ロードマップの表現 新規事業・新商品を生み出す技術戦略(その84)

更新日

投稿日

技術マネジメント

 

1. ロードマップは羅針盤

 今回は「ロードマップはマクロとミクロで表現する」について解説します。

 ロードマップを一言で表すならば、それは羅針盤です。

 羅針盤というと難しく感じるかもしれませんが、誰もが子供のころに触れたコンパス、つまり船や航空機の目に見えない進路を測り、指し示すツールです。あえて「目に見えない」と表現したのは、その進路が不明確でその道筋が見えないからです。

 特にVUCAと呼ばれる現代において、数年先の未来を正確に描くことは誰にもできません。しかしそれでもロードマップとして「ありたい未来」を描き、道筋を示すことは、国や企業・個人が主体的に行動していく上で必要不可欠なのです。

 

 ここでは企業におけるロードマップの在り方を解説します。

 企業のロードマップには事業、市場、技術が一貫してひもづけされていることが重要です。事業に例えると「半導体業界向けに製造装置や受託製造を提供する。売り上げ:500億円、グローバルシェア:80%を目指す」など企業としての「ありたい姿」です。

 市場とは、例えばファイブフォース分析をもとに業界や環境の変化、課題を予測し、課題解決手段としての自社商品の企画までを示します。顧客である企業や消費者に限らず、顧客の先の顧客までを予測することで、業界を刷新するような商品が生まれる可能性も高まります。

 技術とは、商品を実現して、競合と差別化するための技術開発テーマを示します。

 その他にも研究開発組織として「将来のありたい姿」をロードマップの最終ゴールと設定することで、開発担当者の動機付けが期待できます。

 ここまで事業、市場、技術の要素を示しましたが、次のようにロードマップとして押さえておくべき2つのポイントをお話します。

 

2. 全体方針はマクロ、研究開発テーマはミクロ的表現で

 1つ目は全体方針をマクロ的に表現することです。
 企業で採用するロードマップの多くは5~10年程度の時間軸です。冒頭で記したとおり、たとえ1年先の未来であっても予測が困難ではあるものの、企業として組織として「どうありたいのか」を指し示すことは、メンバーの動機付けにつながります。

 例えば、目先の目標として「ドローン開発と販売をする」では、よくても指示どおりの結果で終わります。しかし「世界中の過疎地域をなくし、誰もが安心安全に生活するインフラを整えるリーダー企業となる。そのため、1年後に荷物配送ドローンを販売する」という方針があれば、現場ではさらなる価値作りに向けた自主性が育まれるでしょう。ゆえにロードマップは、全体方針をありたい姿としてマクロ的に表現することが効果的です。

 

 2つ目は研究開発テーマは実行可能なレベルまで、ミクロ的に表現することです。
 ロードマップ作成の現場でありがちな悪い例ですが、マクロ的なロードマップを作成した時点で満足し活動を終えてしまうことあります。当たり前ですが、全体方針をマクロ的に表現しただけでは、開発活動はス...

技術マネジメント

 

1. ロードマップは羅針盤

 今回は「ロードマップはマクロとミクロで表現する」について解説します。

 ロードマップを一言で表すならば、それは羅針盤です。

 羅針盤というと難しく感じるかもしれませんが、誰もが子供のころに触れたコンパス、つまり船や航空機の目に見えない進路を測り、指し示すツールです。あえて「目に見えない」と表現したのは、その進路が不明確でその道筋が見えないからです。

 特にVUCAと呼ばれる現代において、数年先の未来を正確に描くことは誰にもできません。しかしそれでもロードマップとして「ありたい未来」を描き、道筋を示すことは、国や企業・個人が主体的に行動していく上で必要不可欠なのです。

 

 ここでは企業におけるロードマップの在り方を解説します。

 企業のロードマップには事業、市場、技術が一貫してひもづけされていることが重要です。事業に例えると「半導体業界向けに製造装置や受託製造を提供する。売り上げ:500億円、グローバルシェア:80%を目指す」など企業としての「ありたい姿」です。

 市場とは、例えばファイブフォース分析をもとに業界や環境の変化、課題を予測し、課題解決手段としての自社商品の企画までを示します。顧客である企業や消費者に限らず、顧客の先の顧客までを予測することで、業界を刷新するような商品が生まれる可能性も高まります。

 技術とは、商品を実現して、競合と差別化するための技術開発テーマを示します。

 その他にも研究開発組織として「将来のありたい姿」をロードマップの最終ゴールと設定することで、開発担当者の動機付けが期待できます。

 ここまで事業、市場、技術の要素を示しましたが、次のようにロードマップとして押さえておくべき2つのポイントをお話します。

 

2. 全体方針はマクロ、研究開発テーマはミクロ的表現で

 1つ目は全体方針をマクロ的に表現することです。
 企業で採用するロードマップの多くは5~10年程度の時間軸です。冒頭で記したとおり、たとえ1年先の未来であっても予測が困難ではあるものの、企業として組織として「どうありたいのか」を指し示すことは、メンバーの動機付けにつながります。

 例えば、目先の目標として「ドローン開発と販売をする」では、よくても指示どおりの結果で終わります。しかし「世界中の過疎地域をなくし、誰もが安心安全に生活するインフラを整えるリーダー企業となる。そのため、1年後に荷物配送ドローンを販売する」という方針があれば、現場ではさらなる価値作りに向けた自主性が育まれるでしょう。ゆえにロードマップは、全体方針をありたい姿としてマクロ的に表現することが効果的です。

 

 2つ目は研究開発テーマは実行可能なレベルまで、ミクロ的に表現することです。
 ロードマップ作成の現場でありがちな悪い例ですが、マクロ的なロードマップを作成した時点で満足し活動を終えてしまうことあります。当たり前ですが、全体方針をマクロ的に表現しただけでは、開発活動はスタートしません。

 「ありたい姿」を実現するための要素として、課やチームといった最小単位の研究開発テーマとして設定することが必要です。具体的には1年、長くても3年程度の時間軸でロードマップのマイルストーンとして設定するとよいでしょう。

 詳細のマイルストーン設定には、組織内部の進捗管理だけではなく、目的を見失わないよう文字どおり、羅針盤の役目がありますのでスキップせずに作成します。

 

・・・・・・・・・

 企業活動はマクロ表現による全体方針とミクロ表現によるR&Dのテーマ企画として、ロードマップに示すことが重要です。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

川崎 響子

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。

革新的なテクノロジー事業を最速&確実に量産まで立ち上げます。 世界No.1商品を創る企業を世の中に送り出し続けることが私の使命です。


「技術マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
製品開発部へのカンバン導入とは 【連載記事紹介】

       製品開発部へのカンバン導入の連載が無料でお読みいただけます。   ビジネスの世界...

       製品開発部へのカンバン導入の連載が無料でお読みいただけます。   ビジネスの世界...


味覚 普通の組織をイノベーティブにする処方箋 (その154)

  現在、イノベーション実現に向けての「思考の頻度を高める方法」を解説していますが、そのための2つ目の要素「同じ一つの行動をするにしても思...

  現在、イノベーション実現に向けての「思考の頻度を高める方法」を解説していますが、そのための2つ目の要素「同じ一つの行動をするにしても思...


製品開発における失敗と戻り工程の考え方

    今回は新商品開発における成功度と成功しなかったときの戻り工程についてお伝えします。   まずは顧客価値創...

    今回は新商品開発における成功度と成功しなかったときの戻り工程についてお伝えします。   まずは顧客価値創...


「技術マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
新技術の特長活かした新規事業機会創出に向けて

※イメージ画像   1. 電子部品業界を牽引 ~ リバーエレテック社  今回は水晶振動子や水晶発振器を中心に業界のリーディングカンパニー...

※イメージ画像   1. 電子部品業界を牽引 ~ リバーエレテック社  今回は水晶振動子や水晶発振器を中心に業界のリーディングカンパニー...


設計部門の仕組み構築(その2)

 前回のその1に続いて解説します。  繰り返しになりますが、事例としてあげている設計部門では、現状の課題を次のように整理できています。 (1)繰り返し...

 前回のその1に続いて解説します。  繰り返しになりますが、事例としてあげている設計部門では、現状の課題を次のように整理できています。 (1)繰り返し...


筋のよい技術の見極め

 1.筋のよい技術とは    R&Dの現場、特に研究や技術開発の現場では、「筋のよい技術」という言葉が頻繁に用いられます。...

 1.筋のよい技術とは    R&Dの現場、特に研究や技術開発の現場では、「筋のよい技術」という言葉が頻繁に用いられます。...