パーライト変態・マルテンサイト変態:金属材料基礎講座(その95)

更新日

投稿日

 

 

1.パーライト変態

 炭素鋼や工具鋼においてオーステナイトから温度が低下してフェライト+セメンタイトのパーライト変態を起こすことはとても重要なことです。

 

金属

図1.パーライト組織の成長過程

 

 パーライト組織の特徴はフェライトとセメンタイトの層状組織です。しかし、この組織がA1変態点を通過した瞬間に出来るわけではありません。パーライト組織にも成長過程があります。

 液相から固相に凝固する時と同様にパーライト変態にも核があります。まず初めに結晶粒界からセメンタイトの核が生成し、そこからセメンタイトが成長します(A)。セメンタイトは炭素量が高いので、その周りは炭素量が低くなります。そこでセメンタイトを囲むようにフェライトができます(B)。フェライトは炭素量が少ないので、その周りには再びセメンタイトができます(C)。

 これを繰り返しながら層状にフェライトとセメンタイトの析出(パーライト変態)が起こります。そして、すべてのオーステナイトがパーライト組織となって完了します。

 

2. マルテンサイト変態

 マルテンサイト変態とは、鋼をオーステナイト温度まで加熱した状態から急冷(焼入れ)させることによって非常に微細で硬い組織にすることです。

 マルテンサイト組織はフェライト、パーライト組織よりも微細な組織になります。マルテンサイト変態を起こすためにはいくつか条件があります。まず、鋼をオーステナイト相にする必要があるため、炭素量2%以下に限られます。また、炭素量が少なすぎてもマルテンサイト変態を起こしづらくなります。

 次にオーステナイトの鋼を共析変態点以下に急冷するとマルテンサイト変態を起こしますが、この時の冷却速度が遅いとマルテンサイト変態が起きずに、通常のパーライト組織になります。

 マルテンサイト変態によって鋼が硬くなる理由は主に炭素の影響です。

 例えば共析鋼を焼入れする場合、炭素量は0.76%です。高温のオーステナイト相ではこの炭素量は全て固溶していますが、低温のフェライト相では炭素の最大固溶量はわずか...

 

 

1.パーライト変態

 炭素鋼や工具鋼においてオーステナイトから温度が低下してフェライト+セメンタイトのパーライト変態を起こすことはとても重要なことです。

 

金属

図1.パーライト組織の成長過程

 

 パーライト組織の特徴はフェライトとセメンタイトの層状組織です。しかし、この組織がA1変態点を通過した瞬間に出来るわけではありません。パーライト組織にも成長過程があります。

 液相から固相に凝固する時と同様にパーライト変態にも核があります。まず初めに結晶粒界からセメンタイトの核が生成し、そこからセメンタイトが成長します(A)。セメンタイトは炭素量が高いので、その周りは炭素量が低くなります。そこでセメンタイトを囲むようにフェライトができます(B)。フェライトは炭素量が少ないので、その周りには再びセメンタイトができます(C)。

 これを繰り返しながら層状にフェライトとセメンタイトの析出(パーライト変態)が起こります。そして、すべてのオーステナイトがパーライト組織となって完了します。

 

2. マルテンサイト変態

 マルテンサイト変態とは、鋼をオーステナイト温度まで加熱した状態から急冷(焼入れ)させることによって非常に微細で硬い組織にすることです。

 マルテンサイト組織はフェライト、パーライト組織よりも微細な組織になります。マルテンサイト変態を起こすためにはいくつか条件があります。まず、鋼をオーステナイト相にする必要があるため、炭素量2%以下に限られます。また、炭素量が少なすぎてもマルテンサイト変態を起こしづらくなります。

 次にオーステナイトの鋼を共析変態点以下に急冷するとマルテンサイト変態を起こしますが、この時の冷却速度が遅いとマルテンサイト変態が起きずに、通常のパーライト組織になります。

 マルテンサイト変態によって鋼が硬くなる理由は主に炭素の影響です。

 例えば共析鋼を焼入れする場合、炭素量は0.76%です。高温のオーステナイト相ではこの炭素量は全て固溶していますが、低温のフェライト相では炭素の最大固溶量はわずか0.02%程度しかなく、固溶できない炭素の大部分は共析反応でパーライト(フェライトとセメンタイト)になります。この共析反応は時間をかけて炭素の移動(拡散)が行われます。この時に急冷すると、炭素は拡散できずにフェライト相に強制的に取り込まれます(無拡散変態)。これがマルテンサイト組織になります。

 

 次回に続きます。

 

 

◆【関連解説:金属・無機材料技術】

   続きを読むには・・・


この記事の著者

福﨑 昌宏

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

もっと見る
ビーチマーク、延性破壊と脆性破壊 金属材料基礎講座(その44)

    1. ビーチマーク  ビーチマークも前回のストライエーションと同様に割れの進行で見られる特徴的な破面の一つです。  亀...

    1. ビーチマーク  ビーチマークも前回のストライエーションと同様に割れの進行で見られる特徴的な破面の一つです。  亀...


マクロ偏析 金属材料基礎講座(その20)

   マクロ偏析はミクロ偏析と金属の凝固組織を合わせたような形になります。合金の凝固において、初めに凝固した方が合金濃度が薄いです。そして金属...

   マクロ偏析はミクロ偏析と金属の凝固組織を合わせたような形になります。合金の凝固において、初めに凝固した方が合金濃度が薄いです。そして金属...


JIS G3106 溶接構造用圧延鋼材:金属材料基礎講座(その102)

  SM〇〇〇のように表記されます。SMはSteel Marine、数字は引張強さ(MPa)を表しています。数字はSS材と同じく引張強さ(...

  SM〇〇〇のように表記されます。SMはSteel Marine、数字は引張強さ(MPa)を表しています。数字はSS材と同じく引張強さ(...


「金属・無機材料技術」の活用事例

もっと見る
ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...


金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...