中国企業改善指導のポイント 中国工場の品質改善(その83)

更新日

投稿日

中国

【第5章】中国企業改善指導のポイント

7、問題点を把握し対象する

 前回のその82に続いて解説します。

【問題点事例】

(1)変化点を調査させる~不良発生の陰に変化点あリ

 スポット溶接してある部品でその溶接部が断裂し、不良率60%にもなる不良が発生したことがありました。メーカーの原因調査報告によると溶接部の曲げ加工をする際に治具を使うが、その治具の調整を不具合対象ロットの生産とほぼ同時期に行っていたことが分かりました。このことで治具調整の不備によって不良が発生したものと断定しました。

 この報告を最初に受けた時はなるほどと思い、原因が分かったとひと安心したのですが、本当に治具調整で急にゼロだった不良が60%も発生するのだろうかという疑問が湧いてきました。治具調整はめったに行わないものではなく、比較的頻繁に行っていました。それはメーカーの調整記録からも確認できました。それなのにこの時の調整だけが悪く、これはどの不良を発生させてしまうのか、この疑問をメーカーに投げて、再度徹底した調査を行うよう要請しました。

 1週間後、再調査結果の報告がありましたが、そこには驚くべきことが書かれていました。なんと溶接部に使う材料に変化点があることが分かったのです。使用する材料の厚さは決まっていたのですが、メーカーで当該部品を生産する時に材料の確保が出来ず、同じ材質の厚さの厚い在庫品を圧延して使用していたのでした。材料の特性は非常に微妙で、圧延によって大きな影響を受けたことが今回の断裂不良の原因でした。

 筆者の今までの経験から、不具合の原因を突き詰めていくと何らか変化点がある場合がほとんどです。逆に考えると、変化点があった時の管理をしっかりやれば不良発生と流出を大きく減らすことができるということです。従って、工場の指導では通常生産されている時ではなく、何らかの変化点があった場合や異常が発生した場合の管理能力を高めるようにすることも一つの方法です。

(2)工場の当たり前は危険

 管理がしっかり出来ている中国企業でも、当たり前と思ってしまい改善できる問題を放置していることがあるので、それを見逃さずしっかり指導したいものです。その中国企業からは技術力の高さを感じましたが、その中心となっていたのが一人の博士でした。工程の管理内容もこの博士が中心になって作ったものでした。工程の管理も十分納得のいくものでしたが、この会社の大きな問題と必要な考え方は次の通りでした。

 最終の外観検査で多数の孔径不良をはじいていましたが、その不良品の多さを見て何のアクションも取っていなかったの...

中国

【第5章】中国企業改善指導のポイント

7、問題点を把握し対象する

 前回のその82に続いて解説します。

【問題点事例】

(1)変化点を調査させる~不良発生の陰に変化点あリ

 スポット溶接してある部品でその溶接部が断裂し、不良率60%にもなる不良が発生したことがありました。メーカーの原因調査報告によると溶接部の曲げ加工をする際に治具を使うが、その治具の調整を不具合対象ロットの生産とほぼ同時期に行っていたことが分かりました。このことで治具調整の不備によって不良が発生したものと断定しました。

 この報告を最初に受けた時はなるほどと思い、原因が分かったとひと安心したのですが、本当に治具調整で急にゼロだった不良が60%も発生するのだろうかという疑問が湧いてきました。治具調整はめったに行わないものではなく、比較的頻繁に行っていました。それはメーカーの調整記録からも確認できました。それなのにこの時の調整だけが悪く、これはどの不良を発生させてしまうのか、この疑問をメーカーに投げて、再度徹底した調査を行うよう要請しました。

 1週間後、再調査結果の報告がありましたが、そこには驚くべきことが書かれていました。なんと溶接部に使う材料に変化点があることが分かったのです。使用する材料の厚さは決まっていたのですが、メーカーで当該部品を生産する時に材料の確保が出来ず、同じ材質の厚さの厚い在庫品を圧延して使用していたのでした。材料の特性は非常に微妙で、圧延によって大きな影響を受けたことが今回の断裂不良の原因でした。

 筆者の今までの経験から、不具合の原因を突き詰めていくと何らか変化点がある場合がほとんどです。逆に考えると、変化点があった時の管理をしっかりやれば不良発生と流出を大きく減らすことができるということです。従って、工場の指導では通常生産されている時ではなく、何らかの変化点があった場合や異常が発生した場合の管理能力を高めるようにすることも一つの方法です。

(2)工場の当たり前は危険

 管理がしっかり出来ている中国企業でも、当たり前と思ってしまい改善できる問題を放置していることがあるので、それを見逃さずしっかり指導したいものです。その中国企業からは技術力の高さを感じましたが、その中心となっていたのが一人の博士でした。工程の管理内容もこの博士が中心になって作ったものでした。工程の管理も十分納得のいくものでしたが、この会社の大きな問題と必要な考え方は次の通りでした。

 最終の外観検査で多数の孔径不良をはじいていましたが、その不良品の多さを見て何のアクションも取っていなかったのです。聞けば「不良としてはじいて流出させていないので、良いと思っていた」との回答がありました。つまり、不良が多いのを当たり前と思っていることになります。これだけ不良率が高ければ、孔加工工程でその不良を検出することが出来るはずで、それが出来ていないことをおかしいと捉える思考が必要です。そして、そもそも孔径不良を発生させないことを考えることが大事です。

 次回は、(3)取引先に不良品を出荷させない。から解説を続けます。

 【出典】根本隆吉 著 「中国工場の品質改善」 日刊工業新聞社発行、筆者のご承諾により抜粋を連載 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改...


「生産マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
クレーム処理 儲かるメーカー改善の急所101項(その51)

4、作業改善の基本 ◆ クレーム処理  クレームは火事と同じです。もちろん起こさないことが一番ですが、もし起きてしまったら消火が第一優先です。まず...

4、作業改善の基本 ◆ クレーム処理  クレームは火事と同じです。もちろん起こさないことが一番ですが、もし起きてしまったら消火が第一優先です。まず...


キャラバン方式生産計画とは(3) 【快年童子の豆鉄砲】(その82)

       【「キャラバン方式生産計画」の進め方】 3.第2段階 第1段階で、モデルの段替え作業につい...

       【「キャラバン方式生産計画」の進め方】 3.第2段階 第1段階で、モデルの段替え作業につい...


動作経済の四原則:両手 儲かるメーカー改善の急所101項 (その4)

  1. モノづくり〈基本の基本〉   ◆ 動作経済の四原則その2:両手  今回は動作経済の四原則その2、両手を同時に使うにつ...

  1. モノづくり〈基本の基本〉   ◆ 動作経済の四原則その2:両手  今回は動作経済の四原則その2、両手を同時に使うにつ...


「生産マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
安定生産と特注品が混在の多品種少量生産工場、改革案とは

        今回は、次のような課題を抱えた多品種少量生産の工場について、改革案を解説します。    多品種少量生産での (1) 管理工数大 ...

        今回は、次のような課題を抱えた多品種少量生産の工場について、改革案を解説します。    多品種少量生産での (1) 管理工数大 ...


マシニング加工の改善 伸びる金型メーカーの秘訣 (その16)

 今回は、M工場の金型課におけるコンサルティング事例として、マシニング加工の改善について取り上げます。    近年、CAD/CAMシステムの...

 今回は、M工場の金型課におけるコンサルティング事例として、マシニング加工の改善について取り上げます。    近年、CAD/CAMシステムの...


中国工場人材の動機付け 中国企業の壁(その54)

        中国工場で中国人をマネジメントする目的は、こちらの期待通りに働いてもらうこと、そして定着して...

        中国工場で中国人をマネジメントする目的は、こちらの期待通りに働いてもらうこと、そして定着して...