「おもてなしの神髄」 CS経営(その50)

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 CS
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

13. 3つの約束事が組織を変えた:株式会社JR東日本テクノハートTESSEI

(3)「ノリ語集」と「ノリません語集」

 TESSEIには「ノリ語集」「ノリません語集」というものがあります。どんな現場でもそうですが、全体の士気を上げて、相乗効果を得られなければ、「顧客満足」を実現することは難しいのです。その際の阻害要因の一つが「否定語」です。否定語があふれる職場では、前向きな姿勢でチャレンジする意欲も湧きにくく、創造力を発揮するのは難しいでしょう。
 
 逆に、自分が行なっている仕事が評価され、自分の仕事が他の仕事の成果に貢献するようになれば、仕事に張りが出て、さらに積極的にチャレンジするようになり、創造力も増します。そのため、TESSEIでは、「ノリ語集」「ノリません語集」を作成し、携帯しています。次にその一端をご紹介します。
 
① エンジェルワード「ノリ語集」
 
「ありがとう」「面白いね」「頑張っているね」「さすがだね」「手際が良いね」など
 
② デビルワード「ノリません語集」
 
 「あんたね」「いいわけが多いのよ」「うざい」「がっかりだね」「気が利かないね」など
 

(4) 3つの約束事

 また、矢部氏は、社員のレベルの高さに注目しました。もともとTESSEIの企業風土は安全と安心が基盤の鉄道事業によって醸成されており、規律が厳しく、仕事の範躊も広いため、覚えなければならないことも多いのです。実際に現場は非常に高度な作業が必要となるため、そのことに驚き、1時間で辞めてしまった人も過去にはいたそうです。
 
 社員になるのも大変で、1年間、仕事を続けて初めて、社員になるための入社試験にチャレンジできるというのです。筆記試験、論文試験、そして面接を通過してようやく社員と認められるのです。社員の年齢は比較的高く、現在、男女比は3対1であり、平均年齢は、男性が約49歳、女性が約51歳です。人生経験も豊富で、さまざまな知識、技術、体験を身につけている人たちが多いのです。
 
  矢部氏は「こうした人たちが、単に指示命令で動く処理型作業をしているだけではもったいない。もっと創造的な仕事をしてもらおう」と考えました。そこで提案制度を開始したのです。提案制度というと、たくさんの提案をした者が評価され、しかもほとんどが実行に移されることなく、うやむやになるというケースが多いようです。しかし、矢部氏は違いました。現場への権限移譲を実現するため、いくつかの約束事を決めました。
 

【一切の否定語は使用しない】

 「難しい」「無理です」「困難だ」「できません」などの表現を禁止しました。代わりに、「どのようにしたら乗り越えられるか」「どうしたらできるか」「どうしたらうまくいくか」などと思考することを現場に求めました。
 

【マネジメント層は提案に対して短期間に意思決定する】

 マネジメント層においては、現場からの提案に関して、積極的に取り組み、スピーディに意思決定することが求められ、提案されてから1ヶ月以内という期限も設けられました。
 

【現場は、顧客満足基盤のチーム活動】

 お客様のために「改善」「改良」「改革」の3つのことが求められました。すなわち、「問題が発生してから取り組む、事後対応的な改善ではなく、自らマイナス要素を修復し、さらに少しでもよい方向に持っていくこと」「すでに顧客に評価されている要素に関しても、その状況に甘んじることなく、さらにプラスできることはないか『改良』すること」「『当社では初めて』『業界初』『世界で最初』となるような『革新』を目指すこと」を現場に徹底したのです。
 
 矢部氏は、この3つの約束事を通して「清掃作業からトータルサービスへ」「お客様の思い出づくり」「7分間の新幹線劇場」の実現を図ったのでした。
 

(5)「7分間の新幹線劇場」

 たとえば、偶数車両の場合は、1車両ごとに100席、奇数車両は80席前後といったように、新幹線の車両は種類により席数が異なります。1日1人あたりの清掃は10~12車両であり、1車両の座席数が100席だとすると、1日で1000~1200席を担当することになります。
 
 まずは、新幹線到着の3分前にホームで待ちます。新幹線が到着し、乗客が降りると、そこからが「7分間の新幹線劇場」の始まりです。
 
 乗客が降車する時間は基本的に2分くらいですが、ゆっくり降りる方もいます。その場合、仕事の時間はさらに短くなってしまうのです。まさにチームワーク、結束力の勝負となるのです。乗車は3分間程度かかり、新幹...
 
 CS
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

13. 3つの約束事が組織を変えた:株式会社JR東日本テクノハートTESSEI

(3)「ノリ語集」と「ノリません語集」

 TESSEIには「ノリ語集」「ノリません語集」というものがあります。どんな現場でもそうですが、全体の士気を上げて、相乗効果を得られなければ、「顧客満足」を実現することは難しいのです。その際の阻害要因の一つが「否定語」です。否定語があふれる職場では、前向きな姿勢でチャレンジする意欲も湧きにくく、創造力を発揮するのは難しいでしょう。
 
 逆に、自分が行なっている仕事が評価され、自分の仕事が他の仕事の成果に貢献するようになれば、仕事に張りが出て、さらに積極的にチャレンジするようになり、創造力も増します。そのため、TESSEIでは、「ノリ語集」「ノリません語集」を作成し、携帯しています。次にその一端をご紹介します。
 
① エンジェルワード「ノリ語集」
 
「ありがとう」「面白いね」「頑張っているね」「さすがだね」「手際が良いね」など
 
② デビルワード「ノリません語集」
 
 「あんたね」「いいわけが多いのよ」「うざい」「がっかりだね」「気が利かないね」など
 

(4) 3つの約束事

 また、矢部氏は、社員のレベルの高さに注目しました。もともとTESSEIの企業風土は安全と安心が基盤の鉄道事業によって醸成されており、規律が厳しく、仕事の範躊も広いため、覚えなければならないことも多いのです。実際に現場は非常に高度な作業が必要となるため、そのことに驚き、1時間で辞めてしまった人も過去にはいたそうです。
 
 社員になるのも大変で、1年間、仕事を続けて初めて、社員になるための入社試験にチャレンジできるというのです。筆記試験、論文試験、そして面接を通過してようやく社員と認められるのです。社員の年齢は比較的高く、現在、男女比は3対1であり、平均年齢は、男性が約49歳、女性が約51歳です。人生経験も豊富で、さまざまな知識、技術、体験を身につけている人たちが多いのです。
 
  矢部氏は「こうした人たちが、単に指示命令で動く処理型作業をしているだけではもったいない。もっと創造的な仕事をしてもらおう」と考えました。そこで提案制度を開始したのです。提案制度というと、たくさんの提案をした者が評価され、しかもほとんどが実行に移されることなく、うやむやになるというケースが多いようです。しかし、矢部氏は違いました。現場への権限移譲を実現するため、いくつかの約束事を決めました。
 

【一切の否定語は使用しない】

 「難しい」「無理です」「困難だ」「できません」などの表現を禁止しました。代わりに、「どのようにしたら乗り越えられるか」「どうしたらできるか」「どうしたらうまくいくか」などと思考することを現場に求めました。
 

【マネジメント層は提案に対して短期間に意思決定する】

 マネジメント層においては、現場からの提案に関して、積極的に取り組み、スピーディに意思決定することが求められ、提案されてから1ヶ月以内という期限も設けられました。
 

【現場は、顧客満足基盤のチーム活動】

 お客様のために「改善」「改良」「改革」の3つのことが求められました。すなわち、「問題が発生してから取り組む、事後対応的な改善ではなく、自らマイナス要素を修復し、さらに少しでもよい方向に持っていくこと」「すでに顧客に評価されている要素に関しても、その状況に甘んじることなく、さらにプラスできることはないか『改良』すること」「『当社では初めて』『業界初』『世界で最初』となるような『革新』を目指すこと」を現場に徹底したのです。
 
 矢部氏は、この3つの約束事を通して「清掃作業からトータルサービスへ」「お客様の思い出づくり」「7分間の新幹線劇場」の実現を図ったのでした。
 

(5)「7分間の新幹線劇場」

 たとえば、偶数車両の場合は、1車両ごとに100席、奇数車両は80席前後といったように、新幹線の車両は種類により席数が異なります。1日1人あたりの清掃は10~12車両であり、1車両の座席数が100席だとすると、1日で1000~1200席を担当することになります。
 
 まずは、新幹線到着の3分前にホームで待ちます。新幹線が到着し、乗客が降りると、そこからが「7分間の新幹線劇場」の始まりです。
 
 乗客が降車する時間は基本的に2分くらいですが、ゆっくり降りる方もいます。その場合、仕事の時間はさらに短くなってしまうのです。まさにチームワーク、結束力の勝負となるのです。乗車は3分間程度かかり、新幹線の発車は12分後ですから、本当に時間がないのです。だが、彼らは決して手抜きはしません。クレームは年間を通じてなんと10件以下だというのです(会社設立時は日々多数のクレームがあったそうです)。
 
 乗客やマスコミからは「魅せる清掃」と称賛される「7分間の新幹線劇場」は、座席ならびに座席下を掃除し、全席のテーブルを開き、拭い、窓のブラインドを上げ、窓枠をきれいにし、背もたれのカバーを交換し、網棚の忘れ物をチェックし、座席の向きを進行方向に向け……と慌ただしくも、すがすがしい雰囲気のもと進められます。その間、気づき、気くばりが徹底され、お客様のための快適空間の創造にだけ情熱が注がれるのです。
 
 「作業」でなく「仕事」という理由がここにあります。ここにもまた「顧客満足製造業」「幸せプレゼント業」があったと私は深く感動し、「目に見えないおもてなし」に脱帽しました。
 
 次回は、14. 魅力価値創造のすごさ:積水化学工業株式会社の解説です。
 
 【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
      筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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