中国工場の品質改善(その1) 中国進出での失敗事例

 
  生産マネジメント
 

1. こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善

 
 中国工場の品質管理をテーマとしたセミナーの講師を数多くやらせていただき、これまで多数の方に参加いただいています。みなさん自社の中国工場や取引先中国工場の品質に問題を抱えており、何かしらの解決策を求めて参加されていました。
 
 日系企業が香港から中国本土へ工場進出してから、30年余が経過しています。中国に進出した企業数(全業種)は、2012年時点で2万3000社にも及びます。製造業でみると中国工場を軌道に乗せて規模を拡大している日系企業も多くある一方で、軌道に乗せることができずに撤退している工場もあります。中国国内の最低賃金の上昇や生産労働人口の減少による工員の採用難などにより、中国での工場経営も厳しさを増しています。
 
 また、政治的リスクを避けるために、生産拠点を中国以外の国にも持つ“チャイナプラスワン”が叫ばれて久しいのですが、これを実行できる企業は限られています。何が何でも中国で頑張ると覚悟を決めることも必要ではないでしょうか。
 
 まして、これだけの企業が進出して、モノも人も行き交っているのですから、日本と中国はお互いになくてはならない存在であると言えます。それは、市場としての中国、製造拠点としての中国、調達先としての中国であり、どれもが日本にとって重要なものです。
 
 その中で製造拠点としての中国、調達先としての中国で問題になるのが品質です。中国に進出した日本企業は、日本で生産したときの品質が中国工場で再現できずに苦労しています。なぜこのようなこのようなことが起きるのでしょうか?
 
 それは、日本にはない中国独特の要因があるからです。本書では、中国工場のそうした要因を3M【Man(人)、Machine(設備・機械)、Material(部品・材料)】で分析するとともに、どのように対処していくのがよいのかを考え、今回から、連載を開始します。
 

【第1章 中国進出での失敗事例】

 
 ここでは、中国に進出した日本企業の失敗事例を紹介します。中国進出で品質トラブルを抱えた事例として、3Mの人・設備・材料それぞれに関わるものと撤退事例を紹介します。取り上げた事例は決して特殊なものではなく、多くの日系企業が同じような問題を抱えた経験をしています。新たに進出する企業にこれらの問題が起きることはもちろんですが、既に進出している企業でも繰り返される可能性がありますので、これら事例を反面教師としていただきたいと思います。
 

1.1 A社、管理出来る人材がいない

 
 とある大企業のA社では樹脂製機能部品を開発し国内工場で生産を始めました。実際は、国内工場での生産は僅かで量産試作的な位置付けの生産と言った方が正しいかもしれません。
 
 というのもコストの関係ですぐに台湾にある同社の工場に生産を移管したからです。日本企業が中国に工場進出するようになってから、量産は中国工場、量産試作は日本工場で行う、というように国内工場の役割が変わってきていました。国内工場で量産時の問題点を洗い出し、それらを潰してから中国工場に生産を移管するというものです。
 
 もっとも、中国に生産を移管して国内工場が縮小してくると、量産試作すらもできない企業が増えてきて、そうした企業では量産試作も含め中国でいきなり生産を開始するようになってきています。この事例の当時は、A社でも量産試作的な生産を日本国内でやっていました。
 
 量産試作を国内で行い、海外工場で量産を開始する場合、量産試作で出た問題点を潰す対策を海外工場での生産に反映させます。そのために、技術者など必要な人材を生産開始に合わせて海外工場に送り込みます。大企業では、何人もの技術者を送り込んで万全を期すことも可能です。
 
 しかし、人材に制約のある中小企業では現実的には難しいでしょう。それ故に技量が高く、あらゆることに対応できる人を一人送り込み、その人にすべてをやらせるという状況になる傾向があります。では大企業であるA社は台湾工場にどのような人材を送り込んだのでしょうか。
 
 A社が駐在員として選んだ人材は、入社2年目の若い人でした。その人には申し訳ないですが、新入社員に毛が生えた程度の社歴ですから技術的な知識はまだまだ不十分でしたし、工程管理などは経験したこともありませんでした。A社にとって今までにない初めての製品だったにも関わらず、台湾工場に対するサポートは不十分と言わざるを得ない状況でした。
 
  • [日本生産:1か月]→ [台湾生産:10年]→[中国生産]
 
 台湾でこの若い駐在員に工程管理などを指導できる先輩社員がいればまだよかったのですが、残念ながらそのような人はいませんでした。ですので、経験の浅い、若い駐在員が自分なりに試行錯誤しながら生産をしていました。そのような状況でしたので、台湾工場で生産していた製品の品質はどうだったかと言えば、決してよかったとは言えないレベルでした。それでもいろいろなトラブルを出しながらも何とか生産をしていました。
 
 台湾工場で10年くらい生産をしていましたが、その時期になると顧客の多くが中国に生産拠点を移すようになってきました。顧客からの要望もあり、A社のこの製品も中国工場に生産を移すことになりました。A社は既に他の製品では中国生産をしていましたので、その中の一つの中国工場でこの製品の生産を始めました。
 
 中国工場で生産を開始すると、台湾工場では収まっていた寸法不良を始め致命的な不良が多数発生しました。この不良発生の要因として、次の2点のことが考えられます。
 
  • 元々台湾工場できちんと管理ができていた訳で...
 
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1. こうすれば失敗しない!中国工場の品質改善

 
 中国工場の品質管理をテーマとしたセミナーの講師を数多くやらせていただき、これまで多数の方に参加いただいています。みなさん自社の中国工場や取引先中国工場の品質に問題を抱えており、何かしらの解決策を求めて参加されていました。
 
 日系企業が香港から中国本土へ工場進出してから、30年余が経過しています。中国に進出した企業数(全業種)は、2012年時点で2万3000社にも及びます。製造業でみると中国工場を軌道に乗せて規模を拡大している日系企業も多くある一方で、軌道に乗せることができずに撤退している工場もあります。中国国内の最低賃金の上昇や生産労働人口の減少による工員の採用難などにより、中国での工場経営も厳しさを増しています。
 
 また、政治的リスクを避けるために、生産拠点を中国以外の国にも持つ“チャイナプラスワン”が叫ばれて久しいのですが、これを実行できる企業は限られています。何が何でも中国で頑張ると覚悟を決めることも必要ではないでしょうか。
 
 まして、これだけの企業が進出して、モノも人も行き交っているのですから、日本と中国はお互いになくてはならない存在であると言えます。それは、市場としての中国、製造拠点としての中国、調達先としての中国であり、どれもが日本にとって重要なものです。
 
 その中で製造拠点としての中国、調達先としての中国で問題になるのが品質です。中国に進出した日本企業は、日本で生産したときの品質が中国工場で再現できずに苦労しています。なぜこのようなこのようなことが起きるのでしょうか?
 
 それは、日本にはない中国独特の要因があるからです。本書では、中国工場のそうした要因を3M【Man(人)、Machine(設備・機械)、Material(部品・材料)】で分析するとともに、どのように対処していくのがよいのかを考え、今回から、連載を開始します。
 

【第1章 中国進出での失敗事例】

 
 ここでは、中国に進出した日本企業の失敗事例を紹介します。中国進出で品質トラブルを抱えた事例として、3Mの人・設備・材料それぞれに関わるものと撤退事例を紹介します。取り上げた事例は決して特殊なものではなく、多くの日系企業が同じような問題を抱えた経験をしています。新たに進出する企業にこれらの問題が起きることはもちろんですが、既に進出している企業でも繰り返される可能性がありますので、これら事例を反面教師としていただきたいと思います。
 

1.1 A社、管理出来る人材がいない

 
 とある大企業のA社では樹脂製機能部品を開発し国内工場で生産を始めました。実際は、国内工場での生産は僅かで量産試作的な位置付けの生産と言った方が正しいかもしれません。
 
 というのもコストの関係ですぐに台湾にある同社の工場に生産を移管したからです。日本企業が中国に工場進出するようになってから、量産は中国工場、量産試作は日本工場で行う、というように国内工場の役割が変わってきていました。国内工場で量産時の問題点を洗い出し、それらを潰してから中国工場に生産を移管するというものです。
 
 もっとも、中国に生産を移管して国内工場が縮小してくると、量産試作すらもできない企業が増えてきて、そうした企業では量産試作も含め中国でいきなり生産を開始するようになってきています。この事例の当時は、A社でも量産試作的な生産を日本国内でやっていました。
 
 量産試作を国内で行い、海外工場で量産を開始する場合、量産試作で出た問題点を潰す対策を海外工場での生産に反映させます。そのために、技術者など必要な人材を生産開始に合わせて海外工場に送り込みます。大企業では、何人もの技術者を送り込んで万全を期すことも可能です。
 
 しかし、人材に制約のある中小企業では現実的には難しいでしょう。それ故に技量が高く、あらゆることに対応できる人を一人送り込み、その人にすべてをやらせるという状況になる傾向があります。では大企業であるA社は台湾工場にどのような人材を送り込んだのでしょうか。
 
 A社が駐在員として選んだ人材は、入社2年目の若い人でした。その人には申し訳ないですが、新入社員に毛が生えた程度の社歴ですから技術的な知識はまだまだ不十分でしたし、工程管理などは経験したこともありませんでした。A社にとって今までにない初めての製品だったにも関わらず、台湾工場に対するサポートは不十分と言わざるを得ない状況でした。
 
  • [日本生産:1か月]→ [台湾生産:10年]→[中国生産]
 
 台湾でこの若い駐在員に工程管理などを指導できる先輩社員がいればまだよかったのですが、残念ながらそのような人はいませんでした。ですので、経験の浅い、若い駐在員が自分なりに試行錯誤しながら生産をしていました。そのような状況でしたので、台湾工場で生産していた製品の品質はどうだったかと言えば、決してよかったとは言えないレベルでした。それでもいろいろなトラブルを出しながらも何とか生産をしていました。
 
 台湾工場で10年くらい生産をしていましたが、その時期になると顧客の多くが中国に生産拠点を移すようになってきました。顧客からの要望もあり、A社のこの製品も中国工場に生産を移すことになりました。A社は既に他の製品では中国生産をしていましたので、その中の一つの中国工場でこの製品の生産を始めました。
 
 中国工場で生産を開始すると、台湾工場では収まっていた寸法不良を始め致命的な不良が多数発生しました。この不良発生の要因として、次の2点のことが考えられます。
 
  • 元々台湾工場できちんと管理ができていた訳ではなかった
  • 中国に生産を移管したことで作業者や管理者などの人が変わった
 
 台湾工場でこうした不良が収まっていたのは、管理体制がしっかりしていたからではなく、管理者や作業者の経験でカバーしていたと思われます。中国工場の立ち上げに際して、台湾工場から前述の日本人駐在員や台湾人スタッフが指導に来ましたが、元々管理体制が不十分だったのですから中国工場にしっかりした管理体制を落し込めるはずもありません。
 
 また、この製品の生産経験がない中国人が現場の管理や作業をするので、経験でカバーしていた部分がゼロになったことで管理体制の不備が不良という形で顕在化したという訳です。生産を管理できる人材を用意しなかったことが問題の根本にあったということです。
 
 次回に続きます。
 
 【出典】根本隆吉 著 「中国工場の品質改善」 日刊工業新聞社発行
    筆者のご承諾により、抜粋を連載 
 

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この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

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