クリーン化について(その141)クリーン化の基礎(その3)

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  クリーン化について(その141)クリーン化の基礎(その3)
【目次】

     

    ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。

     

    高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。クリーン化について(その140)クリーン化の基礎(その2)の続きです。

     

    7. 弱体化する日本のクリーン化

    現在の日本ではクリーン化に手を抜き、製造現場が弱くなっていると感じる。もちろん、国内空洞化が加速し、工場がどんどん東南アジアへ出ていく。つまり現場を管理する対象が少なくなったことも一因でしょう。東南アジアの工場の幾つかを見ると、一生懸命現場改善に取り組んでいるところが増えていると感じた。また、一生懸命やっているところほど、声を掛けられるのです。真剣なやりとりをしていると、その過程でも成長を感じた。

     

    そのような現場を見て、“日本はもう追い越されている”と感じることがしばしばあった。現場の作業者からの質問も、レベルが高いと感じることもあり、日本でこのような質問をする人がどのくらいいるのだろうかと危機感を持った。東南アジアというだけで、上から目線になっていないでしょうか。

     

    これはコストメリットだけでなく、治安の問題もあるので、現在では、東南アジアでのものづくりのメリットも薄れ、国内回帰の動きも出ている。国内に工場が戻ったとしても、現場環境の維持、向上が確実にできるのか気になります。油断せず、もう一度現場を見直し、継続的な活動をしたい。

     

    ◆ クリーン化のイメージと私の思い

    これまでの話だけでは、クリーン化のイメージが捉え切れない方もいるでしょう。私のイメージを絵にしたものを用い、合わせて私の思いも記す。

    (1) クリーン化のイメージ

    下図で会社組織と米づくりを対比させて説明します。図中、下部の点線は水面と見てください。

     

     

    それでは、新たなお米を開発し、生産、販売に至るまでを考えてみましょう。

     

    市場がどんなお米を望んでいるかの把握は、会社組織では営業の担当です。その顧客の要望に沿うものを開発、設計するのは開発、設計部門。それを商品化し命名(特許および商標登録)する。最近ではたくさんの銘柄が出回っている。

     

    少子化や日本食離れの影響で、昔のように沢山作れば良いのではなく、市場の要求に応えていくことが求められてきた結果です。また、営業の情報や、注文を受けた顧客への納期確保も必要です。DOT(デリバリーオンタイム)、JIT(ジャストインタイム)という言葉があるが、いわゆる納期を意識したものづくり、これは生産管理部門の担当です。

     

    稲作では田植えと稲刈りの時期は特に忙しい。

     

    そこで、田植え機、稲刈り機の調達が必要になる。個人が所有すると高額な設備投資になるので、その時だけ調達することが多い。この担当は、会社組織では生産技術部門に該当するでしょう。また、一時的に人手も必要になる。人を集め、費用手配をすることは総務、人事、経理部門が担当するでしょう。

     

    お米はその地方の気象条件も加味し開発される。

     

    例えば寒冷地なら、水温はどうなのか加味して、品種の開発をするのです。その水の温度はどう管理するか、これは設計、技術部門の担当です。寒冷地では、冷たい水を直接田に入れず、田んぼの土手に水路を作り、そこを一回りさせてから田んぼに入れる“回し水”など、わずかでも水温を上げる工夫が、稲作の知恵としてあった。

     

    この他、田んぼではなく畑で作る、陸稲(おかぼ)という稲作の手法もあるが、ここでは省く。田植え後はどんな病気が発生しそうなのか、それに適した消毒の条件を技術部門が決める。ここでいう技術部門は、実際の場面では、JAが情報提供や指導をしているでしょう。

     

    夏頃には田んぼの水は枯らす。これも会社組織では技術部門が条件を決め指示する。このように、稲作も、ものづくり企業も対比させてみると良く似ていると感じる。

     

    (2) クリーン化の担当部分

    昔、半導体が出て来たころは、“半導体は産業の米”と言われた。これまでの私の説明では、米作り対半導体製造という対比になってしまうでしょう。この“半導体は産業の米” の本来の意味は、“昔、日本では鉄(の産業)が強かった。それが見事に半導体に置き換わった”ということを言っている。因みに水晶デバイスは産業の塩、電気は産業の血液と言われる。

     

    この図の点線から下、水面下の説明をする。田植え後は、毎日田んぼの見回りをする。これはクリーン化では、巡回や定期観測にあたる。また、頻繁に草取りをするなど、手間暇がかかり大変な労力なのです。人間以外のほ乳類は、お腹がすけば、生まれてすぐに自分でお乳を探す。同じほ乳類でも、人間だけは自ら母乳を探すことはなく、お腹がすけば泣いて知らせる。だから、親が手を掛けなければ育たないのです。

     

    野菜も手を掛けなければ上手く育たないが、同じ植物でも雑草は放っておいても逞しく育つ。その結果、稲よりも早く成長するので、草に栄養を取られ、日陰になってしまうこともある。この時期、“田の草取り”と言う重労働の作業が続きます。田んぼは石ころがあったり、土壌が悪いと稲の発育が遅れる。石を排除したり、土壌改善をしていく。これも重要な仕事です。

     

    この図の水面下の仕事はクリーン化の部分に相当する。余談だが、私の住む田舎を観光バスが通過することがある。何もないところなので、バスガイドさんも話題がなくて困るという話を聞いたことがある。そこで、「この時期は田んぼに大きな鳥が来るんです」 などと言うと、乗客がどれ、どこ?という感じでキョロキョロする。そこでガイドさんが、“田の草とりという鳥です”などと言って笑いをもらい、無言の時間を埋めると言っていました。

     

    でも本当は凄く大変なことです。このようなことを毎日繰り返しているので、背中や腰が痛い、そして背が曲がるのです。私の家は農家ではないですが、農繁期に田植え休み、稲刈り休みがあり、手伝いの経験がある。長時間腰を屈めての作業は辛いものです。でも美味しいお米を食べてもらいたい。そして、喜ぶ顔を見たいと思いで継続している...

      クリーン化について(その141)クリーン化の基礎(その3)
    【目次】

       

      ここのところ半導体製造の分野が盛り上がってきました。しかも、ナノメートルの世界を目指しています。しかしながら、その土台、基盤がしっかりしているのか、クリーン化の基礎をきちんと持ち合わせているかと言うことを心配しています。何事も基本、基礎がしっかりしていて、その上で高いレベルへの挑戦が可能だと考えています。行き詰まった時、基本に帰れと言いますが、その基本はどこなのかと言うことです。

       

      高いレベルを目指すとき、開発、設計、技術がしっかりしていても、それを具現化する現場の力は追いついているでしょうか。良く、理論的には可能だが・・・と言う言葉も聞きます。ものが作れなければ、現場との乖離は大きく、理論、理屈の話で終わってしまいます。いずれの企業の成功をも願いながら、桁違いの投資額ですから、損益分岐点はどの当たりになるのだろうか。企業間の差は顕著に出るのかなど気になります。その危機感を感じているので、クリーン化の基礎の部分に立ち戻り説明していきます。クリーン化について(その140)クリーン化の基礎(その2)の続きです。

       

      7. 弱体化する日本のクリーン化

      現在の日本ではクリーン化に手を抜き、製造現場が弱くなっていると感じる。もちろん、国内空洞化が加速し、工場がどんどん東南アジアへ出ていく。つまり現場を管理する対象が少なくなったことも一因でしょう。東南アジアの工場の幾つかを見ると、一生懸命現場改善に取り組んでいるところが増えていると感じた。また、一生懸命やっているところほど、声を掛けられるのです。真剣なやりとりをしていると、その過程でも成長を感じた。

       

      そのような現場を見て、“日本はもう追い越されている”と感じることがしばしばあった。現場の作業者からの質問も、レベルが高いと感じることもあり、日本でこのような質問をする人がどのくらいいるのだろうかと危機感を持った。東南アジアというだけで、上から目線になっていないでしょうか。

       

      これはコストメリットだけでなく、治安の問題もあるので、現在では、東南アジアでのものづくりのメリットも薄れ、国内回帰の動きも出ている。国内に工場が戻ったとしても、現場環境の維持、向上が確実にできるのか気になります。油断せず、もう一度現場を見直し、継続的な活動をしたい。

       

      ◆ クリーン化のイメージと私の思い

      これまでの話だけでは、クリーン化のイメージが捉え切れない方もいるでしょう。私のイメージを絵にしたものを用い、合わせて私の思いも記す。

      (1) クリーン化のイメージ

      下図で会社組織と米づくりを対比させて説明します。図中、下部の点線は水面と見てください。

       

       

      それでは、新たなお米を開発し、生産、販売に至るまでを考えてみましょう。

       

      市場がどんなお米を望んでいるかの把握は、会社組織では営業の担当です。その顧客の要望に沿うものを開発、設計するのは開発、設計部門。それを商品化し命名(特許および商標登録)する。最近ではたくさんの銘柄が出回っている。

       

      少子化や日本食離れの影響で、昔のように沢山作れば良いのではなく、市場の要求に応えていくことが求められてきた結果です。また、営業の情報や、注文を受けた顧客への納期確保も必要です。DOT(デリバリーオンタイム)、JIT(ジャストインタイム)という言葉があるが、いわゆる納期を意識したものづくり、これは生産管理部門の担当です。

       

      稲作では田植えと稲刈りの時期は特に忙しい。

       

      そこで、田植え機、稲刈り機の調達が必要になる。個人が所有すると高額な設備投資になるので、その時だけ調達することが多い。この担当は、会社組織では生産技術部門に該当するでしょう。また、一時的に人手も必要になる。人を集め、費用手配をすることは総務、人事、経理部門が担当するでしょう。

       

      お米はその地方の気象条件も加味し開発される。

       

      例えば寒冷地なら、水温はどうなのか加味して、品種の開発をするのです。その水の温度はどう管理するか、これは設計、技術部門の担当です。寒冷地では、冷たい水を直接田に入れず、田んぼの土手に水路を作り、そこを一回りさせてから田んぼに入れる“回し水”など、わずかでも水温を上げる工夫が、稲作の知恵としてあった。

       

      この他、田んぼではなく畑で作る、陸稲(おかぼ)という稲作の手法もあるが、ここでは省く。田植え後はどんな病気が発生しそうなのか、それに適した消毒の条件を技術部門が決める。ここでいう技術部門は、実際の場面では、JAが情報提供や指導をしているでしょう。

       

      夏頃には田んぼの水は枯らす。これも会社組織では技術部門が条件を決め指示する。このように、稲作も、ものづくり企業も対比させてみると良く似ていると感じる。

       

      (2) クリーン化の担当部分

      昔、半導体が出て来たころは、“半導体は産業の米”と言われた。これまでの私の説明では、米作り対半導体製造という対比になってしまうでしょう。この“半導体は産業の米” の本来の意味は、“昔、日本では鉄(の産業)が強かった。それが見事に半導体に置き換わった”ということを言っている。因みに水晶デバイスは産業の塩、電気は産業の血液と言われる。

       

      この図の点線から下、水面下の説明をする。田植え後は、毎日田んぼの見回りをする。これはクリーン化では、巡回や定期観測にあたる。また、頻繁に草取りをするなど、手間暇がかかり大変な労力なのです。人間以外のほ乳類は、お腹がすけば、生まれてすぐに自分でお乳を探す。同じほ乳類でも、人間だけは自ら母乳を探すことはなく、お腹がすけば泣いて知らせる。だから、親が手を掛けなければ育たないのです。

       

      野菜も手を掛けなければ上手く育たないが、同じ植物でも雑草は放っておいても逞しく育つ。その結果、稲よりも早く成長するので、草に栄養を取られ、日陰になってしまうこともある。この時期、“田の草取り”と言う重労働の作業が続きます。田んぼは石ころがあったり、土壌が悪いと稲の発育が遅れる。石を排除したり、土壌改善をしていく。これも重要な仕事です。

       

      この図の水面下の仕事はクリーン化の部分に相当する。余談だが、私の住む田舎を観光バスが通過することがある。何もないところなので、バスガイドさんも話題がなくて困るという話を聞いたことがある。そこで、「この時期は田んぼに大きな鳥が来るんです」 などと言うと、乗客がどれ、どこ?という感じでキョロキョロする。そこでガイドさんが、“田の草とりという鳥です”などと言って笑いをもらい、無言の時間を埋めると言っていました。

       

      でも本当は凄く大変なことです。このようなことを毎日繰り返しているので、背中や腰が痛い、そして背が曲がるのです。私の家は農家ではないですが、農繁期に田植え休み、稲刈り休みがあり、手伝いの経験がある。長時間腰を屈めての作業は辛いものです。でも美味しいお米を食べてもらいたい。そして、喜ぶ顔を見たいと思いで継続しているのだから、その苦労も伝えてもらいたいと思う。

       

      話を戻します。図の水面より上は、会社組織と同じで、比較的日が当たる部分ですが、水面下の仕事、その苦労はあまり知られていない。でもこの部分は手を抜くと良い品質が得られない。地味だが地道にコツコツ継続していく仕事です。クリーン化では現場の活動部分に当たります。ベースを強くするとは、この部分を強化するということです。特に、成果主義の時代、表面だけが評価され、水面下の努力には日が当たらないのが現実ではないでしょうか。ところが、収穫の時期には、その差が出て来るのです。

       

      次回に続きます。

      クリーン化のこと、活動の進め方、事例など個別に対応が必要でしたら、ものづくりドットコムを通じてご連絡ください。可能な限り対応致します。また、セミナー、講演会なども対応致します。

      【参考文献】 
      清水英範 著、 「知っておくべきクリーン化の基礎」諷詠社 2023年
          同    電子版 「知っておくべきクリーン化の基礎」、諷詠社 2023年
          同   「日本の製造業、厳しい時代をクリーン化で生き残れ!」諷詠社 2012年

       

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      この記事の著者

      清水 英範

      在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

      在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め...


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