刃物の摩耗管理は、中国ではなぜできない。 中国企業の壁(その6)

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1. 刃物の摩耗管理は、中国ではなぜできない。

  今回は、リード線をカットする刃物の管理に関する話です。セットメカや電気部品によく使われるリード線。単品のもの、コネクターなどが付いているもの、少ないものでは2本から多いものでは何十本の線のものまで多種多様です。このリード線の不良としては、芯線切れ、芯線傷、皮膜ちぎれそして誤配線などがあります。芯線に関する不良と誤配線は、電気的トラブルとなり致命的な不良となります。
 
 芯線切れや傷は、長尺ものを切断し皮剥きした時に発生する不良です。皮を剥くときに刃物が深く入り過ぎると、芯線が切れたり、傷が入ったりします。その調整が重要となります。多くのリード線加工メーカーは、皮剥き後の状態を頻繁に顕微鏡で検査していますが、これは出来栄え管理に他なりません。皮膜ちぎれは、刃物の入り方が不十分か、刃物が磨耗して切れ味が悪くなった場合に起きます。これも刃物の入り方の調整と皮剥き後の状態を検査して保証しています。
 
 広東省にある比較的品質管理が出来ている日系リード線加工メーカーでも、刃物の磨耗に関しては、皮剥き後の検査による出来栄え管理だけしか行っていませんでした。ですが、刃物の磨耗に関しては、ショット数(加工数)管理をしていくべきです。当然刃物を交換した後や、メンテした後は切れ味がよく調整がきちんと出来ていれば、問題は起きません。加工を重ねていくと切れ味が悪くなってくるので、だいたいどのくらい加工したら悪くなるのか、その目安を持っておきたいところです。
 
 その目安をもつことにより、悪くなる時期がわかり検査する側に注意を促せ、見逃し防止に繋がります。磨耗する加工数にバラツキが小さければ、出来栄えがよくてもある一定の加工数になった時点で、刃物は交換することを決めることが望ましい。刃物はリード線だけでなく、工場のいろいろなところで使われています。様々な業種の工場で管理方法を見てきましたが、多くは出来栄え管理だけでしたので、その都度、ショット数管理の必要性を説明・指導してきました。
 
 中国企業
 

2.中国人作業者の考察

 今回は、中国人作業者をどう捉えるかを考えてみることにします。これに関してメールで相談をいただいたのでアドバイスさせてもらいました。 これに対して、相談者のNさんからコメントいただきました。
 
 「小生、品質管理・品質保証に永らく携わっています。しかし、国外の品質指導は最近になってからの事であり戸惑う事が有りましたが、根本様のアドバイスをいただき基本的には小生の考え(ポリシー)にそれほどの誤りが無い事を確認いたしました。 本当に有難うございました。」
 
 Nさんの人為的なミスに関する基本的な考え方をご紹介します。
 
(1) 人は誰も失敗(ミス)しようとして失敗している訳ではない。 会社を困らせてやろうとして、意識的に不具合品を出しているのではない。 ・・・性善説を取ります。
 
(2) 人は皆チョンボ(失敗)をするもので有り、これを皆無にするのは難しい。 しかし、失敗を起こし難い環境を作って行くのは会社(管理者)の責務である。
 
(3) 起きたことは取り返せない。 これを次にどうして生かしていくかを考えるのが管理者の仕事。但し、責任 ばかりを追及すると、真の原因が見えてこない(隠される)場合がある。
 
 本質を捉えたしっかりしたポリシーだと思います。わたしの中国での経験を通して得た考えを紹介します。
 
 「中国人の作業者、特にライン作業者はみな一生懸命働いていると思います。その姿を見ると作業者を信用してこそ信頼関係が出来、品質がよくなると考えていた時期と、作業者もわざとじゃないけど手を抜いたり、決められたやり方を守らなかったりするものだと考えていた時期を交互に繰り返していました。」
 
 極端な言い方をすれば、性善説と性悪説を行ったり来たりしていたのです。今大事だと考えているのは、作業者への意識付けとポカよけや不良を確実に検出できる仕組みです。作業者への意識付けとは、自分が行っている作業がいかに重要な作業か、というのを理解してもらうことです。これがあるかないかが、ちょっとしたことで不良になるかならないかを分ける部分だと思っています。自分の作業の重要性というのは、自分が作っている製品・部品が最終的にどのような製品になって世の中に出るかということです。...

1. 刃物の摩耗管理は、中国ではなぜできない。

  今回は、リード線をカットする刃物の管理に関する話です。セットメカや電気部品によく使われるリード線。単品のもの、コネクターなどが付いているもの、少ないものでは2本から多いものでは何十本の線のものまで多種多様です。このリード線の不良としては、芯線切れ、芯線傷、皮膜ちぎれそして誤配線などがあります。芯線に関する不良と誤配線は、電気的トラブルとなり致命的な不良となります。
 
 芯線切れや傷は、長尺ものを切断し皮剥きした時に発生する不良です。皮を剥くときに刃物が深く入り過ぎると、芯線が切れたり、傷が入ったりします。その調整が重要となります。多くのリード線加工メーカーは、皮剥き後の状態を頻繁に顕微鏡で検査していますが、これは出来栄え管理に他なりません。皮膜ちぎれは、刃物の入り方が不十分か、刃物が磨耗して切れ味が悪くなった場合に起きます。これも刃物の入り方の調整と皮剥き後の状態を検査して保証しています。
 
 広東省にある比較的品質管理が出来ている日系リード線加工メーカーでも、刃物の磨耗に関しては、皮剥き後の検査による出来栄え管理だけしか行っていませんでした。ですが、刃物の磨耗に関しては、ショット数(加工数)管理をしていくべきです。当然刃物を交換した後や、メンテした後は切れ味がよく調整がきちんと出来ていれば、問題は起きません。加工を重ねていくと切れ味が悪くなってくるので、だいたいどのくらい加工したら悪くなるのか、その目安を持っておきたいところです。
 
 その目安をもつことにより、悪くなる時期がわかり検査する側に注意を促せ、見逃し防止に繋がります。磨耗する加工数にバラツキが小さければ、出来栄えがよくてもある一定の加工数になった時点で、刃物は交換することを決めることが望ましい。刃物はリード線だけでなく、工場のいろいろなところで使われています。様々な業種の工場で管理方法を見てきましたが、多くは出来栄え管理だけでしたので、その都度、ショット数管理の必要性を説明・指導してきました。
 
 中国企業
 

2.中国人作業者の考察

 今回は、中国人作業者をどう捉えるかを考えてみることにします。これに関してメールで相談をいただいたのでアドバイスさせてもらいました。 これに対して、相談者のNさんからコメントいただきました。
 
 「小生、品質管理・品質保証に永らく携わっています。しかし、国外の品質指導は最近になってからの事であり戸惑う事が有りましたが、根本様のアドバイスをいただき基本的には小生の考え(ポリシー)にそれほどの誤りが無い事を確認いたしました。 本当に有難うございました。」
 
 Nさんの人為的なミスに関する基本的な考え方をご紹介します。
 
(1) 人は誰も失敗(ミス)しようとして失敗している訳ではない。 会社を困らせてやろうとして、意識的に不具合品を出しているのではない。 ・・・性善説を取ります。
 
(2) 人は皆チョンボ(失敗)をするもので有り、これを皆無にするのは難しい。 しかし、失敗を起こし難い環境を作って行くのは会社(管理者)の責務である。
 
(3) 起きたことは取り返せない。 これを次にどうして生かしていくかを考えるのが管理者の仕事。但し、責任 ばかりを追及すると、真の原因が見えてこない(隠される)場合がある。
 
 本質を捉えたしっかりしたポリシーだと思います。わたしの中国での経験を通して得た考えを紹介します。
 
 「中国人の作業者、特にライン作業者はみな一生懸命働いていると思います。その姿を見ると作業者を信用してこそ信頼関係が出来、品質がよくなると考えていた時期と、作業者もわざとじゃないけど手を抜いたり、決められたやり方を守らなかったりするものだと考えていた時期を交互に繰り返していました。」
 
 極端な言い方をすれば、性善説と性悪説を行ったり来たりしていたのです。今大事だと考えているのは、作業者への意識付けとポカよけや不良を確実に検出できる仕組みです。作業者への意識付けとは、自分が行っている作業がいかに重要な作業か、というのを理解してもらうことです。これがあるかないかが、ちょっとしたことで不良になるかならないかを分ける部分だと思っています。自分の作業の重要性というのは、自分が作っている製品・部品が最終的にどのような製品になって世の中に出るかということです。それを具体的にイメージしてもらい、家族や親戚などが買った時に不良だったらどんな気持ちになるか、などを考えてもらうといいでしょう。
 
 身近な商品だとイメージが湧きやすくていいのですが。何でもないことのようですが、これってすごく重要です。何を作っているか、意味もわからずに作業をすることほどつらいことはありません。そのように作業させることは、あってはなりません。
 
 作業者は一生懸命作業しているが、ミスをゼロにすることは出来ない。また、ほとんどの作業者はきちんと作業しているが、極一部の作業者が決まりを守らないことはある。これらによって発生した不良を工程内で確実に検出して社内で留め、顧客に不良品を流出させないことです。そしてNさんも言っていますが、ミスを起こさないような工程設計、作業設定をするのは、管理者、会社の責任。この考え方は、ものづくりをする場合に必ず実施しなければならない基本中の基本です。最後に原因と対策を混同しないこと。 原因を究明して、初めて対策が取れるという基本姿勢を忘れないように心掛けています。
  

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この記事の著者

根本 隆吉

中国工場の改善・指導に強みを持っている専門家です。 社名の「KPI」は「Key Process Improvement」のことで、工場の最も重要な工程の改善・再構築を第一の使命と考え皆様を支援します。

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