鉄錆の原因とは?対策や落とし方も紹介

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鉄錆の原因とは?対策や落とし方も紹介


鉄などの金属が錆びるのは日常よく見られる大変身近な現象です。鉄の錆が製品の外観や強度、機能などを損ねることから「身から出た錆」という慣用句が生まれましたが、さまざまな場所に発生する錆を防いで製品の品質を確保することは、ものづくりの重要な課題のひとつです。鉄の「錆」とはどのようなものか、原因や防ぐ方法、錆びてしまった場合の落とし方について解説します。

【目次】


    鉄の「錆」とは

    鉄の「錆」とは、鉄表面の原子が環境中の酸素・水分などとの酸化還元反応によりイオン化し、鉄酸化物(酸化鉄)もしくは含水酸化物(水酸化鉄・オキシ水酸化鉄)などの化合物に変化して鉄表面に堆積したものです。「銹」「鏽」とも書き、英語では「rust」と呼ばれます。一般的に「錆」と言った場合には、多くは赤褐色の「赤錆」のことを指します。

    【鉄錆の発生メカニズムの解説はこちら】
    【金属材料の重要ポイントがわかる!連載記事『金属材料基礎講座』はこちら】

    鉄の錆には種類がある

    一般的に錆と呼ばれる赤褐色の錆が赤錆です。成分は酸化鉄(III)(酸化第二鉄)で、化学式は Fe2O3 です。酸化鉄(III)は地球上に広く存在する物質で、磁気記憶材料や研磨剤などの原料にもなります。また赤色の顔料(ベンガラ)として利用されたり、茶と黒の毛が入り混じった模様の猫のことを赤錆の色になぞらえて「錆猫」と呼んだりするなど、色彩の面でも日常生活に深く関わっています。
    いっぽう黒錆は、四酸化三鉄(酸化鉄(III)鉄(II))を成分とする黒色の錆で、化学式は Fe3O4 です。黒錆の層・被膜のことを黒皮とも呼び、内部の鉄と空気の接触を防ぐことで赤錆を防止する役割を果たします。鉄鍋を初めて使用する際に強火にかけて表面に黒皮を作り赤錆を防ぎますが、これなどは黒皮の身近な応用例です。
    鉄以外の金属では、銅や真鍮に発生する青錆(緑青)や、アルミニウムや亜鉛に発生する白錆もよく見られる錆です。

    鉄はなぜ錆びるのか

    鉄はイオン化傾向が高いため、酸素や水があるところに鉄を放置すると容易に錆(赤錆)が発生します。初期の赤錆は表面のみに発生しますが、それ自体が水分や汚れを留め、さらに鉄の表面に凹凸が生じて反応面積が増すので、一旦錆が生じると深さも広がりも加速度的に進行します。また、錆びている部分が錆びていない部分に接触すると錆が移ることもあります。この場合、ステンレス鋼などの錆びにくい材質でも表面が錆びるので注意が必要です。
    海水や、融雪剤、塩化物・硫黄などを含む排ガス、ほこりや汚れ、さらには汗などの体液によっても錆は促進されます。犬が鋼鉄製の電柱などに繰り返し尿をかけたために根元が錆びて倒壊するという事故も発生しています。

    鉄錆を防ぐ方法

    鉄錆(赤錆)は既に述べてきたように一旦発生すると加速度的に進行し、製品の外観や強度、機能を損ねます。そのため酸素や水と鉄表面との接触を断ち、錆を最初から発生させないのがいちばんの対策で、以下のような方法があります。

    1) 塗装をする

    塗料の被膜で酸素や水との接触を断つことで、錆の発生を防ぎます。さらに防錆効果のある鉛系やクロム酸系、近年ではリン酸塩系の顔料を含んだ塗料を下塗りに用いることで、より効果的に錆を防ぐことができます。
    製品の形状によっては、吹付や刷毛塗などの方法では塗装が行きわたらない個所が発生し、そこから錆が発生してしまうことがあります。そのため例えば自動車の車体などでは、隅々まで防錆塗料を行きわたらせるために電着塗装や浸漬塗装(どぶ漬け塗装)などが行われています。

    2) メッキ加工をする

    鉄の表面に錆びにくい金属の被膜を形成することで酸素や水との接触を遮断し錆を防ぐ方法で、クロームメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどがよく使われます。製品・部品の形状を作ってからメッキ処理をする以外に、自動車などでは予め亜鉛メッキされた鋼板を用いて製品を作ることも行われています。

    3) 錆びにくい材質を使う

    一般的な鋼鉄よりも錆びにくい材質を使用するのもひとつの方法です。屋外や水回りで使う製品、また医療機器や食品製造関連装置などでは、ステンレス鋼が広く使われています。

    【関連記事:ステンレス鋼】
    【関連記事:銀色の電車が増えた!?進化を続けるステンレス車両のメリットとは】

    そのまま使用してもあまり錆びず、またその錆が内部に進まない耐候性鋼も、建築物や橋梁などに使われることがあります。アルミ合金やチタン合金、ニッケル合金なども鋼鉄より錆びにくいので、用途に応じて使われます。

    4) 異種の金属の接触を避ける

    異なる種類の金属が直接接触しているところに水分が付着すると、自然電位の差によって異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)という現象が起きて錆が促進されます。鉄とアルミニウムなど異なる種類の金属が接触する設計には注意が必要です。

    5) その他の方法

    以上のような方法が取れない場合、例えば製品の製造過程で鋼鉄の地肌の状態で保管しなければならないような際には、なるべく水がかからず乾燥した環境に置く、何らかの包装をする、防錆油を塗布しておくなどの対策が必要となります。しかしさらにいい方法は、製造工程を工夫して地肌の状態での保管を極力避けることです。

    鉄錆を落とす方法

    上記のように錆は発生させない...


    鉄錆の原因とは?対策や落とし方も紹介


    鉄などの金属が錆びるのは日常よく見られる大変身近な現象です。鉄の錆が製品の外観や強度、機能などを損ねることから「身から出た錆」という慣用句が生まれましたが、さまざまな場所に発生する錆を防いで製品の品質を確保することは、ものづくりの重要な課題のひとつです。鉄の「錆」とはどのようなものか、原因や防ぐ方法、錆びてしまった場合の落とし方について解説します。

    【目次】


      鉄の「錆」とは

      鉄の「錆」とは、鉄表面の原子が環境中の酸素・水分などとの酸化還元反応によりイオン化し、鉄酸化物(酸化鉄)もしくは含水酸化物(水酸化鉄・オキシ水酸化鉄)などの化合物に変化して鉄表面に堆積したものです。「銹」「鏽」とも書き、英語では「rust」と呼ばれます。一般的に「錆」と言った場合には、多くは赤褐色の「赤錆」のことを指します。

      【鉄錆の発生メカニズムの解説はこちら】
      【金属材料の重要ポイントがわかる!連載記事『金属材料基礎講座』はこちら】

      鉄の錆には種類がある

      一般的に錆と呼ばれる赤褐色の錆が赤錆です。成分は酸化鉄(III)(酸化第二鉄)で、化学式は Fe2O3 です。酸化鉄(III)は地球上に広く存在する物質で、磁気記憶材料や研磨剤などの原料にもなります。また赤色の顔料(ベンガラ)として利用されたり、茶と黒の毛が入り混じった模様の猫のことを赤錆の色になぞらえて「錆猫」と呼んだりするなど、色彩の面でも日常生活に深く関わっています。
      いっぽう黒錆は、四酸化三鉄(酸化鉄(III)鉄(II))を成分とする黒色の錆で、化学式は Fe3O4 です。黒錆の層・被膜のことを黒皮とも呼び、内部の鉄と空気の接触を防ぐことで赤錆を防止する役割を果たします。鉄鍋を初めて使用する際に強火にかけて表面に黒皮を作り赤錆を防ぎますが、これなどは黒皮の身近な応用例です。
      鉄以外の金属では、銅や真鍮に発生する青錆(緑青)や、アルミニウムや亜鉛に発生する白錆もよく見られる錆です。

      鉄はなぜ錆びるのか

      鉄はイオン化傾向が高いため、酸素や水があるところに鉄を放置すると容易に錆(赤錆)が発生します。初期の赤錆は表面のみに発生しますが、それ自体が水分や汚れを留め、さらに鉄の表面に凹凸が生じて反応面積が増すので、一旦錆が生じると深さも広がりも加速度的に進行します。また、錆びている部分が錆びていない部分に接触すると錆が移ることもあります。この場合、ステンレス鋼などの錆びにくい材質でも表面が錆びるので注意が必要です。
      海水や、融雪剤、塩化物・硫黄などを含む排ガス、ほこりや汚れ、さらには汗などの体液によっても錆は促進されます。犬が鋼鉄製の電柱などに繰り返し尿をかけたために根元が錆びて倒壊するという事故も発生しています。

      鉄錆を防ぐ方法

      鉄錆(赤錆)は既に述べてきたように一旦発生すると加速度的に進行し、製品の外観や強度、機能を損ねます。そのため酸素や水と鉄表面との接触を断ち、錆を最初から発生させないのがいちばんの対策で、以下のような方法があります。

      1) 塗装をする

      塗料の被膜で酸素や水との接触を断つことで、錆の発生を防ぎます。さらに防錆効果のある鉛系やクロム酸系、近年ではリン酸塩系の顔料を含んだ塗料を下塗りに用いることで、より効果的に錆を防ぐことができます。
      製品の形状によっては、吹付や刷毛塗などの方法では塗装が行きわたらない個所が発生し、そこから錆が発生してしまうことがあります。そのため例えば自動車の車体などでは、隅々まで防錆塗料を行きわたらせるために電着塗装や浸漬塗装(どぶ漬け塗装)などが行われています。

      2) メッキ加工をする

      鉄の表面に錆びにくい金属の被膜を形成することで酸素や水との接触を遮断し錆を防ぐ方法で、クロームメッキ、ニッケルメッキ、亜鉛メッキなどがよく使われます。製品・部品の形状を作ってからメッキ処理をする以外に、自動車などでは予め亜鉛メッキされた鋼板を用いて製品を作ることも行われています。

      3) 錆びにくい材質を使う

      一般的な鋼鉄よりも錆びにくい材質を使用するのもひとつの方法です。屋外や水回りで使う製品、また医療機器や食品製造関連装置などでは、ステンレス鋼が広く使われています。

      【関連記事:ステンレス鋼】
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      そのまま使用してもあまり錆びず、またその錆が内部に進まない耐候性鋼も、建築物や橋梁などに使われることがあります。アルミ合金やチタン合金、ニッケル合金なども鋼鉄より錆びにくいので、用途に応じて使われます。

      4) 異種の金属の接触を避ける

      異なる種類の金属が直接接触しているところに水分が付着すると、自然電位の差によって異種金属接触腐食(ガルバニック腐食)という現象が起きて錆が促進されます。鉄とアルミニウムなど異なる種類の金属が接触する設計には注意が必要です。

      5) その他の方法

      以上のような方法が取れない場合、例えば製品の製造過程で鋼鉄の地肌の状態で保管しなければならないような際には、なるべく水がかからず乾燥した環境に置く、何らかの包装をする、防錆油を塗布しておくなどの対策が必要となります。しかしさらにいい方法は、製造工程を工夫して地肌の状態での保管を極力避けることです。

      鉄錆を落とす方法

      上記のように錆は発生させないようにするのがいちばんですが、発生してしまった赤錆を除去する方法としては以下のようなものがあります。

      1) 錆除去剤で除去する

      各種の錆除去剤が供給されているので、材質や錆の種類、程度、使用環境によって使い分けます。錆除去剤の多くは酸性ですが、中性、アルカリ性のものもあります。酸性のものは無機酸(リン酸・塩酸など)や有機酸(リンゴ酸・シュウ酸など)、中性のものはチオグリコール酸塩などが主成分です。よく使われるリン酸系の錆除去剤は、鉄錆を溶解・除去すると同時に、溶解した鉄とリン酸が化合して「リン酸塩皮膜」を作って防錆機能を果たすことが特徴です。
      工業用のものも供給されていますが、例えば生産設備や治工具などのちょっとした手入れには、ホームセンターなどで売られている一般家庭や自動車・バイクユーザー向けの商品を試してみるのもいい方法です。

      2) 研磨する

      研磨剤やワイヤーブラシ、サンドペーパー、グラインダーなどを使って物理的に錆を落とす方法です。製品の機能や外観を損なわないよう、方法を選んで慎重に行う必要があります。また錆を落としても放置するとまたすぐに錆びてしまうので、削り落とした錆の粉をきれいに取り除いたうえで、速やかに何らかの防錆処理を行うことが重要です。

      3) 青錆や白錆は

      銅や真鍮の青錆、アルミニウムや亜鉛の白錆にも、それぞれ除去剤が供給されています。身近なものではお酢(酢酸)やクエン酸、また青錆は重曹でも落とすことが可能です。

      鉄錆についてのまとめ

      鉄の「錆」とは、鉄表面の原子が環境中の酸素・水分などとの酸化還元反応によりイオン化し、鉄酸化物(酸化鉄)もしくは含水酸化物(水酸化鉄・オキシ水酸化鉄)などの化合物に変化して鉄表面に堆積したものです。一般的に錆と呼ばれる赤錆の成分は酸化鉄(III)(酸化第二鉄)で、化学式は Fe2O3 です。
      錆を防ぐには酸素や水と鉄表面との接触を断つことが有効で、防錆塗装、メッキ加工などの方法があります。発生してしまった錆の除去には、各種の錆除去剤や研磨材料を使用します。

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      この記事の著者

      嶋村 良太

      商品企画・デザインとエンジニアリングの両方の視点を統合し、顧客満足度の高い商品開発を実現していきます。

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