CS経営(その47)「おもてなしの神髄」

 
 
CS
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

11. 神経質な臆病さが生んだお客様の笑顔―株式会社クリーンサワ

(1) 洗濯物は汚れものではない

 「クレーム産業」と呼ばれている業界があることをご存じでしょうか。
 
 その一つが「クリーニング産業」です。誰にも一度くらいは、クリーニングにおける失敗や、懲りた経験があるはずです。たとえば、「出勤前、クリーニングから戻ってきたワイシャツやブラウスを着ようとしたらボタンがとれていた」「久しぶりの女子会、クリーニングに出しておいたコートを着ようとしたら生地がよれたままたった」など。他にも「光沢がおちた」「生地が縮んだ」「しわが残っている」「毛玉がついたまま」「お気に入りのボタンの端が欠けていた」「イヤな臭いが残ったまま」「色落ちしてしまった」「部分的に変色して戻ってきた」「破れて戻ってきた」などもおなじみのトラブルです。
 
 クリーニング後の服に袖を通そうとするとき、皆、大なり小なり爽快な気分になっていることでしょう。その気持ちのいいスタートが、これらのトラブルによって台無しになってしまうのです。
 
 今回紹介するクリーンサワの経営理念は、「着る心のわかるクリーニング」です。「単なるワイシャツ、ブラウスだって自分にとっては思い出の一着」「おばあちゃんから引き継いだ大切な着物」「母が結婚式で着たウェディングドレス」「父が大好きだった形見のコート」「新入社員のときに仰のよい従兄からプレゼントされたネクタイ」など、人々がクリーニング店に出す衣類は「単なる汚れ物」ではないのです。それがクリーンサワの考え方です。
 
 クリーニング店に衣類を持っていくと、衣類を指先でつまんだり、鷲づかみにしたりする店員に出会うことあります。ところが、クリーンサワに行くと、まるで貴重な宝石に触れるように、両手の平を上に向け、掌に載せて丁重に扱ってくれます。お預かりする「大切な宝もの」を真剣なまなざしで確認し、ボタンの取れ、ほつれ、穴、汚れなどを発見し、顧客に説明します。そして、数センチの短冊状に作られた厚紙・色紙を問題の箇所に生地をいためない方法で添付します。いくつもの色とりどりの短冊がそのつど状況に応じて貼付されるのです。
 
 その後の工程を担当するそれぞれの部門担当者は、短冊を貼り付けた担当者と相談しながら課題の解決策を探っていきます。丁寧な対応をするのは顧客に対してだけではありません。厚紙でできた1~2センチの短冊すら、数回使用するようにし、使い捨てにしないのです。これは、モノを大切にする意識、環境に配慮する意識、コストを掛けない意識の表れであり、小さなことにも全員で心を配る文化が根付いています。
 
 さらに、手仕事の労も惜しまないのです。傷んだボタン、一つだけ取れたボタンについては、同じボタンをストックの中から探すのです。ほつれはいったんバラバラにほどいてから縫い直します。穴は補修します。汚れは原因を追究し、汚れの種類に応じた、かつ生地を傷めない方法で徹底的に落とします。
 
 クリーニングのあるべき姿、顧客への配慮、思いを体現するためなら、手間暇、コストを度外視して対応するのです。だからこそ、クリーンサワの対応に感動し、感謝した顧客の中に、その後、地方都市に引っ越してからも、自分自身の「思い出の品」「宝物」を宅配便で送ってでもグリーーンサワに託す人が出てくるのです。宅配便の往復の費用を別に払ってでも、「お願いしたい」と思うのです。
 
 私はこのエピソードを聞いたとき、「何と心のこもった質の高いクリーニングなのか!」と驚嘆したことを覚えています。
 
 次回は、(2) クレーム産業からの脱出から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
              筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

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