新事業開発のフレームワーク「さしすせそ」(後篇)

 前回の新事業開発のフレームワーク「さしすせそ」(前篇)に続いて、今回は新事業開発フレームワークである「さしすせそ」の具体的な使い方と事例を示します。

新事業開発フレームワーク

1.「さ」差別化のポイント

 新事業開発における差別化のポイントは、「ターゲットがメリットを感じ」、かつ「他ができない」ことです。

 例えば本多プラスというプラスチック成型業者は、特異な差別化をしているので紹介しまう。この会社は化粧品の容器を成型する業者です。その技術はブロー成型で、特殊なものではありません。
本多プラスの差別化ポイントは、社内デザイナーを抱えている事なのです。

 その理由は二つあり、まずはデザイナーを抱えている会社は非常に稀という点。もう一つは、デザイナーと技術者が打ち合わせながら、売れそうで成型可能なデザインを提案できる点です。化粧品や目薬のメーカーは、限られた時間内に商品開発をしなければならず、容器にかけられる時間は限られています。まさに、「ターゲットがメリットを感じ」、かつ「他ができない」ポイントとなっています。

図1.本多プラスの打ち合わせ事例(本多プラスホームページより引用)

2.「し」上得意の顧客

 なぜ「上得意の」顧客に限定するのかと言えば、顧客を上得意にすることで事業が安定して儲かるからです。上得意な顧客は、「いつも多くの品または高価な品を買ってくれる大事な客」という意味があります(明鏡国語辞典)。会社経営をする限りは、安定した事業を長く続けていくべきですから、この顧客を作る事が重要になります。

 一過性のビジネスを否定するものではありませんが、ここで伝えたいのは、「継続して購入してくれそう」で「高価なものでも買ってくれる」ターゲットを設定すべきという点です。

 事例として、福島県にムネカタホールディングスという会社があります。この会社の主要事業は、薄型テレビの外枠成形事業です。今の円高の中、価格競争の激しい薄型テレビメーカーの多くがこの国内企業に成型を発注するのは何故でしょう?それは、海外を含めた他社にはない競争力を持っているためです。ムネカタ社は、金型製作をコンピュータ上でシミュレートできる「3次元バーチャライズ技術」と、金型と樹脂の間に一定温一定圧の二酸化炭素を圧入して転写を良くする「MUCOA」という技術を含めた「統合生産システム」を保有しているのです。

 これによって、「上得意の顧客」の要求であるテレビの外枠の美しさ、精度、短納期を提供できています。ムネカタは、単なる思い付きではなく、テレビも含めた家電製品の外枠の設計者を、自社の「上得意の顧客」として想定して、彼らに対する差別化ポイントとなる技術等を磨いていたのす。

 私たち新規事業開発に携わる者としては、上記のようにターゲットとなる会社に提言できる力を磨くべきだと思います。

3.「す」Strengh(強み)

 強みというのは主観的なもので良く、その強みが役に立つかどうかは、人によって時と場合によって変化します。例えば男の子が「自分はカッコイイ」と思っているのが強みあって、実際にモテるかどうかは相手によって異なるものです。要するに、強みというのは、認識する人によって異なる技術だったり、営業力だったり、ビジネスモデルだったり、それが本当に他社と比較して強いかどうかは別問題です。

 主観的で人によって解釈が異なる「強み」が、実はアイデア発想には極めて有効です。強い部分を勝手に決めて、それを差別化ポイントとした新しい商品・サービスのアイデアが膨らむからです。アイデア発想した商品・サービスが実際に実現できるかどうかは、フレームワークの他の要素で検証していけば良いでしょう。

 ただし経験上、新規事業を進める場合に、強みは後からできるもの・作り上げるものであることが多いように思います。つまり、新規事業を始めてから自社の強みを定義して、徹底的に磨いていくのです。

4.「せ」製品・サービス

 この項目は、製品やサービス段階になった段階で、差別化要素がうまく織り込めているかをチェックするために使用します。 製品段階になって、意図していた差別化要素や強みが反映されていないことがあります。また、差別化された要素がうまく反映されたメッセージやセールストークが可能かについてもチェックが必要です。

 良い商品なのに、うまく顧客に伝わらないことがありますが、これはキャッチコピーが悪いことの裏返しです。キャッチコピー一つとってみても、考えなければならない要素が多数あることを念頭において、仕事を進めたいものです。

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5.「そ」阻害要因

 これは分かりやすく言えば知財であり、特許、実用新案、意匠、商標、著作権等の権利によって、ビジネスをどのように守るのかを検討しておくことです。重要なのは、特許や商標などの知財権そのものではなく、それをどのように使うかを検討する事です。

 一例として日本で最初のビジネスモデル特許と言われる「パーフェクト口座(特許第3029421号)」があります。このパーフェクト口座とは、大学の受験料の振込と受験票を突合して入金漏れ等をチェックする、いわゆる「消込」と言われる作業を正確にするためのシステムです。このビジネスに関するアプローチを比較してみます。

 あまり良くないアプローチは、出来た発明そのものを出願するもので、最初に「特許にしよう」と発想し、このパーフェクト口座に関する技術を何件か特許出願して安心してしまいます。

 一方優れたアプローチは、出来た発明を上位概念化してビジネスモデルを考え、ビジネスモデルを保護する知財のあり方を考えます。具体的には パーフェクトは単なる消込を効率化するシステムではなく、利用者の入金確認作業全体を省力化するサービスであると捉えて、ビジネスモデルを考えます。ビジネスの上流、下流の概略を描き、どこで課金していくかを明確にしたうえで、どの部分の特許を取得し、どの部分を取得しないのかを検討し、その結果として知財を取得します。

 両者には、上位概念化やビジネスモデルの全体を描くという点で差があります。そして、この差が真似をされるかされないか、利益率が低下するかしないかという点に大きく関わってくるのです。

 以上のように、「さしすせそ」5つの要素を考える事で、新事業開発の完成度を大きく高める事が可能となります。


この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

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