日本の「おもてなし」 CS経営(その17)

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◆技術力で勝る海外勢が、なぜ、日本の「おもてなし」に負けるのか。

1. 「日本流おもてなし文化」は武器になる

(1) 「神」との関係が、日本人の繊細さを生んだ

 乱暴に捉えると、縄文時代の温暖化で海面が上昇し、入り組んだ入り江が誕生しました。そこに森林や山から各種のプランクトンが雨水と共に川に流れ込み、それが海に注がれるようになりました。これが豊富な魚介類の宝庫となったのです。
 
 一方、世界で一番早く土器を作った(縄文土器)ともいわれる日本人は、その土器の誕生で、煮る、炊く、焼くなどを伴う料理を生んだのです。それは横浜市歴史博物館において、遺跡から発掘された土器の内側に付着している食物の化石を電子顕微鏡で確認したことから判明しました。さらに土器の内側に付着した煤は食物が腐らないように火(熱)で殺菌した名残であろうと研究結果から推測しています。
 
 川魚も海の魚介類も、そして食菜などの素材も豊富、そこに土器もあるのです。ですから煮る、炊く、焼くといった火を使った料理もできました。まさに生きるために生の素材だけを食することと比べれば、料理による味覚を磨く条件が整っていたといえるでしょう。
 
 加えて、温暖化の影響もあり、家畜や農作物を育てる条件にも恵まれていました。こうした条件を活かすことによって、日本人の感性、味覚はどんどん磨かれるようになったのではないかと私は考えています。
 
 大陸と地続きの時代から日本列島が生まれた時代にかけては、気温はまだ低く、地面は凍土という過酷な環境だったため、生きるための食料を手に入れることが大変難しかったのです。そのため、食料を入手したときは目に見えない、姿もない何かに感謝するような気持ちを持つようになったのでしょう。これがいつしか、姿も形もない神という概念につながったのだと推測できます。ついでですが、海外の場合、時に人や動物、太陽など目に見える存在が神とされることが多いのです。しかし日本の神は姿も形もない概念です。このことは『古事記』や『日本書紀』などから推察できます。だからこそ八百万の神といったあらゆる物事に神が宿ると捉えていたのではないでしょうか。
 
 過酷な自然環境だったからこそ、そうした時に偶然、命をつなぐことができるありかたい現象に出会ったからこそ、まさに何かに対する感謝の念で一杯になったのでしょう。過酷な自然と共生するうえで当然の感情だったのかもしれません。姿形のない神の存在は、だから日本らしい捉え方といえるのです。
 
  CSM
 
 土器そのものも、目に見えない、姿形のない神に捧げる神器として、そのための形を作り、土器に紋様を施してあることが見て取れます。日常雑器とは明らかに分けて形や紋様を施しています。それは繊細で微細な形、紋様、神器による神事のための器の姿とたたずまいを醸し出しています。各所で発掘された土器などの様子からも同様のことが見て取れますが、先に挙げた横浜市の博物館に保存されている土器も同様です。一方、日用雑器に関しては、土器の内側に煤や食べ物が付着していたりと、日常生活の中で使用していた様子が伴っています。
 
 ともあれ、土器の発明と豊富な食材と料理は、日本人の味覚に磨きをかけ、日本人の文化に刷り込まれてきました。海に囲まれている日本列島という特別環境と四季折々の環境は、長い年月をかけ、日本人の味と神に対する考え方、捉え方などの文化を紡いできました。
 
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◆技術力で勝る海外勢が、なぜ、日本の「おもてなし」に負けるのか。

1. 「日本流おもてなし文化」は武器になる

(1) 「神」との関係が、日本人の繊細さを生んだ

 乱暴に捉えると、縄文時代の温暖化で海面が上昇し、入り組んだ入り江が誕生しました。そこに森林や山から各種のプランクトンが雨水と共に川に流れ込み、それが海に注がれるようになりました。これが豊富な魚介類の宝庫となったのです。
 
 一方、世界で一番早く土器を作った(縄文土器)ともいわれる日本人は、その土器の誕生で、煮る、炊く、焼くなどを伴う料理を生んだのです。それは横浜市歴史博物館において、遺跡から発掘された土器の内側に付着している食物の化石を電子顕微鏡で確認したことから判明しました。さらに土器の内側に付着した煤は食物が腐らないように火(熱)で殺菌した名残であろうと研究結果から推測しています。
 
 川魚も海の魚介類も、そして食菜などの素材も豊富、そこに土器もあるのです。ですから煮る、炊く、焼くといった火を使った料理もできました。まさに生きるために生の素材だけを食することと比べれば、料理による味覚を磨く条件が整っていたといえるでしょう。
 
 加えて、温暖化の影響もあり、家畜や農作物を育てる条件にも恵まれていました。こうした条件を活かすことによって、日本人の感性、味覚はどんどん磨かれるようになったのではないかと私は考えています。
 
 大陸と地続きの時代から日本列島が生まれた時代にかけては、気温はまだ低く、地面は凍土という過酷な環境だったため、生きるための食料を手に入れることが大変難しかったのです。そのため、食料を入手したときは目に見えない、姿もない何かに感謝するような気持ちを持つようになったのでしょう。これがいつしか、姿も形もない神という概念につながったのだと推測できます。ついでですが、海外の場合、時に人や動物、太陽など目に見える存在が神とされることが多いのです。しかし日本の神は姿も形もない概念です。このことは『古事記』や『日本書紀』などから推察できます。だからこそ八百万の神といったあらゆる物事に神が宿ると捉えていたのではないでしょうか。
 
 過酷な自然環境だったからこそ、そうした時に偶然、命をつなぐことができるありかたい現象に出会ったからこそ、まさに何かに対する感謝の念で一杯になったのでしょう。過酷な自然と共生するうえで当然の感情だったのかもしれません。姿形のない神の存在は、だから日本らしい捉え方といえるのです。
 
  CSM
 
 土器そのものも、目に見えない、姿形のない神に捧げる神器として、そのための形を作り、土器に紋様を施してあることが見て取れます。日常雑器とは明らかに分けて形や紋様を施しています。それは繊細で微細な形、紋様、神器による神事のための器の姿とたたずまいを醸し出しています。各所で発掘された土器などの様子からも同様のことが見て取れますが、先に挙げた横浜市の博物館に保存されている土器も同様です。一方、日用雑器に関しては、土器の内側に煤や食べ物が付着していたりと、日常生活の中で使用していた様子が伴っています。
 
 ともあれ、土器の発明と豊富な食材と料理は、日本人の味覚に磨きをかけ、日本人の文化に刷り込まれてきました。海に囲まれている日本列島という特別環境と四季折々の環境は、長い年月をかけ、日本人の味と神に対する考え方、捉え方などの文化を紡いできました。
 
 だから日本文化とは、日本人の価値観であるといえるでしょう。さて凍土の時代を経て以来の温暖化は、こうして日本人に繊細な味覚をもたらしました。たとえば、日本にしかない独特の酵素や出汁、こく味、風味、旨みなどが生まれてきたのです。
 
 とくに、神を崇める感性が日本人の「遺伝子」に組み込まれ、それが自然体で安全・安心、使いやすさ、快適、便利、親切などの付加価値の伴った「モノづくり」「気づき・気くばり・気づかい」文化を生み、温もり感、うれしさ、楽しさ、満足感、幸せ感をもたらす「日本風思いやり」を醸成してきたと私は考えています。
 
 次回は、(2) 「おもてなし」のルーツはどこか、から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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