技術企業の高収益化:差異化の源泉は徹底的な顧客視点にある

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技術マネジメント

 

 収益の源泉が差異化にあることは、この連載の読者なら常識的知識だと思います。差異化によって、顧客価値が拡大し、収益が上がるというのが理屈です。この「差異化」という言葉ですが、どうもミスリードしてしまうことが多い言葉だな、と感じます。というのも「差異化」というと、競合企業との相違点と考えると思うのです。そうすると、どうしても競合企業に基準を置いて考えてしまいませんか?

 私はコンサルタントなので、クライアントの研究開発を見せてもらいますが、実際に競合比較表なるものを作って開発しているケースがあります。それについては、技術企業の高収益化:差異化の本当の意味とはをご覧ください。

 確かに、競合と比較して優れていると、差異化できていると思いますし、実際に収益につながる論理が立つものですから、競合比較で検討することは間違いではないと思います。

 実際に、クライアントにお邪魔すると「競合が新商品を出したから、それより優れた商品を出した」とか「競合よりも性能で優れた商品を出すことに成功した」という説明を聞くことがあります。それはそれで喜ばしいことだと思うので、私も「良かったですね」と応じます。

 ただ、私には違和感があるのです。というのも、私自身は競合他社と比較して新商品を開発することはないからなのです。競合他社が新しい商品を出したからといって、それより優れた商品を、という発想にはなりません。この違和感を共有することは、とても意味のあることだと思うので、今回はこのことを書かせていただきます。

 

1、競合基準の差異化意識よりも良いこと

 とはいっても、読者の皆さんのもとには、競合情報が押し寄せてくるのではないかと思います。営業部門は「競合と同じような商品を出せ」と言ってくるし、知財部門は競合の特許情報を定期配信してくるし、経営者は「競合に負けないようにしろ」と言ってくるかもしれません。

 日頃から競合と比較していると、比較の基準が競合になるのは仕方ないと思います。ただ、その基準で物事を考えても何か面白いものが出てくることはないと思うんですよ。最近の例でいえば、カーナビはスマホに置き換えられつつあります。「カーナビという機械」の枠組みで競合との比較で進化していてもダメだということです。

 車に乗られる方ならお分かりかと思いますが、更新するだけでお金がかかるカーナビにお金を使う人は減っていると思います。代わりに使うのはスマホです。ナビを使いたい時は、スマホのナビソフトを利用する人も多いと思います(違法になった「ながら運転」をするという意味ではありません)。

 カーナビの話はさておき、競合を基準にすることがない私がどうしているか、といえばクライアント視点を大事にしています。クライアント視点といえば「なんだ当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、クライアント視点が重要だという意識だけで終わる話ではないんです。

 意識だけで終わるのであれば、今までと同じですよね。どんな会社でもクライアント視点で考えているはずです。そこでもうひと押し。私はこのクライアント視点をかなり具体化しています。それは、ちょっと格好よく書かせていただきますと、クライアントの課題を解決するためのソリューションを予め準備しておく発想です。

 大事なことなのでもう一度書きます。クライアントの課題を解決するためのソリューションを予め準備しておくのです。

 

2、課題解決のための方法を予め準備

 「クライアント」は、私の言葉なので「顧客」と置き換えます。この言葉には3つの要素があります。顧客課題、解決するためのソリューション、予め準備の3つです。次に、簡単に解説します。

 

(1) 顧客課題

 顧客課題とは、数年後に顧客が直面するであろう課題です。数年後を想定するノウハウに基づいて、分析に時間をかけることが必要です。

(2) 解決するためのソリューション

 ソリューションというのがポイントです。カーナビがスマホになったように、必ずしも自社の事業・製品にこだわらず、解決する商品ラインナップを揃(そろ)えることが大切です。

(3) 予め準備

 予めというのがポイントです。数年後の課題なので、今とか来年ニーズがあるものではないのです。そのため、投資が先に立ちます。

 

3、どれだけのリソースを割いているか?

 差異化を考える上で、競合を基準に考えることは間違いではないと思います。しかし、上記の顧客視点の考えかたの方が、競合基準の差異化意識よりも良いのは実証されています。理由について分析すると、結果的に競争にならないことが多いからです。顧客視点で考えると、接しているお客様の数だけソリューションが出てきます。競合との差異化目線で考えると、競争が前提になりますよね。競合との比較視点ではなく、顧客視点で考えることで、結果的に競争をせずに価格主導権をとるこ...

技術マネジメント

 

 収益の源泉が差異化にあることは、この連載の読者なら常識的知識だと思います。差異化によって、顧客価値が拡大し、収益が上がるというのが理屈です。この「差異化」という言葉ですが、どうもミスリードしてしまうことが多い言葉だな、と感じます。というのも「差異化」というと、競合企業との相違点と考えると思うのです。そうすると、どうしても競合企業に基準を置いて考えてしまいませんか?

 私はコンサルタントなので、クライアントの研究開発を見せてもらいますが、実際に競合比較表なるものを作って開発しているケースがあります。それについては、技術企業の高収益化:差異化の本当の意味とはをご覧ください。

 確かに、競合と比較して優れていると、差異化できていると思いますし、実際に収益につながる論理が立つものですから、競合比較で検討することは間違いではないと思います。

 実際に、クライアントにお邪魔すると「競合が新商品を出したから、それより優れた商品を出した」とか「競合よりも性能で優れた商品を出すことに成功した」という説明を聞くことがあります。それはそれで喜ばしいことだと思うので、私も「良かったですね」と応じます。

 ただ、私には違和感があるのです。というのも、私自身は競合他社と比較して新商品を開発することはないからなのです。競合他社が新しい商品を出したからといって、それより優れた商品を、という発想にはなりません。この違和感を共有することは、とても意味のあることだと思うので、今回はこのことを書かせていただきます。

 

1、競合基準の差異化意識よりも良いこと

 とはいっても、読者の皆さんのもとには、競合情報が押し寄せてくるのではないかと思います。営業部門は「競合と同じような商品を出せ」と言ってくるし、知財部門は競合の特許情報を定期配信してくるし、経営者は「競合に負けないようにしろ」と言ってくるかもしれません。

 日頃から競合と比較していると、比較の基準が競合になるのは仕方ないと思います。ただ、その基準で物事を考えても何か面白いものが出てくることはないと思うんですよ。最近の例でいえば、カーナビはスマホに置き換えられつつあります。「カーナビという機械」の枠組みで競合との比較で進化していてもダメだということです。

 車に乗られる方ならお分かりかと思いますが、更新するだけでお金がかかるカーナビにお金を使う人は減っていると思います。代わりに使うのはスマホです。ナビを使いたい時は、スマホのナビソフトを利用する人も多いと思います(違法になった「ながら運転」をするという意味ではありません)。

 カーナビの話はさておき、競合を基準にすることがない私がどうしているか、といえばクライアント視点を大事にしています。クライアント視点といえば「なんだ当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、クライアント視点が重要だという意識だけで終わる話ではないんです。

 意識だけで終わるのであれば、今までと同じですよね。どんな会社でもクライアント視点で考えているはずです。そこでもうひと押し。私はこのクライアント視点をかなり具体化しています。それは、ちょっと格好よく書かせていただきますと、クライアントの課題を解決するためのソリューションを予め準備しておく発想です。

 大事なことなのでもう一度書きます。クライアントの課題を解決するためのソリューションを予め準備しておくのです。

 

2、課題解決のための方法を予め準備

 「クライアント」は、私の言葉なので「顧客」と置き換えます。この言葉には3つの要素があります。顧客課題、解決するためのソリューション、予め準備の3つです。次に、簡単に解説します。

 

(1) 顧客課題

 顧客課題とは、数年後に顧客が直面するであろう課題です。数年後を想定するノウハウに基づいて、分析に時間をかけることが必要です。

(2) 解決するためのソリューション

 ソリューションというのがポイントです。カーナビがスマホになったように、必ずしも自社の事業・製品にこだわらず、解決する商品ラインナップを揃(そろ)えることが大切です。

(3) 予め準備

 予めというのがポイントです。数年後の課題なので、今とか来年ニーズがあるものではないのです。そのため、投資が先に立ちます。

 

3、どれだけのリソースを割いているか?

 差異化を考える上で、競合を基準に考えることは間違いではないと思います。しかし、上記の顧客視点の考えかたの方が、競合基準の差異化意識よりも良いのは実証されています。理由について分析すると、結果的に競争にならないことが多いからです。顧客視点で考えると、接しているお客様の数だけソリューションが出てきます。競合との差異化目線で考えると、競争が前提になりますよね。競合との比較視点ではなく、顧客視点で考えることで、結果的に競争をせずに価格主導権をとることができるのです。

 ところで、この連載の読者なら、上に書いたようなことは概ね理解できていると思います。前述の通り、顧客課題を解決するためのソリューションを予め準備すれば、高収益になることは実証されています。ただ、あなたの会社では実践できているでしょうか?私が常々思うことなのですが、知っていることとできることは違います。知識が必ずしも行動に結びつかないことは多いのです。

 個人であれば知識や意識が行動に結びつくこともあるかもしれませんが、会社では別のことが必要です。それが何かといえば、実際にやることです。顧客視点での検討が必要だと知っているなら、実際にやらないで何が得られるというのでしょうか。

 知っているならば、やらないで結果は得られません。あなたが経営者ならば、知っていることを実践していただきたいと思います。そう、経営資源を「顧客課題を解決するためのソリューションを予め準備」することに費やすのです。ぜひ投入してください。必ず結果は出ます!

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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