専門分野と専門分野の糊代が生命線 CS経営(その25)

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  CSM

1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

(2) 専門分野と専門分野の糊代が生命線

 前回のCS経営:サービスの現場崩壊(その24)に続いて解説します。

 前回から続いて、ANAの専門分野についていくつか列記し、顧客満足との関係を考えます。  
  

(D) キャビンアテンダント

 客室乗務員は、キャビンクルー・キャビンアテンダントーフライトアテンダントなどとさまざまな表現がなされていますが、旅客機の機内サービス、乗客の安全確保、いざというときの避難誘導が主たる仕事です。ある国の乗務員がお客様を残し、真っ先に逃げ出した飛行機以外の事例もいくつかあったと記憶していますが、私はその報道を耳にして唖然としてしまいました。もってのほかの行為で、言語道断としかいいようのない最悪の事態です。
 
 ANAの状況は、それとは天と地の違いがある安心感にあふれた取り組みといえるでしょう。搭乗日の便のフライト情報の中には、搭乗者の情報について確認する基本的な仕事が含まれています。たとえば、航空機内における一人ひとりのキャビンアテンダントの配置・ポジションの決定、機内に装備されている非常用備品の配置、使用方法の再確認、機内サービスの内容理解などについてです。
 
 確認後に初めて揃って搭乗し、打ち合わせ時の備品の所在などについて眼で見て視覚による確認も行ないます。また機内に異常がないか、清掃状態はどうか、サービス物品の存在は確実かなど確認を行なうのです。
 
 またパイロットが搭乗すると、パイロットと共にブリーフィングを行ない、本日の飛行ルート、天候や気流の問題、目的地の天候、気温、緊急時の任務確認、天候不順時の目的地変更などの情報共有化を図ります。一方、チーフパーサーは地上係員とお客様情報、すなわち、お客様の中にご高齢の方が搭乗しているか、体調の思わしくない方がいらっしゃるかなどの事前の情報共有を図り、ここでも詳細な確認と各種データの認識と共有化に注力するのです。つまり一つひとつが暗黙知のレベルに至る大切な要件でありプロセスなのです。
 
 中には「新婚さん」情報も含まれます。そして時にサプライズの対応が伴うのです。すべての打ち合わせが終了すると、お客様の搭乗開始。笑顔でお客様をお迎えします。時に乗客が身体に異常を来したときは、パイロットに知らせ、パイロットはその状態に応じて地上に報告と連絡と相談を行ない、その指示をキャビンアテンダントに伝達し、またその後の状況を知らせてもらうのです。
 
 緊急時は医師が搭乗しているか否かの呼びかけを行ない、医師が存在すればただちに応急処置を依頼する(医師免許の確認は必要)。同時に到着地に救急車の待機を依頼するのです。ここでの空中と到着地の連携が、きめ細かく、しかもスピーディに行なわれます。まさに業務を超えた一体化、融合の場面です。
 

(E) 旅客カウンター

 搭乗客が空港に到着したときに、業務的に最初に接する役割を担っているのが旅客カウンターです。また、出発時の詳細な確認とお世話をする仕事を担っています。サービスにクレームがつく要素として、「最初にいやなことがあると、後でいくらよい場面を体験しても、すべて悪いイメージに変換してしまう」し、「いろいろとよいことに出会ったとしても、最後にいやなことがあればすべて台無しになる」というものがあります。クレーム発生のセオリーです。
 
 ついでだが、「いろいろマイナス面に直面したが、最後によいことがあった」場合は往々にしてそれでプラスマイナスゼロ、すなわち「満足でもなし、不満足でもなし」という状況となる特性があるのです。だからこそ顧客接点ではクレームが発生するのであり、カウンターでさまざまなクレーム、トラブルが発生する所以です。時にたった一人のカウンターを担う担当者の不愉快に感じられる表情、態度、姿勢、言葉づかいなどが、企業全体の悪いイメージにつながってしまいます。一人の担当者に怒りを感じた顧客は黙って去っていき、よほどのことがない限り二度と戻らないのです。
 
 ANAの旅客カウンターは、「気づき」「気くばり」「気づかい」の3つの『気』と「臨機応変」「機転を利かす」の2つの。資質”を備えている人が多く、安全で快適な移動空間の提供、旅の醍醐味の下支えのみならず優良サービスを創造し、幸せな気持ちになれる名残感までプレゼントしています。
 
 しかし、とかく世の中にパーフェクト・完全無欠は存在しないのです。また、人間はヒューマンエラーの特性を持っています。だから時にミス、クレーム、トラブルは発生します。しかしそのときのフォローが「処理型」すなわち片付ける、無機質、慾勲無礼、事務的であり上から目線といったときには、クレームもこじれます。
 
 逆に顧客の立場に立った精一杯の誠意とスピーディな取り組み姿勢は、リカバリーするのみならず、好感を持って迎えられ、リピーター、リピートオーダーにつながるのです。
 
 以上、ANAの各部門・部署における仕事の一端について触れたが、それぞれの機能はいわば「部門単位の専門性」で成り立っています。それだけに下手をすると、蛸壷的な状況に陥る可能性が高いのです。しかし、同社はしっかりと「糊代」を作り、各専門分野との「融合」を図っています。それは、メーカーでいうところの「作り込み」です。
 
 実は、これこそが本当の「専門性」だと私は考えています。当然のことですが、一つのことを追求するためには、関連する周辺分野について広く知らなければならないのです。また、身につけなければならないのです。つまり本当...
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1. この「現場力」がすごい-全日本空輸株式会社(ANA)

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 前回のCS経営:サービスの現場崩壊(その24)に続いて解説します。

 前回から続いて、ANAの専門分野についていくつか列記し、顧客満足との関係を考えます。  
  

(D) キャビンアテンダント

 客室乗務員は、キャビンクルー・キャビンアテンダントーフライトアテンダントなどとさまざまな表現がなされていますが、旅客機の機内サービス、乗客の安全確保、いざというときの避難誘導が主たる仕事です。ある国の乗務員がお客様を残し、真っ先に逃げ出した飛行機以外の事例もいくつかあったと記憶していますが、私はその報道を耳にして唖然としてしまいました。もってのほかの行為で、言語道断としかいいようのない最悪の事態です。
 
 ANAの状況は、それとは天と地の違いがある安心感にあふれた取り組みといえるでしょう。搭乗日の便のフライト情報の中には、搭乗者の情報について確認する基本的な仕事が含まれています。たとえば、航空機内における一人ひとりのキャビンアテンダントの配置・ポジションの決定、機内に装備されている非常用備品の配置、使用方法の再確認、機内サービスの内容理解などについてです。
 
 確認後に初めて揃って搭乗し、打ち合わせ時の備品の所在などについて眼で見て視覚による確認も行ないます。また機内に異常がないか、清掃状態はどうか、サービス物品の存在は確実かなど確認を行なうのです。
 
 またパイロットが搭乗すると、パイロットと共にブリーフィングを行ない、本日の飛行ルート、天候や気流の問題、目的地の天候、気温、緊急時の任務確認、天候不順時の目的地変更などの情報共有化を図ります。一方、チーフパーサーは地上係員とお客様情報、すなわち、お客様の中にご高齢の方が搭乗しているか、体調の思わしくない方がいらっしゃるかなどの事前の情報共有を図り、ここでも詳細な確認と各種データの認識と共有化に注力するのです。つまり一つひとつが暗黙知のレベルに至る大切な要件でありプロセスなのです。
 
 中には「新婚さん」情報も含まれます。そして時にサプライズの対応が伴うのです。すべての打ち合わせが終了すると、お客様の搭乗開始。笑顔でお客様をお迎えします。時に乗客が身体に異常を来したときは、パイロットに知らせ、パイロットはその状態に応じて地上に報告と連絡と相談を行ない、その指示をキャビンアテンダントに伝達し、またその後の状況を知らせてもらうのです。
 
 緊急時は医師が搭乗しているか否かの呼びかけを行ない、医師が存在すればただちに応急処置を依頼する(医師免許の確認は必要)。同時に到着地に救急車の待機を依頼するのです。ここでの空中と到着地の連携が、きめ細かく、しかもスピーディに行なわれます。まさに業務を超えた一体化、融合の場面です。
 

(E) 旅客カウンター

 搭乗客が空港に到着したときに、業務的に最初に接する役割を担っているのが旅客カウンターです。また、出発時の詳細な確認とお世話をする仕事を担っています。サービスにクレームがつく要素として、「最初にいやなことがあると、後でいくらよい場面を体験しても、すべて悪いイメージに変換してしまう」し、「いろいろとよいことに出会ったとしても、最後にいやなことがあればすべて台無しになる」というものがあります。クレーム発生のセオリーです。
 
 ついでだが、「いろいろマイナス面に直面したが、最後によいことがあった」場合は往々にしてそれでプラスマイナスゼロ、すなわち「満足でもなし、不満足でもなし」という状況となる特性があるのです。だからこそ顧客接点ではクレームが発生するのであり、カウンターでさまざまなクレーム、トラブルが発生する所以です。時にたった一人のカウンターを担う担当者の不愉快に感じられる表情、態度、姿勢、言葉づかいなどが、企業全体の悪いイメージにつながってしまいます。一人の担当者に怒りを感じた顧客は黙って去っていき、よほどのことがない限り二度と戻らないのです。
 
 ANAの旅客カウンターは、「気づき」「気くばり」「気づかい」の3つの『気』と「臨機応変」「機転を利かす」の2つの。資質”を備えている人が多く、安全で快適な移動空間の提供、旅の醍醐味の下支えのみならず優良サービスを創造し、幸せな気持ちになれる名残感までプレゼントしています。
 
 しかし、とかく世の中にパーフェクト・完全無欠は存在しないのです。また、人間はヒューマンエラーの特性を持っています。だから時にミス、クレーム、トラブルは発生します。しかしそのときのフォローが「処理型」すなわち片付ける、無機質、慾勲無礼、事務的であり上から目線といったときには、クレームもこじれます。
 
 逆に顧客の立場に立った精一杯の誠意とスピーディな取り組み姿勢は、リカバリーするのみならず、好感を持って迎えられ、リピーター、リピートオーダーにつながるのです。
 
 以上、ANAの各部門・部署における仕事の一端について触れたが、それぞれの機能はいわば「部門単位の専門性」で成り立っています。それだけに下手をすると、蛸壷的な状況に陥る可能性が高いのです。しかし、同社はしっかりと「糊代」を作り、各専門分野との「融合」を図っています。それは、メーカーでいうところの「作り込み」です。
 
 実は、これこそが本当の「専門性」だと私は考えています。当然のことですが、一つのことを追求するためには、関連する周辺分野について広く知らなければならないのです。また、身につけなければならないのです。つまり本当の専門家であればあるほど一つのことに詳しく、かつ周辺にも詳しいのが物の道理なのです。
 
 繰り返しになりますが、顧客が不安や不満に思うのは、分業による隙間、モジュール化における隙間の部分についてです。当たり前のことだが、顧客は「シームレス」であってほしいし、違和感を覚えることがないことを願っています。
 
 本来のコストダウンは、「コスト品質」、すなわち、「顧客にとっても、企業にとっても価値あるコスト」を意味しているのですが、多くの企業は、自分たちのためのコストダウンに注力してきました。結果、分業化、モジュール化か進行し、多くの違和感と嫌悪感を生み出してしまったのです。諸外国が簡単に真似のできない日本独自の「心」すなわち「日本流おもてなし」を失い続けているのです。しかし、もう限界を迎えています。
 
 いくら頑張っても、コストダウンに結びつかないだけでなく、かえって顧客の離反を招いているのが現状だからです。そういった意味において、ANAの事例は、ペストプラクティスといえるでしょう。業績の向上に加え、さらなる発展に向けて、全社挙げての取り組みは今も螺旋状に上昇気流をたどり続けています。
 
 次回は、穴吹興産株式会社グループ企業のCSMです。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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