「おもてなしの神髄」 CS経営(その58)

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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

17. ゴミ袋からお客様の思い出の品を探し出す:株式会社 帝国ホテル

・ 心を届けるルームサービス・接客係

 お客様が部屋で食事をとる場合、部屋係が厨房から部屋まで料理を運びます。各国から贈られた勲章を首から下げ、料理の説明と一緒に写真を撮影していた総料理長の故村上信夫氏は、私も何度もお目にかかった忘れられない方です。さらに村上氏のご子息が学校の先生だったため教えを受けたり、そればかりか、「村上信夫氏の特別料理を賞味する会」を何度か主催したりと大変お世話になりました。
 
 そんな村上氏も、若いときにはサービスの本質を理解できていなかったというのです。当時、ルームサービスを担当する女性が、村上氏の作った料理に対してこうしてほしい、ああしてくださいとうるさく言うことに腹を立てていたそうです。たとえば、皿の端のほうにちょっとでもソースが付いていたなら「これを取ってください」と要求されたり。盛り付けがほんの少し雑だったときなどにもすぐに指摘されていたというのです。
 
 しかし、村上氏は自分か先頭に立つようになったときに、自分もまたスタッフに同じことを要求し、改善を求めていたことに気づき、初めてサービスの本質に思いが至ったというのです。村上氏にサービスの本質を気づかせてくれた女性は竹谷年子さんという方で、その存在は「帝国ホテルの財産」とまでいわれ、接客のプロとして81歳まで帝国ホテルで働き続けました。帝国ホテルが手放さなかったのです。私も銀座・和光時代に数回お目にかかりましたが、顔が笑顔でできているような素敵な方でした。レジェンドとなっている竹谷さんについては数々のエピソードがあり、それだけで何冊もの本になるほどですが、実際に『帝国ホテルが教えてくれたこと』夭和出版)など、ご自身の著書もあります。
 
 マリリンーモンローやアランードロンなどは竹谷さんの大ファンであったようですが、なんとイギリスの女王陛下から、英国の紋章入りの銀の櫛を贈られたという逸話が残されています。竹谷氏の功績は今でも新人たちの模範として伝えられ、帝国ホテルの魂、良き遺伝子となっているのです(現在、とくにその後を継いでいらっしゃるのが宿泊部の小池幸子さんであり、著書に『帝国ホテル流おもてなしの心』〈朝日新聞出版〉があります)。
 

・ ランドリー部門

 ランドリー部門は地下にあります。シーツや絨毯のシミ抜きから、お客様のお召し物に至るまできれいに仕上げるのが仕事です。お客様が今夜のパーティで着るドレスをケースから出したところ、目立つところになぜか染みがついていたとしましょう。帝国ホテルでは、たいていの場合、こうした問題はほぼ2時間以内に解決します。「あ、ボタンがない」となったときも、何十年にもわたってボタンのコレクションをしている帝国ホテルなら、多くの場合、解決するのです。困ったときに解決してくれる体験をしたお客様は、すっかり帝国ホテルのファンになってしまうのです。
 

・ アーケード

 アーケードという表現が日本で初めて採用されたのは、ここ帝国ホテルです。1922年、「お客様に必要なものが揃っている」という意味合いで使用され、海外からの宿泊客に対して、真珠や、日本の文化的な商品などを揃えた店舗を用意したのでした。オーダーメイドのワイシャツは長期滞在のお客様に好評だったそうです。とくに、職人技によるぜいたくなシルクのワイシャツは人気の的であったということです。
 

・ 部屋の忘れ物

 宝石の色石は傷がつきやすく、嵌入が伴う前翠などは、うっかり硬い物にぶつけると壊れてしまうこともあります。そこで宿泊客の中には、部屋に入るとすぐにティッシュに包んで灰皿の中に置く人がいるのです。
 
 これをうっかり忘れて帰ると、通常ならゴミとして処理されてしまうでしょう。時に数百万円、数千万円の宝石がゴミと共に消えるのです。そこで帝国ホテルの客室担当者たちは、「くずかごに入れられたものがゴミ、それ以外はお忘れ物」と定義して捉えています。 しかし、時に、うっかりくずかごに大切なものを捨ててしまうこともあるのです。たとえば、地下のアーケードの飲食店で打ち合わせしたときの箸袋に記したメモを、部屋に帰ってから無意識のうちにゴミ箱に捨ててしまったとしましょう。
 
 こんなときであっても、お客様がお帰りになってから一昼夜、ゴミはホテルに留まるため、その間に連絡すれば、探してくれます。結果、幸運にも見つかった場合、...
 
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◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

17. ゴミ袋からお客様の思い出の品を探し出す:株式会社 帝国ホテル

・ 心を届けるルームサービス・接客係

 お客様が部屋で食事をとる場合、部屋係が厨房から部屋まで料理を運びます。各国から贈られた勲章を首から下げ、料理の説明と一緒に写真を撮影していた総料理長の故村上信夫氏は、私も何度もお目にかかった忘れられない方です。さらに村上氏のご子息が学校の先生だったため教えを受けたり、そればかりか、「村上信夫氏の特別料理を賞味する会」を何度か主催したりと大変お世話になりました。
 
 そんな村上氏も、若いときにはサービスの本質を理解できていなかったというのです。当時、ルームサービスを担当する女性が、村上氏の作った料理に対してこうしてほしい、ああしてくださいとうるさく言うことに腹を立てていたそうです。たとえば、皿の端のほうにちょっとでもソースが付いていたなら「これを取ってください」と要求されたり。盛り付けがほんの少し雑だったときなどにもすぐに指摘されていたというのです。
 
 しかし、村上氏は自分か先頭に立つようになったときに、自分もまたスタッフに同じことを要求し、改善を求めていたことに気づき、初めてサービスの本質に思いが至ったというのです。村上氏にサービスの本質を気づかせてくれた女性は竹谷年子さんという方で、その存在は「帝国ホテルの財産」とまでいわれ、接客のプロとして81歳まで帝国ホテルで働き続けました。帝国ホテルが手放さなかったのです。私も銀座・和光時代に数回お目にかかりましたが、顔が笑顔でできているような素敵な方でした。レジェンドとなっている竹谷さんについては数々のエピソードがあり、それだけで何冊もの本になるほどですが、実際に『帝国ホテルが教えてくれたこと』夭和出版)など、ご自身の著書もあります。
 
 マリリンーモンローやアランードロンなどは竹谷さんの大ファンであったようですが、なんとイギリスの女王陛下から、英国の紋章入りの銀の櫛を贈られたという逸話が残されています。竹谷氏の功績は今でも新人たちの模範として伝えられ、帝国ホテルの魂、良き遺伝子となっているのです(現在、とくにその後を継いでいらっしゃるのが宿泊部の小池幸子さんであり、著書に『帝国ホテル流おもてなしの心』〈朝日新聞出版〉があります)。
 

・ ランドリー部門

 ランドリー部門は地下にあります。シーツや絨毯のシミ抜きから、お客様のお召し物に至るまできれいに仕上げるのが仕事です。お客様が今夜のパーティで着るドレスをケースから出したところ、目立つところになぜか染みがついていたとしましょう。帝国ホテルでは、たいていの場合、こうした問題はほぼ2時間以内に解決します。「あ、ボタンがない」となったときも、何十年にもわたってボタンのコレクションをしている帝国ホテルなら、多くの場合、解決するのです。困ったときに解決してくれる体験をしたお客様は、すっかり帝国ホテルのファンになってしまうのです。
 

・ アーケード

 アーケードという表現が日本で初めて採用されたのは、ここ帝国ホテルです。1922年、「お客様に必要なものが揃っている」という意味合いで使用され、海外からの宿泊客に対して、真珠や、日本の文化的な商品などを揃えた店舗を用意したのでした。オーダーメイドのワイシャツは長期滞在のお客様に好評だったそうです。とくに、職人技によるぜいたくなシルクのワイシャツは人気の的であったということです。
 

・ 部屋の忘れ物

 宝石の色石は傷がつきやすく、嵌入が伴う前翠などは、うっかり硬い物にぶつけると壊れてしまうこともあります。そこで宿泊客の中には、部屋に入るとすぐにティッシュに包んで灰皿の中に置く人がいるのです。
 
 これをうっかり忘れて帰ると、通常ならゴミとして処理されてしまうでしょう。時に数百万円、数千万円の宝石がゴミと共に消えるのです。そこで帝国ホテルの客室担当者たちは、「くずかごに入れられたものがゴミ、それ以外はお忘れ物」と定義して捉えています。 しかし、時に、うっかりくずかごに大切なものを捨ててしまうこともあるのです。たとえば、地下のアーケードの飲食店で打ち合わせしたときの箸袋に記したメモを、部屋に帰ってから無意識のうちにゴミ箱に捨ててしまったとしましょう。
 
 こんなときであっても、お客様がお帰りになってから一昼夜、ゴミはホテルに留まるため、その間に連絡すれば、探してくれます。結果、幸運にも見つかった場合、さりげない口調で「ございました」という連絡が入るのです。「努力をしてやっと見つけました」といった恩着せがましい大げさな態度は取らないのです。それだけにお客様は「助かった」「ありがとう」と感謝感激となります。
 
 私か評価する帝国ホテルの顧客に対する活動は、決まり切ったことをそのとおりにするという、いわゆる「マニュアル」に沿った作業ではありません。マニュアルによるサービス提供で有名なホテルもありますが、マニュアルから外れると途端に対応に苦慮してしまうのです。お客様が困ったときに助けを依頼し、相談し、時に何気なく愚痴をこぼしたとき、「なんとか顧客の望む結果を出したい」と考え、態度で示し、実行するこれらが帝国ホテル流の「おもてなし」です。本当のサービスは型から外れたものであり、感情や心に寄り添うものです。幅と奥行きが整った「大抵のことがさりげなくできてしまう」サービス、おもてなし。これが帝国ホテル流なのです。
 
【出典】武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
           筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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この記事の著者

武田 哲男

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。

常に顧客を中核とする課題取組みにより「業績=顧客の“継続”支持率達成!」 「顧客との良質で永いご縁の創造」に取組んできた。モノづくりとサービスの融合に注力。


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