知識は経験から生み出される 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その51)

更新日

投稿日

 
  技術マネジメント
 
 今回からイノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説に入っていきたいと思います。
 

1. 「知識」は「経験」から生み出される

 
 ここまでKETICモデルの1つ目のKnowledge(知識)を議論してきましたが、知識を得る方法には、単純化していえば、他者が既に生み出した知識を他者から自分に移転する方法で学ぶ方法と、自分の経験の中から知識を抽出・創出し、それを学ぶ方法があります。
 
 これまで何度か、知識については、形式知と暗黙知があることを議論してきました。
 
 両者はそれぞれ、「形式知とは、文章や図表、数式などによって説明・表現できる知識のこと」、「暗黙知とは経験や勘に基づく知識のことで、個人はこれを言葉にされていない状態でもっている」(出所:コトバンク)と説明されています。
 
 形式知と暗黙知やその関係性といったこのあたりの議論は、一橋大学の野中郁次郎名誉教授のSECIモデルなどの中で言われていることですが、この定義で言及されている「勘」も経験の中から得られるとすると、最終的に形式知を得る重要なルートとして、「経験」→「暗黙知」→「形式知」があることが分かります。
 
 もちろん現実にはもう少し複雑で、他者が既に生み出した知識と自分の経験から、新たたな知識を抽出・創出するということ、すなわち「経験+形式知・暗黙知」→「暗黙知」→「形式知」といったようなことが行われていると思います。
 
 いずれにしても、自分自身が新たな知識を得るには、「経験」は大変重要な役割を担います。
 

2. 「百聞は一経験にしかず」

 
 有名な言葉に「百聞は一見にしかず」がありますが、更には「百聞は一経験にしかず」(少し語呂が悪いですが)です。
 
 すなわち、人から聞くだけでなく、五感を持って実際に自分でやって数多くの経験することで、上の「経験」→「暗黙知」→「形式知」のモデルで言うと、多くの「暗黙知の前提」を得ることができるのです。
 
 孔子の言葉に、「聞いたことは忘れ、見たことは思い出し、やったことは忘れない」がありますが、孔子はまさにこの点について言及していると言ってよいでしょう。
 

3. 形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない

 
 上で触れた形式知は大変便利なものです。
 
 なぜなら、既に文章や図表で表されている知識ですので、暗黙知に比べて他者から学ぶことは遥かに効率的に行うことができます。
 
 そのため、人が学習する場合には、本や資料や人を介してこの形式知を中心に学ぶということをする訳ですが、初級者が学ぶにはそれでも良いでしょうが、中級者、上級者にとってはそこには重大な落とし穴があります。
 
 それは、形式知は現実に存在する潜在的知識の極々一部に過ぎないということです。そもそも形式知は他人の極めて限られた経験とその他知識を源流としているからです。私は「形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない」と考えています。
 
 また形式知は学びや伝達が効率的にできるからこそ、自分達の競合者も同様に効率的に得ることができ、差別性が生まれにくいことがあります。したがって、イノベーションとい...
 
  技術マネジメント
 
 今回からイノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説に入っていきたいと思います。
 

1. 「知識」は「経験」から生み出される

 
 ここまでKETICモデルの1つ目のKnowledge(知識)を議論してきましたが、知識を得る方法には、単純化していえば、他者が既に生み出した知識を他者から自分に移転する方法で学ぶ方法と、自分の経験の中から知識を抽出・創出し、それを学ぶ方法があります。
 
 これまで何度か、知識については、形式知と暗黙知があることを議論してきました。
 
 両者はそれぞれ、「形式知とは、文章や図表、数式などによって説明・表現できる知識のこと」、「暗黙知とは経験や勘に基づく知識のことで、個人はこれを言葉にされていない状態でもっている」(出所:コトバンク)と説明されています。
 
 形式知と暗黙知やその関係性といったこのあたりの議論は、一橋大学の野中郁次郎名誉教授のSECIモデルなどの中で言われていることですが、この定義で言及されている「勘」も経験の中から得られるとすると、最終的に形式知を得る重要なルートとして、「経験」→「暗黙知」→「形式知」があることが分かります。
 
 もちろん現実にはもう少し複雑で、他者が既に生み出した知識と自分の経験から、新たたな知識を抽出・創出するということ、すなわち「経験+形式知・暗黙知」→「暗黙知」→「形式知」といったようなことが行われていると思います。
 
 いずれにしても、自分自身が新たな知識を得るには、「経験」は大変重要な役割を担います。
 

2. 「百聞は一経験にしかず」

 
 有名な言葉に「百聞は一見にしかず」がありますが、更には「百聞は一経験にしかず」(少し語呂が悪いですが)です。
 
 すなわち、人から聞くだけでなく、五感を持って実際に自分でやって数多くの経験することで、上の「経験」→「暗黙知」→「形式知」のモデルで言うと、多くの「暗黙知の前提」を得ることができるのです。
 
 孔子の言葉に、「聞いたことは忘れ、見たことは思い出し、やったことは忘れない」がありますが、孔子はまさにこの点について言及していると言ってよいでしょう。
 

3. 形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない

 
 上で触れた形式知は大変便利なものです。
 
 なぜなら、既に文章や図表で表されている知識ですので、暗黙知に比べて他者から学ぶことは遥かに効率的に行うことができます。
 
 そのため、人が学習する場合には、本や資料や人を介してこの形式知を中心に学ぶということをする訳ですが、初級者が学ぶにはそれでも良いでしょうが、中級者、上級者にとってはそこには重大な落とし穴があります。
 
 それは、形式知は現実に存在する潜在的知識の極々一部に過ぎないということです。そもそも形式知は他人の極めて限られた経験とその他知識を源流としているからです。私は「形式知は他人の頭脳の細いストローを通して得られたものに過ぎない」と考えています。
 
 また形式知は学びや伝達が効率的にできるからこそ、自分達の競合者も同様に効率的に得ることができ、差別性が生まれにくいことがあります。したがって、イノベーションという革新を実現するには、自ら数を多くを「経験」することが極めて重要になってくるのです。
 

4. 経験を得る対象の3つの分野:TAD

 
 それでは、イノベーションに結びつくような経験をするにはどのようにしたら良いのでしょうか。私は、時間軸(Time)、分野軸(Area)、深度軸(Depth)の3つ軸(TADと名付けています)で考えることが大事であると考えています。この解説は、次回以降に行いたいと思います。
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
研究開発の生産性向上とは

   研究開発マネジメントの目的は、研究所の生産性を上げることです。研究開発の要である研究所のエンジニアリングについて、解説します。 &...

   研究開発マネジメントの目的は、研究所の生産性を上げることです。研究開発の要である研究所のエンジニアリングについて、解説します。 &...


技術企業の高収益化:差異化の源泉は徹底的な顧客視点にある

   収益の源泉が差異化にあることは、この連載の読者なら常識的知識だと思います。差異化によって、顧客価値が拡大し、収益が上がるというのが理...

   収益の源泉が差異化にあることは、この連載の読者なら常識的知識だと思います。差異化によって、顧客価値が拡大し、収益が上がるというのが理...


商品開発の成功率100%は、全然ダメである~技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その26)

  【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコムでは、製造業に関するセミナーを常時2,...

  【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコムでは、製造業に関するセミナーを常時2,...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
国際財務報告基準への技術部門の対応とは

1. 国際財務報告基準とは    国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)...

1. 国際財務報告基準とは    国際財務報告基準(International Financial Reporting Standards)...


作業要素の進捗分析2 プロジェクト管理の仕組み (その19)

  前回のその18:作業要素の進捗分析1に続いて解説します。    図50は製品構造の観点から管理単位にブレークダウンした例です。製品がどの...

  前回のその18:作業要素の進捗分析1に続いて解説します。    図50は製品構造の観点から管理単位にブレークダウンした例です。製品がどの...


‐操作性改善‐ ‐修理情報活用‐  製品・技術開発力強化策の事例(その1)

1.機械の操作性の改善  自社の機械を購入してくれた顧客を訪問し、操作性について苦情を聞くことを中心に営業活動をしている機械メ-カがあります。多品種...

1.機械の操作性の改善  自社の機械を購入してくれた顧客を訪問し、操作性について苦情を聞くことを中心に営業活動をしている機械メ-カがあります。多品種...