「おもてなしの神髄」 CS経営(その46)

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 CS
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

10. 被災地へ走れ・がむしやらに突き進む最強集団:株式会社熊谷組

 前回の(1)、(2)に続いて、解説します。

(3) 顧客が喜び、涙するコラボレーション

 2011年3月11日の東日本大震災は、まだ生々しく記憶に染みついています。仙台市宮城野区には震災により家屋を失った人々のための仮設住宅がありました。しかし、慣れない土地での暮らし、狭い部屋での生活はストレスを生みます。また、顔見知りが集まって世間話をする風景も必然的に少なくなっていくのです。
 
 仮設住宅に住む人々が集まってくつろげる共同施設を作れないかと熊谷組は考えました。そして、「みんなの家」プロジェクトが始動したのです。
 
 この趣旨に賛同した熊本県、同県内の建築関係団体、熊本県湯前町、水上村の支援で、木材確保の目途が立ったのです。「ぬくもり」のある空間をつくるため、木造にこだわりました。皆で集まりゆったりと語り合える場としたいからです。
 
 そして、行政、設計者、施工者、東北の大学生、県内の建築家……、多くの方々の力が結集して完成しました。施工以来ほとんど休むことなく200人体制で挑んだ工事でした。その一体感でできあがった建物は、利用者の気持ちも明るくしたに違いありません。熊谷組の心意気、その真摯な気持ちは、社内ばかりでなく、社外のさまざまな組織や人の心を動かしたのでした。
 

(4) 地域社会から信用・信頼される存在

 ステークホルダー(利害関係者)は、最終顧客、ユーザー、社員、取引先、地域社会、株主などを指す言葉です。なかでも大切なのは、最終顧客、ユーザー、地域社会です。熊谷組は、企業が追求する経済価値と社会的価値の両面の実現に注力していますが、なかでも環境価値に重きを置いています。そのことが地域社会で高く評価され、個々の課題を通じて、地域の人々と良質なコミュニケーションを重ねることに成功しています。その一端を示すいくつかの例を挙げてみましょう。
 

(5) 運転再開を待ちわびる人々の熱い期待を背に、難工事に挑む

 三陸鉄道株式会社は岩手県の三陸海岸を縦貫する路線を有する第三セクター方式の鉄道会社で、北リアス線・南リアス線を運営していたが、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた。路線各所の地盤は流出し、復旧は困難を極めました。しかも図面すらなく、残っているトンネルや橋梁などを頼りに推測し、改めて設計しなおす必要があったのです。一体いつ完成するのか……。誰も想像できないような状況でした。
 
 そんななか、全国からスタッフ約200名を集め、がむしゃらに突き進んだのが熊谷組です。「地域の方々のお役に立ちたい」という思いを胸に、全力で取り組んだのです。結果、専門家ですら驚くほどの早さで、全区間が震災から3年後の2014年4月に復旧しました。
 
 しかしそこまで到達するためには、信じられないほどの難局が立ちはだかっていました。たとえば、軌道開放を行なうためには下から造る盛土法面工事を行なうべきですが、上部の路盤を先行して行なうという変則な工法を採用することになったのです。それは、セオリーどおりの工事推進に不都合な現場状況であったからであり、必要な職方が揃っていなかったからです。
 
 ともかく過酷な現場環境を乗り越えるために持てる以上の最大の力を注ぐ努力をしていたのですが、目の前に立ちふさがる課題を乗り越えるのには限界があったそうです。そうしたときに最大の心の支えになったのは、地域社会の皆様の早期復旧への強い思いでした。
 
 当時の木村所長によれば「工事前にすべての地区で地元説明会を開催しましたが、通常であれば、どこでも何らかの形で反対者がいるのですが、この工事に関しては反対者ゼロ。よく直しに来てくれた。1日でも早く直してほしいと、皆様がすごく待っていらっしゃった。地元の人にとっては大切な生活を支えるインフラなんだと強く実感しました」というのが困難を乗り越える最大の力となったのです。
 
 木村所長が現場の横断幕として掲げていたスローガンは、「届け、皆の気持ち。蘇れ、三陸鉄道南リアス線」でしたが、これが現場の気持ち、企業の心を伝える気持ちの表れでした。
 

(6) 3000トンの歴史的建造物を曳家方式で水平移動

 豊岡市役所旧本庁舎は大正末の大地震の復興のシンボルであり、その歴史的背景と優美なデザインは長く地域社会に親しまれてきました。しかし、建築物の老朽化が進むなか、新庁舎建設が決定したのです。市民から、愛着のあるこの建物を何とか残したいという強い思いが寄せられた結果、旧庁舎を組み込んだ新庁舎にすることとなりました。
 
 しかし、事はそんなに簡単ではないのです。新庁舎建設予定地まで旧庁舎を運ぶという難事業が待ち構えていたのです。80年以上の歳月で老朽化した建築物をそのまま、ダメージを与えずに約25メートル移動するために利用された技術が「曳家方式」でした。
 
 本来ならば取り壊して新庁舎を建築することになるところを、地域社会の思いを受けて熊谷組が引き受けた難工事は、地域の人々の思いと熊谷...
 
 CS
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

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 前回の(1)、(2)に続いて、解説します。

(3) 顧客が喜び、涙するコラボレーション

 2011年3月11日の東日本大震災は、まだ生々しく記憶に染みついています。仙台市宮城野区には震災により家屋を失った人々のための仮設住宅がありました。しかし、慣れない土地での暮らし、狭い部屋での生活はストレスを生みます。また、顔見知りが集まって世間話をする風景も必然的に少なくなっていくのです。
 
 仮設住宅に住む人々が集まってくつろげる共同施設を作れないかと熊谷組は考えました。そして、「みんなの家」プロジェクトが始動したのです。
 
 この趣旨に賛同した熊本県、同県内の建築関係団体、熊本県湯前町、水上村の支援で、木材確保の目途が立ったのです。「ぬくもり」のある空間をつくるため、木造にこだわりました。皆で集まりゆったりと語り合える場としたいからです。
 
 そして、行政、設計者、施工者、東北の大学生、県内の建築家……、多くの方々の力が結集して完成しました。施工以来ほとんど休むことなく200人体制で挑んだ工事でした。その一体感でできあがった建物は、利用者の気持ちも明るくしたに違いありません。熊谷組の心意気、その真摯な気持ちは、社内ばかりでなく、社外のさまざまな組織や人の心を動かしたのでした。
 

(4) 地域社会から信用・信頼される存在

 ステークホルダー(利害関係者)は、最終顧客、ユーザー、社員、取引先、地域社会、株主などを指す言葉です。なかでも大切なのは、最終顧客、ユーザー、地域社会です。熊谷組は、企業が追求する経済価値と社会的価値の両面の実現に注力していますが、なかでも環境価値に重きを置いています。そのことが地域社会で高く評価され、個々の課題を通じて、地域の人々と良質なコミュニケーションを重ねることに成功しています。その一端を示すいくつかの例を挙げてみましょう。
 

(5) 運転再開を待ちわびる人々の熱い期待を背に、難工事に挑む

 三陸鉄道株式会社は岩手県の三陸海岸を縦貫する路線を有する第三セクター方式の鉄道会社で、北リアス線・南リアス線を運営していたが、東日本大震災による津波で甚大な被害を受けた。路線各所の地盤は流出し、復旧は困難を極めました。しかも図面すらなく、残っているトンネルや橋梁などを頼りに推測し、改めて設計しなおす必要があったのです。一体いつ完成するのか……。誰も想像できないような状況でした。
 
 そんななか、全国からスタッフ約200名を集め、がむしゃらに突き進んだのが熊谷組です。「地域の方々のお役に立ちたい」という思いを胸に、全力で取り組んだのです。結果、専門家ですら驚くほどの早さで、全区間が震災から3年後の2014年4月に復旧しました。
 
 しかしそこまで到達するためには、信じられないほどの難局が立ちはだかっていました。たとえば、軌道開放を行なうためには下から造る盛土法面工事を行なうべきですが、上部の路盤を先行して行なうという変則な工法を採用することになったのです。それは、セオリーどおりの工事推進に不都合な現場状況であったからであり、必要な職方が揃っていなかったからです。
 
 ともかく過酷な現場環境を乗り越えるために持てる以上の最大の力を注ぐ努力をしていたのですが、目の前に立ちふさがる課題を乗り越えるのには限界があったそうです。そうしたときに最大の心の支えになったのは、地域社会の皆様の早期復旧への強い思いでした。
 
 当時の木村所長によれば「工事前にすべての地区で地元説明会を開催しましたが、通常であれば、どこでも何らかの形で反対者がいるのですが、この工事に関しては反対者ゼロ。よく直しに来てくれた。1日でも早く直してほしいと、皆様がすごく待っていらっしゃった。地元の人にとっては大切な生活を支えるインフラなんだと強く実感しました」というのが困難を乗り越える最大の力となったのです。
 
 木村所長が現場の横断幕として掲げていたスローガンは、「届け、皆の気持ち。蘇れ、三陸鉄道南リアス線」でしたが、これが現場の気持ち、企業の心を伝える気持ちの表れでした。
 

(6) 3000トンの歴史的建造物を曳家方式で水平移動

 豊岡市役所旧本庁舎は大正末の大地震の復興のシンボルであり、その歴史的背景と優美なデザインは長く地域社会に親しまれてきました。しかし、建築物の老朽化が進むなか、新庁舎建設が決定したのです。市民から、愛着のあるこの建物を何とか残したいという強い思いが寄せられた結果、旧庁舎を組み込んだ新庁舎にすることとなりました。
 
 しかし、事はそんなに簡単ではないのです。新庁舎建設予定地まで旧庁舎を運ぶという難事業が待ち構えていたのです。80年以上の歳月で老朽化した建築物をそのまま、ダメージを与えずに約25メートル移動するために利用された技術が「曳家方式」でした。
 
 本来ならば取り壊して新庁舎を建築することになるところを、地域社会の思いを受けて熊谷組が引き受けた難工事は、地域の人々の思いと熊谷組の思いによって見事成功したのです。ところで、現実的な工事の取り組みについてその状況を振り返ってみましょう。
 
 まずは準備だが、元々の地中梁を補強のうえ基礎と建物を切り離します。補強後の建物の重さは3000トンですが、そのうち新設の地中梁が約1800トンを占めました。次に建物をジャッキで持ち上げて、宙に浮かせ、8列40本のレールをその下に差し入れました。レールと建物の間にはレールと十字になるよう鋼製の丸棒(コロ棒)を何本も挟むのです。建物を後方から推進ジャッキで押すとコロ棒が回転し、レールの上を移動するのです。
 
 これなら予定どおりなのですが、2012年2月2日朝、28年ぶりに80センチを超す雪が積もったのです。そのため、曳初め式で使用するテントが潰れ、雪かき用のクレーンを急濾、用意したりと予想外のことに直面したのです。こうしたなかで5日間かけてようやく25メートル移動し、免震装置も無事に設置できたのですが、そうした努力のかいあって、今後100年以上の使用が可能になりました。
 
 次回から、株式会社クリーンサワの解説に移ります。
 
 【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
      筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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