R&Dの価値創造力を高めるシンプルツール、iMapとは、

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 技術経営とは、「企業の経営資源である技術を経営戦略の中核に位置づけ、顧客価値の創造へ向けて、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の成長と進化を実現すること」であり、戦略的・継続的に技術力を高めるためには、価値創造力が重要な鍵を握ることになります。
 
 本稿では、R&D現場で価値創造力の向上に取り組むための、シンプルで実践的な手法を解説します。それは、下図のiMap(アイマップ)というもので、様々なR&D現場のコンサルティングの中で、技術者、研究者の方々とともに考え実践してきた内容を汎用化した独自手法です。
 
            R&D
                                          図.iMap
 
  iMapは、顧客価値を起点として技術を構造的に可視化し、自社の保有する技術の全体像に対する理解と共有を促進することで、将来のイノベーションを探索、構想していくための思考基盤をつくるためのものです。iMapの左側には顧客価値を端的に表現した価値コンセプト、右側には技術が書かれています。技術は、その目的的要素(これを目的機能と言います)と手段的要素(これを技術機能と言います)に分けて記述し、関連性の高いものを線で結んで作成します。作成する手順は、①価値コンセプトの設定 ②技術の洗い出しと噛み砕き ③全体構造の可視化の3ステップで、まず顧客価値から始めます。技術から始めてはいけません。まず、自社の製品、もしくはこれから開発しようとしている製品もしくは技術が、どのような顧客価値を実現するのかを考えることから始めるのです。
 

1.価値コンセプトの設定

 
  価値コンセプト、すなわち顧客価値を書き出すときの重要なポイントは、価値と機能の違いです。価値も技術同様、企業の現場で頻繁に用いられる言葉ですが、意外に「価値とは何か」ということについて明確に共有している会社は多くありません。その典型的な例が、価値と機能の混同です。ある会社で、「あなたの会社の製品の価値はなんですか」と尋ねた際、「うちの製品の価値は、高信頼性ですよ」といった答えが返ってきたことがあります。しかし、この答えは価値ではなく、製品の機能を説明したものです。価値とは、もう一歩顧客目線で踏み込んで表現したものです。例えば、高信頼性であれば「メンテナンスの頻度が少なくて済む」「メンテナンスコストが安くなる」などが価値として考えられます。また、価値を考える際には、自社の顧客は誰かを明確にしなければなりません。実際に顧客価値を議論すると、顧客についてよく知らない、顧客価値がよくわかっていないことに活動メンバーが改めて気づきます。その気づきが、技術者、研究者のイノベーションマインドを高めるうえで重要なトリガーになります。また、このステップでは、社内の議論にとどまらず、必要に応じて顧客へインタビューを行う場合もあります。
 

2.技術の洗い出しと噛み砕き

 
  価値コンセプトの設定の次は、技術について考えます。ここでは、「洗い出し」と「噛み砕き」という2つのアプローチで取り組む。洗い出しとは、顧客価値を起点に、関連する技術を展開する方法であり、噛み砕きとは技術を起点に、その中身を記述しながら顧客価値へ遡るという方法です。基本的には、まず洗い出しを行い、その後で噛み砕きをするという順番で進めます。ここでの重要なポイントは、「技術の捉え方」です。すなわち、技術の可視化を進めるうえで、「技術とは何か」「技術をどう捉えるのか」について理解を共有しておくことが重要になります。iMapでは、技術とは何らかの目的を達成するための方法に関する知識体系であり、目的と手段の組み合わせを基本構造として持っているものとして捉えています。その目的的要素を目的機能、手段的要素を技術機能として定義し、自社の技術を分解しながら記述することで、曖昧で見えにくい技術が構造的で分かり易く整理できます。
 

3.全体構造の可視化

 
  最後は、価値コンセプト、目的機能、技術機能を線で結ぶことでその関連性を考察しながら、価値創造へむけた技術の全体構造を表現します。
 
  iMapは、R&D現場の様々な取り組みのシーンで用いることができます。例えば、自社の技術を棚卸する場合です。単に技術だけでの視点で細分化した技術リストをつくるのではなく、顧客価値を実現するために自社の技術がどう関連しているのか、その中で何が中核技術になっているのかを構造的に可視化しながら棚卸をすることができます。また、技術開発戦略の構想を練る時にも用いることができます。技術開発によって生み出そうとしている顧客価値を端的に表現し、その実現のためにどのような技術を創造・獲得・活用していくのかという戦略の全体像を可視化しながら議論することができます。
 
  私は、iMapの実践を一人で黙々と行うのではなく、関連する技術者、研究者による「ワイガヤ」で行うことをお勧めしています。若手・ベテラン、担当者・マネージャーが混じって、「我々が実現する顧客価値は何か」「顧客価値の実現のために自社のどの技術を活用し、新たにどの技術が必要か」をフランクに、しかし徹底的に議論することで、顧客価値と技術に対する理解と共有を促し、価値創造へ向けたモチュベーションを高めることにつながります。私は、企業の現場での「実践」にこだわっています。したがって、手法は直感的でシンプルな...
 技術経営とは、「企業の経営資源である技術を経営戦略の中核に位置づけ、顧客価値の創造へ向けて、その獲得・強化・活用を戦略的に行うことにより、継続的な企業の成長と進化を実現すること」であり、戦略的・継続的に技術力を高めるためには、価値創造力が重要な鍵を握ることになります。
 
 本稿では、R&D現場で価値創造力の向上に取り組むための、シンプルで実践的な手法を解説します。それは、下図のiMap(アイマップ)というもので、様々なR&D現場のコンサルティングの中で、技術者、研究者の方々とともに考え実践してきた内容を汎用化した独自手法です。
 
            R&D
                                          図.iMap
 
  iMapは、顧客価値を起点として技術を構造的に可視化し、自社の保有する技術の全体像に対する理解と共有を促進することで、将来のイノベーションを探索、構想していくための思考基盤をつくるためのものです。iMapの左側には顧客価値を端的に表現した価値コンセプト、右側には技術が書かれています。技術は、その目的的要素(これを目的機能と言います)と手段的要素(これを技術機能と言います)に分けて記述し、関連性の高いものを線で結んで作成します。作成する手順は、①価値コンセプトの設定 ②技術の洗い出しと噛み砕き ③全体構造の可視化の3ステップで、まず顧客価値から始めます。技術から始めてはいけません。まず、自社の製品、もしくはこれから開発しようとしている製品もしくは技術が、どのような顧客価値を実現するのかを考えることから始めるのです。
 

1.価値コンセプトの設定

 
  価値コンセプト、すなわち顧客価値を書き出すときの重要なポイントは、価値と機能の違いです。価値も技術同様、企業の現場で頻繁に用いられる言葉ですが、意外に「価値とは何か」ということについて明確に共有している会社は多くありません。その典型的な例が、価値と機能の混同です。ある会社で、「あなたの会社の製品の価値はなんですか」と尋ねた際、「うちの製品の価値は、高信頼性ですよ」といった答えが返ってきたことがあります。しかし、この答えは価値ではなく、製品の機能を説明したものです。価値とは、もう一歩顧客目線で踏み込んで表現したものです。例えば、高信頼性であれば「メンテナンスの頻度が少なくて済む」「メンテナンスコストが安くなる」などが価値として考えられます。また、価値を考える際には、自社の顧客は誰かを明確にしなければなりません。実際に顧客価値を議論すると、顧客についてよく知らない、顧客価値がよくわかっていないことに活動メンバーが改めて気づきます。その気づきが、技術者、研究者のイノベーションマインドを高めるうえで重要なトリガーになります。また、このステップでは、社内の議論にとどまらず、必要に応じて顧客へインタビューを行う場合もあります。
 

2.技術の洗い出しと噛み砕き

 
  価値コンセプトの設定の次は、技術について考えます。ここでは、「洗い出し」と「噛み砕き」という2つのアプローチで取り組む。洗い出しとは、顧客価値を起点に、関連する技術を展開する方法であり、噛み砕きとは技術を起点に、その中身を記述しながら顧客価値へ遡るという方法です。基本的には、まず洗い出しを行い、その後で噛み砕きをするという順番で進めます。ここでの重要なポイントは、「技術の捉え方」です。すなわち、技術の可視化を進めるうえで、「技術とは何か」「技術をどう捉えるのか」について理解を共有しておくことが重要になります。iMapでは、技術とは何らかの目的を達成するための方法に関する知識体系であり、目的と手段の組み合わせを基本構造として持っているものとして捉えています。その目的的要素を目的機能、手段的要素を技術機能として定義し、自社の技術を分解しながら記述することで、曖昧で見えにくい技術が構造的で分かり易く整理できます。
 

3.全体構造の可視化

 
  最後は、価値コンセプト、目的機能、技術機能を線で結ぶことでその関連性を考察しながら、価値創造へむけた技術の全体構造を表現します。
 
  iMapは、R&D現場の様々な取り組みのシーンで用いることができます。例えば、自社の技術を棚卸する場合です。単に技術だけでの視点で細分化した技術リストをつくるのではなく、顧客価値を実現するために自社の技術がどう関連しているのか、その中で何が中核技術になっているのかを構造的に可視化しながら棚卸をすることができます。また、技術開発戦略の構想を練る時にも用いることができます。技術開発によって生み出そうとしている顧客価値を端的に表現し、その実現のためにどのような技術を創造・獲得・活用していくのかという戦略の全体像を可視化しながら議論することができます。
 
  私は、iMapの実践を一人で黙々と行うのではなく、関連する技術者、研究者による「ワイガヤ」で行うことをお勧めしています。若手・ベテラン、担当者・マネージャーが混じって、「我々が実現する顧客価値は何か」「顧客価値の実現のために自社のどの技術を活用し、新たにどの技術が必要か」をフランクに、しかし徹底的に議論することで、顧客価値と技術に対する理解と共有を促し、価値創造へ向けたモチュベーションを高めることにつながります。私は、企業の現場での「実践」にこだわっています。したがって、手法は直感的でシンプルなものであることが重要だと考えています。複雑な思考プロセスや細かく煩雑な作法・ルールが必要なものは、それを教えるコンサルタントにとっては都合がよいかもしれませんが、実践的とは言えません。シンプルで分かり易いものでありながら、実践の過程で深い思考と議論が促され、多くの気づきを生み出す、それが優れた手法の条件だと考えています。iMapも一見非常にシンプルなフレームワークですが、その実践プロセスの中で生み出される気づきが、技術者、研究者、ひいてはR&D組織の価値創造力を高めるためのトリガーとなります。
 
 

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この記事の著者

平木 肇

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。

『テクノロジストの知恵を新たな価値を生み出す力に変える』社会を変える新たな価値創造へ向けて、技術の進化と人材の開発に挑戦するものづくり企業を全力で支援します。


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