CS経営(その1)コストダウンとロスコスト

◆なぜ、日本の現場で問題が多発しているのか

1. 「コストダウン」がもたらす惨事

 食品の異物混入、食品偽装、食品衛生管理の手抜き、消費・賞味期限のごまかし・素材の偽装、銘柄・産地偽装、犯罪に直結する取り組み……。、食品分野だけでも、書き切れないくらいの問題が毎日のように浮上しています。
 
 他の分野に目を移しても、プールで発生する安全管理不在の死亡事故、遊具のメンテナンス不足による大けがなど、日々さまざまな分野で問題が発生しています。
 
 一方、機械や乗用車分野においても、ブレーキ事故、脱輪、エアバッグ問題、発火など、命を脅かすさまざまな問題が発生し、「またか!」と慣れっこになるほどマスコミは連日報道しています。
 
 とくに海外の工場で製造した部材・部品において問題が発生する傾向は顕著であり、まるで粗製濫造が常態化しているのではないかと思える様相を呈しています。問題が発生すると、慌てて「誠意を持って今後の対応に配慮します」といった、とってつけたような決まりきった文言による記者会見、お詫び広告をして「品質管理部門」などを設ける企業もありますが、問題の原因は、マネジメントやシステムをはじめ、物事の考え方、捉え方、取り組み方、進め方はもとより、企業理念・経理理念・経営哲学にあるのではないかと私は捉えています。
 
 もちろん、企業だけの問題ではなく、企業や私たちを取り巻く社会情勢、経済環境、ビジネスの状況もまた、問題が発生する下地を日々生み出しています。
 
 たとえば、新商品の乱発、市場規模の縮小、IT・ICT技術の進展に伴う低価格化、商品・サービスのコモディティ(同類・同質)化など、多岐にわたる環境も影響を及ぼしています。
 
 商品・サービスのコモディティ化によって引き起こされるのは、主として「低価格化」という問題です。顧客が各社の製品・サービスを比較した際、「いずれも大差ない」と感じたならば、「大幅に安い」ということが購入の唯一の動機になります。つまり、企業は、安易に値段を下げざるを得ない状況に陥るのです。
 
 そして、1社が値段を下げると、他社もすぐに追随し、熾烈な値引き合戦が展開されることになります。この場合、勝敗は明らかで、資金力が豊富な企業が最後に残るという筋書きになるのです。
 
 さらには、その値引き合戦の過程で、さまざまなコストダウンが断行され、本来、削ってはならない投資、すなわち「人材育成」「ソフト開発」「安全性」などもコストダウンの対象となつてしまうのです。これがボクシングでいうところのボディブローとなり、じわじわと企業の業績にマイナスの影響を与え続け、顧客を失う。その結果、次に挙げるような企業の思惑とは異なる「悪魔のサイクル」が回り始めることになります。
 
(1) コストを下げて、品質の低下を招く
(2) スピードアップを図って、物事を雑に処理する
(3) 効率化を図り、付加価値を喪失する
 
 反対に、次に掲げる顧客の要求を満たす努力をした企業は、顧客の支持を受け、好業績を手にすることになります。
 
(1) コストを下げて、品質を向上させる
(2) スピードアップを図り、なおかつ、物事にきめ細かく対応する
(3) 効率化を図り、高付加価値を創造する
 
 これこそが、好業績企業が有する「女神のサイクル」のノウハウです。そもそもノウハウとは、「公開しても簡単に真似ができないモノ・コト」であり、「ノウハウだから公開できない」というのは嘘で、簡単に真似できるような要素をノウハウといってしまう例が多いように思います。
 
CSM
 

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2.「ロスコスト」の正体

 「ロスコスト」とは、本来なら支払う必要のない「無駄なコスト」を意味します。先に挙げたような負の課題がロスコストの温床となります。つまり、目先のコストダウンを図った結果、その何十倍、何百倍、何千倍、何万倍という無駄なコストを生むことになるのです。
 
 乗用車のリコール、食品偽装問題・異物混入、偽装工事などはその典型です。その結果、企業が営々と築いてきた歴史を一瞬のうちに途絶えさせてしまうような信用失墜、プラスの企業イメージをマイナスイメージに反転させてしまう「ブランド喪失」は、目に見えないところで大勢の顧客の購買意欲を削ぎ、あるいは顕在・潜在顧客をも失います。そればかりか社員の意欲をも削ぐという計算し尽くせない出費につながります。これがロスコストの怖さなのです。
 
 ある食品スーパーA店から「なぜ当店の業績が右肩下がりを続けているのかわからないから調べてほしい」という要請を受けました。そこでわかったのは、A店で働いている社員、パート(主婦)がA店で購入していなかったということです。
 
 A店の経営者・管理者・リーダーによる「ここまでやるか」という手抜き指導、食品衛生管理を無視した取り組み、消費期限・賞味期限の偽装、売れ残り食材の使い回しなどが主たる理由でした。
 
 A店で働く主婦たちがわざわざ別の店で購入することを不思議に思った他店社員・店員たちが、「当店で購入してくれるのはうれしいが、なぜ自店で購入しないのか」と尋ねたところ、上記のような理由をひそかに語ったというのです。その話が、地域にマイナスのロコミで広がった結果、A店の業績が下がり続けることになったのです。その根幹にあるのが、極端なまでのコストダウンでした。これでは他店と比べて価格が安くても、主婦たちが購入しないのも道理です。
 
 この店のブランドは見事に失墜し、これを復活させるまでには多額の費用と時間と努力を要したのです。こうした悔やんでも悔やみきれないような企業生命を脅かす例は身近に多いのです。
 
 次回もこのテーマで解説を続けます。
 
【出典】
 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
 筆者のご承諾により、抜粋を連載
  

この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

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