「おもてなしの神髄」 CS経営(その59)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

18. 真似のできないノウハウで快適空間を創り出す:TOTO株式会社

(1) トイレは単なる穴から始まった

 1980年、LP(プロパン)ガスと住宅設備機器に取り組んでいる福島県の倉島商事株式会社がウォシュレットの販売を開始しました。ところが初めは全く売れなかったのです。一生懸命説明しても、顧客に伝わりません。そこで一計を案じ、顧客に理解してもらおうとビジュアルな形で提示しました。
 
 その企画は、トイレの歴史をクイズ形式で学べる展示会の開催です。結果、倉島商事の売上も一気にあがりました。ざっとその展示を振り返ってみましょう。まず、初期のトイレは単に地面に穴を掘っただけのものでした。その後、地面に大きな陶器の甕が埋め込まれ、板を渡してしゃがめるようになります。屋根を付け、しゃがめるようになると今のトイレの形にようやく近づいてきました。子供が落ちて亡くなる事故もあったそうで、板の蓋をつけたり、手すりをつけたりと改良を重ね、便器は板から陶器へと進化していくのです。そして、いよいよ水洗トイレ「ウォシュレット」の登場です。
 
 クイズとは、たとえば次のようなものです。
 
 「寒冷地では、トイレに長い竹の棒が用意されていましたが、何に使用していたのでしょうか」知らない人は隣同士で顔を見合わせたり、経験のある高齢者が子供や孫に一生懸命説明したりと、和やかな笑いがあふれる場となりました。
 
 ちなみに、甕に落とした排泄物が凍って次第に塔のように尖って迫ってくるため、長い竹の棒でコツンコツンとその排泄物を壊す、というのが答えです。
 

(2) 注目されなかった「ウォッシユエアシート」

 創立は1917年。日本陶器合名会社の製陶研究所が母体となり、東洋陶器設立を経て、2007年に社名変更し、TOTO株式会社が誕生しました。
 
 同社は、1963年、「ウォッシュエアシート」(水洗腰掛け便座)を米国から輸入しましたが、当時の機能は洗浄と乾燥のみでした。しかし、当時はお尻を紙で拭くスタイルだったため、この商品に注目する人はほとんどいなかったのです。
 
 しかし、販売をあきらめませんでした。「日本人の便は比較的軟らかく、紙で拭いてもきれいに拭き取れないことが多く、衛生面からみてもこの商品は必ず人々のために役立つ」と確信し、1969年、従来のウォッシュエアシートに洗浄、乾燥機能と暖房便座機能を加え発表しました。それは国内初の試みでした。そして、1980年、「ウォシュレット」という名が誕生。いわばウォシュレット元年です。
 
 なぜ、私は「ウォシュレット」を取り上げたのでしょうか。それは、「日本流おもてなし文化」だからです。「健康」「衛生」「快適」「便利」を実現するための「機能」「知恵」「工夫」「職人技」「先端技術」「作り込み」といったキーワードが渾然一体となり、具現化されていると捉えたからです。文字にすればあっけないほど簡単ですが、これらの諸要素を一体化し、統合し、融合するのは至難の業です。にもかかわらず、チャレンジを続け、簡単に真似ができない優れたノウハウを構築していることは注目に値する素晴らしい事例です。
 
 製品に関する「日本流おもてなし」の心が生み出した傑作であり、時に芸術的ともいえるデザイン、機能が埋め込まれ一体となり融合しているのです。さて当時、開発者を悩ませていたのは、お湯の温度を一定に保つことの難しさでした。この課題を解決したのが、水を熱交換器内に溜め、沸かしておいて使用する貯湯式というアイデアでしたが、その後、洗浄と暖房便座にセラミックヒーターを使用した熱交換器が搭載されることとなりました。このことにより湯切れの心配がなくなり、しかもコンパクト化か可能となったのです。
 
 今では当たり前のように使用されていますが、ビデ機能、ノズル洗浄セルフクリーニングの開発、洗浄ノズルの吐水角度を28度から33度に上げて洗浄感の改善を図ったりと、利用者が知らず知らずのうちに享受している便利さ、快適さの裏には企業のたゆまぬ努力が隠されているのです。安全面、衛生面での改良も日夜進められています。たとえば、おしり洗浄とビデ洗浄のお湯の流れは、別々のルートをたどる設計とすることで清潔性を格段に高めました。
 
 1980年代後半、ウォシュレットは「用を足す場所」から「清潔で快適な空間」へと変化していったのです。今ではウォシュレットが当たり前の日本人ですが、海外に出かけた際、ウォシュレットがないことでストレスを感じ、改めてその「おもてなしの心」に感謝する人も多いでしょう。現在、公共施設や企業、家庭を問わず利用されているウォシュレットですが、世の中全体のニーズを捉えた提案型商品として高評価を得ているのです。
 
 たとえば、水・電気の使用量が増加する装置であるにもかかわらず、節水、節電という矛盾する難しい課題をクリアーしたり、女性向けに擬音装置(音姫)を開発したり、パブリックの場の盗難防止構造や使用頻度が下がる時期・曜日などにおけるオフタイム節電機能などの搭載も可能です。ちなみにテレビCMで姿を見せている水を粒状に吐水している様子は、単に「あ、そう」で済ませるレベルの話ではないのです。それというのも、まずは粒状にして吐水することにより水の量が節約できます。それでいてほとんどの場合、水を蓄えるタンクがほ...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

18. 真似のできないノウハウで快適空間を創り出す:TOTO株式会社

(1) トイレは単なる穴から始まった

 1980年、LP(プロパン)ガスと住宅設備機器に取り組んでいる福島県の倉島商事株式会社がウォシュレットの販売を開始しました。ところが初めは全く売れなかったのです。一生懸命説明しても、顧客に伝わりません。そこで一計を案じ、顧客に理解してもらおうとビジュアルな形で提示しました。
 
 その企画は、トイレの歴史をクイズ形式で学べる展示会の開催です。結果、倉島商事の売上も一気にあがりました。ざっとその展示を振り返ってみましょう。まず、初期のトイレは単に地面に穴を掘っただけのものでした。その後、地面に大きな陶器の甕が埋め込まれ、板を渡してしゃがめるようになります。屋根を付け、しゃがめるようになると今のトイレの形にようやく近づいてきました。子供が落ちて亡くなる事故もあったそうで、板の蓋をつけたり、手すりをつけたりと改良を重ね、便器は板から陶器へと進化していくのです。そして、いよいよ水洗トイレ「ウォシュレット」の登場です。
 
 クイズとは、たとえば次のようなものです。
 
 「寒冷地では、トイレに長い竹の棒が用意されていましたが、何に使用していたのでしょうか」知らない人は隣同士で顔を見合わせたり、経験のある高齢者が子供や孫に一生懸命説明したりと、和やかな笑いがあふれる場となりました。
 
 ちなみに、甕に落とした排泄物が凍って次第に塔のように尖って迫ってくるため、長い竹の棒でコツンコツンとその排泄物を壊す、というのが答えです。
 

(2) 注目されなかった「ウォッシユエアシート」

 創立は1917年。日本陶器合名会社の製陶研究所が母体となり、東洋陶器設立を経て、2007年に社名変更し、TOTO株式会社が誕生しました。
 
 同社は、1963年、「ウォッシュエアシート」(水洗腰掛け便座)を米国から輸入しましたが、当時の機能は洗浄と乾燥のみでした。しかし、当時はお尻を紙で拭くスタイルだったため、この商品に注目する人はほとんどいなかったのです。
 
 しかし、販売をあきらめませんでした。「日本人の便は比較的軟らかく、紙で拭いてもきれいに拭き取れないことが多く、衛生面からみてもこの商品は必ず人々のために役立つ」と確信し、1969年、従来のウォッシュエアシートに洗浄、乾燥機能と暖房便座機能を加え発表しました。それは国内初の試みでした。そして、1980年、「ウォシュレット」という名が誕生。いわばウォシュレット元年です。
 
 なぜ、私は「ウォシュレット」を取り上げたのでしょうか。それは、「日本流おもてなし文化」だからです。「健康」「衛生」「快適」「便利」を実現するための「機能」「知恵」「工夫」「職人技」「先端技術」「作り込み」といったキーワードが渾然一体となり、具現化されていると捉えたからです。文字にすればあっけないほど簡単ですが、これらの諸要素を一体化し、統合し、融合するのは至難の業です。にもかかわらず、チャレンジを続け、簡単に真似ができない優れたノウハウを構築していることは注目に値する素晴らしい事例です。
 
 製品に関する「日本流おもてなし」の心が生み出した傑作であり、時に芸術的ともいえるデザイン、機能が埋め込まれ一体となり融合しているのです。さて当時、開発者を悩ませていたのは、お湯の温度を一定に保つことの難しさでした。この課題を解決したのが、水を熱交換器内に溜め、沸かしておいて使用する貯湯式というアイデアでしたが、その後、洗浄と暖房便座にセラミックヒーターを使用した熱交換器が搭載されることとなりました。このことにより湯切れの心配がなくなり、しかもコンパクト化か可能となったのです。
 
 今では当たり前のように使用されていますが、ビデ機能、ノズル洗浄セルフクリーニングの開発、洗浄ノズルの吐水角度を28度から33度に上げて洗浄感の改善を図ったりと、利用者が知らず知らずのうちに享受している便利さ、快適さの裏には企業のたゆまぬ努力が隠されているのです。安全面、衛生面での改良も日夜進められています。たとえば、おしり洗浄とビデ洗浄のお湯の流れは、別々のルートをたどる設計とすることで清潔性を格段に高めました。
 
 1980年代後半、ウォシュレットは「用を足す場所」から「清潔で快適な空間」へと変化していったのです。今ではウォシュレットが当たり前の日本人ですが、海外に出かけた際、ウォシュレットがないことでストレスを感じ、改めてその「おもてなしの心」に感謝する人も多いでしょう。現在、公共施設や企業、家庭を問わず利用されているウォシュレットですが、世の中全体のニーズを捉えた提案型商品として高評価を得ているのです。
 
 たとえば、水・電気の使用量が増加する装置であるにもかかわらず、節水、節電という矛盾する難しい課題をクリアーしたり、女性向けに擬音装置(音姫)を開発したり、パブリックの場の盗難防止構造や使用頻度が下がる時期・曜日などにおけるオフタイム節電機能などの搭載も可能です。ちなみにテレビCMで姿を見せている水を粒状に吐水している様子は、単に「あ、そう」で済ませるレベルの話ではないのです。それというのも、まずは粒状にして吐水することにより水の量が節約できます。それでいてほとんどの場合、水を蓄えるタンクがほぼ姿を消しているのです。そのうえでの節水ということです。
 
 もう一つ大切な機能が潜んでいます。それは節電しながら便座の温度コントロールに至るまで貢献することです。また、利用者だけでなく、掃除する人の苦労も軽減できるよう「セフィオンテクト」を開発しています。便器の表面をナノメートル(10億分のIメートル)レベルの精度で仕上げ、ほとんど凹凸なしのつるつる状態とし、イオンのパワーによる汚れが付着しにくいコーティングも施し、たとえ汚れが付着しても簡単にひと拭きで取れやすい構造となっているのです。
 
 まだまだ絶賛したい技術はたくさんあるのですが、最後に一つ紹介したいのが、5年の開発期間を経て製品化に成功したネオレストです。簡単にいえば、従来のロータンク式とフラッシュバルブ式洗浄のノウハウに、独自の電子制御技術を導入し、水道の水圧が低いエリアであっても、スムーズに排泄物を流せる技術です。この新洗浄装置は、日本のみならず、水不足で深刻な地域に対しても、また衛生面においても貢献可能なものであり、今後は日本のおもてなし文化の代表として世界に次々と発信されていくに違いないのです。
 
 次回に続きます。
 
 【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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