サービスの品質管理、サービスの品質保証とは CS経営(その27)

投稿日

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 
 CSM
 

2. 企業の垣根を越えた「付加価値創造」: 穴吹興産株式会社グループ企業

(2) 高齢を理由に旅をあきらめてほしくない。担当者の執念が生んだ旅行サービス

 「株式会社穴吹トラベル」は、四国を拠点としている「旅行会社」であり、旅行の企画・提案・具現化・サポートを主たる仕事としています。まずは、同社の展開する「介護旅行」を見てみましょう。
 
 高齢化が進行する日本。問題は山積しています。精神的には元気なお年寄りも多いのですが、若い人に比べれば、筋肉は衰えているし、ちょっとした凹凸でも足を取られて転んでしまいます。また、車いすのお世話になる人たちも年齢が上がるにしたがって増えてくるのです。
 
 こうした人々にとっては、私たちにとって一見些細に思えることであっても、それが叶わないことも多いのです。たとえば、「町に出かけて、ゆっくりと買い物を楽しみたい」「お茶を飲みながら友達と気楽な会話を楽しみたい」「もう一度思い出の場所に行ってみたい」「動けなくなる前に故郷を訪れてみたい」「家族と一緒に旅をしたい」といったようなことです。本人たちと同様に、家族もまた、お年寄りの願いを叶えてあげたいと思うでしょう。
 
 そうした人たちのささやかだが、それでいてなかなか難しい願いを叶える旅行サービスが「介護旅行」です。この介護旅行は、高齢社会における新たな旅の形として評価され、国から優良事業者表彰も受けた。「もう、年齢やハンディで旅をあきらめなくてもよい時代」を掲げ、お客様に大変喜ばれているサービスです。
 
 介護旅行であるため、通常の旅行よりも利益が薄く手間暇がかかります。また、普通の添乗員では対応が難しいため、介護の資格を持つ専門添乗員が同行する仕組みとなっています。この添乗員は、お客様の心の動きを感じることができるサポートの資質を持っている人でなければならず、こうした人材はそう簡単に見つかるわけではありません。
 
 若い人たちが何気なく無意識に行なっていることであったとしても、高齢者にとっては簡単ではないことが多いのです。すると些細に思えることが少しでも気になると、すっかり気分が落ち込んでしまいます。たとえば5ミリほどの段差、歩く速度、歩く距離にも注意が必要です。身体を支える力の不足で座り心地が悪く、しかも自身で身体を動かすことが容易にできないなどで機嫌が悪くなるのです。
 
 家族が高齢者と共に旅行に出かけることになると、こうしたさまざまな一挙手一投足に対する配慮が時間の経過と共に行き届かなくなり、家族も疲れ切ってしまうから、ついつい旅行に行かなくなります。こうしたときに高齢者の心の動きを微細なことから捉えて対応する介護の専門家は貴重な存在なのです。
 
 同様に、専門添乗員がいることで一人暮らしの高齢者が実現できなかった旅が安心してゆっくりと味わうことができるようになります。そして、こうした介護の資格を持った、しかも顧客のメンタルな要素が理解できる介護の専門家と行動を共にする添乗員は、見よう見まねを含めてお客様に楽しんでいただけるよう、きめ細かな活動が行なえるようになっていくので、同社のチーム全体のレベルが向上するのです。
 
 一般的にはご高齢で一人住まいの方は、気軽にあちこちを旅することが難しいでしょう。だから躊躇するのです。また、多くはあきらめることになるでしょう。しかし、同社の介護旅行は、お客様の身体や目的に合わせた企画となっています。そうしたことが可能になった同社の経緯を、いくつかの事例で解説します。
 
 たとえば、娘と孫の3人で日帰り旅行した車いすの高齢女性は、リフト付き福祉車両を使うことで、旅が可能になり、親戚の人だちと念願の再会を果たすことができました。
 
 「足が弱くなってきたので、元気な人たちと一緒に出かけても、ついていけるかどうかが心配」「自由が利かなくなってから、交友関係も限られており、誘う相手もいない」「単独旅行をしようにも、遠隔地の電車の切符や航空券の手配、宿泊先の手配をすることができない」「途中で健康を害したらどうすればいいのか」。このように悩んでいる高齢者は多いと同社社員は日頃から感じ、また耳にしていました。 そこで、旅行したいと思っている人たちに旅行のお世話をすることこそ自分たちの使命であり、スタッフの役割だと、社内で相談を重ねたというのです。
 
 幸いにも、同社のグループには「あなぶきメディカルケア株式会社」という介護事業、有料老人ホーム等の運営を行なっている企業があります。同社においても「介護旅行」のニーズが高いことを認識しており、ぜひ、企画・実施してくれれば助かるということで、2社が協力し、2010年9月に誕生したのが「トラベルヘルパーと行く介護旅行」です。これは先に挙げた高齢者の精神的要素を含めた対応など、他社では簡単に真似ができない息の合った活動の代表例といえます。
 
 それは、「オーダーメイド型個人旅行」と銘打つ特別プログラムであり、「温泉旅行に行きたいが、一人では不安な方」「買い物旅行に行きたいが、付き添いが必要な方」「結婚式・法事に出席したり、お墓参りに行きたい方」「家族だけでは何かと行き届かないこと、突発的なことが起こったときのことを考えると不安を感じる方」...

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

 
 CSM
 

2. 企業の垣根を越えた「付加価値創造」: 穴吹興産株式会社グループ企業

(2) 高齢を理由に旅をあきらめてほしくない。担当者の執念が生んだ旅行サービス

 「株式会社穴吹トラベル」は、四国を拠点としている「旅行会社」であり、旅行の企画・提案・具現化・サポートを主たる仕事としています。まずは、同社の展開する「介護旅行」を見てみましょう。
 
 高齢化が進行する日本。問題は山積しています。精神的には元気なお年寄りも多いのですが、若い人に比べれば、筋肉は衰えているし、ちょっとした凹凸でも足を取られて転んでしまいます。また、車いすのお世話になる人たちも年齢が上がるにしたがって増えてくるのです。
 
 こうした人々にとっては、私たちにとって一見些細に思えることであっても、それが叶わないことも多いのです。たとえば、「町に出かけて、ゆっくりと買い物を楽しみたい」「お茶を飲みながら友達と気楽な会話を楽しみたい」「もう一度思い出の場所に行ってみたい」「動けなくなる前に故郷を訪れてみたい」「家族と一緒に旅をしたい」といったようなことです。本人たちと同様に、家族もまた、お年寄りの願いを叶えてあげたいと思うでしょう。
 
 そうした人たちのささやかだが、それでいてなかなか難しい願いを叶える旅行サービスが「介護旅行」です。この介護旅行は、高齢社会における新たな旅の形として評価され、国から優良事業者表彰も受けた。「もう、年齢やハンディで旅をあきらめなくてもよい時代」を掲げ、お客様に大変喜ばれているサービスです。
 
 介護旅行であるため、通常の旅行よりも利益が薄く手間暇がかかります。また、普通の添乗員では対応が難しいため、介護の資格を持つ専門添乗員が同行する仕組みとなっています。この添乗員は、お客様の心の動きを感じることができるサポートの資質を持っている人でなければならず、こうした人材はそう簡単に見つかるわけではありません。
 
 若い人たちが何気なく無意識に行なっていることであったとしても、高齢者にとっては簡単ではないことが多いのです。すると些細に思えることが少しでも気になると、すっかり気分が落ち込んでしまいます。たとえば5ミリほどの段差、歩く速度、歩く距離にも注意が必要です。身体を支える力の不足で座り心地が悪く、しかも自身で身体を動かすことが容易にできないなどで機嫌が悪くなるのです。
 
 家族が高齢者と共に旅行に出かけることになると、こうしたさまざまな一挙手一投足に対する配慮が時間の経過と共に行き届かなくなり、家族も疲れ切ってしまうから、ついつい旅行に行かなくなります。こうしたときに高齢者の心の動きを微細なことから捉えて対応する介護の専門家は貴重な存在なのです。
 
 同様に、専門添乗員がいることで一人暮らしの高齢者が実現できなかった旅が安心してゆっくりと味わうことができるようになります。そして、こうした介護の資格を持った、しかも顧客のメンタルな要素が理解できる介護の専門家と行動を共にする添乗員は、見よう見まねを含めてお客様に楽しんでいただけるよう、きめ細かな活動が行なえるようになっていくので、同社のチーム全体のレベルが向上するのです。
 
 一般的にはご高齢で一人住まいの方は、気軽にあちこちを旅することが難しいでしょう。だから躊躇するのです。また、多くはあきらめることになるでしょう。しかし、同社の介護旅行は、お客様の身体や目的に合わせた企画となっています。そうしたことが可能になった同社の経緯を、いくつかの事例で解説します。
 
 たとえば、娘と孫の3人で日帰り旅行した車いすの高齢女性は、リフト付き福祉車両を使うことで、旅が可能になり、親戚の人だちと念願の再会を果たすことができました。
 
 「足が弱くなってきたので、元気な人たちと一緒に出かけても、ついていけるかどうかが心配」「自由が利かなくなってから、交友関係も限られており、誘う相手もいない」「単独旅行をしようにも、遠隔地の電車の切符や航空券の手配、宿泊先の手配をすることができない」「途中で健康を害したらどうすればいいのか」。このように悩んでいる高齢者は多いと同社社員は日頃から感じ、また耳にしていました。 そこで、旅行したいと思っている人たちに旅行のお世話をすることこそ自分たちの使命であり、スタッフの役割だと、社内で相談を重ねたというのです。
 
 幸いにも、同社のグループには「あなぶきメディカルケア株式会社」という介護事業、有料老人ホーム等の運営を行なっている企業があります。同社においても「介護旅行」のニーズが高いことを認識しており、ぜひ、企画・実施してくれれば助かるということで、2社が協力し、2010年9月に誕生したのが「トラベルヘルパーと行く介護旅行」です。これは先に挙げた高齢者の精神的要素を含めた対応など、他社では簡単に真似ができない息の合った活動の代表例といえます。
 
 それは、「オーダーメイド型個人旅行」と銘打つ特別プログラムであり、「温泉旅行に行きたいが、一人では不安な方」「買い物旅行に行きたいが、付き添いが必要な方」「結婚式・法事に出席したり、お墓参りに行きたい方」「家族だけでは何かと行き届かないこと、突発的なことが起こったときのことを考えると不安を感じる方」「旅先での介護が必要な方」「両親にトラベルヘルパー付きの旅行をプレゼントしたい方」などを対象としたのです。
 
 「お客様の目的や想いを最優先し、身体の状態に合わせたご無理のない旅行の提案」であり、「お客様のペースに合わせた時間設定、他のお客様に気兼ねせずに自分のペースで旅を満喫していただくプログラムの創造」です。
 
 旅先では、トラベルヘルパー、すなわち「介護資格」と「旅行添乗員資格」を併せ持ち、外出先で必要な介護技術を学んだ人材が介助します。そのため、同行の方、家族やその友人も一緒に旅が満喫できるプログラムとなっているのです。
 
 事前に顧客の要望に沿って約束をする。これこそまさしく「サービスの品質管理」、さらには、「サービスの品質保証」です。高齢の母親との旅行に躊躇していたお客様は、トラペルヘルパーのきめ細かな配慮のお陰で「安心して家族旅行を楽しめ、かけがえのない思い出づくりができた」と喜んだといいます。また、「普段は元気のない親の笑顔を久しぶりに見ることができた」という声も多数届いているというのです。
 
 次回は、「あなぶきメディカルヶア」から、解説を続けます。
 
 【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


「サービスマネジメント一般」の他のキーワード解説記事

もっと見る
ボイス・オブ・カスタマー 顧客の声から顧客の価値へ(その1)

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】  ボイス・オブ・カスタマー  目的やゴールを達成するためのプロセス &nb...

【顧客の声から顧客の価値へ、連載記事へのリンク】  ボイス・オブ・カスタマー  目的やゴールを達成するためのプロセス &nb...


顧客の代弁者になろう クレーム対応とは(その49)

        前回のその48に続いて、解説します。   【クレーム対応心得】 顧客はつねに進化する。「より高い満足を求めて進化する」...

        前回のその48に続いて、解説します。   【クレーム対応心得】 顧客はつねに進化する。「より高い満足を求めて進化する」...


お客様相談室の最大の使命 クレーム対応とは(その25)

       2. 顧客がゼロになってしまう恐ろしさを知れ!  前回のその24に続いて、解説します。    顧客に高い満足を提供することに...

       2. 顧客がゼロになってしまう恐ろしさを知れ!  前回のその24に続いて、解説します。    顧客に高い満足を提供することに...


「サービスマネジメント一般」の活用事例

もっと見る
当たり前だけでは顧客満足は得られない お客様の満足を得る(その2)

◆ 物流の顧客満足度を知る  物流の顧客満足の観点では一般消費者からは幸か不幸かそれほどの期待値を抱かれているとはいえないのではないでしょうか。何故...

◆ 物流の顧客満足度を知る  物流の顧客満足の観点では一般消費者からは幸か不幸かそれほどの期待値を抱かれているとはいえないのではないでしょうか。何故...


顧客満足度ゼロとは お客様の満足を得る(その1)

◆ 物流の顧客満足度を知る  物流はあらゆる経済活動と関わりさまざまなお客様に貢献しています。では関係するお客様に対して満足のいく物流サービスを提供...

◆ 物流の顧客満足度を知る  物流はあらゆる経済活動と関わりさまざまなお客様に貢献しています。では関係するお客様に対して満足のいく物流サービスを提供...