ライセンスを行う場合の留意点 知財経営の実践(その26)

 
  
 

1. 知財の持つ価値

 
 知財経営の実践については、その重要性が参考文献のように報告されています。〔1〕〔2〕知財の活用を、企業経営においては、常に意識しましょう。知財経営が有効となるのは、技術が自分の会社の強みとなる場合です。自社の強みを分析してみることが必要です。強みが技術にある場合は、知財戦略を考えてみましょう。
 

2.  知財経営:ライセンスを行う場合の留意点

 
 自社の開発した技術を他社の製造・販売をお願いしたい。この場合は、他社にライセンスを行うことになります。ライセンスを行う場合は、どういうライセンスがよいのか慎重な検討が必要です。
 

3.  知財経営:ライセンスの範囲

 
 ライセンスを行う特許として物品の特許、製造方法の特許等の種類がありますがそれぞれでライセンスが可能です。製品の製造だけでなく販売も一体としてライセンスを行う場合が多いです。ライセンスの形態としては、ライセンス期間中は自社でその製品の製造を行わない(専用実施権)自社を含めて複数の者で製造できるようにする(通常実施権)があります。
 

4.  知財経営:専用実施権と通常実施権の比較〔3〕

 
 専用実施権と通常実施権の違いについて、説明します。
 

・実施権の性質

 
 専用実施権は、他人が発明を実施した場合に、差し止め請求、損害賠償請求を行うことができる。通常実施権は、他人が発明を実施した場合であっても、差し止め請求、損害賠償請求を行うことができない。
 

・実施権を与えることができる者(ライセンサー)

 
 専用実施権は、特許権者のみが設定(ライセンス)できる。通常実施権は、特許権者又は専用実施権者が、通常実施権を許諾できる。ただし、専用実施権者の場合には、特許権者の承諾が必要となる。
 

・設定登録

 
 専用実施権は、効力を発生させる要件及び第三者に対抗するための要件として設定登録が必要。通常実施権は、第三者に対抗するための要件として設定登録が必要。
 

・ライセンサーの自己実施権の留保

 
 専用実施権を設定する場合には、ライセンサー(=特許権者)の実施権は別段の定めをしない限り留保できない。通常実施権を許諾する場合には、ライセンサーの実施権は留保される。
 

・ライセンスの重複の可否

 
 特許権者は、専用実施権の設定後、その設定範囲については、専用実施権と通常実施権の別にかかわらず、実施権を設定・許諾できない。特許権者は、通常実施権の許諾後、その許諾範囲についても、専用実施権又は通常実施権を第三者に設定・許諾できる。ただし、先に通常実施権を許諾してもらっている通常実施権者は、通常実施権の設定登録をしていないと専用実施権者に対抗できない。
 

・再実施許諾(サブライセンス)

 
 専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合に限り、第三者に通常実施権を許諾できる。この通常実施権の設定登録も可能である。通常実施権の再実施権許諾(サブライセンス)は特許法に規定がなく、その登録をすることができない。
 
 しかし、特許権者等の承諾を得て、通常実施権者が第三者に通常実施権を許諾することが、契約慣行として行われている。
 
 

5.  知財経営:独占的ライセンス〔3〕

 
 独占的なライセンスは、専用実施権が代表的です。しかし、独占的通常実施権もあります。これは通常実施権ですが、「他の第三者にラインセンスを与えない」という特約が付加されたものです。企業間のライセンスの場合は、独占的通常実施権が多いです。独占的通常実施権の場合は、独占的通常実施権の許諾を受けた者(ライセンシー)が当該特許権を活用しないため、なかなか実施料収入が得られないというリスクが特許権者にあります。
 
 このリスクを回避するため、以下のような条項を入れることがあります。
 
しない場合には、独占性の特約を解除できるような非独占転換条項(独占的通常実施権の場合)
  • 実施権の有無にかかわらず一定額の最低保証額の支払を義務づける条項(ミニマム・ギャランティー条項)
  •  
     次回に続きます。
     
     【参考文献】
    〔1〕特許庁「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」(H19.3)
    〔2〕「戦略的な知的財産管理に向けて「知財戦略事例集」(2007.4特許庁)
    〔3〕「知的財産権制度入門 平成19年度」特許庁
     
    ◆関連解説『技術マネジメントとは』

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