『価値づくり』の研究開発マネジメント (その10)

更新日

投稿日

 その8では「範囲の経済性」その9では「比較優位の原理」の解説をしましたが、今回はその両者と企業がオープンイノベーションを追求する意味合いとの関係性を解説します。
 

1.「範囲の経済性」のオープンイノベーションへの意味

 
 「範囲の経済性」は、自社にある汎用的な能力を持てば、それを様々な顧客価値創出活動に利用することで、その活動を低コストで実現することができることを示しています。しかし、次の2点から、自社のみでは顧客創出活動は限定されます。
 
(1) 顧客価値創出機会に結び付く情報量が決定的に少ない。
(2) 自社1社では、その顧客価値を実現するための能力をワンセットで持っていない可能性が極めて高
    い。
 
 そこで、オープンイノベーションを利用して広く他企業の持つ能力に目を向ければ、次の2点からそのような顧客価値創出機会は大きく拡大する可能性があります。
 
(1) 顧客価値創出機会に結び付く情報量が格段に増える。
(2) 自社で持っていない能力は他社により補完できるからです。
 

2.「比較優位の原則」のオープンイノベーションへの意味

 
 「比較優位の原則」は、自国の得意な「製品」に特化して、他国と貿易を行えば、自社、他国ともにメリットがあることを示しています。しかし、ここで「国」を「企業」に、「製品」を企業が保有する「能力」に置き換えれば、「比較優位の原則」は、まさにオープンイノベーションの効果そのものを言っていることになります。
 

3.この2つの経済原則が意味するもの:オープンイノベーションは『善』

 

 

 以上より、「範囲の経済性」は自社の能力を自社を超えて産業全体で活用すれば、自社のみならず産業全体で顧客価値を創出する機会が格段に増えることを示し、「比較優位の原則」は、その能力は、自社内で相対的に強い能力に特化することで、自社だけでなく産業全体にも効果を生み出すことを示しています。つまり、オープンイノベーションとは、自社と産業全体の両者にメリットのある活動であるということができます。
 
 企業は「自社」の収益拡大のために、オープンイノベーションを進めているのですが、実はそのような活動が様々な企業によりあちこちで活発に行われることにより、産業全体も
成長・拡大するという構造になっているのです。
 
 それは、自社のオープンイノベーション活動により産業全体の拡大に貢献すると、その対価として収益...
 その8では「範囲の経済性」その9では「比較優位の原理」の解説をしましたが、今回はその両者と企業がオープンイノベーションを追求する意味合いとの関係性を解説します。
 

1.「範囲の経済性」のオープンイノベーションへの意味

 
 「範囲の経済性」は、自社にある汎用的な能力を持てば、それを様々な顧客価値創出活動に利用することで、その活動を低コストで実現することができることを示しています。しかし、次の2点から、自社のみでは顧客創出活動は限定されます。
 
(1) 顧客価値創出機会に結び付く情報量が決定的に少ない。
(2) 自社1社では、その顧客価値を実現するための能力をワンセットで持っていない可能性が極めて高
    い。
 
 そこで、オープンイノベーションを利用して広く他企業の持つ能力に目を向ければ、次の2点からそのような顧客価値創出機会は大きく拡大する可能性があります。
 
(1) 顧客価値創出機会に結び付く情報量が格段に増える。
(2) 自社で持っていない能力は他社により補完できるからです。
 

2.「比較優位の原則」のオープンイノベーションへの意味

 
 「比較優位の原則」は、自国の得意な「製品」に特化して、他国と貿易を行えば、自社、他国ともにメリットがあることを示しています。しかし、ここで「国」を「企業」に、「製品」を企業が保有する「能力」に置き換えれば、「比較優位の原則」は、まさにオープンイノベーションの効果そのものを言っていることになります。
 

3.この2つの経済原則が意味するもの:オープンイノベーションは『善』

 

 

 以上より、「範囲の経済性」は自社の能力を自社を超えて産業全体で活用すれば、自社のみならず産業全体で顧客価値を創出する機会が格段に増えることを示し、「比較優位の原則」は、その能力は、自社内で相対的に強い能力に特化することで、自社だけでなく産業全体にも効果を生み出すことを示しています。つまり、オープンイノベーションとは、自社と産業全体の両者にメリットのある活動であるということができます。
 
 企業は「自社」の収益拡大のために、オープンイノベーションを進めているのですが、実はそのような活動が様々な企業によりあちこちで活発に行われることにより、産業全体も
成長・拡大するという構造になっているのです。
 
 それは、自社のオープンイノベーション活動により産業全体の拡大に貢献すると、その対価として収益が得られるというようにも言えるかもしれません。したがって、オープンイノベーションは、産業全体にとって正しい道であり、単なる
経営の世界での流行ではなく、そのメリットは経済の視点からも『善』と言えると思います。ところが、『善』を追究する上でもう一つ重要な概念があります。
 
 それが「競争原理」です。次回は「オープンイノベーションの経済学」の次の概念として「競争原理」を解説します。
 
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

浪江 一公

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。

プロフェッショナリズムと豊富な経験をベースに、革新的な製品やサービスを創出するプロセスの構築のお手伝いをいたします。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
開発効率を上げるには【連載記事紹介】開発コスト低下とスピード向上

  ◆開発効率向上の重要性 製造業は企画、開発・設計、生産、物流、営業、サービスの各業務から成り立っており、企業の生産性はその総合力の表...

  ◆開発効率向上の重要性 製造業は企画、開発・設計、生産、物流、営業、サービスの各業務から成り立っており、企業の生産性はその総合力の表...


リスクマネジメントは身近な問題

1.身近なリスク    電車から突き落とされ亡くなったり、通り魔に次々襲われたり、やってないのに痴漢あつかいされ拘留されたりするなど、耳を疑...

1.身近なリスク    電車から突き落とされ亡くなったり、通り魔に次々襲われたり、やってないのに痴漢あつかいされ拘留されたりするなど、耳を疑...


イノベーションの創出 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その124)

  今回も「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にもとづき、日々の活動の中でどうイノベーシ...

  今回も「切り取った知識の重要部分を発想するフレームワークを使って、イノベーションを発想する」にもとづき、日々の活動の中でどうイノベーシ...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
追求するのは擦り合わせ能力を活かすマネジメント(その3)

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...


システム設計6 プロジェクト管理の仕組み (その38)

◆システム設計は仮説と検証の繰り返し     前回は、システム(ここでは製品も含めてシステムと呼ぶことにします)に必要とされる要件を漏れなく...

◆システム設計は仮説と検証の繰り返し     前回は、システム(ここでは製品も含めてシステムと呼ぶことにします)に必要とされる要件を漏れなく...


技術プラットフォームの重要性

【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】 管理力より技術力を磨け 技術プラットフォームの重要性 手段としてのオープンイノベーション...

【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】 管理力より技術力を磨け 技術プラットフォームの重要性 手段としてのオープンイノベーション...