプロジェクトを検討中で、話を聞きたいということで訪ねてこられました。そこで私は、前回、解説したように、コア技術は未来志向で設定することが前提であるという話をしたところ、自社の技術の棚卸、すなわち自社の強み技術から自社のコア技術を設定することを前提とすることを強く主張されていきました。
 
 もちろん自社の強みを活用するということは、重要なことではありますが「範囲の経済性」という概念から、それと同様に、いやむしろそれより重要なことが、未来に目を向け、そこから自社のコア技術を新たに設定することです。
 
 この会社の方と面会して強く感じたことは、「多くの日本企業はいまだ過去に生きている」ということです。
 

2. なぜコア技術設定において未来に目を向けなければならないか?

 
 そこには大変重要な次の2つの事実があります。
 

(1) 技術は成熟化し、早晩厳しい競争になる

 
 現実には、技術成熟度という概念があるように、全ての技術はいずれ陳腐化します。技術が陳腐化するとは、その技術がもはや競争に勝つ道具にはならなくなるということです。多くの企業に広く普及してしまうからです。
 
 日本企業の強かった技術が、今ではアジアの新興国のものになっているという事実に目を向けてください。
 

(2) 未来は新たな価値創出の機会で溢れている

 
 未来に目を向けると、新たな価値創出の機会が、泉から水が湧くごとくに生まれてくることに気が付きます。人間の欲望は止まるところを知りません。この人間の新たな欲望を充足するという活動や工夫が、文明を今あるものに発展させてきましたし、今後も人間が存続する以上同じことが続いていきます。
 
 過去にこだわると、これら重要な2つの事実に対処することができないのです。
 
 技術マネジメント
 

3. 企業はなぜ「過去に生きてしまう」のか?

 
 なぜ企業は過去に生きてしまうのでしょうか?それは、過去に起こったことは全て事実であり、過去は極めて明確だからです。一方で、未来は極めて不明確です。何一つそうなる確証はなく、大きな不確実性が存在します。
 
 そのような不確実なことに基づき、経営をするということは、経営者や社員にとって大変怖いことで、どうしても確実な過去に目を向けてしまうということがあるのです。
 

4. 未来を考えることに多くの時間とエネルギーを使う

 
  「未来洞察」などという言葉がありますが、未来を洞察する能力を持っているのは神様だけでしょう。しかし、洞察まではいかなくても、現時点でも未来を考えることで、かなりのことをある程度の確度で想定し、準備することができます。そのような想定を他社に先んじて行い、準備をした企業が今成長しています。
 
 今注目を浴びているようなGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)などと言われる企業はそのような企業です。 もちろん未来のことを考えた企業が、全て成功する訳ではありません。しかし、確実に言えるのは、上で挙げた恐怖に抗して、未来を考えようとしなければ、絶対にGAFAと言われるような企業にはなれないことです。
 
 目先のテーマに忙しくて、そのような未来のことを考える時間はないと考える研究者の方は多いでしょう。しかし、ちょっと考えて見てください。そのテーマ自体が、そもそも優先的に取り組むべきテーマなのか?
 
 機会損失という概念を含め、その点の検討に十分な時間が掛けられているのかを考えることは、テーマ選択の大前提として極めて重要なのではないでしょうか?
 
 未来を考えることに、多くの時間とエネルギーを使いましょう。
 
 ここではKETICのK(Knowledge:知識)の議論をしているのに、T(Thinking:思考)の領域侵犯をしてしまいました。次回はK(知識)の議論を続けていきたいと思います。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
素材の市場開発とは

 素材の市場開発においては、既存の製品に市場喚起可能な商品価値を見出さなければなりません。その為に商品アイデアを考え出し、より価値ある商品に仕上げていくこ...

 素材の市場開発においては、既存の製品に市場喚起可能な商品価値を見出さなければなりません。その為に商品アイデアを考え出し、より価値ある商品に仕上げていくこ...


『価値づくり』の研究開発マネジメント (その2)

    前回は、「研究開発の生産性を上げるには、非生産的な活動を行う」という、刺激的なテーマで議論をしましたが、それではどのような「非生...

    前回は、「研究開発の生産性を上げるには、非生産的な活動を行う」という、刺激的なテーマで議論をしましたが、それではどのような「非生...


開発効率向上の重要性 開発効率を上げるには(その2)

【開発効率向上の重要性 連載目次】 製造業の生産性 開発効率向上の重要性 開発効率向上活動の考え方 開発効率向上、活動計画 1  ...

【開発効率向上の重要性 連載目次】 製造業の生産性 開発効率向上の重要性 開発効率向上活動の考え方 開発効率向上、活動計画 1  ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
進捗の見える化:第2回 プロジェクト管理の仕組み (その11)

 進捗の見える化ですが、前回のその10に続いて解説します。今回考えるべきポイントは、可視化・見える化の方法です。図40 に示しているように、進捗管理では予...

 進捗の見える化ですが、前回のその10に続いて解説します。今回考えるべきポイントは、可視化・見える化の方法です。図40 に示しているように、進捗管理では予...


追求するのは擦り合わせ能力を活かすマネジメント(その3)

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...


設計部門とリスク管理(その2)

【設計部門とリスク管理 連載目次】 1. リスク管理とは目標達成までのシナリオ作成 2. コンティンジェンシープランの注意事項 3. リスク管理...

【設計部門とリスク管理 連載目次】 1. リスク管理とは目標達成までのシナリオ作成 2. コンティンジェンシープランの注意事項 3. リスク管理...