クリーン化を成功させる条件とは クリーン化について(その18)

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◆ クリーンルームの重要性を考える

 下図はクリーン化活動を進めるうえで重要なことを私の経験、体験を元に整理したものです。これは現場や現場に近い部門だけでなく、経営者や管理監督者など会社全体が知っておいてほしいことです。クリーン化を成功させる条件について、今回も前回に続き「クリーン化のなぜを考える」についてお話します。

 

クリーン化

図1. クリーン化活動の重要ポイント

 

4. なぜ、クリーン化は必要なのか

 クリーンルームにおけるルールは、その一つひとつに「なぜ」があり、その理由を知ることが大切です。「なぜ?どうして?」と聞かれたら嫌な顔をするのではなく、きちんと説明ができることでそこに関わる人たちも理解し、行動に繋げてくれると思います。

① ゴミ(異物)はどこからやって来る!?

 なぜ更衣室があるのか。下図を使って考えましょう。

クリーン化

図2.更衣室の役割

 図2は、私が山形県の半導体工場に赴任した頃描いた図です。赴任の目的は、半導体前工程のクリーン化、品質改善でした。そこには半導体の後工程もありましたが、会社組織としては別会社であり、建物も違っていました。ただクリーン化については私の共通のテーマであり、分け隔てなく対応しようと考えていました。

 赴任直後から現状把握も含め、後工程の工場にも足を運びました。ある時、廊下からクリーンルームの様子を見ていたところ「今日は何しに来たんですか」と聞かれたため、私が「更衣室ってなんであるのかねえ」と聞くと「決まっているじゃないですか。着替えるところですよ」とか「そんなことも知らないんですか」といった答えが返ってきました。せっかく親しく話し掛けてくれたのに、私の聞き方が悪く嫌な気分にさせてしまいました。この時、更衣室のことを分かりやすく説明したいと思い図にしたものです。では具体的に説明しましょう。

 私たち従業員は、私服で出勤しますが、この私服には埃(ほこり)や微生物、雨や雪などの水分が付着します。春には花粉、冬は道路の凍結防止のために撒(ま)いた融雪剤の粉などが付着します。さらに私の赴任した工場は日本海側にあったため、冬には強烈な西風(海風)が吹き、塩分が沢山(たくさん)飛んでくるため、それらも付着します。

 赴任直後に工場の図面を確認したところ、工場の位置は海から直線で1キロとなっていました。朝出勤し、駐車場で車を降りると、潮の香りを感じていました。私の自宅は山梨県で長野県の会社に通う、つまり海なし県で生活していたため、潮の香りには敏感でした。

 冬季は一日の仕事を終え、車に乗る時にはフロントガラスは真っ白です。指先で擦(こす)って舐(な)めるとかなりしょっぱいのです。また海沿いには防風林として黒松が延々と植えられ、時期には風が吹くたび花粉が黄色いカーテンのように舞います。高校野球の試合でも、外野の選手が霞んでしまうほどです。

 このような多くのゴミを私服に付け、出社するのです。そのまま現場に持ち込むと当然様々な品質問題が起きます。ゴミによる品質低下だけでなく、塩分はナトリウム汚染という問題が起きるため半導体にとって大敵です。

 

②ゴミは歩留まりに影響する

 そこで、半導体工場では出社したら最初の更衣室で社服に着替えます。

 この更衣室を一次更衣室などと呼びます。ロッカーに私服を置き、社服を取り出す時に、私服と社服が接触し、私服のゴミが社服に若干移ります。でも大体は私服についたままロッカーに置いてくるわけです。着替えの時落下したゴミは更衣室の清掃で除去します。

 次に二次更衣室に入り、社服を脱ぎ、防塵(ぼうじん)衣に着替えます。

 社服には私服からの転写ゴミだけでなく、構内のゴミも付着しています。これを防塵衣には付着させたくないので、二次更衣室の中でも社服を脱ぐ場所と、防塵衣を着用する場所は距離を離しているのが普通です。その場所がスペース的に確保できない場合は、パーテーションで仕切るなど工夫をしています。そして防塵衣を着用し、エアシャワーを浴びてクリーンルームに入っていきます。

 この過程を細かくみていくと、一次更衣室に外のゴミをできるだけ置いて、さらに二次更衣室で社服に付着したゴミを置いていく。ゴミの観点では、更衣室を通過するたびに置いて行かれ少なくなっていきます。人に目を転じても、更衣室を通過するたびに綺麗(きれい)になっていきます。つまり更衣室はゴミを少なくするフィルターといった考え方があります。一次更衣室、二次更衣室はそのための関門、関所なのです。

 図2の一番下に、休日の農作業の農薬等と記しました。これは何十年も前の大手半導体メーカーでの話です。春になると歩留まりが極端に低下する。その他の季節はほぼ安定するが春にはまた歩留まりが低下する。これが繰り返し起きるというのです。当時はまだ分析技術があまり進んでいなかったので、原因がなかなか分からなかったのですが、徐々に分析技術が発達し判明したことは、工場にないはずのものが検出される…。それが農薬だというのです。

 なぜ農薬が工場にあるのかを調べたところ、当時そのメーカーでは交代勤務が始まった頃。午前中仕事をして、午後勤務の人と入れ替わるシフトでした。午後勤務の人は、午前中は自宅に待機しているはずですが、実は自宅にいなかった。どこにいたかを調べたところ、午前中は自身の田や畑で肥料を撒いてそのままの服装で出勤するということが分かったため、農作業後、出勤の服装、構内での着替えをきちんと対策したところ、四季を通じて歩留まりがほぼ安定したということです。たかが更衣室、たかが着替えるところではないのです。重要な目的があるのです。

 

③クリーンルームの必要性を知ってもらう

 山形県の工場では半導体前工程や後工程だけでなく、その他の業種や人事、総務など間接部門はじめ全社員を対象にクリーン化教育を実施していました。この時「なぜ...

 

◆ クリーンルームの重要性を考える

 下図はクリーン化活動を進めるうえで重要なことを私の経験、体験を元に整理したものです。これは現場や現場に近い部門だけでなく、経営者や管理監督者など会社全体が知っておいてほしいことです。クリーン化を成功させる条件について、今回も前回に続き「クリーン化のなぜを考える」についてお話します。

 

クリーン化

図1. クリーン化活動の重要ポイント

 

4. なぜ、クリーン化は必要なのか

 クリーンルームにおけるルールは、その一つひとつに「なぜ」があり、その理由を知ることが大切です。「なぜ?どうして?」と聞かれたら嫌な顔をするのではなく、きちんと説明ができることでそこに関わる人たちも理解し、行動に繋げてくれると思います。

① ゴミ(異物)はどこからやって来る!?

 なぜ更衣室があるのか。下図を使って考えましょう。

クリーン化

図2.更衣室の役割

 図2は、私が山形県の半導体工場に赴任した頃描いた図です。赴任の目的は、半導体前工程のクリーン化、品質改善でした。そこには半導体の後工程もありましたが、会社組織としては別会社であり、建物も違っていました。ただクリーン化については私の共通のテーマであり、分け隔てなく対応しようと考えていました。

 赴任直後から現状把握も含め、後工程の工場にも足を運びました。ある時、廊下からクリーンルームの様子を見ていたところ「今日は何しに来たんですか」と聞かれたため、私が「更衣室ってなんであるのかねえ」と聞くと「決まっているじゃないですか。着替えるところですよ」とか「そんなことも知らないんですか」といった答えが返ってきました。せっかく親しく話し掛けてくれたのに、私の聞き方が悪く嫌な気分にさせてしまいました。この時、更衣室のことを分かりやすく説明したいと思い図にしたものです。では具体的に説明しましょう。

 私たち従業員は、私服で出勤しますが、この私服には埃(ほこり)や微生物、雨や雪などの水分が付着します。春には花粉、冬は道路の凍結防止のために撒(ま)いた融雪剤の粉などが付着します。さらに私の赴任した工場は日本海側にあったため、冬には強烈な西風(海風)が吹き、塩分が沢山(たくさん)飛んでくるため、それらも付着します。

 赴任直後に工場の図面を確認したところ、工場の位置は海から直線で1キロとなっていました。朝出勤し、駐車場で車を降りると、潮の香りを感じていました。私の自宅は山梨県で長野県の会社に通う、つまり海なし県で生活していたため、潮の香りには敏感でした。

 冬季は一日の仕事を終え、車に乗る時にはフロントガラスは真っ白です。指先で擦(こす)って舐(な)めるとかなりしょっぱいのです。また海沿いには防風林として黒松が延々と植えられ、時期には風が吹くたび花粉が黄色いカーテンのように舞います。高校野球の試合でも、外野の選手が霞んでしまうほどです。

 このような多くのゴミを私服に付け、出社するのです。そのまま現場に持ち込むと当然様々な品質問題が起きます。ゴミによる品質低下だけでなく、塩分はナトリウム汚染という問題が起きるため半導体にとって大敵です。

 

②ゴミは歩留まりに影響する

 そこで、半導体工場では出社したら最初の更衣室で社服に着替えます。

 この更衣室を一次更衣室などと呼びます。ロッカーに私服を置き、社服を取り出す時に、私服と社服が接触し、私服のゴミが社服に若干移ります。でも大体は私服についたままロッカーに置いてくるわけです。着替えの時落下したゴミは更衣室の清掃で除去します。

 次に二次更衣室に入り、社服を脱ぎ、防塵(ぼうじん)衣に着替えます。

 社服には私服からの転写ゴミだけでなく、構内のゴミも付着しています。これを防塵衣には付着させたくないので、二次更衣室の中でも社服を脱ぐ場所と、防塵衣を着用する場所は距離を離しているのが普通です。その場所がスペース的に確保できない場合は、パーテーションで仕切るなど工夫をしています。そして防塵衣を着用し、エアシャワーを浴びてクリーンルームに入っていきます。

 この過程を細かくみていくと、一次更衣室に外のゴミをできるだけ置いて、さらに二次更衣室で社服に付着したゴミを置いていく。ゴミの観点では、更衣室を通過するたびに置いて行かれ少なくなっていきます。人に目を転じても、更衣室を通過するたびに綺麗(きれい)になっていきます。つまり更衣室はゴミを少なくするフィルターといった考え方があります。一次更衣室、二次更衣室はそのための関門、関所なのです。

 図2の一番下に、休日の農作業の農薬等と記しました。これは何十年も前の大手半導体メーカーでの話です。春になると歩留まりが極端に低下する。その他の季節はほぼ安定するが春にはまた歩留まりが低下する。これが繰り返し起きるというのです。当時はまだ分析技術があまり進んでいなかったので、原因がなかなか分からなかったのですが、徐々に分析技術が発達し判明したことは、工場にないはずのものが検出される…。それが農薬だというのです。

 なぜ農薬が工場にあるのかを調べたところ、当時そのメーカーでは交代勤務が始まった頃。午前中仕事をして、午後勤務の人と入れ替わるシフトでした。午後勤務の人は、午前中は自宅に待機しているはずですが、実は自宅にいなかった。どこにいたかを調べたところ、午前中は自身の田や畑で肥料を撒いてそのままの服装で出勤するということが分かったため、農作業後、出勤の服装、構内での着替えをきちんと対策したところ、四季を通じて歩留まりがほぼ安定したということです。たかが更衣室、たかが着替えるところではないのです。重要な目的があるのです。

 

③クリーンルームの必要性を知ってもらう

 山形県の工場では半導体前工程や後工程だけでなく、その他の業種や人事、総務など間接部門はじめ全社員を対象にクリーン化教育を実施していました。この時「なぜ更衣室があるのか」について、このシートを使い説明しました。また教育の最後には、必ずアンケートを行っていました。

 ある取引会社に行った時のこと。アンケートにこんなことが書いてありました。私の教育は国内外、取引様など含め数千名の方が受講しています。回収したアンケートも沢山(たくさん)あり過ぎて、記入内容はほとんど忘れてしまいましたが、2名の方が同じことを書いてあり印象に残っています。

 「私は更衣室がなぜあるか知りませんでしたので、悪いことをしていてすみませんでした」という内容です。その悪いことというのは「普通の日が出勤の場合、管理職がいるためきちんと着替えていましたが、出勤日が休日に当たった場合、管理職はいないので、一次更衣室を通過し、二次更衣室で防塵衣に着替えてクリーンルームに入っていました」というのです。端的にいうと、関所破りです。クリーンルームにおけるルールは、その一つひとつになぜがあり、そのなぜを知ることが大切です。「なぜが抜けてしまう」とこのようになってしまうのです。

 清浄度があまり高くないクリーンルームを保有している会社では、更衣室そのものがなく、自宅から社服を着て通勤するというところもありました。可能な限り更衣室は作りたいものです。

 次回は、クリーン化のなぜを考える。「なぜ防塵衣を着るのか」を解説します。

◆関連解説『環境マネジメント』

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この記事の著者

清水 英範

在社中、クリーン化25年の経験、国内海外のクリーン化教育、現場診断・指導多数。ゴミによる品質問題への対応(クリーン化活動)を中心に、安全、人財育成等も含め多面的、総合的なアドバイス。クリーンルームの有無に限らず現場中心に体質改善、強化のお手伝いをいたします。

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