遅れ破壊とは:金属材料基礎講座(その72)

更新日

投稿日

 

◆ 遅れ破壊:鋼材に水素が侵入

 材料内部に水素が侵入することで、材料がもろくなり破壊する現象です。

 水素が材料に侵入してから破壊するまでに時間がかかるため、遅れ破壊と呼ばれます。また、水素が原因となる破壊のため水素脆性(ぜいせい)割れとも呼ばれます。遅れ破壊の模式図を図1に示します。

金属

図1.遅れ破壊の模式図

 

 水素分子は金属材料の内部に侵入することはできませんが、水素原子は最も小さいため、金属材料の内部に拡散して侵入していきます。この水素原子が金属材料内部で水素分子のガスになると圧力がかかり、金属材料をもろくします。

 遅れ破壊の原因である水素の供給は水素発生型の腐食、酸洗い、めっき、溶接などがあります。めっきでは電気分解によって水素が発生することがあります。溶接では溶接時の水分の巻きこみなどが水素発生源となります。

 遅れ破壊を起こす材料として、高張力鋼や高張力ボルトなどがあります。高張力鋼は引張強度が高くいわゆるハイテンや超ハイテンなどがあります。ハイテンは高強度になるほど遅れ破壊の影響を受けやすくなります。かつ...

 

◆ 遅れ破壊:鋼材に水素が侵入

 材料内部に水素が侵入することで、材料がもろくなり破壊する現象です。

 水素が材料に侵入してから破壊するまでに時間がかかるため、遅れ破壊と呼ばれます。また、水素が原因となる破壊のため水素脆性(ぜいせい)割れとも呼ばれます。遅れ破壊の模式図を図1に示します。

金属

図1.遅れ破壊の模式図

 

 水素分子は金属材料の内部に侵入することはできませんが、水素原子は最も小さいため、金属材料の内部に拡散して侵入していきます。この水素原子が金属材料内部で水素分子のガスになると圧力がかかり、金属材料をもろくします。

 遅れ破壊の原因である水素の供給は水素発生型の腐食、酸洗い、めっき、溶接などがあります。めっきでは電気分解によって水素が発生することがあります。溶接では溶接時の水分の巻きこみなどが水素発生源となります。

 遅れ破壊を起こす材料として、高張力鋼や高張力ボルトなどがあります。高張力鋼は引張強度が高くいわゆるハイテンや超ハイテンなどがあります。ハイテンは高強度になるほど遅れ破壊の影響を受けやすくなります。かつて橋梁(きょうりょう)の組み立てに高張力ボルトが使用されていましたが、遅れ破壊が発生する事故がおこりました。対策として強度を下げたボルトが使用されました。

 

 次回に続きます。

◆【関連解説:金属・無機材料技術】

   続きを読むには・・・


この記事の著者

福﨑 昌宏

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。

金属組織の分析屋 金属材料の疲労破壊や腐食など不具合を解決します。


「金属・無機材料技術」の他のキーワード解説記事

もっと見る
XRDの相対強度、構造因子:金属材料基礎講座(その132)

【目次】 1. XRDの相対強度 XRDにおいて回折パターンの相対強度におよぼす影響は、次の6項目があります。  ...

【目次】 1. XRDの相対強度 XRDにおいて回折パターンの相対強度におよぼす影響は、次の6項目があります。  ...


構造 金属材料基礎講座(その1)

  1.金属結合  金属を構成する物質の最小単位は原子です。例えば鉄原子やアルミニウム原子などです。原子の結合には主に金属結合、イオン結合、...

  1.金属結合  金属を構成する物質の最小単位は原子です。例えば鉄原子やアルミニウム原子などです。原子の結合には主に金属結合、イオン結合、...


ステレオ投影とミラー指数:金属材料基礎講座(その188) わかりやすく解説

【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコムでは、製造業に関するセミナーを常時2,00...

【目次】 国内最多のものづくりに関するセミナー掲載中! ものづくりドットコムでは、製造業に関するセミナーを常時2,00...


「金属・無機材料技術」の活用事例

もっと見る
ゾルゲル法による反射防止コートの開発と生産

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...

 15年前に勤務していた自動車用部品の製造会社で、ゾルゲル法による反射防止コートを樹脂基板上に製造する業務の設計責任者をしていました。ゾルゲル法というのは...


金代替めっき接点の開発事例 (コネクター用貴金属めっき)

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...

 私は約20年前に自動車用コネクターメーカーで、接点材料の研究開発を担当していました。当時の接点は錫めっきが主流でした。一方、ECU(エンジンコントロール...