「おもてなしの神髄」 CS経営(その45)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

10. 被災地へ走れ・がむしやらに突き進む最強集団:株式会社熊谷組

(2) 100点満点に挑むパトロール隊

 熊谷組においては、規模・内容に合わせて月に1~2回、パトロール隊(PT隊)が現場を訪れるのが原則となっています。これは上から目線の査定ではなく、表面的には見えない箇所の瑕疵の防止と建物の高品質を確保するために実施している活動です。
 
 顧客から信頼される「誠実なモノづくり」の実現に向け、厳しく、鋭い目を光らせるのがPT隊です。それは同時に、熊谷組が築き上げてきた技術、知識、独自のノウハウなどを伝承する役割を担い、合わせて同社の品質を高めているのです。
 
 これが同社における「モノづくり」、建築の「作り込み」なのです。人間と自然との共生においては、時に思わぬことが発生する。物事には完全無欠、パーフェクトは存在しないからです。そのうえで、クレーム対応にも通じることだが、事が起こってしまったあとの初期対応、フォロー、リカバリーが、物事の成否を決めるといっても過言ではなのです。
 
 その場しのぎの言い訳、現場や下請けを犠牲にする責任転嫁、ひどいときには「顧客側に問題がある」などとする開き直り……。企業の顧客無視の体質が浮き彫りになる瞬間です。
 
 近年、頻繁に発生するようになったミス、トラブル、事故、事件において目立つのは、初期対応の悪さ、顧客、世間の反感を買うような言動、態度、姿勢であり、一気にブランドを崩壊させてしまうケースです。いずれも成果主義、企業第1主義、株主優先主義がその根本の原因となっているのです。
 
 一方の熊谷組は「思わぬこと」に備えています。PT隊はその一翼を担っており、現場の悩み、問題に対して、乗り越え策の提案、サポートなどを行ない、現場から歓迎される存在となっています。
 
 なぜ、熊谷組においてそれが可能なのか。仕事の一つひとつ、そのすべてが顧客のためであり、そこに最大限の力を注ぐからです。そのためには、タテ × ヨコ × ナナメの連携が必要になるのです。顧客満足を阻害する職工を孤立させるような考え、すなわち、現場を組織の「点」、分業の「一部」とする考え方を徹底的に排除しています。
 
 現在、PT隊は発足して約10年になりますが、10年前と比べて、瑕疵は目に見える形で減少しており、瑕疵に要するコストは10分の1となったとのことです。
 
 このことは、「顧客のみに有利なコスト」「企業だけが喜ぶコスト」ではなく、「コスト品質」すなわち、「顧客にとっても、企業にとっても価値あるコスト」を実現していることの証明となっています。
 
 PT隊は活動がひと区切りした段階で、必ず、総括、反省を行ないます。徹底的に議論し、一切の妥協を許さない討議を目指しているということです。
 
 総括、反省には若手社員だけでなく、新入社員も参加するため、熊谷組の技術、知識、顧客を思う心の伝承の場となっています。そのため、部門、立場などにとらわれない「仕事の作り込み」「融合」をもたらすことが可能となるのです。
 
 目に見えないものですが、この風土、文化は簡単に真似ができない大切な伝統です。顧客のための最良品質を目指し、きめ細かい管理を行なうことは、熊谷組の作業所長の役目であるのです。
 
 まず、発注者、設計事務所、各種団体、エンドユーザー、近隣住民など、工事に関係する全方位的な関係者と密なるコミュニケーションを図りながら、工事をスムースに進行しなければならないのです。その過程では、大勢の人たちに会い、大切な要件を確実に伝え、また耳を傾ける必要があります。
 
 では、熊谷組の作業所長は何を大切にしているのでしょうか。ここでいくつか紹介します。
 
  • 目配り、気配りにより、小さな隙間を見逃さず、丁寧に作り込む糊代機能
  • 専門工事の各部リーダーと、相互の隙間を埋めるきめ細かな確認作業を実施
  • 作業手順の確認においても、各作業への流れとつなぎをしっかりと押さえています。一つひとつの仕事が次の仕事につなぎ目なしでバトンタッチされ、トラブルを生み出す危険を未然に防げるからです。
  • 内部のスタッフ同士、ならびに仕事に関係する外部の大勢の人たち一人ひとりと、対話による密なる確認を行ない、時に相手の勘違いや理解不足を解消し、仕事に取り組む思いを理解する活動。
  • 顧客の求める品質に対して「よりよいもの」すなわち顧客の期...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

10. 被災地へ走れ・がむしやらに突き進む最強集団:株式会社熊谷組

(2) 100点満点に挑むパトロール隊

 熊谷組においては、規模・内容に合わせて月に1~2回、パトロール隊(PT隊)が現場を訪れるのが原則となっています。これは上から目線の査定ではなく、表面的には見えない箇所の瑕疵の防止と建物の高品質を確保するために実施している活動です。
 
 顧客から信頼される「誠実なモノづくり」の実現に向け、厳しく、鋭い目を光らせるのがPT隊です。それは同時に、熊谷組が築き上げてきた技術、知識、独自のノウハウなどを伝承する役割を担い、合わせて同社の品質を高めているのです。
 
 これが同社における「モノづくり」、建築の「作り込み」なのです。人間と自然との共生においては、時に思わぬことが発生する。物事には完全無欠、パーフェクトは存在しないからです。そのうえで、クレーム対応にも通じることだが、事が起こってしまったあとの初期対応、フォロー、リカバリーが、物事の成否を決めるといっても過言ではなのです。
 
 その場しのぎの言い訳、現場や下請けを犠牲にする責任転嫁、ひどいときには「顧客側に問題がある」などとする開き直り……。企業の顧客無視の体質が浮き彫りになる瞬間です。
 
 近年、頻繁に発生するようになったミス、トラブル、事故、事件において目立つのは、初期対応の悪さ、顧客、世間の反感を買うような言動、態度、姿勢であり、一気にブランドを崩壊させてしまうケースです。いずれも成果主義、企業第1主義、株主優先主義がその根本の原因となっているのです。
 
 一方の熊谷組は「思わぬこと」に備えています。PT隊はその一翼を担っており、現場の悩み、問題に対して、乗り越え策の提案、サポートなどを行ない、現場から歓迎される存在となっています。
 
 なぜ、熊谷組においてそれが可能なのか。仕事の一つひとつ、そのすべてが顧客のためであり、そこに最大限の力を注ぐからです。そのためには、タテ × ヨコ × ナナメの連携が必要になるのです。顧客満足を阻害する職工を孤立させるような考え、すなわち、現場を組織の「点」、分業の「一部」とする考え方を徹底的に排除しています。
 
 現在、PT隊は発足して約10年になりますが、10年前と比べて、瑕疵は目に見える形で減少しており、瑕疵に要するコストは10分の1となったとのことです。
 
 このことは、「顧客のみに有利なコスト」「企業だけが喜ぶコスト」ではなく、「コスト品質」すなわち、「顧客にとっても、企業にとっても価値あるコスト」を実現していることの証明となっています。
 
 PT隊は活動がひと区切りした段階で、必ず、総括、反省を行ないます。徹底的に議論し、一切の妥協を許さない討議を目指しているということです。
 
 総括、反省には若手社員だけでなく、新入社員も参加するため、熊谷組の技術、知識、顧客を思う心の伝承の場となっています。そのため、部門、立場などにとらわれない「仕事の作り込み」「融合」をもたらすことが可能となるのです。
 
 目に見えないものですが、この風土、文化は簡単に真似ができない大切な伝統です。顧客のための最良品質を目指し、きめ細かい管理を行なうことは、熊谷組の作業所長の役目であるのです。
 
 まず、発注者、設計事務所、各種団体、エンドユーザー、近隣住民など、工事に関係する全方位的な関係者と密なるコミュニケーションを図りながら、工事をスムースに進行しなければならないのです。その過程では、大勢の人たちに会い、大切な要件を確実に伝え、また耳を傾ける必要があります。
 
 では、熊谷組の作業所長は何を大切にしているのでしょうか。ここでいくつか紹介します。
 
  • 目配り、気配りにより、小さな隙間を見逃さず、丁寧に作り込む糊代機能
  • 専門工事の各部リーダーと、相互の隙間を埋めるきめ細かな確認作業を実施
  • 作業手順の確認においても、各作業への流れとつなぎをしっかりと押さえています。一つひとつの仕事が次の仕事につなぎ目なしでバトンタッチされ、トラブルを生み出す危険を未然に防げるからです。
  • 内部のスタッフ同士、ならびに仕事に関係する外部の大勢の人たち一人ひとりと、対話による密なる確認を行ない、時に相手の勘違いや理解不足を解消し、仕事に取り組む思いを理解する活動。
  • 顧客の求める品質に対して「よりよいもの」すなわち顧客の期待する品質(期待品質)を100%満たすのみならず、顧客の期待をはるかに超える「魅力品質」、すなわち120%の能力を発揮することを目指す。
  • こうして顧客の要求品質を上回る品質追求、たとえば「環境に適した品質保証体制」「実行性のあるプロセス管理」「品質にこだわる人材」の三位一体の活動に取り組んで、顧客に高付加価値を提供する。
  • 受注工事に際しては、引き継ぎ会を実施し、各部門、各担当者が一堂に会し、きめ細かく相互に連絡を取ります。営業部門から工事部門への引き継ぎなどがそれです。
  • きめ細かいこうした品質管理の状況は、通常は現場活動として捉えるために、トップ(社長)にまではいちいち伝えないのが一般的です。しかし、熊谷組においてはトップにもきめ細かく「報告」「連絡」「相談」を行ない、時にはさらなる創造的な指示を受けることもあるのです。
 
 次回は、(3) 顧客が喜び、涙するコラボレーションから解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
  

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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