法律 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その43)

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  技術マネジメント
 
 現在、この連載ではマクロ環境分析の解説をしていますが、今回は、PESTEL(Political:政治、Economical:経済、Societal:社会、Technological:技術、Environmental:環境、Legal:法律・政策)のうち、6つ目の法律についての解説をします。
 

1. L(Legal)とはデイヴィッド・イーストンの言う『出力』

 
 その38のP:政治の説明の中で、米国の政治学者のデイヴィッド・イーストンは、政治システムを「『外部環境』から『入力』 (要求や支持) を受け,それを権威的な『出力』 (決定や政策) に変換するフィードバックの過程」と考えたという話をしました。PESTELのLは、イーストンの言う『出力』、すなわち政府の決定や政策に位置するものです。したがって、政治システムの結果として、具体的にマクロ環境に影響を与えるのがL(Legal)ということになります。
 

2. L(Legal)はマクロ環境を想定する有効なツール

 
 PESTELの中で、極めて明確な形の影響力を持つのが法律です。法律や政策は多くの場合(時限的なものを除き)、長期にわたり存在しつづけることを前提に施行されるもので、また官公庁で十分な将来の予測(まさにマクロ環境分析)の下に作られるので、不確実性がかならずついて回るPESTELの中でも、かなり明確な形でマクロ環境に影響を与えるものであるという特徴があります。したがって、現状存在する法律や政策、また現状で議論されている法律や政策は、将来を想定する上で、極めて有効なツールということができます。
 

3. L(Legal)の分析の3つの視点

 
 法律や政策は、現状ですでに存在するもの、現在議論されているもの、そして現状では議論されていないものの3つに分けて分析するのが良いと思います。関連する全ての法律や政策を議論すると膨大な作業になりますので、今後現在行っているマクロ環境分析の対象に大きな影響を与える、もしくは与えそうな法律や政策のみを分析の対象とするのが効率的です。
 

(1) 現状の法律・政策の今後の動向

 
 すでに施行されている法律や政策は、それが今後どのぐらい存続し続けるのか、今後どう内容が変わるのか、施行対象分野がどう変わるのかを考える必要があるでしょう。
 

(2) 現状で議論されている法律・政策の動向

 
 まだ法律や政策には反映されていないが、現在議論されているものにはどのようなものがあるのか、今後それは実際に法律や政策に反映されるのか、どのような形の法律や政策になりそうなのか、を考えます。
 
 したがって、現在のマクロ環境分析の対象に関連のある政府や政党での議論を、すべてピックアップし分析する必要があります。
 

(3) 現状では議論されていないが今後出てくる可能性のある法律・政策

 
 以上の2点はすでに、世の中に議論のきっかけがありますので、比較的容易です。もちろん、これら2つだけでも、有効なマクロ環境分析にはなります。しかし、長期のマ...
 
  技術マネジメント
 
 現在、この連載ではマクロ環境分析の解説をしていますが、今回は、PESTEL(Political:政治、Economical:経済、Societal:社会、Technological:技術、Environmental:環境、Legal:法律・政策)のうち、6つ目の法律についての解説をします。
 

1. L(Legal)とはデイヴィッド・イーストンの言う『出力』

 
 その38のP:政治の説明の中で、米国の政治学者のデイヴィッド・イーストンは、政治システムを「『外部環境』から『入力』 (要求や支持) を受け,それを権威的な『出力』 (決定や政策) に変換するフィードバックの過程」と考えたという話をしました。PESTELのLは、イーストンの言う『出力』、すなわち政府の決定や政策に位置するものです。したがって、政治システムの結果として、具体的にマクロ環境に影響を与えるのがL(Legal)ということになります。
 

2. L(Legal)はマクロ環境を想定する有効なツール

 
 PESTELの中で、極めて明確な形の影響力を持つのが法律です。法律や政策は多くの場合(時限的なものを除き)、長期にわたり存在しつづけることを前提に施行されるもので、また官公庁で十分な将来の予測(まさにマクロ環境分析)の下に作られるので、不確実性がかならずついて回るPESTELの中でも、かなり明確な形でマクロ環境に影響を与えるものであるという特徴があります。したがって、現状存在する法律や政策、また現状で議論されている法律や政策は、将来を想定する上で、極めて有効なツールということができます。
 

3. L(Legal)の分析の3つの視点

 
 法律や政策は、現状ですでに存在するもの、現在議論されているもの、そして現状では議論されていないものの3つに分けて分析するのが良いと思います。関連する全ての法律や政策を議論すると膨大な作業になりますので、今後現在行っているマクロ環境分析の対象に大きな影響を与える、もしくは与えそうな法律や政策のみを分析の対象とするのが効率的です。
 

(1) 現状の法律・政策の今後の動向

 
 すでに施行されている法律や政策は、それが今後どのぐらい存続し続けるのか、今後どう内容が変わるのか、施行対象分野がどう変わるのかを考える必要があるでしょう。
 

(2) 現状で議論されている法律・政策の動向

 
 まだ法律や政策には反映されていないが、現在議論されているものにはどのようなものがあるのか、今後それは実際に法律や政策に反映されるのか、どのような形の法律や政策になりそうなのか、を考えます。
 
 したがって、現在のマクロ環境分析の対象に関連のある政府や政党での議論を、すべてピックアップし分析する必要があります。
 

(3) 現状では議論されていないが今後出てくる可能性のある法律・政策

 
 以上の2点はすでに、世の中に議論のきっかけがありますので、比較的容易です。もちろん、これら2つだけでも、有効なマクロ環境分析にはなります。しかし、長期のマクロ環境を分析するためには、以上の2つだけでは必ずしも十分ではありません。
 
 まだ政策や法律の議論にもなっていないような課題を見つけ、それがどのような政策や法律になりそうかを考えることは有効です。もちろんこの時点で、明確なレベルで政策や法律の内容を議論することは困難ですが、この点は分析をしておくことは重要でしょう。
 
 したがって、ここでは、政策や法律そのものを議論する場というより、L以外のPESTEにおける長期的なトレンドや課題を考えることになります。
 

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この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

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