研究開発テーマのPR 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その63)

更新日

投稿日

技術マネジメント

◆ 研究開発ゴールを宣言する効果

1. 研究開発テーマの計画は?

 ある研究開発組織の担当者から開発情報を聞く機会がありました。その時、彼は「来年の今頃にはなんとか形にしたいと思っています」と回答したのです。

 組織・チーム内ならいざ知らず、外部の人間に対しての発言であったから驚きです。これは勿体無いPRだなと感じたことを覚えています。

 反対のケースでは、研究開発テーマのロードマップ報告の場である開発リーダーが次世代商品への搭載を目的としたコア技術の進捗を報告していました。この時、開発リーダーは「多少の課題はあるものの、予定通り来年春には実用化開発完了の見込みです」と報告しました。

 この2つのケースで起こり得る事象はどんなものがあるでしょうか?

 最初のケースは出来高次第と解釈する回答であり、受け取り側は本気で聞く気になれません。技術シーズPRとしては問題があります。

 2番目のケースは計画通りできますと前向きな回答で、宣言通りであれば良いのですが、研究開発における技術の壁を考慮すると簡単には成功へと至りません。ゆえにあまりに楽観的な回答をし続けると、そのうち信頼を失ってしまうケースを目にします。

 この2つのケースは研究開発の担当者、マネジメント層や事業企画の間で頻繁に起こる事象です。皆さんの会社でも研究者はできると断言することに躊躇(ちゅうちょ)し、マネジメント層や事業企画・営業区はできますと宣言することが多いのではないでしょうか?

2. ゴールを宣言する効果

 ここで「研究開発テーマのゴールを宣言する」ことで得られる効果を説明します。

 ゴールとは言うまでもなく、機能・性能やそのレベル、完成時期などです。これらの情報を提供したい相手は誰でしょうか、社内の技術シーズをPRして、活用してもらうのですから見込み顧客や共創相手であることは間違いありません。

 そして将来の顧客・共創相手は皆さんの技術を待っている状態です。そのために欲しい情報を伝える、つまり宣言することは重要でそこで初めて検討の土台に乗るのです。

3. 宣言する情報

 研究開発テーマはあくまでアウトプットされる技術に利用者が存在することを想定していると思います。先に記載した通り「できそうも無い」「出来高でそのうち」「できます、やります」では利用検討者は困ります。

 一方で研究開発は失敗の可能性を多分に含んでいることも事実です。

 このような場合にお...

技術マネジメント

◆ 研究開発ゴールを宣言する効果

1. 研究開発テーマの計画は?

 ある研究開発組織の担当者から開発情報を聞く機会がありました。その時、彼は「来年の今頃にはなんとか形にしたいと思っています」と回答したのです。

 組織・チーム内ならいざ知らず、外部の人間に対しての発言であったから驚きです。これは勿体無いPRだなと感じたことを覚えています。

 反対のケースでは、研究開発テーマのロードマップ報告の場である開発リーダーが次世代商品への搭載を目的としたコア技術の進捗を報告していました。この時、開発リーダーは「多少の課題はあるものの、予定通り来年春には実用化開発完了の見込みです」と報告しました。

 この2つのケースで起こり得る事象はどんなものがあるでしょうか?

 最初のケースは出来高次第と解釈する回答であり、受け取り側は本気で聞く気になれません。技術シーズPRとしては問題があります。

 2番目のケースは計画通りできますと前向きな回答で、宣言通りであれば良いのですが、研究開発における技術の壁を考慮すると簡単には成功へと至りません。ゆえにあまりに楽観的な回答をし続けると、そのうち信頼を失ってしまうケースを目にします。

 この2つのケースは研究開発の担当者、マネジメント層や事業企画の間で頻繁に起こる事象です。皆さんの会社でも研究者はできると断言することに躊躇(ちゅうちょ)し、マネジメント層や事業企画・営業区はできますと宣言することが多いのではないでしょうか?

2. ゴールを宣言する効果

 ここで「研究開発テーマのゴールを宣言する」ことで得られる効果を説明します。

 ゴールとは言うまでもなく、機能・性能やそのレベル、完成時期などです。これらの情報を提供したい相手は誰でしょうか、社内の技術シーズをPRして、活用してもらうのですから見込み顧客や共創相手であることは間違いありません。

 そして将来の顧客・共創相手は皆さんの技術を待っている状態です。そのために欲しい情報を伝える、つまり宣言することは重要でそこで初めて検討の土台に乗るのです。

3. 宣言する情報

 研究開発テーマはあくまでアウトプットされる技術に利用者が存在することを想定していると思います。先に記載した通り「できそうも無い」「出来高でそのうち」「できます、やります」では利用検討者は困ります。

 一方で研究開発は失敗の可能性を多分に含んでいることも事実です。

 このような場合において、ゴールは幅を持たせて宣言することを推奨します。つまり、ベストケースとワーストケースで実装される機能や性能スペック、また実用化開発完了タイミングを表現します。

 もちろんメインゴールは、一つ。変動幅を情報として公開する、この一手間で技術シーズPRへの反響が変わってくるでしょう。

 研究開発テーマはどうしてもリスク前提でジャッジされることがあり、手応えを感じることが難しいものです。利用見込み客の不安を取り除くためにも変動幅を宣言しつつ、研究開発テーマをPRすることが望ましいのです。

   続きを読むには・・・


この記事の著者

川崎 響子

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
潜在課題 技術企業の高収益化:実践的な技術戦略の立て方(その4)

   今回の解説は実践的な技術戦略の立て方その4、「潜在課題の発見」についてです。この解説を読むことで、次世代の成長のタネを作る上で必要な研究...

   今回の解説は実践的な技術戦略の立て方その4、「潜在課題の発見」についてです。この解説を読むことで、次世代の成長のタネを作る上で必要な研究...


『価値づくり』の研究開発マネジメント (その5)

  前回は、「自社の市場と技術を目いっぱい広げ活動する」の中の「市場」について議論しました。今回は「技術を目いっぱい拡大」に関する活動を議...

  前回は、「自社の市場と技術を目いっぱい広げ活動する」の中の「市場」について議論しました。今回は「技術を目いっぱい拡大」に関する活動を議...


イノベーションの創造 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その134)

  【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その133)へのリンク】 前回までの2回にわたり、失敗の金銭的コストを低...

  【この連載の前回:普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その133)へのリンク】 前回までの2回にわたり、失敗の金銭的コストを低...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
追求するのは擦り合わせ能力を活かすマネジメント(その3)

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...

 前回のその2に続いて解説します。図15は製品開発(設計)における調整の仕組みを詳細化したものです。「可視化」「分析」「視点切り替え」3つの要素から成り立...


成功体験が重荷となる製品開発プロセス(その2)

◆ 解決策    成功体験が重荷となる製品開発プロセス(その1:現状の課題)では、スマートフォンで起きていることを例にして、従来の組み込みソ...

◆ 解決策    成功体験が重荷となる製品開発プロセス(その1:現状の課題)では、スマートフォンで起きていることを例にして、従来の組み込みソ...


研究開発部門にスパークを起こすとは

◆市場を継続的に長く、広く、深く知る  企業の研究開発部門は、「金ばかり使って、良い技術が全然出てこない」と非難されることが多いようです。企業にとっての...

◆市場を継続的に長く、広く、深く知る  企業の研究開発部門は、「金ばかり使って、良い技術が全然出てこない」と非難されることが多いようです。企業にとっての...