普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その4)

更新日

投稿日

 
イノベーション
 
  今回は、イノベーションに基づく経営で有名な3Mのイノベーションの定義について、解説します。
 

1. 3Mのイノベーションの仕組みの普遍性

 
 私はコンサルティングやセミナーで3Mのマネジメントの事例を示すことが多いのですが、時々クライエントやセミナーの参加者の方々から「また3Mの話か」や「うちの会社は3Mとは違う」という反応があります。前者に関して言うと、確かにメディアが3Mのイノベーションの事例を紹介することは多いものです。しかし、私のこれまで得た3Mの知識から言うと、3Mはイノベーティブになるにはどうしたら良いかを、創業以来長い時間をかけて徹底して考えてきており、またそれを実際に実行に移し、大きな成果を挙げてきた企業です。また世界で最もイノベーティブな仕組みを持つ企業が3Mであると言えます。
 
 その仕組みを見ると、全てが多くの企業においてもあてはまる普遍的な論理を持ち、またそれゆえ他社にも大きな示唆を与えてくれるもので、私はイノベーティブになろうとしている企業の全てが、そのための全体像およびその部分を設計する過程において、是非参考にすべき事例と考えています。
 

2. イノベーションを企業の存続・成長の基盤としている企業:3M

 
 なぜ3Mは、経営陣や社員の大きな時間とエネルギーを注いてこのような活動を長年に渡って続けてきたのでしょうか。それは、3Mはもちろん製品を作り、販売しているメーカーではありますが、製品はその仕組みとその仕組みに則った活動の結果に過ぎず、3Mという企業の本質は、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」にあるからです。
 
 紙やすり会社の方には失礼な言い方になってしまいますが、なぜ単なる紙やすりの会社だった企業が、あれだけ世界中から賞賛されるのか。それはまさに3Mの製品の背景には、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」という賞賛されるべき要素があるからです。
 

3. 3Mのイノベーションの定義:「顧客価値を創出して初めてイノベーション」

 
 それでは3Mはどうイノベーションを定義しているのでしょうか。3Mが社員向けに発行した書籍に「A CENTURY OF INNOVATION」というものがあります。この本は3Mのイノベーションの歴史を著わしたものですが、その中に、3Mのイノベーションの定義として、
 
「3M is innovative when it gives its customers solutions to their problems.」
(3Mは顧客の問題を解決して初めてイノベーティブであると言える)や
「Innovation occurs when invention meets commercialization.」
(イノベーションは発明が商品化と出会った時生まれる)というものがあります。
 
 2つの文章のいずれもが、イノベーションは顧客のとっての価値を創出して初めてイノベーションであることを言っています。日本ではイノベーションは「技術革新」として説明され、『技術』がイノベーションの真ん中に位置していますが、3Mでは『顧客価値創出』がイノベーションのキーワードとして定義されているのです。
 

4. イノベー...

 
イノベーション
 
  今回は、イノベーションに基づく経営で有名な3Mのイノベーションの定義について、解説します。
 

1. 3Mのイノベーションの仕組みの普遍性

 
 私はコンサルティングやセミナーで3Mのマネジメントの事例を示すことが多いのですが、時々クライエントやセミナーの参加者の方々から「また3Mの話か」や「うちの会社は3Mとは違う」という反応があります。前者に関して言うと、確かにメディアが3Mのイノベーションの事例を紹介することは多いものです。しかし、私のこれまで得た3Mの知識から言うと、3Mはイノベーティブになるにはどうしたら良いかを、創業以来長い時間をかけて徹底して考えてきており、またそれを実際に実行に移し、大きな成果を挙げてきた企業です。また世界で最もイノベーティブな仕組みを持つ企業が3Mであると言えます。
 
 その仕組みを見ると、全てが多くの企業においてもあてはまる普遍的な論理を持ち、またそれゆえ他社にも大きな示唆を与えてくれるもので、私はイノベーティブになろうとしている企業の全てが、そのための全体像およびその部分を設計する過程において、是非参考にすべき事例と考えています。
 

2. イノベーションを企業の存続・成長の基盤としている企業:3M

 
 なぜ3Mは、経営陣や社員の大きな時間とエネルギーを注いてこのような活動を長年に渡って続けてきたのでしょうか。それは、3Mはもちろん製品を作り、販売しているメーカーではありますが、製品はその仕組みとその仕組みに則った活動の結果に過ぎず、3Mという企業の本質は、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」にあるからです。
 
 紙やすり会社の方には失礼な言い方になってしまいますが、なぜ単なる紙やすりの会社だった企業が、あれだけ世界中から賞賛されるのか。それはまさに3Mの製品の背景には、「継続的にイノベーションを創出する仕組みと文化」という賞賛されるべき要素があるからです。
 

3. 3Mのイノベーションの定義:「顧客価値を創出して初めてイノベーション」

 
 それでは3Mはどうイノベーションを定義しているのでしょうか。3Mが社員向けに発行した書籍に「A CENTURY OF INNOVATION」というものがあります。この本は3Mのイノベーションの歴史を著わしたものですが、その中に、3Mのイノベーションの定義として、
 
「3M is innovative when it gives its customers solutions to their problems.」
(3Mは顧客の問題を解決して初めてイノベーティブであると言える)や
「Innovation occurs when invention meets commercialization.」
(イノベーションは発明が商品化と出会った時生まれる)というものがあります。
 
 2つの文章のいずれもが、イノベーションは顧客のとっての価値を創出して初めてイノベーションであることを言っています。日本ではイノベーションは「技術革新」として説明され、『技術』がイノベーションの真ん中に位置していますが、3Mでは『顧客価値創出』がイノベーションのキーワードとして定義されているのです。
 

4. イノベーションのWhatとHow

 
 私は、イノベーションには、どのような新しい価値を創出すべき(What)と、既に自明な価値をどう実現すべきか(How)の2つがあると考えています。日本で良く定義されるイノベーションの定義である「技術革新」はHowに重きを置いています。しかし、3MのイノベーションはWhatに重きを置いているのです。
 
 この重きの置き方の違いは、マネジメントにおいて根本的な部分で大きな違いを生み出し、結果として収益にも大変大きな違いを生み出します。この点については、大変重要なテーマですので、改めて解説します。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「事業戦略」の他のキーワード解説記事

もっと見る
中小製造業の売上増加術【連載記事紹介】

  中小製造業の売上増加術の連載が無料でお読みいただけます!   ◆中小製造業の売上増加術 売上高アップを目指すには、まず...

  中小製造業の売上増加術の連載が無料でお読みいただけます!   ◆中小製造業の売上増加術 売上高アップを目指すには、まず...


中小製造業のあるべき姿とは

   中小製造業のあるべき姿とは、いったいどのようなものでしょうか。多品種少量生産を強いられる中、生産性向上、費用削減、不良品を出さないなど限...

   中小製造業のあるべき姿とは、いったいどのようなものでしょうか。多品種少量生産を強いられる中、生産性向上、費用削減、不良品を出さないなど限...


考課制度と能力開発 中小メーカ向け経営改革の考察(その31)

1.考課の考察  前回のその30に続いて解説します。「情報伝達に必須の心」に相当する「挨拶、感謝、なぜの心」をどの程度まで体得しているか、それを評価...

1.考課の考察  前回のその30に続いて解説します。「情報伝達に必須の心」に相当する「挨拶、感謝、なぜの心」をどの程度まで体得しているか、それを評価...


「事業戦略」の活用事例

もっと見る
【SDGs取り組み事例】女性活躍の推進図り、働きやすい職場環境構築  旭工業有限会社

ダイバーシティ進め、組織の一体感を高める 【目次】   国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る 1.カーボン事業...

ダイバーシティ進め、組織の一体感を高める 【目次】   国内製造業のSDGs取り組み事例一覧へ戻る 1.カーボン事業...


社風が変わる機会とは

 某企業のトップが社内の悪しき慣習を断ち切り、風通しの良い社風へ生まれ変わろうと奮闘している報道を読みました。巨額な赤字を生み出した原因は経営判断の誤りに...

 某企業のトップが社内の悪しき慣習を断ち切り、風通しの良い社風へ生まれ変わろうと奮闘している報道を読みました。巨額な赤字を生み出した原因は経営判断の誤りに...


『坂の上の雲』に学ぶ先人の知恵(その1)

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場...

   『坂の上の雲』は司馬遼太郎が残した多くの作品の中で、最もビジネス関係者が愛読しているものの一つでしょう。これには企業がビジネスと言う戦場...