「おもてなしの神髄」 CS経営(その49)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

11. 神経質な臆病さが生んだお客様の笑顔―株式会社クリーンサワ

(3) なぜ、クリーニング店が大企業、大学と協力できたのか

 
 クリーンサワ代表の澤氏は「臆病」に徹してきました。その結果として、多くのノウハウを生み出し、育んできたのです。たとえば、画期的なドライクリーニング機械「グリーンDry」。いくら気づかいをしても、モグラ叩きになったのでは、きりがないと「臆病」に考え、問題を根本から解決しようと考えた結果発明されたのです。「クレームゼロ追求の夢」から「夢の新技術グリーンDry」が誕生したというわけです。
 
 少し専門的な話になるが、従来のドライクリーニングは、石油系の溶剤に浸けて汚れを落とす方式を採用しており、界面活性剤を用いて洗浄していまし。そして、界面活性剤が巻き込んだ汚れをフィルターで漉すのですが、すべての汚れをフィルターがキャッチするわけではなく、微細な汚れはそこを通り抜けることになるのです。通り抜けてしまった汚れは、当然のことながら一緒に洗っている他のクリーニングの衣類に付着してしまいます。
 
 業界関係者以外はその場を経験することがないからわからないが、実は、クリーニングエ場で発生する嫌悪すべき臭いは、この工程で発生するのです。残念ながら、微細な汚れを薄めて拡散させているともいえる状況です。そこで使用された溶剤は、繰り返し繰り返し使用された後、蒸留され、残滓が回収され、ようやく産業廃棄物として処理されることになるのです。しかし、「グリーンDry」は、フィルターはおろか、界面活性剤も使用しない画期的手法なのです。
 
 開発の際、苦心したのは、回転ドラムの遠心力によって内側に貼り付いた汚れをどうするかです。「グリーンDry」では、これらのへばりつき、凝縮された物質を溶剤で噴射して洗浄する方式を採用しています。ひとたび噴射した溶剤は、繰り返し使用されることなくタンクに集められ、連続自動蒸留装置で蒸留され、完全に新しく生まれ変わり、再び衣類に噴射されます。
 
 しかも、洗濯時間は従来のわずか10分の1という画期的なコストダウンを実現しています。だから洗濯物を傷めないのです。しかも界面活性剤を使用しないために、溶剤の残留後に残るかすは同様に10分の1となるのです。つまり、産業廃棄物が激減するというわけです。
 
 さらに溶剤の99%は再利用できるのです。そのため、新規投入は、わずか1%で、溶剤使用量が10分の1となります。界面活性剤が汚れを吸収し、他の洗濯物を逆に汚染していた状況に甘んじ、界面活性剤を使用せずに溶剤で洗浄する方式を発明できなかった業界にとっては革新的な出来事です。これはクリーニング業界だけの話ではないのです。「できない」「無理だ」と、これまでのやり方に固執してしまう例は枚挙にいとまがないのです。
 
 氏は、十数年以上も前からこの現象を「おかしい」と考えていたそうです。そして、「界面活性剤を使用した場合」と「使用しなかった場合」の洗濯物の白さを計測するテストを繰り返しました。白度計の数値に違いは認められなかったのです。であるならば、界面活性剤を使用した洗濯物の汚染を防ぐ方式を採用すべきだと氏は考えたのです。
 
 さらに、横浜国立大学における最新鋭のミクロスコープのチェックも行ない、界面活性剤を使用した場合、洗濯物の繊維の中に汚れが散在している様子を確認したということです。そして、この横浜国立大学の教授との共同研究を論文にして、英国の科学雑誌に発表した結果、世界中の研究者、専門家から高い評価を得たのです。
 
 しかし、高い評価を受けたところでお客様のためにはならない。そこで氏は、三菱重工業と共同で開発を行ない、見事、完成させたのです(現在、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの6力国で特許を取得)。
 
 顧客満足のための新サービス、商品の開発には、なにも特別...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

11. 神経質な臆病さが生んだお客様の笑顔―株式会社クリーンサワ

(3) なぜ、クリーニング店が大企業、大学と協力できたのか

 
 クリーンサワ代表の澤氏は「臆病」に徹してきました。その結果として、多くのノウハウを生み出し、育んできたのです。たとえば、画期的なドライクリーニング機械「グリーンDry」。いくら気づかいをしても、モグラ叩きになったのでは、きりがないと「臆病」に考え、問題を根本から解決しようと考えた結果発明されたのです。「クレームゼロ追求の夢」から「夢の新技術グリーンDry」が誕生したというわけです。
 
 少し専門的な話になるが、従来のドライクリーニングは、石油系の溶剤に浸けて汚れを落とす方式を採用しており、界面活性剤を用いて洗浄していまし。そして、界面活性剤が巻き込んだ汚れをフィルターで漉すのですが、すべての汚れをフィルターがキャッチするわけではなく、微細な汚れはそこを通り抜けることになるのです。通り抜けてしまった汚れは、当然のことながら一緒に洗っている他のクリーニングの衣類に付着してしまいます。
 
 業界関係者以外はその場を経験することがないからわからないが、実は、クリーニングエ場で発生する嫌悪すべき臭いは、この工程で発生するのです。残念ながら、微細な汚れを薄めて拡散させているともいえる状況です。そこで使用された溶剤は、繰り返し繰り返し使用された後、蒸留され、残滓が回収され、ようやく産業廃棄物として処理されることになるのです。しかし、「グリーンDry」は、フィルターはおろか、界面活性剤も使用しない画期的手法なのです。
 
 開発の際、苦心したのは、回転ドラムの遠心力によって内側に貼り付いた汚れをどうするかです。「グリーンDry」では、これらのへばりつき、凝縮された物質を溶剤で噴射して洗浄する方式を採用しています。ひとたび噴射した溶剤は、繰り返し使用されることなくタンクに集められ、連続自動蒸留装置で蒸留され、完全に新しく生まれ変わり、再び衣類に噴射されます。
 
 しかも、洗濯時間は従来のわずか10分の1という画期的なコストダウンを実現しています。だから洗濯物を傷めないのです。しかも界面活性剤を使用しないために、溶剤の残留後に残るかすは同様に10分の1となるのです。つまり、産業廃棄物が激減するというわけです。
 
 さらに溶剤の99%は再利用できるのです。そのため、新規投入は、わずか1%で、溶剤使用量が10分の1となります。界面活性剤が汚れを吸収し、他の洗濯物を逆に汚染していた状況に甘んじ、界面活性剤を使用せずに溶剤で洗浄する方式を発明できなかった業界にとっては革新的な出来事です。これはクリーニング業界だけの話ではないのです。「できない」「無理だ」と、これまでのやり方に固執してしまう例は枚挙にいとまがないのです。
 
 氏は、十数年以上も前からこの現象を「おかしい」と考えていたそうです。そして、「界面活性剤を使用した場合」と「使用しなかった場合」の洗濯物の白さを計測するテストを繰り返しました。白度計の数値に違いは認められなかったのです。であるならば、界面活性剤を使用した洗濯物の汚染を防ぐ方式を採用すべきだと氏は考えたのです。
 
 さらに、横浜国立大学における最新鋭のミクロスコープのチェックも行ない、界面活性剤を使用した場合、洗濯物の繊維の中に汚れが散在している様子を確認したということです。そして、この横浜国立大学の教授との共同研究を論文にして、英国の科学雑誌に発表した結果、世界中の研究者、専門家から高い評価を得たのです。
 
 しかし、高い評価を受けたところでお客様のためにはならない。そこで氏は、三菱重工業と共同で開発を行ない、見事、完成させたのです(現在、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアの6力国で特許を取得)。
 
 顧客満足のための新サービス、商品の開発には、なにも特別な資格、奇抜なアイデアは必要ないのです。この「グリーンDry」は、先に示した「小さな短冊」の発想と同じで、ただただ「顧客のために」という思いの丈が生み出した賜物です。独自の研究、大学との共同研究、論文発表、機械の共同開発「融合」した好例です。
 
 異なる分野の知見が「お客様のために」という思いで、「融合」した好例です。ちなみに、氏は、技術系を専門とする学校で研究を続けてきた研究者ではなく、実務から理論を生み出し、これを製品化した分野横断的専門家です。顧客を思う気持ち、その情熱、真摯な課題の追求が顧客満足を生み、好業績をあげたというのは、多くの心ある中小の経営者の背中を押す素晴らしい事例です。
 
 次回は、12.「不健康な倉庫」を「健康な倉庫」へ:株式会社サンステーションシステムズを解説します。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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