「おもてなしの神髄」 CS経営(その49)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

12. 「不健康な倉庫」を「健康な倉庫」へ:株式会社サンステーションシステムズ

(1) 酒販店営業担当はまるで荷物運び:実体験から始まった改革

 創業者の持田力氏は、もともと株式会社明治屋に勤務し、酒類を卸す仕事が中心の営業部門に籍を置き、酒店(酒販店)訪問を仕事としていました。当時の酒店の多くは、高齢者、あるいは息子夫婦が営む「家族経営」であり、「水分」が商品であるため、重労働でした。
 
 それは営業パーソンも同じです。重い荷物の積み降ろしは営業担当者の仕事であり、それこそがサービスと考え、日々、営業先のために精を出していたというのです。他の分野でも同様で、店内の陳列や在庫管理、荷物などが卸・問屋の仕事の一部となっています。
 
 ここで想像してほしいのです。もし、倉庫に同じ種類のビールの在庫を持つなら、スペースを有効に使うため、箱を重ねることになりますが、店に出すとき、下から出していくべきでしょうか、それとも上からでしょうか。正解は「一番下から」です。「先入れ先出し」が原則であり、消味期限、昧のことを考えれば当たり前です。しかし、上から出していくのが人間の心理だと思います。重いビールの箱をその都度、降ろして積みなおすのは相当過酷な作業であるからです。とくに高齢者にとっては、腰を痛めるリスクのある作業となってしまうのです。
 
 「どうにかしなければならない……」持田氏は痛切に感じていました。酒屋だけではない。「書籍」「飲料」「食品」もそうだし、物販業、倉庫業全般に当てはまる問題と言うことです。ここで一つエピソードを紹介します。
 
 私は顧客満足の専門家としてさまざまな業界を見てきましたが、ビール会社の営業担当者の努力は相当なものであると確信しています。早朝の飲食店街、飲食店の立ち並ぶ路地裏で背広でネクタイを締めている人がなにやら怪しげな動きをしているのを見かけたことはないでしょうか。
 
 私はじっと眺めたことがあります。彼らはどうも空き瓶の本数とメーカー名・銘柄を調べているらしいのです。空き瓶の本数が多い店は繁盛している店と判断し、なおかつ、自社の銘柄が置いてない店ならば営業のチャンスと判断しているのです。
 
 そして、営業先では率先して重労働を買って出るというのは先ほど記したとおりです。そんななか、キリンビールのある営業パーソンは、問屋、酒販店、運送会社など、すべての人に共通するぼやきに気づいたのです。それは、「重い、重い」と言うことです。
 
 液体であるビールが重いのは当然だと誰もが考えていたのですが、キリンビールは違った。1997年、大瓶のビール瓶を20%ほど軽くしたのです。すると、翌年からキリンの大瓶ビールが売れ始めたそうです。因果関係は明確ではないのですが、少しでも軽いビールを酒店が無意識のうちに仕入れるようになった可能性は十分にあります。
 
 さらに効果はそれだけではないのです。瓶を20%軽くしたことが発端となり、1998年、何と物流経費がいきなり10億円も浮いたというのです。
 
 ビール瓶20%の軽さが生んだ利益です。企業の純利益は数パーセントであることが多いなかでの10億円、売上のどれくらいを占めるか考えただけで、経営者なら愉快な気分になるでしょう。
 
 これこそが、値引き合戦ではない本質的・本来的なコストダウンです。すなわち、私か常々いっている「顧客にとっても企業にとっても価値あるコスト」(コスト品質)とはこのことです。
 

(2) 倉庫で花開いた「おもてなし」

 話をサンステーションシステムズの持田氏に戻します。1983年、有限会社サン商会は、倉庫、バックヤードの課題解決を図ることを目的に「レール式移動棚」の開発ならびに販売という事業でスタートを切っりました。顧客の大変さを知っているだけに、すぐに顧客の支持を得ることができ、1990年、株式会社サンステーションシステムズ(SSS)に社名変更を行ない、「倉庫の効率的運用アドバイスならびにレール式移動棚のコンサルテーション、販売設置、アフターケア」を通じ、「安心」「満足」「幸せ」を提供する仕事をさらに加速させていくことになるのです。
 
 話は前後しますが、サンステーションシステムズによるレール式移動棚の設置は、現在までにおよそ1万2200件ですが、そもそも倉庫とは物置ではなく、お店、オフィスの一部であり企業の顔でもあり、同様に人間の内臓の働きのような大切な機能を持っています。
 
 持田氏は「健康な倉庫はお客様への大切な『おもてなし』である」と考えていました。「不健康な倉庫」がもたらすロスコスト(無駄なコスト)とは何か。それらは企業の業績悪化の原因ともなる大変大きな問題といます。
 
 「乱雑」「不衛生」であることが引き起こすロスコストは計り知れないのです。「乱雑」であるなら、どこに何かあるのかすぐに見つけられないため、在庫管理はお粗末になるでしょう。また、作業するスタッフが怪我をする可能性もあるのです。あるいはそうした環境が、スタッフの緊張感を削いだり、仕事へのモチベーション低下を招いたりするだろうロスコストは倉庫内だけに留まらないのです。倉庫がうまく機能しないということは、「経営者が、商品を大切にしていない」ということにもつながります。せっかくご注...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

12. 「不健康な倉庫」を「健康な倉庫」へ:株式会社サンステーションシステムズ

(1) 酒販店営業担当はまるで荷物運び:実体験から始まった改革

 創業者の持田力氏は、もともと株式会社明治屋に勤務し、酒類を卸す仕事が中心の営業部門に籍を置き、酒店(酒販店)訪問を仕事としていました。当時の酒店の多くは、高齢者、あるいは息子夫婦が営む「家族経営」であり、「水分」が商品であるため、重労働でした。
 
 それは営業パーソンも同じです。重い荷物の積み降ろしは営業担当者の仕事であり、それこそがサービスと考え、日々、営業先のために精を出していたというのです。他の分野でも同様で、店内の陳列や在庫管理、荷物などが卸・問屋の仕事の一部となっています。
 
 ここで想像してほしいのです。もし、倉庫に同じ種類のビールの在庫を持つなら、スペースを有効に使うため、箱を重ねることになりますが、店に出すとき、下から出していくべきでしょうか、それとも上からでしょうか。正解は「一番下から」です。「先入れ先出し」が原則であり、消味期限、昧のことを考えれば当たり前です。しかし、上から出していくのが人間の心理だと思います。重いビールの箱をその都度、降ろして積みなおすのは相当過酷な作業であるからです。とくに高齢者にとっては、腰を痛めるリスクのある作業となってしまうのです。
 
 「どうにかしなければならない……」持田氏は痛切に感じていました。酒屋だけではない。「書籍」「飲料」「食品」もそうだし、物販業、倉庫業全般に当てはまる問題と言うことです。ここで一つエピソードを紹介します。
 
 私は顧客満足の専門家としてさまざまな業界を見てきましたが、ビール会社の営業担当者の努力は相当なものであると確信しています。早朝の飲食店街、飲食店の立ち並ぶ路地裏で背広でネクタイを締めている人がなにやら怪しげな動きをしているのを見かけたことはないでしょうか。
 
 私はじっと眺めたことがあります。彼らはどうも空き瓶の本数とメーカー名・銘柄を調べているらしいのです。空き瓶の本数が多い店は繁盛している店と判断し、なおかつ、自社の銘柄が置いてない店ならば営業のチャンスと判断しているのです。
 
 そして、営業先では率先して重労働を買って出るというのは先ほど記したとおりです。そんななか、キリンビールのある営業パーソンは、問屋、酒販店、運送会社など、すべての人に共通するぼやきに気づいたのです。それは、「重い、重い」と言うことです。
 
 液体であるビールが重いのは当然だと誰もが考えていたのですが、キリンビールは違った。1997年、大瓶のビール瓶を20%ほど軽くしたのです。すると、翌年からキリンの大瓶ビールが売れ始めたそうです。因果関係は明確ではないのですが、少しでも軽いビールを酒店が無意識のうちに仕入れるようになった可能性は十分にあります。
 
 さらに効果はそれだけではないのです。瓶を20%軽くしたことが発端となり、1998年、何と物流経費がいきなり10億円も浮いたというのです。
 
 ビール瓶20%の軽さが生んだ利益です。企業の純利益は数パーセントであることが多いなかでの10億円、売上のどれくらいを占めるか考えただけで、経営者なら愉快な気分になるでしょう。
 
 これこそが、値引き合戦ではない本質的・本来的なコストダウンです。すなわち、私か常々いっている「顧客にとっても企業にとっても価値あるコスト」(コスト品質)とはこのことです。
 

(2) 倉庫で花開いた「おもてなし」

 話をサンステーションシステムズの持田氏に戻します。1983年、有限会社サン商会は、倉庫、バックヤードの課題解決を図ることを目的に「レール式移動棚」の開発ならびに販売という事業でスタートを切っりました。顧客の大変さを知っているだけに、すぐに顧客の支持を得ることができ、1990年、株式会社サンステーションシステムズ(SSS)に社名変更を行ない、「倉庫の効率的運用アドバイスならびにレール式移動棚のコンサルテーション、販売設置、アフターケア」を通じ、「安心」「満足」「幸せ」を提供する仕事をさらに加速させていくことになるのです。
 
 話は前後しますが、サンステーションシステムズによるレール式移動棚の設置は、現在までにおよそ1万2200件ですが、そもそも倉庫とは物置ではなく、お店、オフィスの一部であり企業の顔でもあり、同様に人間の内臓の働きのような大切な機能を持っています。
 
 持田氏は「健康な倉庫はお客様への大切な『おもてなし』である」と考えていました。「不健康な倉庫」がもたらすロスコスト(無駄なコスト)とは何か。それらは企業の業績悪化の原因ともなる大変大きな問題といます。
 
 「乱雑」「不衛生」であることが引き起こすロスコストは計り知れないのです。「乱雑」であるなら、どこに何かあるのかすぐに見つけられないため、在庫管理はお粗末になるでしょう。また、作業するスタッフが怪我をする可能性もあるのです。あるいはそうした環境が、スタッフの緊張感を削いだり、仕事へのモチベーション低下を招いたりするだろうロスコストは倉庫内だけに留まらないのです。倉庫がうまく機能しないということは、「経営者が、商品を大切にしていない」ということにもつながります。せっかくご注文していただいたにもかかわらず、倉庫の奥から引っ張り出すのに時間を要し、お客様を待たせてしまうのです。
 
 では、どのような倉庫を目指すべきか。これまた当たり前のことですが、「5S」の倉庫、すなわち「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾」が行き届いている倉庫が必要です。5Sが達成されれば、先ほど述べたトラブルはなくなるし、「限られたスペースの有効活用」「ランニングコストの低下」「レイアウト変更が容易」など、これまた枚挙にいとまがないほどのメリットをもたらすことになる。
 
 もちろん、言うは易く、行なうは難し。そこで、持田氏のような専門家の出番となるのだ。専門家は素人の気づかないことまで気づき、見通す能力を有している。業界の問題点を改善したいという強い気持ちで起業した持田氏が撒いた「おもてなし」の種は、業種・業態を超え、「倉庫」という現場で見事に花を咲かせているのです。
 
 なお、持田力氏は社長の座をスタッフにバトンタッチし、その後間もなくお亡くなりになった。現在の代表取締役社長は菊池朱見氏、取締役専務はご子息の持田良氏です。
 
 次回は、JR東日本テクノハートの解説します。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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