類似-4 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その103)

更新日

投稿日

イノベーションの発想

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回は、引き続き「類似」について考えてみたいと思います。前回は、「『課題』先にありきのイノベーションの発想」を解説しましたが、今回は「『解決策』先にありきのイノベーションの発想」を解説します。

 

1.『解決策』先にありきのイノベーションの発想とは

 これはここまで何回か言及した島精機の例では、「一体編み機で作られた手袋(解決策)を見て、手袋がセーターに類似していたため、セーターの一体の編み機を思い付く(イノベーション)」に該当します。つまり『解決策』が既に存在していて、その『解決策』を講じることにより、世の中を広く見渡し、解決できる『課題』を見つけることです。

 

2.『解決策』と『対象』の本質を考えてみる

 ここでの難しさは、現状ではどこに解決すべき課題があるかが分からないことです。課題の存在する平原はどこまでも広がっています。それではその課題をどう見つけるのでしょうか?

 今、手元にある拠(よ)り所となりそうな情報は『解決策』と既に解決済の『課題』のみですので、ここから徹底的に『解決策』を見出し『対象』の本質を考えてみるということです。なぜ本質かというと、本質は数学でいう定理であり、その定理は全てに当てはまるもであり、その本質を定義すれば、その定義が当てはまるもの・ことのみが対象となり、探す範囲を大幅に絞ることができるからです。

(1)筆と紙の本質を考える

 仮に自社は筆メーカーであるとしましょう。筆で紙の上に字を書くということができていますので、筆の本質と紙の本質を抽出することで、筆(のようなもの)で書くという解決策を他の課題解決に利用する方法を見つけることにつながる可能性が高まります。

(2)筆という解決策の本質は

 筆はその構造から「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜(た)め、それを対象物に押し当てることにより、対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」という解決策を提供するものと定義できるのではないかと思います。

 

3. 解決策の本質には、「何によって」と「それで何ができるか」が含まれる

 上の「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜め、それを対象物に押し当てることにより、対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」という定義には、「何によって」すなわち「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜め、それを対象物に押し当てることにより」の部分と「それで何ができるか」すなわち「対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」の部分に分割することができます。

 つまり解決策の定義は「何によって」と「それで何ができるか」で記述することができます。

(1) 紙の本質は

 次に紙の本質ですが、紙は「繊維の表面張力を利用して液体を吸収・保持する」のが本質と考えることができます。

 

4. 類似の方法で解決で...

イノベーションの発想

 

 現在、KETICモデルの中の「知識・経験を関係性で整理する」を解説しています。今回は、引き続き「類似」について考えてみたいと思います。前回は、「『課題』先にありきのイノベーションの発想」を解説しましたが、今回は「『解決策』先にありきのイノベーションの発想」を解説します。

 

1.『解決策』先にありきのイノベーションの発想とは

 これはここまで何回か言及した島精機の例では、「一体編み機で作られた手袋(解決策)を見て、手袋がセーターに類似していたため、セーターの一体の編み機を思い付く(イノベーション)」に該当します。つまり『解決策』が既に存在していて、その『解決策』を講じることにより、世の中を広く見渡し、解決できる『課題』を見つけることです。

 

2.『解決策』と『対象』の本質を考えてみる

 ここでの難しさは、現状ではどこに解決すべき課題があるかが分からないことです。課題の存在する平原はどこまでも広がっています。それではその課題をどう見つけるのでしょうか?

 今、手元にある拠(よ)り所となりそうな情報は『解決策』と既に解決済の『課題』のみですので、ここから徹底的に『解決策』を見出し『対象』の本質を考えてみるということです。なぜ本質かというと、本質は数学でいう定理であり、その定理は全てに当てはまるもであり、その本質を定義すれば、その定義が当てはまるもの・ことのみが対象となり、探す範囲を大幅に絞ることができるからです。

(1)筆と紙の本質を考える

 仮に自社は筆メーカーであるとしましょう。筆で紙の上に字を書くということができていますので、筆の本質と紙の本質を抽出することで、筆(のようなもの)で書くという解決策を他の課題解決に利用する方法を見つけることにつながる可能性が高まります。

(2)筆という解決策の本質は

 筆はその構造から「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜(た)め、それを対象物に押し当てることにより、対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」という解決策を提供するものと定義できるのではないかと思います。

 

3. 解決策の本質には、「何によって」と「それで何ができるか」が含まれる

 上の「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜め、それを対象物に押し当てることにより、対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」という定義には、「何によって」すなわち「インクを繊維の束などの液体保持機構を使って溜め、それを対象物に押し当てることにより」の部分と「それで何ができるか」すなわち「対象物に筆を押し当てる部分の軌跡に沿ってインクを適量移転する」の部分に分割することができます。

 つまり解決策の定義は「何によって」と「それで何ができるか」で記述することができます。

(1) 紙の本質は

 次に紙の本質ですが、紙は「繊維の表面張力を利用して液体を吸収・保持する」のが本質と考えることができます。

 

4. 類似の方法で解決できる課題を見つける

 以上の本質もしくはその類似性をよりどころに、解決の対象となる課題と解決法を見つけることが、容易になります。すなわち筆を使えば、表面張力の利用できる状況では、すべてのものに字、絵、記号、パターンを描くことができます。

 さらに一歩進めて、何度も筆を使ってパターンを重ねて描くことで、3次元の造形物を作ることができないか、という考えにも発展します。また、筆の「インクを適量移転する」という機能を筆ではなく、別の方法、例えばインクジェットのような方法で実現できないかといった考えにも広がり、それにより課題解決法の拡大も期待できます。

 

 次回に続きます。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
時間軸(Time) 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その53)

        イノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解...

        イノベーションに必要な要素を表したKETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解...


未来を間接的に経験する 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その57)

   現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。今回は「未来を経験・体験する」ための3つの方法の内の1つ、...

   現在KETICモデルの2つ目、Experience(経験)の解説をしています。今回は「未来を経験・体験する」ための3つの方法の内の1つ、...


新規事業の目標設定 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その89)

  ◆ 新規事業リーダーが行う目標設定  昨今、研究開発の現場においても、自らが新規事業を立ち上げるというミッションが課せられるようにな...

  ◆ 新規事業リーダーが行う目標設定  昨今、研究開発の現場においても、自らが新規事業を立ち上げるというミッションが課せられるようにな...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
作業要素の進捗分析3 プロジェクト管理の仕組み (その20)

 前回のその19:作業要素の進捗分析2に続いて解説します。    一つひとつの作業要素の完了判断は、明確になっている必要があります。改めて作...

 前回のその19:作業要素の進捗分析2に続いて解説します。    一つひとつの作業要素の完了判断は、明確になっている必要があります。改めて作...


設計部門の仕組み改革(その3)

【設計部門の仕組み改革 連載目次】 1. システムやツールの導入を伴う設計部門の仕組み改革の進め方 2. 設計部門の仕組み改革、事例解説 3. ...

【設計部門の仕組み改革 連載目次】 1. システムやツールの導入を伴う設計部門の仕組み改革の進め方 2. 設計部門の仕組み改革、事例解説 3. ...


スケールド・アジャイル・フレームワーク (SAFe) の導入開始

        はたして僕が勤める企業はスケールド・アジャイル・フレームワーク (SAFe) を上手く導入で...

        はたして僕が勤める企業はスケールド・アジャイル・フレームワーク (SAFe) を上手く導入で...